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第二十一話

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 予期せぬネズミ退治をした避難民達は、家に帰れる人は帰ると判断した。壁が壊れて封じ込めが不可能になった以上、壁の外での避難生活が無意味になったからだ。
 街の中でネズミ退治をしていた勇者はまだネズミが残っていると言ったが、自力で退治出来るのならば問題無いと住民側が主張したので、街は帰宅を許可した。あの騒動を乗り越えた後だったので、非戦闘員でも肝が据わったのだろう。
 半数以上が家に帰り、ネズミが怖い人や家が壊れた人、朝のパンが欲しい人はそのまま門外の避難キャンプに残った。
 テルラ達は街に入り、南門近くの宿に宿泊した。商人用の安宿な上に数日無人だったせいで少し埃っぽかったが、血と死体に塗れたキャンプ地よりマシだった。部屋の隅にネズミのフンが溜まっていたので、簡素で軽いベッドをひっくり返してネズミが居ないかと確認しながら掃除した。

 そして翌日。
 役所の人達が宿に来て、恭しく被害の纏めをレイに報告した。
 壊れた木の壁は、塞ぐ材料が無いので、しばらく木の柵でごまかすしかない。
 防衛能力が下がっているのでハンターの仕事が増え、街の財政が圧迫されるだろう。
 壁の修繕は、予算に余裕が出来た時に小まめに進める計画になるだろうから、長期に渡ると予想される。
 もう街の外で避難生活をする必要が無いと確認されれば、避難キャンプは2,3日掛けて片付けられる。
 レイの光線で壊れた家の他にも、ネズミに齧られて居住不可能になっている家が居るが、その家の住人達は公共施設や余った貴族の別荘等で避難生活を続ける予定。
 怪我人や農作物等の細かい被害は書類に軽く目を通すだけでも数時間は掛かるレベルだったので、報告はザックリで済ませた。
「――以上でございます」
 報告を担当した役人は、王女に伺いの視線を向ける。
「昨日頼んでおいた、わたくしが壊した家屋の被害状況は纏めてくださいましたか?」
「こちらに」
 書類を受け取ったレイは、注意深く読む。昨日の今日なので確認作業に不備が有るかも知れないが、不正は無い様に思えた。
「ペンを」
 その書類にレイが直筆でサインした。
 そして、『不死の魔物退治の過程でわたくしが仕方無く壊した』と昨晩認めておいた手紙を添える。王家がどれくらいのお金を出してくれるかは分からないが、レイが壊した分は全額出るだろうから、少しは助けになるだろう。
 ついでに国から出される復興資金も早めに多く出してくれる様にお願いを付け加えたが、国の予算は王家が自由に扱える物ではなく、国会の議員達がどうするかを判断する物なので、こちらは余り期待出来ないかも知れない。
「後は街の人達に任せ、僕達は次の街を目指しましょう」
 テルラ達の旅の目的は不死の魔物退治なので、ハンターとしての仕事は受けない事にした。街全体の食料も不足しているので、長く留まるのも良くない。
 すでに復興作業が始まっている中、テルラ達は出発する。
「食料補給が出来なかったから、釣りをしたり野兎を捕まえたりしないといけないよねぇ。結構な手間なんだよなぁ」
 カレンが面倒臭そうに愚痴ると、ミマルンが苦笑した。
「気軽に街に寄れるエルカノート国内だといらない苦労でしょうけど、食材は新鮮な方が美味しいと割り切るしかないでしょうね」
「まぁねー」

 順調な旅を進めた数日後。
 日暮れ前の野営の準備をしていた時、周囲の安全を確認していたレイが野ネズミに出くわした。
「ヒッ!?」
 反射的に光線を撃とうとするレイ。
 だが、テルラがピンチではないので撃てなかった。
「とっさに剣を抜かなくて魔法に頼ろうとしたのはなんでなんスかね」
「……見ましたわね」
 仕留めたタヌキを持っているプリシゥアがにやけていた。
 レイは他の仲間の様子を伺った。
 カレンとテルラは設営したテント周りの整備をしていて、ミマルンは火熾しをしていた。
 誰も今の所作に気付いていない。
「半分トラウマになっているって事っスかね。魔法なら近付かずに倒せるっスから」
「あの大群を見た後では仕方がないと思いますわ。――プリシゥア、秘密でお願いしますわ」
「了解っス。今夜はタヌキ汁っスよ。腹いっぱい食べて嫌な事は忘れるっス。正直、私もネズミ退治はコリゴリっスからね」
 軽く笑い合った二人は、それぞれの持ち場に戻った。
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