12 / 19
11
しおりを挟む
誰でも良いので状況把握の為の相談がしたかったから、市の警察署に電話してみた。心絶ちを持っている者ですが、ってちゃんと伝えたが、相手に『何言ってんだこいつ』みたいな反応をされた。警察の人全員が猟奇事件の真相を知っている訳ではない様だ。
心食みの関係者と話をしたい、先代の人の連絡先を教えてください、と言ったところで切られた。
いたずら電話だと思われたか。
使えねぇ。
と思ったが、よくよく考えれば警察は悪くない。
つづるがをみを斬っても、つづるが罪に問われる事はない。化け物を対象にした法律が無いから。だから警察が刀と化け物を無視しても問題にならない。
ただし、刀は単純に見た目通りの凶器だから許可証がいる。
理屈は分かるが、でも、どう考えても殺人だよな。
一応、警察に電話を掛ける前に黒い携帯も使ってみたが、なんとこの携帯、音を出すスピーカーが無かった。液晶画面も無い。完全に音声を向こうに伝えるだけの物だった。
1時間くらい前にをみと対峙した時は、簡単な操作で電話が掛けられるなんて便利だなぁとしか思ってなかった。携帯なんかじっくり見てるヒマなんか無かったし、ヒマでも自分の物じゃないガラケーなんか弄らないし。
取り敢えず通話状態にして相談したいと言ってみたが、今のところ返事が来る様子は無い。
ちょっとだけ孤独感を感じる。状況がハッキリと分からず、味方が居ないのが辛い。
気持ちを切り替える為にシャワーを浴びるつづる。死に直面して変な汗掻いたし。
さっぱりしたら新品の下着を下し、部屋着用ではない、新品の薄い水色のサマードレスを身に纏った。お嬢様学校に入ったんだから必要でしょ、と母が買ってくれた物だ。
ボーイッシュな自分には似合わないし、実際に試着しても似合ってなかったのだけれど、母は強引に買った。髪を整えて薄く化粧をしたら、つづるでもきっとお嬢様になるわよ、と。
そうだったら良いなと思う自分も、確かに居た。夏休みはこれを着て、をみとどこかに遊びに行こうと思っていた。
をみはこの格好を見て笑うかな。
似合うとウソを言ってくれるかな。
そんな想像をして、高校最初の夏休みを楽しみにしてたのに。
このサマードレスを着るのは最初で最後だろう。
自分の部屋に戻ってドアの鍵を閉めたつづるは、心絶ちを持って窓際に立つ。
廊下を歩いた時、良い匂いが漂っていた。お母さんが台所で塩サバを焼いてるな。
この事は両親にも相談出来ない。
『をみをこの刀で切らないといけないみたいなんだけど、どうしたら良いかなぁ?』
なんて言えるか。
一応つづるも女の子なので、道路や隣の家から見えない位置に自室が有る。
だから外に気を使わずに布袋から刀を出し、抜いた。
白刃が宵に煌めく。
「心絶ち。をみは今どこに居る?」
刀を持つ手に微かな悪寒が伝わって来た。意識していない時は一切悪寒が無いから分かっていたけど、この弱さだと、やっぱり近所には居ない様だ。
「……こっちか」
身体の向きを変えると悪寒が強くなる。
1番強い方向が分かった。
刀を納め、窓から身を乗り出してをみが居る方を確認する。もうすぐ夕飯の時間だが、夏なのでまだ明るい。
不意にカナカナが鳴いてびっくりしたが、改めて鞘越しの悪寒に集中した。
山の方か。
駅の反対側だな。
普段は山に隠れてるのかな。
悪寒が正確に分からなくて、かなり遠くのあっちの方ってだけだから、違うかも知れない。
そもそも、お嬢様なをみが山の中で野宿なんてありえない。
しかも、食べているのは人間の心臓……。
気持ち悪い想像を頭を振って消すつづる。
「本当は、今すぐをみを探しに行って、をみを斬って、をみを救ってあげた方が良いんだよね」
鞘に収まった心絶ちから肯定の感じがする。
そうだよな。
