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第二十三話

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 レイが剣の柄で通用口のドアを叩いているとミマルンが追い付いた。
「ゴールドドラゴンが飛んで行ったのは山頂でしたよね。それは門を通らないと行けないのですか?」
「金山は犯罪者が働く場所も有るんで、国庫プラス刑務所の二重の意味で出入りが出来ない様になってるっス。とは言え範囲が広大なんでこっそり入る事は出来るとは思うっスが、警備兵に魔法で狙撃されても文句は言えないっスね。危険っス」
 プリシゥアが息を整えながら答えると、通用口のドアが開かれた。
「朝っぱらからうるさいな。開けるからちょっと待ってろ。――あ、レインボー様でしたか」
「失礼、急いでおりますの!」
 通用口から出て来た門番を押し退けて上町に向かうレイ。
「申し訳ないっス。緊急事態なんで、お叱りが有るならまた後でお願いするっス」
「後でもう一人仲間が来ると思いますので、よろしくお願いします」
 プリシゥアとミマルンも上町に入る。
 レイは後続を全く気にせずに一直線で公爵邸に向かった。
「レインボー・オン・エルカノートでございます! プリズム・イオ・エルカ様! ご相談がございます!」
 肺が破れるのではないかと思うくらい息を切らせているレイがツバと泡を飛ばして叫ぶと、すぐに一人の男が出て来た。庭師らしく、汚いオーバーオールを着て大きなはさみを持っている。閉じられた鉄の門の向こうで無教養丸出しな頭の下げ方をする。
「朝食係のメイドなら起きているだろうから、そっちに話を通してみます。ちょっと待っててください」
「緊急事態なので急いでくださいまし!」
「は、はい」
 レイの剣幕に押されて駆け出す庭師。
 メイドが来るまでの数分、ハンターの三人は息を整える。
「こんなに走ったのは生れて初めてだったっスが、意外に走れるもんっスね。旅と戦闘で体力が付いたんスね」
「今はそれどころではありませんわ。まぁ、まだ光線が撃てませんのでテルラは危機ではないのでしょうけど……アレが本物のゴールドドラゴンである保証もありませんし、早く助けませんと」
 レイが手の平を空に向けていると、中年だが美人なメイドが出て来た。
「おはようございます、レインボー様。プリズム様はまだ身支度を整えられておりませんので、もうしばらくお待ちいただけますでしょうか。今、門を開けさせますので」
「いえ、急いでいますのでここで結構ですわ。今すぐ金山への入山許可を頂きたいのです」
「それは――急ぎだからと許可が出る物ではございません。僭越ながら申し上げますと、王女の権限を使われても、いえ、王女だからこそ通行の許可は出せないと思います。金山は犯罪者の労働と更生の――」
「急いでおりますの! 良いですか、わたくしは急いでおりますの。お説教は後回しでお願いしますわ。――では、プリズム様に伝言をお願いします。言い間違いや勘違い等はありませんので、一語一句間違わずに伝えてくださいますか?」
 メイドの言葉を途中で切ったレイは深呼吸し、どもらない様に舌の動を確かめてから続ける。
「ゴールドグラスの守り神であるゴールドドラゴンがわたくし達の前に現れ、テルラティア様を連れ去ってしまいました。ゴールドドラゴンは金山の山頂に飛んで行ったので、今すぐそこに向かわないといけません。入山許可を。以上です」
 面食らった顔をしたメイドだったが、「伝えて参ります」とだけ言い残して屋敷の方に行った。
「さすが訓練を受けたメイドですね。こんな突拍子の無い話を反論も無しで伝えに行くとは」
 感心するミマルン。
 息が落ち着くくらいの時間が経つと、下町の喧騒が聞こえて来た。今日の祭が始まったらしい。ゴールドドラゴンは目撃されていないらしく、特別な騒ぎにはなっていない。
「申し訳ございません。どんな理由が有ろうとも、王女であるレインボー様をお通しするには国王の許可が必須との事です」
 戻って来たメイドが事務的に言う。
「それでも通りたいのならエルカ公爵にお願いすれば許可が下りるかも知れませんが、お帰りは二日後の予定です。警護隊編成の時間も必要ですので、今すぐは絶対に無理、と」
「……どうするっスか?」
 唇を噛んで震えているレイの肩に手を置くプリシゥア。キレて乗り込まない様に押さえ付ける意味も有ったが、レイは溜息と共に項垂れた。
「光線が撃てたなら壁に穴を開けて山頂までの真っ直ぐな道を作れたのですが、出来ない今は諦めるしかありませんわね」
「乗り込みよりも危なかったっスね。レイの潜在能力が反応していない内は大丈夫っスから、一旦戻って作戦会議をするっス」
 上町の門まで戻ると、背と腹それぞれに大きなリュックを下げたカレンがへばっていた。二人分の荷物を持って来たので、仲間達より疲れている。
「あ、みんな。これからどうするの?」
「今後の相談ですわ」
 門番から離れて円陣を組むパーティメンバー。
「正規のルートでの入山は不可能です。となると、遠回りをして街の外から行くしかありませんわ」
「王女の権力が使えないのなら、それしかないっスね。問題は警備兵の問題っスが」
 レイとプリシゥアが小声で話し合っている横で、カレンはミマルンから状況説明を受けた。
 略されながらも状況を理解したカレンが丸出しの額に人差し指を置く。
「狙撃が怖いなら、私の光線で無力化しながら進めば良いんじゃない? 私の潜在能力は昼間の内ならずっと撃ち続けられるから、怪我する心配は無いよ。ただ、知っての通りめっちゃ光るから、秒で潜入がバレるけど」
「バレても構いませんから、それで行きましょう。とにかく急いでテルラを助け、その後叱られましょう」
 レイが早口で言う。
 自分達らしくない無謀な作戦だが、この相談の時間も勿体ないのはカレンも同感だった。
「じゃ、テルラの分のリュックを誰かに持って貰いたいんだけど……なんか変な感じしない?」
 カレンは背筋を伸ばして首を捻る。
 レイとプリシゥアは特に何も感じていなかったが、近くの木の枝を見たミマルンが気付いた。
「これは、地震です!」
 直後、誰でも感じられる程度の揺れがゴールドグラス全体に広がった。
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