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前編
第16話
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中型神鬼が現れるのは、五日から十日に一度のペースだった。
二度三度と出撃すると六月に入り、蜜月の訓練も基礎的な物から実戦的な物に変化して行く。
敵を撃つ事にも躊躇いが無くなって来たが、代わりに妙な不安が蜜月を襲っていた。
『私は役に立っているのだろうか?』
蜜月は悩みながら雛白邸の庭を走る。朝の日課になった基礎体力作りだ。
メイド達も体力作りを義務とされているので、生活している内に仲が良くなった広田も一緒に走る。
「広田さん。仕事の調子はどうですか? 慣れましたか?」
「はい。ちょっと失敗もしますけど、何とか。蜜月様はどうですか?」
「私も、何とか」
「蜜月様は失敗したら命に関わりますから、大変ですよね」
「そうですね。あ、おはよう、のじこちゃん」
「ん。おはよう」
何故かのじこも途中で混ざって来る。
話し掛けても返事しかしない。蜜月が嫌われている訳ではなく、人付き合いが苦手、って感じ。
こうして近付いて来てくれるって事は、のじこの方も蜜月と仲良くなりたいのかも知れない。
「袴姿では走り難いから、のじこちゃんと同じ格好をしたいんだけどねー」
「やれば?」
のじこは返事も無愛想。
だが、それ以外の返事もないだろう。鎧下着にTシャツを着れば良いだけだし。
ただ、庭では自警団の男性達も様々な訓練をしているので、のじこみたいな身体の線が丸出しな格好をするのは気が引ける。
横を走る広田を見る。広田は長い髪を縛り、ちょうちんブルマに大き目のTシャツ。メイド用の運動着だ。
こちらの真似が良いかも知れない。鎧下着とTシャツは同じだが、ちょうちんブルマで腰を隠すだけで大分違う。
サイズや予備がいっぱい有るだろうからすぐに着替えられるが、正直、見た目があんまり可愛くない。ちょうちんブルマって、なんだかオムツみたいだし。
とっちが良いか迷う。
「はーい、ゴール」
雛白邸を三周してランニングを終えると、のじこはいつも通りにふらりとどこかに歩いて行った。マイペースな子だ。
「お、お疲れさまでしたぁ~。はぁ、はぁ……」
妹社の走りに一生懸命付いて来た広田も、ヘロヘロに息を切らせながらもメイドの仕事に戻って行った。
一人になった蜜月は、木陰で木刀の素振りを始めた。神鬼との戦いの無い日はやる事が無いので、取敢えず朝の訓練を続けているだけだ。
午後は読書をする予定になっている。これも日課になっている。
本は良い。知らない事が沢山書いてある。
そんな毎日は充実しているが、それだけに不安は大きくなる。
私は、これで良いのだろうか。
木刀を下ろして呼吸を整えていると、白い執事服のハクマが近付いて来た。
「頑張っていますね」
「いえ。他にやる事も有りませんし」
「今日のお昼は、のじこさんと三人で取りましょう。時間になりましたら大食堂に集合してください」
「集合なんて珍しいですね」
「蜜月さんも妹社隊の戦い方に馴れた様なので、色々とお話をしましょう」
言ってから周囲を見渡すハクマ。
「ところで、のじこさんがどこに居るかご存じですか?」
「いえ。朝の走り込みは一緒にするんですけど、それ以外は別々に行動しています」
非戦闘時の妹社隊は、それぞれが自由に生活をしている。妹社を兵士として使ってはいけないから、あえてそうしているらしい。
隊長であるハクマが隊員に敬語を使うのもそのせいだと言う。本職が執事だからと言う理由も有るだろうが。
「そうですか……。屋敷の外には出ていないはずなので、探してみます。蜜月さん、のじこさんを見掛けたらお昼は大食堂でと伝えてください」
「分かりました。でもまぁ、見付からなくても、お昼には調理場に顔を出すでしょうけれど」
「そうですね」
蜜月とハクマが微笑み合う。
他人と共通の話題が有ると言う初体験は、蜜月には少しこそばゆい。
しかもその相手は格好良いハクマだ。
執事が立ち去った後、蜜月はちょっとだけニヤけながら木刀の素振りを再開した。
そして、昼食の時間が来た。結局ハクマはのじこを見付けられず、調理場担当のメイドが大食堂への集合を知らせた。蜜月の予想通り、昼食を漁りに調理場に現れたのだ。