今、をみが動いていなくても、日没後くらいに誰かを食べるために動き出すかも知れない。これ以上殺人が続いたら、いくらなんでも警察が黙っていないだろう。
射殺――されるかも。
それはダメだ。
心絶ちで斬った方が良いのは分かってる。10数年、心食みが復活しないんだから。
でも、決心が付かない。
「私は一体どうしたら良いんだろう」
答えがひとつしかない疑問を呟く。
溜息が出るほど虚しくなった。
「でも、をみは切れない。切れないよ……」
悩みがループするだけで何も出来ないつづるは、悶々としたままサマードレスから普通の部屋着に着替え、普通を装って夕飯を食べた。
そして、もしも夜中に抜け出すとしたらどう言う方法で家を出ようかとベッドの中で考えながら寝た。
心食みの関係者と話をしたい、先代の人の連絡先を教えてください、と言ったところで切られた。
いたずら電話だと思われたか。
使えねぇ。
と思ったが、よくよく考えれば警察は悪くない。
つづるがをみを斬っても、つづるが罪に問われる事はない。化け物を対象にした法律が無いから。だから警察が刀と化け物を無視しても問題にならない。
ただし、刀は単純に見た目通りの凶器だから許可証がいる。
理屈は分かるが、でも、どう考えても殺人だよな。
一応、警察に電話を掛ける前に黒い携帯も使ってみたが、なんとこの携帯、音を出すスピーカーが無かった。液晶画面も無い。完全に音声を向こうに伝えるだけの物だった。
1時間くらい前にをみと対峙した時は、簡単な操作で電話が掛けられるなんて便利だなぁとしか思ってなかった。携帯なんかじっくり見てるヒマなんか無かったし、ヒマでも自分の物じゃないガラケーなんか弄らないし。
取り敢えず通話状態にして相談したいと言ってみたが、今のところ返事が来る様子は無い。
ちょっとだけ孤独感を感じる。状況がハッキリと分からず、味方が居ないのが辛い。
気持ちを切り替える為にシャワーを浴びるつづる。死に直面して変な汗掻いたし。
さっぱりしたら新品の下着を下し、部屋着用ではない、新品の薄い水色のサマードレスを身に纏った。お嬢様学校に入ったんだから必要でしょ、と母が買ってくれた物だ。
ボーイッシュな自分には似合わないし、実際に試着しても似合ってなかったのだけれど、母は強引に買った。髪を整えて薄く化粧をしたら、つづるでもきっとお嬢様になるわよ、と。
そうだったら良いなと思う自分も、確かに居た。夏休みはこれを着て、をみとどこかに遊びに行こうと思っていた。
をみはこの格好を見て笑うかな。
似合うとウソを言ってくれるかな。
そんな想像をして、高校最初の夏休みを楽しみにしてたのに。
このサマードレスを着るのは最初で最後だろう。
自分の部屋に戻ってドアの鍵を閉めたつづるは、心絶ちを持って窓際に立つ。
廊下を歩いた時、良い匂いが漂っていた。お母さんが台所で塩サバを焼いてるな。
この事は両親にも相談出来ない。
『をみをこの刀で切らないといけないみたいなんだけど、どうしたら良いかなぁ?』
なんて言えるか。
一応つづるも女の子なので、道路や隣の家から見えない位置に自室が有る。
だから外に気を使わずに布袋から刀を出し、抜いた。
白刃が宵に煌めく。
「心絶ち。をみは今どこに居る?」
刀を持つ手に微かな悪寒が伝わって来た。意識していない時は一切悪寒が無いから分かっていたけど、この弱さだと、やっぱり近所には居ない様だ。
「……こっちか」
身体の向きを変えると悪寒が強くなる。
1番強い方向が分かった。
刀を納め、窓から身を乗り出してをみが居る方を確認する。もうすぐ夕飯の時間だが、夏なのでまだ明るい。
不意にカナカナが鳴いてびっくりしたが、改めて鞘越しの悪寒に集中した。
山の方か。
駅の反対側だな。
普段は山に隠れてるのかな。
悪寒が正確に分からなくて、かなり遠くのあっちの方ってだけだから、違うかも知れない。
