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第二十話

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 レインボー姫の誕生日の翌日。
 各国の王族達は朝食の後に帰って行った。
 ネモの目的が人間社会の見学なので、カレンとネモも王族達の馬車とその護衛の行列が居なくなってから王城を後にした。
 しかし、ネモは楽しいかも知れないが、カレンには祭りでも何でもない王都の散策は好い加減飽きて来たので、気になっていたお店を探した。
「私、武器屋に行きたいんだけど、良いかな」
「武器か。武器を見ればこの世界の技術と道徳のレベルが分かる。私も興味が有るぞ」
 武器屋に入る二人。王都の店は人の出入りが多いが、武器屋は地方と同じくガラガラだった。
 そんな中、若い女性二人が入って来たので、店主がいぶかし気に睨んだ。
 品揃えは王都らしく豊富だった。妙に派手な武器防具も有るので、半分は儀式用か観賞用かも知れない。
「うーん、無いなぁ。訊くか」
 一通り店内を見渡したカレンは、怖そうな顔をしている店主を避けて、退屈そうにしている店員に話し掛けた。
「あのー。銃は有りませんか? 手に持つ奴でも、長い奴でも良いんですけど」
「銃ですか? ウチには無いですね。アレは特殊な武器ですから」
 店員が小バカにする様に苦笑し、聞き耳を立てていた店主が呆れた風にそっぽを向いた。
 反応がおかしい。
 ネモが王城に行ける服をと高級ブティックに入った時に似て、田舎者を下に見て相手にしていない感じ。
「銃が欲しいんですか? カレン」
 褐色の肌の女性が店に入って来た。
 顔見知りだったので、カレンは片手を上げて駆け寄る。
「あ、ミマルン」
「私の国では、銃は卑怯な弱者の武器だと言われています。程度の差は有れ、南の国ではほとんどがそう思っています。女性の護身用ならギリギリ許されますが、ハンターが持っていたら下に見られるんです。北の国の常識は分かりませんが、見た限りでは誰も持っていないので、恐らく南と同じではないでしょうか」
「へぇ、銃ってそう思われてるんだ。知らなかった。便利な武器なのに誰も使ってないから不思議だったんだ。この国でもそうなのかな?」
 二人の話を聞いていた店員に顔を向けると、店員は頷いた。
「火薬の扱いが難しいとか弾丸が高いとか有りますが、やっぱり最大の理由は異国の方が言う通りですね。遠距離攻撃は騎士道に反します。火薬武器を好んで使うのは山賊海賊くらいです」
「あ、なるほど。だから……。でも、どうしようかな。レイが抜けるうんぬんって話が出てたから、私も後ろから銃で撃てればって思ったんだけど」
「確かに。カレンのパーティは四人なのに荷物持ちが二人も居るのはバランスが悪いですね。銃で後衛をやるのも良いかも知れません」
 ミマルンの言葉を店員が否定する。
「いやー。銃って簡単そうに見えますが、剣以上に練習が必要ですよ。飛び道具ですので、扱いをミスって仲間を撃ったって話も聞きますし。しっかりとした考えも無しに持つのは危ないですよ」
「うーん、そっかぁ。じゃ、止めるかぁ」
「カレンよ。銃身が有れば色々と便利な事が出来るぞ。応用も出来る。ソレを理解すればな」
 ネモがカレンの肩掛け鞄を指差す。
「え? ――本の事? コレで銃をゴニュゴニョ出来るって事?」
「便利な道具と組み合わせれば、この世界の魔法とは全く違う発想の魔法が使える様になると言っても良いだろうな。旅をしながらだとそこまで極めるのは難しいかもだが、可能性を手に入れたんだから、諦めて思考停止するなって事だ」
「そっか。まぁ、ここに売ってないんだから、売ってる店を探すのが先かな。そして、値段次第って感じ」
「銃専門店は王都に有りませんが、軍に大砲用の火薬を卸している店なら銃を扱っているかも知れません。場所は――」
 店員が親切に住所を教えてくれた。
 ミマルンの来店目的である大剣用の砥石を買ってから、三人で王都の散策を再開する。
「ミマルン様。丁度良かった、カレンさん、ネモさんも一緒ですね」
 教えられた住所に向かいつつあちこちに寄り道していると、一人の騎士が駆け寄って来た。
「レインボー姫からの伝言です。姫はパーティを抜けず、旅を続けなさります。カレンさんは安心してくださいとの事」
 ミマルンとカレンは顔を見合わせる。王とレイの口ゲンカは、レイの勝利で終わったらしい。
「まず西に向かい、そこの問題が済んだらそのまま海岸沿いで南の国に行くそうです。ミマルン様も帰るついでで同行してはどうか、との事ですが、どういたしますか?」
「お誘い、受けたいと思います。遠回りになりますが、一人旅よりも情報を持ち帰られる確率が上がりますので」
「その様に姫にお伝えします。昼食後、各々で旅立ちの準備を終えてから南門集合との事です。旅の荷物もそこに運ばれ、そのまま出発するそうです。ミマルン様、カレンさん、ネモさん。宜しいですね?」
「オッケーです」
 カレンは即答したが、ネモは返事をしなかった。通りを行き交う人々をぼんやりと見ている。
「どうしたの? ネモ」
「私が旅に出てもしょうがないし、王都に残って飽きるまで都会生活をするよ。どうせ――魔法結晶だっけ? アレがないと維持出来ない身体だし。ここでお別れだ」
 力付ける様にカレンの肩に手を置くネモ。
「面倒臭がらず、ちゃんと本を読み込めよ。――次に会う時はあの世だろう。じゃ、またな。私の事は気にせず、思う存分世界を護ってくれ」
 青髪の少女は、そんな言葉を残して人込みの向こうに歩いて行った。
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