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第三十話

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 隠れ里の民家や村長邸から必要最小限の食料を拝借したテルラ達は、里を後にして国境に向かっていた。
 動き易い服装に着替えた片足のカゲロウは松葉杖を突いているので、森の中の進みは遅い。村長邸に車椅子が有ったが、道の無い山中では使えないので持って来ていない。
「地下トンネルを掘ってリビラーナと繋げる計画も有ったんだけど、抜け道が有ると有事を呼び込むかも知れないからって中止になったんだよね。物資の補給路は欲しかったんだけど、鎖国の意味が無くなるのが痛いからね」
「では、どうやってリビラーナに入るんですか?」
 テルラが訊くと、カゲロウは空を見上げた。そろそろ森が終わるので、白い雲が浮いている空が木々の隙間から良く見える。
「一番安全なのは空を飛ぶ方法。どこの国でもそうだけど、空からの侵入は想定されていない。空を飛ぶ魔法が無い訳じゃないけど、レアケースをいちいち警戒してたら人手も予算も足りなくなるからね」
「俺達は飛べないぞ」
 グレイが羽虫を払いながら素っ気無く言う。
「なので正面突破しかない。でも、武力で力押しは無理よ。魔物は無限に沸くからね。国境の魔物の増殖力は段違いよ。君達は魔物と戦って来ただろうけど、その経験による想像以上だと思って」
「力押しは初めから考えていませんでしたわ。それが出来るならグラシラドがとっくの昔に征服していたでしょうし。他の方法は?」
 レイが前方を注視しながら訊いたが、カゲロウは肩を竦めた。
「他の方法は無いわ。だから、私の幻惑魔法で姿と足音を消し、魔物の群れの中を素通りします」
「大丈夫ですの? 姿を消す魔法は先ほど見ましたのでどう言う物か分かりますが、魔物にも通用しますの?」
 レイが不安そうに振り向くと、カゲロウは松葉杖に縛り付けてある魔法の杖を見せ付けた。
「魔物の正体はホムンクルスで、その大本は王様。つまり人間。人間に通用する魔法は魔物にも通用するわ。ただし、声や匂いは消せないので注意して。例えば、大きな音でくっさいオナラしたらバレるわ」
 下品な例え話に自分で笑うカゲロウ。
 誰も笑わなかったので素に戻って何も無かったかの様に平然と続ける。
「体臭も消せないから、バレない様に魔物との距離を取りつつ進む事になる。注意点。魔物の方から近付いて来たら慌てず静かに避ける事。草や石を蹴ってもダメ。石が転がる音、草が折れる音までは消せないからね」
 頷くテルラ一行。
「もしも魔物に見付かって戦闘になったら、絶対に後退する事。もうすぐリビラーナ国内だったとしても、この森まで後退よ。これに例外は無い」
「なんでっスか? 私等の潜在能力を使えば、少しくらいの無茶は出来るっスが」
 プリシゥアがカレンのオデコを見る。敵の攻撃力がゼロになるカレンの潜在能力が使えれば、理屈の上ではどんな相手でも負けない。
「思い上がってるわね。紛争地帯で力を誇示すると真っ先に潰されるわよ。――ここの魔物は国境を守ってるんじゃなくて、侵入者を排除しようとしているの。だから、いっぺん見付かったらどこまでも追い掛けて来る。倒しても倒しても、無限の増殖力で追って来る」
 森が開けて来た。もうすぐひとつ目の巨人とニワトリが肉眼でも見えるだろう。
「でも、それは内側へ逃げた場合。外側に逃げれば追って来ない。こっち側なら侵入者じゃなくなるからね。分かった?」
「分かったっス。そうなったら、魔物が落ち着いてから再チャレンジっスか?」
「日を改めて再チャレンジね。じゃ、知覚遮断魔法を掛けるわ。歩くのが遅い私が足手まといにならない様に、誰かおぶって頂戴。魔法に集中したいし」
「じゃ、私がおぶるっス」
 プリシゥアの背中に乗ったカゲロウが神経を集中させる。
「これからは無言よ。行くわよ!」
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