そもそも、お嬢様なをみが山の中で野宿なんてありえない。
しかも、食べているのは人間の心臓……。
気持ち悪い想像を頭を振って消すつづる。
「本当は、今すぐをみを探しに行って、をみを斬って、をみを救ってあげた方が良いんだよね」
鞘に収まった心絶ちから肯定の感じがする。
そうだよな。
今、をみが動いていなくても、日没後くらいに誰かを食べるために動き出すかも知れない。これ以上殺人が続いたら、いくらなんでも警察が黙っていないだろう。
射殺――されるかも。
それはダメだ。
心絶ちで斬った方が良いのは分かってる。10数年、心食みが復活しないんだから。
でも、決心が付かない。
「私は一体どうしたら良いんだろう」
答えがひとつしかない疑問を呟く。
溜息が出るほど虚しくなった。
「でも、をみは切れない。切れないよ……」
悩みがループするだけで何も出来ないつづるは、悶々としたままサマードレスから普通の部屋着に着替え、普通を装って夕飯を食べた。
そして、もしも夜中に抜け出すとしたらどう言う方法で家を出ようかとベッドの中で考えながら寝た。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
好きになっちゃったね。
青宮あんず
大衆娯楽
ドラッグストアで働く女の子と、よくおむつを買いに来るオシャレなお姉さんの百合小説。
一ノ瀬水葉
おねしょ癖がある。
おむつを買うのが恥ずかしかったが、京華の対応が優しくて買いやすかったので京華がレジにいる時にしか買わなくなった。
ピアスがたくさんついていたり、目付きが悪く近寄りがたそうだが実際は優しく小心者。かなりネガティブ。
羽月京華
おむつが好き。特に履いてる可愛い人を見るのが。
おむつを買う人が眺めたくてドラッグストアで働き始めた。
見た目は優しげで純粋そうだが中身は変態。
私が百合を書くのはこれで最初で最後になります。
自分のpixivから少しですが加筆して再掲。
【完結】【R18百合】女子寮ルームメイトに夜な夜なおっぱいを吸われています。
千鶴田ルト
恋愛
本編完結済み。細々と特別編を書いていくかもしれません。
風月学園女子寮。
私――舞鶴ミサが夜中に目を覚ますと、ルームメイトの藤咲ひなたが私の胸を…!
R-18ですが、いわゆる本番行為はなく、ひたすらおっぱいばかり攻めるガールズラブ小説です。
おすすめする人
・百合/GL/ガールズラブが好きな人
・ひたすらおっぱいを攻める描写が好きな人
・起きないように寝込みを襲うドキドキが好きな人
※タイトル画像はAI生成ですが、キャラクターデザインのイメージは合っています。
※私の小説に関しては誤字等あったら指摘してもらえると嬉しいです。(他の方の場合はわからないですが)
私を支配するあの子
葛原そしお
ホラー
咲良花奈の通う中学のクラスにはいじめがあった。いじめの対象となる子は『ブタ』と呼ばれた。そのいじめを主導する砂村大麗花に、花奈は目をつけられた。そのいじめの対象に選ばれた花奈を、別のクラスの羽鳥英梨沙が救う。花奈は英梨沙のことを慕うが、英梨沙には企みがあった。
※注意:暴力、流血、殺人、いじめ、性的暴行、スカトロ表現あり
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
13歳女子は男友達のためヌードモデルになる
矢木羽研
青春
写真が趣味の男の子への「プレゼント」として、自らを被写体にする女の子の決意。「脱ぐ」までの過程の描写に力を入れました。裸体描写を含むのでR15にしましたが、性的な接触はありません。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる