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「では、マキナを見付けます」
ドレスみたいなワンピースを着ているエインセルは、事も無げに言ってから、すぐ横の脇道に入った。道と言うより、敷地外からマキナの家の庭へ行く為の隙間みたいな空間だった。
「え? そっち?」
「こっちです」
走って行ったはずのマキナは、マキナの家の塀と隣の家の垣根の間に居た。通りから完全に外れている場所なので、エインセルがマキナの感情を読めなかったら絶対に見付けられなかった。
「ど、どうしてここが分かったの?」
絶対に見付からない自信が有ったのか、陰でしゃがんでいたマキナが目を見開いて驚いた。
それを無視し、表通りの方を気にするエインセル。
「奴の憤怒が消えた。我に返ったか。魔物だった時は有り得なかったが、人の身となった今は事情が違うと言う事か。一命さん、隠れましょう」
一人納得する様に呟いたエインセルは、勇佐を手招きしてからマキナのそばでしゃがんだ。
「お前の居場所がすぐに分かった理由を教えよう。我は魔法が使えるからだ」
偉そうに言うエインセルに冷めた目を向けるマキナ。
「何それ。バカにしてるの?」
「バカにはしていない。そもそも、我はお前など相手にしたくはない。だが、お前の心が不安定だとこちらの一命さんが心配なさるのだ。なので、幼い頃にお前と似た様な目に合っていた我の話をしてやる」
「ええ? 良いよ、そんなの」
マキナの迷惑そうな顔を無視して自分語りを始めるエインセル。
「我は、こことは違う世界で妖精として生まれた」
「ふざけてるの?」
「黙って聞け。これはお前の兄にも関係有る話だ。兄のせいでお前がイジメられるのなら、知っておくべき話だ」
エインセルの態度があんまりにも上からなので、勇佐がフォローを入れる。
「奇妙な話なのは分かってるけど、取り合えず最後まで聞いてあげて。もしかしたら解決のヒントが有るかも知れないし」
「はい……」
俯き、聞く姿勢になるマキナ。
やはりマキナは年上の人間には逆らえない様だ。これまでに色々な困難が有った事が伺える。
「ありがとう一命さん。――妖精と言う生物は、この世界の伝承の物と同じく、何らかの化身として現れる。例えば、花の妖精。宝石の妖精。と言った風にな。理解出来るか? マキナ」
「まぁ……なんとなく」
「先程出て来た花の妖精なら花の力を使えるが、普通はそれしか力を使えない。自分のルーツからしか力を借りられないのだ。だが、我は何の化身でもなかった。我は人間の様に自然の全てから力を借りられた。だから『お前は人間か』と仲間から迫害を受けたのだ」
「妖精にもそう言う差別みたいなのが有るんだ」
話半分ながらも、マキナはそう言った。こうして会話が出来るのなら、発作的に過ちを犯す様な精神状態ではなくなっているだろう。取り敢えず一安心か、と思う勇佐。
エインセルの話は続く。
「迫害は壮絶で、正に殺される寸前だった。何年も迫害から逃げ続けた結果、やられる前にやらなければ生き残れないと言う結論に至った。我は自然全てから力を借りられたので、ひとつの力しか使えない妖精を殺すのは容易かった。行動を起こした我は一日で妖精の里を滅ぼした」
「まるで悲劇の主人公ね。それが出来る才能が有るんなら、その選択も出来るんでしょうけど。普通は無理なの。その話を現実に例えるなら、私がこの街を滅ぼして問題を解決するって事になるでしょ? 出来る訳ない」
「かも知れぬな。だが、我はそうしなければ死んでいた。そうするしかなかった。話はこれで終わりではない。殺された妖精の絶望と悲しみは、全てを憎む我の魔力を増大させた。そこで我は更なる力を求めた」
「どうして? もう復讐は果たしたんでしょ?」
「人間は個で存在する。マキナはマキナだ。代わりはない。だが、花の妖精は花が有る限り無限に湧いて出て来る。妖精は個ではなく全で存在するからだ。だから、我を迫害した妖精達は、時が経てば復活するのだ」
