上 下
273 / 277
第三十一話

6

しおりを挟む
「話を私に戻しても良いでしょうか」
 話が一段落付いたと判断したカレンがそう言うと、雷神は無表情のまま頷いた。
「シオン教の巫女を連れて来て貰ったし、私もこの都市の存在を教えてくれた礼をすると言ったしな。話してみろ」
「ルーメンが頑固で話し合いが進まないとさっき言いました。けど、大陸南側の国はほとんど同じ反応なんですよね。完全に足並みを揃えないと戦争を終わらせられないのに、それが出来ない」
「出来たら何百年も戦争してないわな。文化レベルを保持しながら泥沼戦争を話し合いで終わらせた例は極端に少ない」
 無表情のまま肩を竦める雷神。
「それって他の世界の話ですよね? 異世界でもそうなんだぁ。やっぱりそうだよねぇ。無理だよねぇ」
 一人で頷いたカレンは、思い付いたように顔を上げて話を続ける。
「でも戦争を終わらせないと話し合いどころじゃない。そこで質問なんですけど、錬金術が進むと科学になって、もっと進むと超科学になるって聞いたんです。そこんところ……チョコチョコっと教えて貰えませんかね?」
 商人張りの揉み手で低姿勢になったカレンだが、雷神は即答で断った。
「絶対にダメだ。文化レベルが違い過ぎる。超科学で戦争を終わらせるとなると、一方的な弾圧、もしくは大虐殺になる。伝える事が許可されていたとしても、私個人の判断で断固拒否する」
「やっぱりダメかぁ。まぁ、そこは期待してなかったから別に良いです。それで解決してるなら、凄い魔法を使い放題な異世界人のルーメンがとっくになんとかしてるだろうし」
「超科学って言い出したのは余計な知識を持っている異世界人のルーメンか。この世界の女神が罰を与えないなら、言うだけなら無罪なんだろうな」
 ちょっと失礼と断ったカレンは立ち上がり、大きなリュックから豪華な装飾が施された一冊の本を取り出した。
 鍵付きの表紙を雷神に見せながら丸椅子に戻る。
「超科学がダメなら今有る力で解決しないといけないじゃないですか。そこで、錬金術で反則的な事をしようって発想に至った訳ですよ」
「ふむ。その本の存在がすでに反則だからな。消されていないそれを使うならさもありなん。で、どうするんだ?」
「魔法が長引く原因は、ちょいちょい魔法の天才が生まれて、そいつが新しい戦争の火種になるからだそうです。なら、天才が生まれなければ火種は起きない。でしょ?」
「短絡的だが、真理だな。ならどうする? 力を付ける前に殺すか?」
「殺しません。戦争を止めるために憎しみのタネを生んでどうするんですか」
「賢いな。好ましいぞ、その流れ。で?」
「戦争じゃなくて、魔法の方にちょっかい出そうと思っています。一言で言うなら、魔法が生まれる前の状態に戻すんです」
「魔法の歴史は、お前達がその知識を得た時に、この世界の女神が説明してくれた。つまり、5龍が健在だった時代に戻すつもりか?」
「はい。上手くいけば、多分、魔法が無くなるんじゃないかな。残ったとしても、魔法が超弱くなる。今回私達が来るよって雷神様にお伝えした遠距離通信魔法はきっと使えなくなるでしょうね」
「大問題だな。この世界の人間に大反対されるんじゃないか?」
「されるでしょうから、表のテルラ達と裏の私達で分かれてるんです。そこまでしないと話が前に進まないんですよ、残念ながら」
 錬金術の本を太ももの上に下ろしたカレンは、雷神の金色の瞳と視線を合わせる。
「魔法の仕組みは女神様とその眷属の領分です。そこのところに人間がガッツリと手を出すので、許されるかどうかの判断をして貰いたいんです。雷神様に、神としての目線で」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます

おぜいくと
恋愛
「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」 そう書き残してエアリーはいなくなった…… 緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。 そう思っていたのに。 エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて…… ※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。

俺の旅の連れは美人奴隷~俺だって異世界に来たのならハーレムを作ってみたい~

ファンタジー
「やめてください」「積極的に行こうよ」「ご主人様ってそういう人だったんだ」様々な女の子とイチャイチャしながら異世界を旅して人生を楽しんでいこう。

異世界複利! 【1000万PV突破感謝致します】 ~日利1%で始める追放生活~

蒼き流星ボトムズ
ファンタジー
クラス転移で異世界に飛ばされた遠市厘(といち りん)が入手したスキルは【複利(日利1%)】だった。 中世レベルの文明度しかない異世界ナーロッパ人からはこのスキルの価値が理解されず、また県内屈指の低偏差値校からの転移であることも幸いして級友にもスキルの正体がバレずに済んでしまう。 役立たずとして追放された厘は、この最強スキルを駆使して異世界無双を開始する。

色のない虹は透明な空を彩る〜空から降ってきた少年は、まだ『好き』を知らない〜

矢口愛留
ファンタジー
虹色の髪を持つ子爵令嬢、パステル・ロイドは、色を見分けることができない。 パステルは人との関わりを拒否し、社交シーズンでも領地で少数の使用人とのんびり過ごしていた。 閉ざされた世界で静かに暮らすパステルの元に、ある日、突然空からセオと名乗る少年が降ってきた。 セオは、感情を持たず、何処から来たかも分からない不思議な少年だった。 他人に必ずと言っていいほど憐憫や嫌悪、好奇の目を向けられるパステルは、何の感情も向けずに真っ直ぐ自分に向き合うセオに、徐々に惹かれていく。 だが、セオには「好き」の意味が分からない。 さらには、パステルの眼と、セオの失われた感情には、隠された秘密があって——? 不器用に、一歩ずつ、それでも成長しようともがく二人。 欠けている二人の、不思議な関係が始まる——。 【序章】 主人公の少女パステルと、不思議な少年セオとの出会いと交流を描く。 【本編】 失われた『色』と記憶、感情を取り戻すために二人は精霊たちを探して旅に出る。 *タイトルに◆が付いている回は過去の回想を含む回です。 *タイトルに★が付いている回は他者視点の回です。 *パステルは虹色の髪、灰色の瞳。セオは水色の髪、金色の瞳です(色を識別出来ないという設定上、人物描写が物語後半になりますので、混乱を避けるために載せています)。 *「カクヨム」様、「小説家になろう」様にも掲載しています。 *コンテスト履歴 『第8回カクヨムWeb小説コンテスト(ライト文芸)』中間選考通過 『マンガBANG×エイベックス・ピクチャーズ 第一回WEB小説大賞』一次選考通過

【完結】あなたの思い違いではありませんの?

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
複数の物語の登場人物が、一つの世界に混在しているなんて?! 「カレンデュラ・デルフィニューム! 貴様との婚約を破棄する」 お決まりの婚約破棄を叫ぶ王太子ローランドは、その晩、ただの王子に降格された。聖女ビオラの腰を抱き寄せるが、彼女は隙を見て逃げ出す。 婚約者ではないカレンデュラに一刀両断され、ローランド王子はうろたえた。近くにいたご令嬢に「お前か」と叫ぶも人違い、目立つ赤いドレスのご令嬢に絡むも、またもや否定される。呆れ返る周囲の貴族の冷たい視線の中で、当事者四人はお互いを認識した。  転生組と転移組、四人はそれぞれに前世の知識を持っている。全員が違う物語の世界だと思い込んだリクニス国の命運はいかに?!  ハッピーエンド確定、すれ違いと勘違い、複数の物語が交錯する。 【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/11/19……完結 2024/08/13……エブリスタ ファンタジー 1位 2024/08/13……アルファポリス 女性向けHOT 36位 2024/08/12……連載開始

転生王女は異世界でも美味しい生活がしたい!~モブですがヒロインを排除します~

ちゃんこ
ファンタジー
乙女ゲームの世界に転生した⁉ 攻略対象である3人の王子は私の兄さまたちだ。 私は……名前も出てこないモブ王女だけど、兄さまたちを誑かすヒロインが嫌いなので色々回避したいと思います。 美味しいものをモグモグしながら(重要)兄さまたちも、お国の平和も、きっちりお守り致します。守ってみせます、守りたい、守れたらいいな。え~と……ひとりじゃ何もできない! 助けてMyファミリー、私の知識を形にして~! 【1章】飯テロ/スイーツテロ・局地戦争・飢饉回避 【2章】王国発展・vs.ヒロイン 【予定】全面戦争回避、婚約破棄、陰謀?、養い子の子育て、恋愛、ざまぁ、などなど。 ※〈私〉=〈わたし〉と読んで頂きたいと存じます。 ※恋愛相手とはまだ出会っていません(年の差) イラストブログ https://tenseioujo.blogspot.com/ Pinterest https://www.pinterest.jp/chankoroom/ ※作中のイラストは画像生成AIで作成したものです。

倒したモンスターをカード化!~二重取りスキルで報酬倍増! デミゴッドが行く異世界旅~

乃神レンガ
ファンタジー
 謎の白い空間で、神から異世界に送られることになった主人公。  二重取りの神授スキルを与えられ、その効果により追加でカード召喚術の神授スキルを手に入れる。  更にキャラクターメイキングのポイントも、二重取りによって他の人よりも倍手に入れることができた。  それにより主人公は、本来ポイント不足で選択できないデミゴッドの種族を選び、ジンという名前で異世界へと降り立つ。  異世界でジンは倒したモンスターをカード化して、最強の軍団を作ることを目標に、世界を放浪し始めた。  しかし次第に世界のルールを知り、争いへと巻き込まれていく。  国境門が数カ月に一度ランダムに他国と繋がる世界で、ジンは様々な選択を迫られるのであった。  果たしてジンの行きつく先は魔王か神か、それとも別の何かであろうか。  現在毎日更新中。  ※この作品は『カクヨム』『ノベルアップ+』にも投稿されています。

処理中です...