玄関ホール脇の大食堂の上座にハクマ、左手側に蜜月、右手側にのじこと、蜜月が初めて雛白邸に来た時と同じ場所に座る三人。
「さて。蜜月さんが雛白妹社隊の隊員になって何度かの戦闘を経験しました。そこで気が付いた事を伺いたいと思います」
そうハクマが切り出したので、蜜月は最近感じている不安を真っ先に思い浮かべた。
しかし銀髪少女の方が先輩だから、ハクマはそちらを先に話を振る。
「のじこさんは、何か有りますか?」
「別に」
しかしのじこはそっけなく即答した。
その返事は予想通りだったのか、ハクマはすぐに蜜月に顔を向けて同じ質問をする。
「えっと……」
言い難い事なので、どう伝えたら良いか考える。
そもそも、こんな事を言っても良い物だろうか。
「どんな事でも良いのです。妹社隊に関係の無い事でも結構です」
「そうですか? ……そのぉ」
恐る恐る口を開いた蜜月は、思っていた事を伝える。
「不安、ですか?」
「はい。戦闘に出ても、中型神鬼を倒すのはのじこちゃんとハクマさんです。私はのじこちゃんが戦っている中型神鬼の足下に居る小型を撃つだけなので――」
白いテーブルクロスに目を落とす蜜月。
「役に立っているのかなぁ、と」
「そうですか。最近の中型は多くて三匹なので、自警団も同じ様に感じているでしょうね。だからこそ、蜜月さんの存在は必要なのです」
雛白部隊の主戦力であるのじこが敵に密着する戦い方をするので、戦車や自警団員は無闇に発砲出来ない。援護するにも正確に撃たないと、流れ弾や敵の鎧に弾かれる跳弾でのじこが怪我をしてしまう。妹社なので人体急所に当たらない限りは平気らしいが、それでも味方、しかも幼い少女に銃創を刻む事は出来ない。だから中型神鬼に近付ける蜜月の援護射撃は有効なのである。
そう言うハクマ。
「はぁ……」
しかし蜜月はいまいち納得出来ない。その状態である事が不安なんだし。
「のじこさんは、蜜月さんの援護について、どう思いますか?」
お昼ご飯はまだなのかと、つまらなさそうな顔をしているのじこ。
「うん。小さいのが多い時は、大きいのの前に居る事も有る。それを蜜月が殺してくれると、いいね。すぐ大きいのに登れるから」
「そ、そう?」
もしかすると、のじこに名前を呼ばれたのは今が初めてかも知れない。それがちょっと嬉しい。
「大きいのの背中に乗った後も、小さいのが石を投げたり光線撃ったりするから、それをやっつけてくれてるよね。それはいい」
「のじこさんは、蜜月さんの援護に助けられているそうです」
ハクマが短く纏めると、子供らしくうんと頷いた。
「そう、ですか。じゃ、私の不安は杞憂……だったのかな」
「そうですね。恐らくそれは、妹社特有の共生欲から来る物ではないでしょうか」
「キョウセイヨク?」
「妹社は仲間や友達を強く欲する傾向が有るのです。ですので、人より優れた能力を持ちながら、人の社会で大人しく暮らしているのです」
「良く……分かりません」
「人は、自分が他人より優れていると感じたら、人の上に立とうとします」
蜜月の黒い瞳を見詰めながら続けるハクマ。
「しかし確実に人より優れている妹社にはそれが無い。そんな事より、周りの人と仲良くする事に腐心するのです。その行動が共生欲と名付けられています」
つまり、蜜月が周りの評価を気にして不安になるのは、周りの人に良く思われて仲良くしたいかららしい。
自由気ままに見えるのじこがハクマに従うのも、その共生欲のせいらしい。
「共生欲、ですか? そう言う気持ちって人には無いんですか?」
「有ります。人も妹社も一人では生きて行けないので、共生欲は妹社特有の物ではないと私は考えます。私自身、コクマが居なかったら戦えませんし」
「はぁ」
「要するに、蜜月さんの悩みは気に病むほどではない、と私は思います。それでも思うところが有るのなら、いつでも相談してください。――他に何か有りますか?」
「特に有りません」
「そうですか。お二人共、良くやってくれています。ここ最近の雛白部隊の死傷者の数はゼロで、五月の行方不明者も一桁台です。お嬢様も満足なさっています」
ハクマがそう言うと、白いメイド達が食器をテーブルに並べ始めた。
待ってましたと言わんばかりに目を輝かせるのじこ。
蜜月は、その様子を横目で見ながら質問する。
「行方不明者とは何ですか?」
「稀に街の民間人が小型神鬼に浚われるのです」
「サラワレル?」
首を傾げる蜜月。
「主に夜、闇に紛れて数匹の小型神鬼が街を徘徊し、街の人を殺害するのです。そして遺体を持ち去ってしまうのです」
「そんな事が有るんですか……」
「はい。なので夜も自警団の方々が街を護っています」
「大変ですね」
「そうですね。しかし、街には自警団の方々の家族も暮らしています。彼等は彼等の家族を護る為に戦っているのです」
「……負けられませんね」
「はい」
そして昼食が始まる。
メインはサバの唐揚げなのだが、不思議な風味だった。少し辛い。
「これ、何味ですか?」
蜜月の質問に白いメイドの一人が答える。
「カレー味でございます」
とても美味しい。箸が進む味だ。
妹社は少女でも成人男性以上の体力が有るで、食べる量もそれなりに多い。蜜月は別に普通の量だと思っていたが、こうしてみんなで食事を取ると、ハクマより食べている事が分かる。
恥ずかしいので遠慮しようかと思ったが、そうすると訓練中にお腹が空いて辛くなる。出撃が来れば思いっきり走らなければならないので、体力が切れない様に、やっぱりお腹いっぱい食べる事にした。
のじこは他人の目を一切気にせずにガツガツと食べている。
食事中は、天気の話や、庭の木にこんな鳥が居たとか、そんな他愛の無い会話を楽しんだ。
食べ終わるとすぐに解散となった。いつも通り、のじこはさっさと玄関ホールの方に歩いて行く。
「……そう言えば」
立ち上がったまま動きを止めていた蜜月は、食器を片付ける白いメイド達を見ながら、何の気無しに呟く。
「この街の蛤石って、どうなっているのかな。神鬼って、蛤石からも出て来るんだよね……」
いつ神鬼が現れるか分からない為に常時待機している雛白部隊の代わりに、メイド達が日用品等を買いに街に出る。
そう言う理由で気軽に外出出来ない蜜月も、特に仲の良い広田にお菓子の買い出しを頼んだりする。
小型神鬼が街中に出没するなら、彼女達も危ないのではないだろうか。
その呟きを訊いたハクマは、少し考えてから言う。
「では、明日軌様の許可が降りればですけれど、蛤石を見に行ってみますか?」
二度三度と出撃すると六月に入り、蜜月の訓練も基礎的な物から実戦的な物に変化して行く。
敵を撃つ事にも躊躇いが無くなって来たが、代わりに妙な不安が蜜月を襲っていた。
『私は役に立っているのだろうか?』
蜜月は悩みながら雛白邸の庭を走る。朝の日課になった基礎体力作りだ。
メイド達も体力作りを義務とされているので、生活している内に仲が良くなった広田も一緒に走る。
「広田さん。仕事の調子はどうですか? 慣れましたか?」
「はい。ちょっと失敗もしますけど、何とか。蜜月様はどうですか?」
「私も、何とか」
「蜜月様は失敗したら命に関わりますから、大変ですよね」
「そうですね。あ、おはよう、のじこちゃん」
「ん。おはよう」
何故かのじこも途中で混ざって来る。
話し掛けても返事しかしない。蜜月が嫌われている訳ではなく、人付き合いが苦手、って感じ。
こうして近付いて来てくれるって事は、のじこの方も蜜月と仲良くなりたいのかも知れない。
「袴姿では走り難いから、のじこちゃんと同じ格好をしたいんだけどねー」
「やれば?」
のじこは返事も無愛想。
だが、それ以外の返事もないだろう。鎧下着にTシャツを着れば良いだけだし。
ただ、庭では自警団の男性達も様々な訓練をしているので、のじこみたいな身体の線が丸出しな格好をするのは気が引ける。
横を走る広田を見る。広田は長い髪を縛り、ちょうちんブルマに大き目のTシャツ。メイド用の運動着だ。
こちらの真似が良いかも知れない。鎧下着とTシャツは同じだが、ちょうちんブルマで腰を隠すだけで大分違う。
サイズや予備がいっぱい有るだろうからすぐに着替えられるが、正直、見た目があんまり可愛くない。ちょうちんブルマって、なんだかオムツみたいだし。
とっちが良いか迷う。
「はーい、ゴール」
雛白邸を三周してランニングを終えると、のじこはいつも通りにふらりとどこかに歩いて行った。マイペースな子だ。
「お、お疲れさまでしたぁ~。はぁ、はぁ……」
妹社の走りに一生懸命付いて来た広田も、ヘロヘロに息を切らせながらもメイドの仕事に戻って行った。
一人になった蜜月は、木陰で木刀の素振りを始めた。神鬼との戦いの無い日はやる事が無いので、取敢えず朝の訓練を続けているだけだ。
午後は読書をする予定になっている。これも日課になっている。
本は良い。知らない事が沢山書いてある。
そんな毎日は充実しているが、それだけに不安は大きくなる。
私は、これで良いのだろうか。
木刀を下ろして呼吸を整えていると、白い執事服のハクマが近付いて来た。
「頑張っていますね」
「いえ。他にやる事も有りませんし」
「今日のお昼は、のじこさんと三人で取りましょう。時間になりましたら大食堂に集合してください」
「集合なんて珍しいですね」
「蜜月さんも妹社隊の戦い方に馴れた様なので、色々とお話をしましょう」
言ってから周囲を見渡すハクマ。
「ところで、のじこさんがどこに居るかご存じですか?」
「いえ。朝の走り込みは一緒にするんですけど、それ以外は別々に行動しています」
非戦闘時の妹社隊は、それぞれが自由に生活をしている。妹社を兵士として使ってはいけないから、あえてそうしているらしい。
隊長であるハクマが隊員に敬語を使うのもそのせいだと言う。本職が執事だからと言う理由も有るだろうが。
「そうですか……。屋敷の外には出ていないはずなので、探してみます。蜜月さん、のじこさんを見掛けたらお昼は大食堂でと伝えてください」
「分かりました。でもまぁ、見付からなくても、お昼には調理場に顔を出すでしょうけれど」
「そうですね」
蜜月とハクマが微笑み合う。
他人と共通の話題が有ると言う初体験は、蜜月には少しこそばゆい。
しかもその相手は格好良いハクマだ。
執事が立ち去った後、蜜月はちょっとだけニヤけながら木刀の素振りを再開した。
そして、昼食の時間が来た。結局ハクマはのじこを見付けられず、調理場担当のメイドが大食堂への集合を知らせた。蜜月の予想通り、昼食を漁りに調理場に現れたのだ。
玄関ホール脇の大食堂の上座にハクマ、左手側に蜜月、右手側にのじこと、蜜月が初めて雛白邸に来た時と同じ場所に座る三人。
「さて。蜜月さんが雛白妹社隊の隊員になって何度かの戦闘を経験しました。そこで気が付いた事を伺いたいと思います」
そうハクマが切り出したので、蜜月は最近感じている不安を真っ先に思い浮かべた。
しかし銀髪少女の方が先輩だから、ハクマはそちらを先に話を振る。
「のじこさんは、何か有りますか?」
「別に」
しかしのじこはそっけなく即答した。
その返事は予想通りだったのか、ハクマはすぐに蜜月に顔を向けて同じ質問をする。
「えっと……」
言い難い事なので、どう伝えたら良いか考える。
そもそも、こんな事を言っても良い物だろうか。
「どんな事でも良いのです。妹社隊に関係の無い事でも結構です」
「そうですか? ……そのぉ」
恐る恐る口を開いた蜜月は、思っていた事を伝える。
「不安、ですか?」
「はい。戦闘に出ても、中型神鬼を倒すのはのじこちゃんとハクマさんです。私はのじこちゃんが戦っている中型神鬼の足下に居る小型を撃つだけなので――」
白いテーブルクロスに目を落とす蜜月。
「役に立っているのかなぁ、と」
「そうですか。最近の中型は多くて三匹なので、自警団も同じ様に感じているでしょうね。だからこそ、蜜月さんの存在は必要なのです」
雛白部隊の主戦力であるのじこが敵に密着する戦い方をするので、戦車や自警団員は無闇に発砲出来ない。援護するにも正確に撃たないと、流れ弾や敵の鎧に弾かれる跳弾でのじこが怪我をしてしまう。妹社なので人体急所に当たらない限りは平気らしいが、それでも味方、しかも幼い少女に銃創を刻む事は出来ない。だから中型神鬼に近付ける蜜月の援護射撃は有効なのである。
そう言うハクマ。
「はぁ……」
しかし蜜月はいまいち納得出来ない。その状態である事が不安なんだし。
「のじこさんは、蜜月さんの援護について、どう思いますか?」
お昼ご飯はまだなのかと、つまらなさそうな顔をしているのじこ。
「うん。小さいのが多い時は、大きいのの前に居る事も有る。それを蜜月が殺してくれると、いいね。すぐ大きいのに登れるから」
「そ、そう?」
もしかすると、のじこに名前を呼ばれたのは今が初めてかも知れない。それがちょっと嬉しい。
「大きいのの背中に乗った後も、小さいのが石を投げたり光線撃ったりするから、それをやっつけてくれてるよね。それはいい」
「のじこさんは、蜜月さんの援護に助けられているそうです」
ハクマが短く纏めると、子供らしくうんと頷いた。
「そう、ですか。じゃ、私の不安は杞憂……だったのかな」
「そうですね。恐らくそれは、妹社特有の共生欲から来る物ではないでしょうか」
「キョウセイヨク?」
「妹社は仲間や友達を強く欲する傾向が有るのです。ですので、人より優れた能力を持ちながら、人の社会で大人しく暮らしているのです」
「良く……分かりません」
「人は、自分が他人より優れていると感じたら、人の上に立とうとします」
蜜月の黒い瞳を見詰めながら続けるハクマ。
「しかし確実に人より優れている妹社にはそれが無い。そんな事より、周りの人と仲良くする事に腐心するのです。その行動が共生欲と名付けられています」
つまり、蜜月が周りの評価を気にして不安になるのは、周りの人に良く思われて仲良くしたいかららしい。
自由気ままに見えるのじこがハクマに従うのも、その共生欲のせいらしい。
「共生欲、ですか? そう言う気持ちって人には無いんですか?」
「有ります。人も妹社も一人では生きて行けないので、共生欲は妹社特有の物ではないと私は考えます。私自身、コクマが居なかったら戦えませんし」
「はぁ」
「要するに、蜜月さんの悩みは気に病むほどではない、と私は思います。それでも思うところが有るのなら、いつでも相談してください。――他に何か有りますか?」
「特に有りません」
「そうですか。お二人共、良くやってくれています。ここ最近の雛白部隊の死傷者の数はゼロで、五月の行方不明者も一桁台です。お嬢様も満足なさっています」
ハクマがそう言うと、白いメイド達が食器をテーブルに並べ始めた。
待ってましたと言わんばかりに目を輝かせるのじこ。
蜜月は、その様子を横目で見ながら質問する。
「行方不明者とは何ですか?」
「稀に街の民間人が小型神鬼に浚われるのです」
「サラワレル?」
首を傾げる蜜月。
「主に夜、闇に紛れて数匹の小型神鬼が街を徘徊し、街の人を殺害するのです。そして遺体を持ち去ってしまうのです」
「そんな事が有るんですか……」
「はい。なので夜も自警団の方々が街を護っています」
「大変ですね」
「そうですね。しかし、街には自警団の方々の家族も暮らしています。彼等は彼等の家族を護る為に戦っているのです」
「……負けられませんね」
「はい」
そして昼食が始まる。
メインはサバの唐揚げなのだが、不思議な風味だった。少し辛い。
「これ、何味ですか?」
蜜月の質問に白いメイドの一人が答える。
「カレー味でございます」
とても美味しい。箸が進む味だ。
妹社は少女でも成人男性以上の体力が有るで、食べる量もそれなりに多い。蜜月は別に普通の量だと思っていたが、こうしてみんなで食事を取ると、ハクマより食べている事が分かる。
恥ずかしいので遠慮しようかと思ったが、そうすると訓練中にお腹が空いて辛くなる。出撃が来れば思いっきり走らなければならないので、体力が切れない様に、やっぱりお腹いっぱい食べる事にした。
のじこは他人の目を一切気にせずにガツガツと食べている。
食事中は、天気の話や、庭の木にこんな鳥が居たとか、そんな他愛の無い会話を楽しんだ。
食べ終わるとすぐに解散となった。いつも通り、のじこはさっさと玄関ホールの方に歩いて行く。
「……そう言えば」
立ち上がったまま動きを止めていた蜜月は、食器を片付ける白いメイド達を見ながら、何の気無しに呟く。
「この街の蛤石って、どうなっているのかな。神鬼って、蛤石からも出て来るんだよね……」
いつ神鬼が現れるか分からない為に常時待機している雛白部隊の代わりに、メイド達が日用品等を買いに街に出る。
そう言う理由で気軽に外出出来ない蜜月も、特に仲の良い広田にお菓子の買い出しを頼んだりする。
小型神鬼が街中に出没するなら、彼女達も危ないのではないだろうか。
その呟きを訊いたハクマは、少し考えてから言う。
「では、明日軌様の許可が降りればですけれど、蛤石を見に行ってみますか?」
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