小さな手で握り拳を作るエインセル。
「我の復讐は、無限とも言える殺戮の連鎖に陥ってしまった。それを解決するには、世界を滅ぼす魔王となるしかなかった。妖精の源を潰して行く内に部下も増え、我は魔王軍の長となった。そうだったな? 火のカルカンアテス」
エインセルが一際大きい声で名前を言うと、垣根の向こうで声がした。
「そうだったな。思い返してみると、人間の街を襲うのは魔族の仕事で、魔王は人間共の力の源である遺跡や神域、聖地や憩いの場を破壊するだけだったな」
「お兄ちゃん?」
マキナも垣根の向こうに向けて大きめの声を出した。
位置的に不良校の男は隣の家の庭に居る事になるが、今は余計な茶々は入れないでおこうと思う勇佐。
「小さい頃、俺が不機嫌になって暴れると、お前はここに隠れていたな。それを思い出したんだ」
「知ってたんだ」
「ああ。俺は、小さい頃から妙にイライラしていた。何でイライラするのか原因が分からなくて、余計にイライラしていた。その原因がついに分かった。俺は、エインセルに殺された怒りでイライラしていたんだ」
エインセルは、姿の見えない兄の方に顔を向けて言う。
「マキナ。お前の兄の前世は、魔王軍四天王、火のカルカンアテスだった。我の部下だったんだ。その部下をも、我は皆殺しにした」
垣根の向こうで何かが転がって行く音がした。不良校の男が隣家の何かを蹴ったらしい。
「この前エインセルを見て全てを思い出した。マキナを不幸にしていた俺のイライラは、そのエインセルのせいだったんだよ!」
「どう言う事なの? お兄ちゃん」
「向こうでエインセルに殺された俺は、こっちで人間として生まれ変わった。その時、前世の記憶は失われた。だが、殺された怒りは消えなかった。だからイライラしていたって訳だ」
「へぇ……。言われてみれば、貴女の髪とか目の色って、外人だったとしてもちょっと珍しい色ね。それは妖精だから?」
マキナはエインセルの顔をまじまじと見た。物陰でも暖色であるオレンジ髪は目立つ。
「マキナがそう思うならそうなんだろう。我は外人と言う物が良く分からないから何とも言えぬ」
話を戻すぞ、と言って続けるエインセル。
「元の世界での我の目的は妖精の根絶だった。先程も言ったが、妖精と言うのは依り代が有れば自然に生まれる存在だ。だから我は初めから全てを滅ぼすつもりだった。部下も募った覚えは無い。勝手に集まって来て便利だったから利用したに過ぎない」
「てめぇ!」
「火のカルカンアテス。お前だってお前なりの目的が有って魔王軍に入り、魔王の力を利用したんだろう? お互い様だ。勇者達の事を覚えているか? 彼等も目的が有って戦っていた。勝ち残ったのは我だった。だから我の望みが叶った。それだけだ」
マキナの手を取り、立たせるエインセル。
「死ぬのが嫌だったら勝ち残れば良かったのだ。マキナにもそう言った。死にたくなければ相手を殺せとな。今もそう考えているから我は魔族の殺戮を謝罪しない。しかし、志半ばで無残に殺された火のカルカンアテスの怒りももっともだ。だから、我を殴ったお前を恨まない。その証に我はお前の怪我を治したい。受け入れては貰えないだろうか」
兄が応える前に妹が口を開く。
「もしも今の話が本当なら、貴女は魔法が使えるんだよね? 本当にお兄ちゃんの怪我を治せるの?」
「骨折程度なら造作も無い」
「お兄ちゃんのイライラも?」
「それは火のカルカンアテスの心の問題だから、魔法でどうにかする物ではない。だが、怒りの矛先がどこに向いているかが分かったのだから、今後は闇雲に乱暴を働いたりはしないだろう」
「じゃ、治して貰ってよ、お兄ちゃん。そして、もう乱暴な事はしないで」
しばらくの沈黙の後、兄は口を開く。
「マキナ。お前、自殺しようとしたって本当か? それの原因が俺ってのも、本当か?」
「……うん」
「そうか。……すまなかった。これからはお前に迷惑を掛けない様にする」
