161 / 277
第十八話
9
しおりを挟む
テルラは青褪めているが、何も見えない仲間達は戸惑うばかりだ。
「聖女様が食べられたって、どう言う意味っスか? テルラ」
「そのままの意味です、プリシゥア。黒風船が突如合体し、建物ほどもある巨大な顔になったんです。そして、そのまま……」
剣の柄に手を添えているレイが隊列を崩して前に出て来る。
「巨大な顔を倒そうにも、見えないのではどうにもなりませんわ。どうやって助けましょうか」
「テルラに見て貰って、居るところを攻撃すれば良いんじゃない? 取り合えず攻撃力を奪ってみる?」
カレンは額にダブルピースを当て、いつでも戦いを始められる形になっている。
「待ってください、様子がおかしいです!」
緊張感から早口になるテルラ。
しかし他の者には相変わらず何も見えないので、何か分かる事はないかと周囲を見渡してみる。
明らかに周囲の空気が変わっていた。先程までギスギスしていた若者達がポカンと呆けた顔になっている。
「突然巨大な顔が消えました。次元の穴も有りません。これは一体……?」
「もしや、周囲の黒風船も消えていませんか? 通りの様子もおかしいですわ」
レイに言われ、テルラは指の輪をそのままにして周囲を見る。
「消えていますね。見えなくなった? それとも――」
「聖女様が巨大な顔の中で何とかしてくれたっスかね。ちょっと訊いてくるっス」
プリシゥアは、近くに居た兵士に話し掛けた。
雑談風味な会話を交わした後、一行の許に帰って来る。
「あの兵士さんもこの状況を元に戻ったって認識してるっス。クエストクリアっスね」
「クリア、なのかなぁ? 私達、何もしてないけど」
ダブルピースを下すカレンの肩に手を置いて微笑むプリシゥア。
「私達がここに来て『見えない相手に何かをした』から状況が元に戻ったって、あの兵士さんが証言してくれるって約束を取り付けたっス。まぁ、王女の言葉を疑う役所も無いと思うっスが、念のためっス」
「普通のハンターならそんな証言は信じて貰えないだろうねぇ。優遇されてるねぇ」
カレンがレイを見て言うと、銀髪美女は剣の柄から手を放して肩を竦めた。
プリシゥアもレイを見ながら戦闘用のグローブを外す。
「状況を証明出来ないっスから、王女の威光を利用しても満額報酬は無理かも知れないっスが、貰えるなら貰うっス。旅費は必要っスからね」
「とにかく平和になったのなら良かったです。聖女様の事は気掛かりですが、問題が解決したのですから、無事に帰れたと信じましょう。僕達もカミナミアに帰らなければならないので、速やかに旅費を補充しましょう」
指の輪を解いたテルラは、その足で仲間達と共に役所に向かった。
「聖女様が食べられたって、どう言う意味っスか? テルラ」
「そのままの意味です、プリシゥア。黒風船が突如合体し、建物ほどもある巨大な顔になったんです。そして、そのまま……」
剣の柄に手を添えているレイが隊列を崩して前に出て来る。
「巨大な顔を倒そうにも、見えないのではどうにもなりませんわ。どうやって助けましょうか」
「テルラに見て貰って、居るところを攻撃すれば良いんじゃない? 取り合えず攻撃力を奪ってみる?」
カレンは額にダブルピースを当て、いつでも戦いを始められる形になっている。
「待ってください、様子がおかしいです!」
緊張感から早口になるテルラ。
しかし他の者には相変わらず何も見えないので、何か分かる事はないかと周囲を見渡してみる。
明らかに周囲の空気が変わっていた。先程までギスギスしていた若者達がポカンと呆けた顔になっている。
「突然巨大な顔が消えました。次元の穴も有りません。これは一体……?」
「もしや、周囲の黒風船も消えていませんか? 通りの様子もおかしいですわ」
レイに言われ、テルラは指の輪をそのままにして周囲を見る。
「消えていますね。見えなくなった? それとも――」
「聖女様が巨大な顔の中で何とかしてくれたっスかね。ちょっと訊いてくるっス」
プリシゥアは、近くに居た兵士に話し掛けた。
雑談風味な会話を交わした後、一行の許に帰って来る。
「あの兵士さんもこの状況を元に戻ったって認識してるっス。クエストクリアっスね」
「クリア、なのかなぁ? 私達、何もしてないけど」
ダブルピースを下すカレンの肩に手を置いて微笑むプリシゥア。
「私達がここに来て『見えない相手に何かをした』から状況が元に戻ったって、あの兵士さんが証言してくれるって約束を取り付けたっス。まぁ、王女の言葉を疑う役所も無いと思うっスが、念のためっス」
「普通のハンターならそんな証言は信じて貰えないだろうねぇ。優遇されてるねぇ」
カレンがレイを見て言うと、銀髪美女は剣の柄から手を放して肩を竦めた。
プリシゥアもレイを見ながら戦闘用のグローブを外す。
「状況を証明出来ないっスから、王女の威光を利用しても満額報酬は無理かも知れないっスが、貰えるなら貰うっス。旅費は必要っスからね」
「とにかく平和になったのなら良かったです。聖女様の事は気掛かりですが、問題が解決したのですから、無事に帰れたと信じましょう。僕達もカミナミアに帰らなければならないので、速やかに旅費を補充しましょう」
指の輪を解いたテルラは、その足で仲間達と共に役所に向かった。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます
おぜいくと
恋愛
「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」
そう書き残してエアリーはいなくなった……
緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。
そう思っていたのに。
エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて……
※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。
婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが
マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって?
まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ?
※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。
※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。
ある日、近所の少年と異世界に飛ばされて保護者になりました。
トロ猫
ファンタジー
仕事をやめ、なんとなく稼ぎながら暮らしていた白川エマ(39)は、買い物帰りに偶然道端で出会った虐待された少年と共に異世界に飛ばされてしまう。
謎の光に囲まれ、目を開けたら周りは銀世界。
「え?ここどこ?」
コスプレ外国人に急に向けられた剣に戸惑うも一緒に飛ばされた少年を守ろうと走り出すと、ズボンが踝まで落ちてしまう。
――え? どうして
カクヨムにて先行しております。
魔法のいらないシンデレラ
葉月 まい
恋愛
『魔法のいらないシンデレラ』シリーズ Vol.1
ーお嬢様でも幸せとは限らないー
決められたレールではなく、
自分の足で人生を切り拓きたい
無能な自分に、いったい何が出来るのか
自分の力で幸せを掴めるのか
悩みながらも歩き続ける
これは、そんな一人の女の子の物語
工芸職人《クラフトマン》はセカンドライフを謳歌する
鈴木竜一
ファンタジー
旧題:工芸職人《クラフトマン》はセカンドライフを謳歌する~ブラック商会をクビになったので独立したら、なぜか超一流の常連さんたちが集まってきました~
【お知らせ】
このたび、本作の書籍化が正式に決定いたしました。
発売は今月(6月)下旬!
詳細は近況ボードにて!
超絶ブラックな労働環境のバーネット商会に所属する工芸職人《クラフトマン》のウィルムは、過労死寸前のところで日本の社畜リーマンだった前世の記憶がよみがえる。その直後、ウィルムは商会の代表からクビを宣告され、石や木片という簡単な素材から付与効果付きの武器やアイテムを生みだせる彼のクラフトスキルを頼りにしてくれる常連の顧客(各分野における超一流たち)のすべてをバカ息子であるラストンに引き継がせると言いだした。どうせ逆らったところで無駄だと悟ったウィルムは、退職金代わりに隠し持っていた激レアアイテムを持ちだし、常連客たちへ退職報告と引き継ぎの挨拶を済ませてから、自由気ままに生きようと隣国であるメルキス王国へと旅立つ。
ウィルムはこれまでのコネクションを駆使し、田舎にある森の中で工房を開くと、そこで畑を耕したり、家畜を飼育したり、川で釣りをしたり、時には町へ行ってクラフトスキルを使って作ったアイテムを売ったりして静かに暮らそうと計画していたのだ。
一方、ウィルムの常連客たちは突然の退職が代表の私情で行われたことと、その後の不誠実な対応、さらには後任であるラストンの無能さに激怒。大貴族、Sランク冒険者パーティーのリーダー、秘境に暮らす希少獣人族集落の長、世界的に有名な鍛冶職人――などなど、有力な顧客はすべて商会との契約を打ち切り、ウィルムをサポートするため次々と森にある彼の工房へと集結する。やがて、そこには多くの人々が移住し、最強クラスの有名人たちが集う村が完成していったのだった。
異世界複利! 【1000万PV突破感謝致します】 ~日利1%で始める追放生活~
蒼き流星ボトムズ
ファンタジー
クラス転移で異世界に飛ばされた遠市厘(といち りん)が入手したスキルは【複利(日利1%)】だった。
中世レベルの文明度しかない異世界ナーロッパ人からはこのスキルの価値が理解されず、また県内屈指の低偏差値校からの転移であることも幸いして級友にもスキルの正体がバレずに済んでしまう。
役立たずとして追放された厘は、この最強スキルを駆使して異世界無双を開始する。
収容所生まれの転生幼女は、囚人達と楽しく暮らしたい
三園 七詩
ファンタジー
旧題:収容所生まれの転生幼女は囚人達に溺愛されてますので幸せです
無実の罪で幽閉されたメアリーから生まれた子供は不幸な生い立ちにも関わらず囚人達に溺愛されて幸せに過ごしていた…そんなある時ふとした拍子に前世の記憶を思い出す!
無実の罪で不幸な最後を迎えた母の為!優しくしてくれた囚人達の為に自分頑張ります!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる