上 下
145 / 277
第十七話

2

しおりを挟む
 一日間を置いて、二日後。ふてくされた顔のポツリが一人でテルラ達の部屋を訪れた。テルラがドアを開けて出迎え、暖かい空気が逃げない様にすぐに閉める。
「王室と教会からの命令に従い、途中経過のご報告に参りました」
「ありがとうございます。でも、どうして不満顔なんですか?」
「いやまぁ、他国の王女に向かってお前が来いと言えないのは分かるけど、手紙で済む途中経過を巫女が一々報告しに来るのはどうかなって。晴れているとは言えめっちゃ寒いし」
 ベッドに座って剣の手入れをしていたレイが肩を竦める。
「覇気の無い言葉をおっしゃると、またコクリに睨まれますわよ。わたくし達の方も、カレンとプリシゥアがトイレと食事の時以外ストーブから離れなくて困っていますし。誰かが叱らないといけないかしら?」
「ゲームする時も離れるしー」
 子供みたいな反論をするカレン。
 それに苦笑を返したレイはテーブルの上座に移動し、そうしてからポツリにストーブ近くの席を進める。
「では報告を聞きましょうか」
「はーい。あ、これ差し入れです」
 包みを広げるポツリ。中身はクッキーやビスケットで、テルラ達に馴染みの有る物ばかりだった。漬物の反応が良くなかったので気を使われたのだろう。
「お茶を淹れるっスね」
 プリシゥアがストーブに掛かっているやかんで緑茶を淹れている間、ポツリは持って来た情報を口頭で伝えた。
「ククラ・カカツン王子は神を退治されると困る立場なので、今後吹雪いても退治しないで欲しいと言ってる。リカチ・ハープネット王女は、それを全面的に拒否した。譲歩一切無し」
「当然ですわね。あの吹雪を放置したら多数の国民の生命財産が脅かされます。同等の災害が起これば、どこの国でも拒否しますわ。わたくしが王子贔屓の暴君女王になったとしても、政府議会を言葉で説得出来る自信は有りません」
 手の平を上に向けて肩を竦めるレイの横でカレンが頷く。
「だよねぇ。このストーブの燃料代はそちら持ちになってるから私達は平気だけど、これを自腹で買ってたらもう帰ってるよ。宿泊代が倍だもん。この国の人達はすっごく大変だと思う」
 揃って頷いている異国のハンター達を見ながら続けるポツリ。
「でも、やめてやめないの平行線だと、両陣営の仲が悪くなる。だから一旦話を持ち帰り、二日後に折衷案か代案を持ってまた話し合おうってなった。以上で途中経過の報告終わり」
 テルラは、礼を言ってから教会の判が押された羊皮紙をテーブルに置いた。
「僕の方も、教会通信で怒れる神の鎮め方を調べています。出来れば、二日後の話し合いの結果を早めに教えてください。もしも退治に行くのであれば、何らかの知恵をポツリさんに渡せる可能性が有りますので」
「えー、また来るのー?」
「諦めなさいな。テルラがそう言わなくても、コクリがさっさと報告に行けとおっしゃるでしょう。退治する事になったら、勿論そちらにも」
 微笑むレイ。
「まぁ、そうだよね。じゃ、また」
 諦めの溜息を全身で吐いたポツリは、肩を落として帰って行った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます

おぜいくと
恋愛
「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」 そう書き残してエアリーはいなくなった…… 緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。 そう思っていたのに。 エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて…… ※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。

婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが

マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって? まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ? ※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。 ※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。

我っ娘はネコである!! ~ダンジョンコアの力で老猫(14歳)が少女(14歳)に生まれ変わったら~

東堂大稀(旧:To-do)
ファンタジー
「我はネコである!名前はナイ!」 突然現れ、そう宣言したのは黒髪金目の全裸の少女だった。 14歳の老猫のナイは、主人の賢者ブリアックの死を切っ掛けに自由な野良猫になった。 ちょっとした好奇心からナイは引率付きの初心者冒険者のパーティーの後を追いかけ、ダンジョンへと入ってしまう。 そこでナイと冒険者パーティーは『彷徨える落とし穴』と呼ばれる強制転移ポイントに落とされ、ダンジョン最下層に送り込まれてしまうのだった。 危機的状況に陥る冒険者パーティー。 そこに現れたのは、ダンジョンコアの力で14歳の少女となった元猫のナイだった! ※   ※   ※ 猫の14歳は老猫ですが、人間の14歳は少女だよなという発想からの作品です。 14歳の少女ナイは、老猫だったため上から目線で猫らしく自分勝手な性格をしています。 そして、それに振り回されるのが、お人好しで有名な29歳の中堅冒険者のアルベルトです。 ハッキリ言って、タイトル出オチの作品です。 最初は某有名小説そのままのタイトルにして、ナイの一人称を『吾輩』にしようとしてましたが、さすがにそれはマズそうなので現在のタイトルになって、一人称も『我』の我っ娘に。 一応、10万字くらいを区切りにして書き進めていますので、よろしくお付き合いください。

固有スキルガチャで最底辺からの大逆転だモ~モンスターのスキルを使えるようになった俺のお気楽ダンジョンライフ~

うみ
ファンタジー
 恵まれない固有スキルを持って生まれたクラウディオだったが、一人、ダンジョンの一階層で宝箱を漁ることで生計を立てていた。  いつものように一階層を探索していたところ、弱い癖に探索者を続けている彼の態度が気に入らない探索者によって深層に飛ばされてしまう。  モンスターに襲われ絶体絶命のピンチに機転を利かせて切り抜けるも、ただの雑魚モンスター一匹を倒したに過ぎなかった。  そこで、クラウディオは固有スキルを入れ替えるアイテムを手に入れ、大逆転。  モンスターの力を吸収できるようになった彼は深層から無事帰還することができた。  その後、彼と同じように深層に転移した探索者の手助けをしたり、彼を深層に飛ばした探索者にお灸をすえたり、と彼の生活が一変する。  稼いだ金で郊外で隠居生活を送ることを目標に今日もまたダンジョンに挑むクラウディオなのであった。 『箱を開けるモ』 「餌は待てと言ってるだろうに」  とあるイベントでくっついてくることになった生意気なマーモットと共に。

錬金術師カレンはもう妥協しません

山梨ネコ
ファンタジー
「おまえとの婚約は破棄させてもらう」 前は病弱だったものの今は現在エリート街道を驀進中の婚約者に捨てられた、Fランク錬金術師のカレン。 病弱な頃、支えてあげたのは誰だと思っているのか。 自棄酒に溺れたカレンは、弾みでとんでもない条件を付けてとある依頼を受けてしまう。 それは『血筋の祝福』という、受け継いだ膨大な魔力によって苦しむ呪いにかかった甥っ子を救ってほしいという貴族からの依頼だった。 依頼内容はともかくとして問題は、報酬は思いのままというその依頼に、達成報酬としてカレンが依頼人との結婚を望んでしまったことだった。 王都で今一番結婚したい男、ユリウス・エーレルト。 前世も今世も妥協して付き合ったはずの男に振られたカレンは、もう妥協はするまいと、美しく強く家柄がいいという、三国一の男を所望してしまったのだった。 ともかくは依頼達成のため、錬金術師としてカレンはポーションを作り出す。 仕事を通じて様々な人々と関わりながら、カレンの心境に変化が訪れていく。 錬金術師カレンの新しい人生が幕を開ける。 ※小説家になろうにも投稿中。

外れスキルと馬鹿にされた【経験値固定】は実はチートスキルだった件

霜月雹花
ファンタジー
 15歳を迎えた者は神よりスキルを授かる。  どんなスキルを得られたのか神殿で確認した少年、アルフレッドは【経験値固定】という訳の分からないスキルだけを授かり、無能として扱われた。  そして一年後、一つ下の妹が才能がある者だと分かるとアルフレッドは家から追放処分となった。  しかし、一年という歳月があったおかげで覚悟が決まっていたアルフレッドは動揺する事なく、今後の生活基盤として冒険者になろうと考えていた。 「スキルが一つですか? それも攻撃系でも魔法系のスキルでもないスキル……すみませんが、それでは冒険者として務まらないと思うので登録は出来ません」  だがそこで待っていたのは、無能なアルフレッドは冒険者にすらなれないという現実だった。  受付との会話を聞いていた冒険者達から逃げるようにギルドを出ていき、これからどうしようと悩んでいると目の前で苦しんでいる老人が目に入った。  アルフレッドとその老人、この出会いにより無能な少年として終わるはずだったアルフレッドの人生は大きく変わる事となった。 2024/10/05 HOT男性向けランキング一位。

人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚

咲良喜玖
ファンタジー
アーリア戦記から抜粋。 帝国歴515年。サナリア歴3年。 新国家サナリア王国は、超大国ガルナズン帝国の使者からの宣告により、国家存亡の危機に陥る。 アーリア大陸を二分している超大国との戦いは、全滅覚悟の死の戦争である。 だからこそ、サナリア王アハトは、帝国に従属することを決めるのだが。 当然それだけで交渉が終わるわけがなく、従属した証を示せとの命令が下された。 命令の中身。 それは、二人の王子の内のどちらかを選べとの事だった。 出来たばかりの国を守るために、サナリア王が判断した人物。 それが第一王子である【フュン・メイダルフィア】だった。 フュンは弟に比べて能力が低く、武芸や勉学が出来ない。 彼の良さをあげるとしたら、ただ人に優しいだけ。 そんな人物では、国を背負うことが出来ないだろうと、彼は帝国の人質となってしまったのだ。 しかし、この人質がきっかけとなり、長らく続いているアーリア大陸の戦乱の歴史が変わっていく。 西のイーナミア王国。東のガルナズン帝国。 アーリア大陸の歴史を支える二つの巨大国家を揺るがす英雄が誕生することになるのだ。 偉大なる人質。フュンの物語が今始まる。 他サイトにも書いています。 こちらでは、出来るだけシンプルにしていますので、章分けも簡易にして、解説をしているあとがきもありません。 小説だけを読める形にしています。

処理中です...