「お兄ちゃん……」
「エインセル。俺はお前を許すつもりは無いが、気持ちの区切りを付ける為に怪我を治して貰おうと思う。良いか?」
「良いぞ。お前達の家の前に戻ろう」
全員揃って塀の隙間から道路に出る。
兄はエインセルを前にしても興奮せずにそっぽを向いている。
「右手を出せ。折れた骨が動くので痛いだろうが、一瞬だから我慢しろ」
兄の手を取ったエインセルは、平気そうな顔で魔法を使った。魔法を使う時のリスクは秘密にしておきたいらしい。
「……治った」
兄は、自分の家の門柱に右手をぶつけてギブスを砕いた。乱暴な性質はすぐには治らないらしい。
「本当に治ってる! 凄い!」
マキナは、兄の右手の指が自由に動いている様子を見て目を輝かせた。魔法と言う奇跡を目の当たりにして気分が高揚している。女の子らしくはしゃぐ事が出来るのなら勇佐の心配も解消されるだろう。
「では、我は帰る。マキナの問題は家族である火のカルカンアテスに任せるぞ」
「俺の名前は啓太だ。火野坂啓太。火のなんたらって呼ばれるのは恥ずかしいから止めろ」
「啓太か。現世ではただの人なんだから、せいぜい家族を大事にするんだな。それを捨ててでも我に復讐したいのなら、遠慮無く我を殺しに来い。我もお前を殺してやるから」
「魔法が使えるお前に勝てる訳ないだろ」
「フ。ではな」
勇佐に意志の籠った目線を送ったエインセルは、我は一人で生きていると言わんばかりに孤独を背負って去ろうとした。
だが、啓太がそれを呼び止めた。
「待てよ。なんでお前は魔王のままここに居るんだ?」
「向こうでの我の望みは叶った。だから我も世界と共に消えるつもりだった。我も妖精だからな。言ってしまえば自殺したのだが、なぜか我は死なずにこの世界に来た。その理由は我の与り知るところではない。神のイタズラと言うしかない」
エインセルは、日が暮れ始めた道を一人で帰って行った。
残された勇佐は、マキナの表情に生気が蘇っているのを確認した後、エインセルの後を追った。
ドレスみたいなワンピースを着ているエインセルは、事も無げに言ってから、すぐ横の脇道に入った。道と言うより、敷地外からマキナの家の庭へ行く為の隙間みたいな空間だった。
「え? そっち?」
「こっちです」
走って行ったはずのマキナは、マキナの家の塀と隣の家の垣根の間に居た。通りから完全に外れている場所なので、エインセルがマキナの感情を読めなかったら絶対に見付けられなかった。
「ど、どうしてここが分かったの?」
絶対に見付からない自信が有ったのか、陰でしゃがんでいたマキナが目を見開いて驚いた。
それを無視し、表通りの方を気にするエインセル。
「奴の憤怒が消えた。我に返ったか。魔物だった時は有り得なかったが、人の身となった今は事情が違うと言う事か。一命さん、隠れましょう」
一人納得する様に呟いたエインセルは、勇佐を手招きしてからマキナのそばでしゃがんだ。
「お前の居場所がすぐに分かった理由を教えよう。我は魔法が使えるからだ」
偉そうに言うエインセルに冷めた目を向けるマキナ。
「何それ。バカにしてるの?」
「バカにはしていない。そもそも、我はお前など相手にしたくはない。だが、お前の心が不安定だとこちらの一命さんが心配なさるのだ。なので、幼い頃にお前と似た様な目に合っていた我の話をしてやる」
「ええ? 良いよ、そんなの」
マキナの迷惑そうな顔を無視して自分語りを始めるエインセル。
「我は、こことは違う世界で妖精として生まれた」
「ふざけてるの?」
「黙って聞け。これはお前の兄にも関係有る話だ。兄のせいでお前がイジメられるのなら、知っておくべき話だ」
エインセルの態度があんまりにも上からなので、勇佐がフォローを入れる。
「奇妙な話なのは分かってるけど、取り合えず最後まで聞いてあげて。もしかしたら解決のヒントが有るかも知れないし」
「はい……」
俯き、聞く姿勢になるマキナ。
やはりマキナは年上の人間には逆らえない様だ。これまでに色々な困難が有った事が伺える。
「ありがとう一命さん。――妖精と言う生物は、この世界の伝承の物と同じく、何らかの化身として現れる。例えば、花の妖精。宝石の妖精。と言った風にな。理解出来るか? マキナ」
「まぁ……なんとなく」
「先程出て来た花の妖精なら花の力を使えるが、普通はそれしか力を使えない。自分のルーツからしか力を借りられないのだ。だが、我は何の化身でもなかった。我は人間の様に自然の全てから力を借りられた。だから『お前は人間か』と仲間から迫害を受けたのだ」
「妖精にもそう言う差別みたいなのが有るんだ」
話半分ながらも、マキナはそう言った。こうして会話が出来るのなら、発作的に過ちを犯す様な精神状態ではなくなっているだろう。取り敢えず一安心か、と思う勇佐。
エインセルの話は続く。
「迫害は壮絶で、正に殺される寸前だった。何年も迫害から逃げ続けた結果、やられる前にやらなければ生き残れないと言う結論に至った。我は自然全てから力を借りられたので、ひとつの力しか使えない妖精を殺すのは容易かった。行動を起こした我は一日で妖精の里を滅ぼした」
「まるで悲劇の主人公ね。それが出来る才能が有るんなら、その選択も出来るんでしょうけど。普通は無理なの。その話を現実に例えるなら、私がこの街を滅ぼして問題を解決するって事になるでしょ? 出来る訳ない」
「かも知れぬな。だが、我はそうしなければ死んでいた。そうするしかなかった。話はこれで終わりではない。殺された妖精の絶望と悲しみは、全てを憎む我の魔力を増大させた。そこで我は更なる力を求めた」
「どうして? もう復讐は果たしたんでしょ?」
「人間は個で存在する。マキナはマキナだ。代わりはない。だが、花の妖精は花が有る限り無限に湧いて出て来る。妖精は個ではなく全で存在するからだ。だから、我を迫害した妖精達は、時が経てば復活するのだ」
小さな手で握り拳を作るエインセル。
「我の復讐は、無限とも言える殺戮の連鎖に陥ってしまった。それを解決するには、世界を滅ぼす魔王となるしかなかった。妖精の源を潰して行く内に部下も増え、我は魔王軍の長となった。そうだったな? 火のカルカンアテス」
エインセルが一際大きい声で名前を言うと、垣根の向こうで声がした。
「そうだったな。思い返してみると、人間の街を襲うのは魔族の仕事で、魔王は人間共の力の源である遺跡や神域、聖地や憩いの場を破壊するだけだったな」
「お兄ちゃん?」
マキナも垣根の向こうに向けて大きめの声を出した。
位置的に不良校の男は隣の家の庭に居る事になるが、今は余計な茶々は入れないでおこうと思う勇佐。
「小さい頃、俺が不機嫌になって暴れると、お前はここに隠れていたな。それを思い出したんだ」
「知ってたんだ」
「ああ。俺は、小さい頃から妙にイライラしていた。何でイライラするのか原因が分からなくて、余計にイライラしていた。その原因がついに分かった。俺は、エインセルに殺された怒りでイライラしていたんだ」
エインセルは、姿の見えない兄の方に顔を向けて言う。
「マキナ。お前の兄の前世は、魔王軍四天王、火のカルカンアテスだった。我の部下だったんだ。その部下をも、我は皆殺しにした」
垣根の向こうで何かが転がって行く音がした。不良校の男が隣家の何かを蹴ったらしい。
「この前エインセルを見て全てを思い出した。マキナを不幸にしていた俺のイライラは、そのエインセルのせいだったんだよ!」
「どう言う事なの? お兄ちゃん」
「向こうでエインセルに殺された俺は、こっちで人間として生まれ変わった。その時、前世の記憶は失われた。だが、殺された怒りは消えなかった。だからイライラしていたって訳だ」
「へぇ……。言われてみれば、貴女の髪とか目の色って、外人だったとしてもちょっと珍しい色ね。それは妖精だから?」
マキナはエインセルの顔をまじまじと見た。物陰でも暖色であるオレンジ髪は目立つ。
「マキナがそう思うならそうなんだろう。我は外人と言う物が良く分からないから何とも言えぬ」
話を戻すぞ、と言って続けるエインセル。
「元の世界での我の目的は妖精の根絶だった。先程も言ったが、妖精と言うのは依り代が有れば自然に生まれる存在だ。だから我は初めから全てを滅ぼすつもりだった。部下も募った覚えは無い。勝手に集まって来て便利だったから利用したに過ぎない」
「てめぇ!」
「火のカルカンアテス。お前だってお前なりの目的が有って魔王軍に入り、魔王の力を利用したんだろう? お互い様だ。勇者達の事を覚えているか? 彼等も目的が有って戦っていた。勝ち残ったのは我だった。だから我の望みが叶った。それだけだ」
マキナの手を取り、立たせるエインセル。
「死ぬのが嫌だったら勝ち残れば良かったのだ。マキナにもそう言った。死にたくなければ相手を殺せとな。今もそう考えているから我は魔族の殺戮を謝罪しない。しかし、志半ばで無残に殺された火のカルカンアテスの怒りももっともだ。だから、我を殴ったお前を恨まない。その証に我はお前の怪我を治したい。受け入れては貰えないだろうか」
兄が応える前に妹が口を開く。
「もしも今の話が本当なら、貴女は魔法が使えるんだよね? 本当にお兄ちゃんの怪我を治せるの?」
「骨折程度なら造作も無い」
「お兄ちゃんのイライラも?」
「それは火のカルカンアテスの心の問題だから、魔法でどうにかする物ではない。だが、怒りの矛先がどこに向いているかが分かったのだから、今後は闇雲に乱暴を働いたりはしないだろう」
「じゃ、治して貰ってよ、お兄ちゃん。そして、もう乱暴な事はしないで」
しばらくの沈黙の後、兄は口を開く。
「マキナ。お前、自殺しようとしたって本当か? それの原因が俺ってのも、本当か?」
「……うん」
「そうか。……すまなかった。これからはお前に迷惑を掛けない様にする」
「お兄ちゃん……」
「エインセル。俺はお前を許すつもりは無いが、気持ちの区切りを付ける為に怪我を治して貰おうと思う。良いか?」
「良いぞ。お前達の家の前に戻ろう」
全員揃って塀の隙間から道路に出る。
兄はエインセルを前にしても興奮せずにそっぽを向いている。
「右手を出せ。折れた骨が動くので痛いだろうが、一瞬だから我慢しろ」
兄の手を取ったエインセルは、平気そうな顔で魔法を使った。魔法を使う時のリスクは秘密にしておきたいらしい。
「……治った」
兄は、自分の家の門柱に右手をぶつけてギブスを砕いた。乱暴な性質はすぐには治らないらしい。
「本当に治ってる! 凄い!」
マキナは、兄の右手の指が自由に動いている様子を見て目を輝かせた。魔法と言う奇跡を目の当たりにして気分が高揚している。女の子らしくはしゃぐ事が出来るのなら勇佐の心配も解消されるだろう。
「では、我は帰る。マキナの問題は家族である火のカルカンアテスに任せるぞ」
「俺の名前は啓太だ。火野坂啓太。火のなんたらって呼ばれるのは恥ずかしいから止めろ」
「啓太か。現世ではただの人なんだから、せいぜい家族を大事にするんだな。それを捨ててでも我に復讐したいのなら、遠慮無く我を殺しに来い。我もお前を殺してやるから」
「魔法が使えるお前に勝てる訳ないだろ」
「フ。ではな」
勇佐に意志の籠った目線を送ったエインセルは、我は一人で生きていると言わんばかりに孤独を背負って去ろうとした。
だが、啓太がそれを呼び止めた。
「待てよ。なんでお前は魔王のままここに居るんだ?」
「向こうでの我の望みは叶った。だから我も世界と共に消えるつもりだった。我も妖精だからな。言ってしまえば自殺したのだが、なぜか我は死なずにこの世界に来た。その理由は我の与り知るところではない。神のイタズラと言うしかない」
エインセルは、日が暮れ始めた道を一人で帰って行った。
残された勇佐は、マキナの表情に生気が蘇っているのを確認した後、エインセルの後を追った。
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