レトロミライ

宗園やや

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中編

第43話

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 雛白邸は五階建てである。
 その三階に有る会議室に、妹社隊全員が集められた。
 そして上座に座る空色の着物を着た明日軌に注目する。
「蝦夷の妹社が反乱を起こしました」
「はん、らん? ですか?」
 言葉の意味が分からず、訊き返す蜜月。
「蝦夷に配属された四人の妹社の内、三人が敵になったのです。残りの一人はその三人に殺害されました」
 無反応ののじこを除いた妹社隊の全員が息を飲む。
「現地の状況は最悪です。大型神鬼が数体確認され、中型も数え切れない程出現しています。エルエルさんと同時期に配属された蝦夷のイモータリティ二人は後退しています」
 明日軌はのじこの顔色を窺った。無表情の赤い瞳が静かに女主人を見詰めている。普段なら余所見をしたりと落ち付かないので、それなりに危機感を持っている様だ。
「国軍も出撃して民間人の避難を行っています。現在は海を挟んでの睨み合いになっているそうです」
 そこで、と言って一同を見渡す明日軌。
「妹社の反乱には丙が係わっているのでは? と政府は考えています。そこで、私の龍の目の力を借りたいとの申し出が来ました」
「行かれるのですか?」
 ハクマが深刻そうな顔になる。主人が危険地帯に行くのが心配なのだろう。
「困った時はお互い様ですからね。行かない訳には行きません。勿論、護衛を連れて行きます」
 護衛に一番適任なのはのじこだろう。戦闘能力も高いし、万が一寝返った妹社と戦う事になった時、躊躇無く敵の首を落とせる精神力を持っている。
 ただ、のじこの戦い方は肉弾戦だ。手甲と靴に付けた刃物で敵を切る。
 まともな心を持った人間や妹社相手なら、その幼い容姿も十分な武器になるだろうが、どちらが勝つか分からない戦いをさせる訳には行かない。知能の低い神鬼なら良いが、百戦錬磨の妹社相手に接近戦は危険だ。
 戦闘能力だけで言えばエルエルも良いが、彼女もダメだ。この街に居る彼女の母親と言う共生欲の対象から離すのは失策になるだろう。
 となると――
「ここは、蜜月さんとコクマのペアに護衛をお願いしたいと思います」
「え? わ、私ですか?」
 外国の犬みたいな髪形を揺らして驚く蜜月。
「はい。私達が行くのは後方ですので、危険は無いはずです。しかし、丙が係わっているのなら話は別です。それなりの覚悟を持ってください」
 丙とは、神鬼の種類のひとつである。ただ突進する甲、光線を撃つ乙、と言う括りに入らない、その他の神鬼を指す。知能を持ち、情報収集を行う事が確認されている。例えれば敵方の忍者の様な物で、影に潜んで行動する、かなり厄介な存在だ。
 しかし数が少なく、人に見付かる事はまず無い。
 だが、明日軌の左目には、その丙が映る。神鬼の身体の核には人の部品が使われていると思われているので、その部品が持っている記憶が見えているのでは? と明日軌は思っている。
 とにかく影に潜む敵が見えるので、明日軌が北の地に呼ばれたのだ。
 消去法で選んだ形になったが、蜜月も一番の適任と言える。蜜月は、共生欲を向けていた仲良しのメイドを丙に殺されている。丙を恨んでいるはずだ。今も丙に敵意を持っているのなら、北の妹社を寝返らせた何らかの理由を見ても敵に同調する事は無いだろう。
「すぐに駅に向かい、そこで汽車に乗ります。ええと……」
 明日軌は壁に掛かっている時計を見る。
「今は十時五十六分。汽車が出発する時間は十二時二十五分です。蜜月さんとコクマは早速準備に掛かってください」
「はい」
「あ、はい」
 音も無くパイプ椅子から立ち上がる黒いメイド服のコクマに続き、蜜月も立ち上がる。
「この街の護りは、残るみなさんにお願いします。司令代理はハクマ」
 頷くハクマ、エルエル、のじこ。
「では、解散。私も旅立ちの用意をします」
「明日軌」
 立ち上がる明日軌の動きを赤い瞳で追っていたのじこは、物欲しそうな表情で女主人の名前を呼んだ。
「はい?」
「帰って来るよね?」
 彼女なりに心配してくれている様だ。
 不器用な物言いに微笑みを返す明日軌。
「勿論です。私が帰って来た時、この街とのじこさん達が無事である事を信じていますよ」
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