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第十六話

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 今朝の気温は肌を刺す様な過酷さが無かったので、テルラは苦も無く夜明けと共にベッドから出た。
 火が小さくなっているストーブに薪を足してから、日課である朝の祈りを行う。
 吹雪が酷かった昨日は出発直前まで暖かい布団に潜っていた女性陣も、魔物が倒されて青空になっている今はベッドから降りて身支度を整えている。どうせ厚着するんだからと黒髪をボサボサのまま放置していたカレンも、ちゃんとヘアバンドをしておでこを出している。
「魔物が復活するのに数日掛かるそうですので、僕達はそれまで待機になります。魔物は居ないそうですが、それ以外のクエストは有ると思います。役所まで行ってクエストを探してみますか?」
 ストーブの熱で朝食のパンとベーコンを焼いているプリシゥアの手際を見ながら言うテルラ。
 すぐさま口を開いたのはレイだった。
「折角エンターテイメントの国に来ているのですから、仕事を忘れて楽しみませんか? 差し当たってお金を稼ぐ理由も有りませんし」
「えー、外に出るの確定? 寒いんだから、ここでのんびりしてようよ」
 この部屋にいる間はストーブに両手をかざすポーズで固定されているカレンが不細工に顔を歪めた。心底嫌がっている。
「窓の外をごらんなさい、露で見え難いですが、間違い無く快晴ですわよ。日光に当たれば暖かくなります。部屋の中で縮こまっている方が寒いですわよ。身体にも悪いです」
「身体に悪いって部分はレイに賛成っスが、まだまだ気温が低いっスから、ちょっと動いた程度じゃ暖かくならないと思うっス。どうするっスか? テルラ」
 朝食が乗った皿をプリシゥアから受け取ったテルラも乗り気でない表情になっている。
「うーん、僕はどうもエンターテインメントに疎くて。行っても楽しめないのではないかと」
「あら。それはいけませんわ。宗教と芸術は隣り合わせ。将来大聖堂の責任者になられた時、無教養では恥をかきますわ。エルカノートの王女として、その言葉は聞き捨てなりませんわ。何事も経験。街に出ましょう」
 レイの厳しい言葉に縮こまるテルラ。
「確かにその通りです。では、今日はエンターテインメントを体験しましょう」
「そうしましょう。でも、そう身構えないでください。わたくしも厳しく言い過ぎましたわ。公務ではなく遊びですので、身体と心を軽くして出掛けましょう」
 聖母の様に微笑んだレイは、ねっとりとテルラの頭を撫でた。
 金色の頭を撫でられたテルラは、無垢な笑顔を返して「はい」と返事をした。
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