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第十七話
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討伐隊が解散された後、雪の勢いはますます強くなった。
気温も氷点下を超え、通りから人の気配が消えて行く。
翌朝、テルラ達の宿に来たコクリの表情が暗いのは天気のせいだけではなかった。
「鍜治場襲撃テロは原住民によって起こされた物と確定しました。事を起こした部族が、神を殺すな、神を怒らせるな、と騒いでいるそうです。犯行声明ではありませんが、実質犯行声明です」
重々しく続けるコクリ。
「事が起こった以上、ククラ王子は知らなかったでは済まされません。木を切り川を汚す鍜治場を嫌っている部族の存在は以前から問題視されていましたから、リカチ王女はククラ王子に責任を追求しなければならなくなりました」
あー、と声を出しつつ溜息を吐くテルラ達。
「鍜治場を嫌っている部族って、事を起こして騒いでる部族?」
カレンの質問に無言で頷くコクリ。
「もしかすると、神を怒らせたのってその部族なんじゃ?」
「さすがにそれは無いでしょう。それが出来るのなら、この王都が出来た300年前にも同じ現象が起こるはずです。当時から争いが有ったそうですから。しかし、ここまで露骨な異常気象は過去に例が有りません」
「そっか」
「王子と王女は国土統一を目指す婚約者同士である事はご存じですよね。王子は原住民の問題を解決し、王女は魔物問題を解決する。頑張る若い二人が問題は過去の物だと主張すれば、民の同意を集められる。民に人気の二人が結婚すれば、国土統一出来る。そんな計画に則った婚約でした。巫女である私が手を貸していたのも、その一環でした」
しかし、と言って溜息を吐くコクリ。
「こうなっては若い二人に任せてはいられなくなりました。王が国軍を動かすでしょう。テロリストは罰しなければなりませんから。魔物も力尽くでねじ伏せるでしょう。そうなったら、もうハンターである皆様の出番は有りません。わざわざ来て頂いたのにこんな事になってしまい、本当に申し訳ございません」
「僕達はどこに行くにもダメ元で動いているので、全く気にしなくても大丈夫ですよ。ですが、軍が動いたら王子王女の面子は丸潰れでは? 下手をしたら、婚約解消も有り得るのでは」
「テルラ様の仰る通りです。今日中に上手い落としどころが見付かれば軍は動きませんが、そうはならないでしょう。国土統一のお題目が有るので婚約解消は無いと思いますが、話が拗れたら次代に繰り越しになるかも知れません」
「国の為の結婚ですから本人のショックは少ないでしょうが、それでもお二人の心中をお察しいたしますわ」
レイの労いに感謝を返したコクリは、テルラ達の反応を見ながら話を変えた。
「――ところで、ポツリは来ていませんよね?」
テルラは普通に首を横に振る。
「はい、来ていません。どうしたんですか?」
「ポツリは鍜治場を何とかしたら良いと言った事を気に病み、教会を逃げ出しました。他の巫女達が追っていますが、まだ見付かっていません。もしもここに逃げ込んで来たら、教会に出頭するか、ここで待機する様に説得してください。テロが起こったのはポツリのせいではありませんので、教会は怒りませんよ、と」
「この雪の中で逃げ回ったら命に係わりますものね。分かりました。説得してみます」
「お願いします。では、私はこれで」
コクリは礼を言ってから立ち上がる。
「お疲れ様です。でも、ポツリさんは誰かの味方になる事が難しい性質みたいなので、説得出来なくても許してください」
「ポツリの事はこちらの事情なので、彼女がどうなっても彼女の責任です。それに、自分が納得出来ない人の忠告を無視したがる子である事は分かっていますので、説得が通じずに最悪な状況になったとしても誰の責任でもありません。ですが、放置する訳にもいかないので」
疲れを背負って帰って行くコクリを見ると何とかしてあげたいと思うテルラだったが、今回の問題は異国の者は手が出せない。特殊な状況が訪れない限りは静観するしかない。
気温も氷点下を超え、通りから人の気配が消えて行く。
翌朝、テルラ達の宿に来たコクリの表情が暗いのは天気のせいだけではなかった。
「鍜治場襲撃テロは原住民によって起こされた物と確定しました。事を起こした部族が、神を殺すな、神を怒らせるな、と騒いでいるそうです。犯行声明ではありませんが、実質犯行声明です」
重々しく続けるコクリ。
「事が起こった以上、ククラ王子は知らなかったでは済まされません。木を切り川を汚す鍜治場を嫌っている部族の存在は以前から問題視されていましたから、リカチ王女はククラ王子に責任を追求しなければならなくなりました」
あー、と声を出しつつ溜息を吐くテルラ達。
「鍜治場を嫌っている部族って、事を起こして騒いでる部族?」
カレンの質問に無言で頷くコクリ。
「もしかすると、神を怒らせたのってその部族なんじゃ?」
「さすがにそれは無いでしょう。それが出来るのなら、この王都が出来た300年前にも同じ現象が起こるはずです。当時から争いが有ったそうですから。しかし、ここまで露骨な異常気象は過去に例が有りません」
「そっか」
「王子と王女は国土統一を目指す婚約者同士である事はご存じですよね。王子は原住民の問題を解決し、王女は魔物問題を解決する。頑張る若い二人が問題は過去の物だと主張すれば、民の同意を集められる。民に人気の二人が結婚すれば、国土統一出来る。そんな計画に則った婚約でした。巫女である私が手を貸していたのも、その一環でした」
しかし、と言って溜息を吐くコクリ。
「こうなっては若い二人に任せてはいられなくなりました。王が国軍を動かすでしょう。テロリストは罰しなければなりませんから。魔物も力尽くでねじ伏せるでしょう。そうなったら、もうハンターである皆様の出番は有りません。わざわざ来て頂いたのにこんな事になってしまい、本当に申し訳ございません」
「僕達はどこに行くにもダメ元で動いているので、全く気にしなくても大丈夫ですよ。ですが、軍が動いたら王子王女の面子は丸潰れでは? 下手をしたら、婚約解消も有り得るのでは」
「テルラ様の仰る通りです。今日中に上手い落としどころが見付かれば軍は動きませんが、そうはならないでしょう。国土統一のお題目が有るので婚約解消は無いと思いますが、話が拗れたら次代に繰り越しになるかも知れません」
「国の為の結婚ですから本人のショックは少ないでしょうが、それでもお二人の心中をお察しいたしますわ」
レイの労いに感謝を返したコクリは、テルラ達の反応を見ながら話を変えた。
「――ところで、ポツリは来ていませんよね?」
テルラは普通に首を横に振る。
「はい、来ていません。どうしたんですか?」
「ポツリは鍜治場を何とかしたら良いと言った事を気に病み、教会を逃げ出しました。他の巫女達が追っていますが、まだ見付かっていません。もしもここに逃げ込んで来たら、教会に出頭するか、ここで待機する様に説得してください。テロが起こったのはポツリのせいではありませんので、教会は怒りませんよ、と」
「この雪の中で逃げ回ったら命に係わりますものね。分かりました。説得してみます」
「お願いします。では、私はこれで」
コクリは礼を言ってから立ち上がる。
「お疲れ様です。でも、ポツリさんは誰かの味方になる事が難しい性質みたいなので、説得出来なくても許してください」
「ポツリの事はこちらの事情なので、彼女がどうなっても彼女の責任です。それに、自分が納得出来ない人の忠告を無視したがる子である事は分かっていますので、説得が通じずに最悪な状況になったとしても誰の責任でもありません。ですが、放置する訳にもいかないので」
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