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第十六話
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一行は、街へと帰る犬ゾリの上で今後の相談をした。
ククラ王子とお付きの老人は歩きなので、ソリの速度を彼等に合わせていているから進みは遅い。
使わなかった瓶と酸は鍜治場に返却した。
「特別な処理をしなかったので、アレの正体が何であれ、今まで通り復活するでしょう。数日で復活するんですよね?」
テルラに訊かれたコクリが「はい」と頷いた。
「次は復活直後にどこで目撃されるかを確かめなければなりません。もしもこの国の伝承通りの水源辺りで復活したのなら、ポツリさんの言う川の神である可能性を考えなければなりません」
「どこで復活するかは盲点でしたが、水源と言えば山奥。この深い雪の中で山を見張るのは不可能に近い、いえ、不可能です」
「時間は掛かりますが、山以外の場所で復活したと言う報告が無ければ、消去法で山での復活になるのでは」
「北の国はとても広いんです。エルカノート国国境の街からハープネット王都までの距離を1とすると、未開の地が30から50は有ります。全ての部族にお願いすれば観測は出来ますが、その手配をしている間に王都は氷に包まれるでしょう」
「確かに……」
テルラとコクリが話し合っている横で、ククラ王子はほぞを噛む。
異常気象を呼んでいた魔物が死んだので吹雪は収まっている。
なので、王子が苦悩している表情が良く見えた。
「もしもアレが神だとしたら、我々はとんでもない事をしでかした事に」
「不死の魔物でなく、神であった場合、僕達の出番は有りません。エルカノート国のハンターがハープネット国の神を倒したら問題になりますから」
テルラは、コクリとの会話を中断してククラに声を飛ばす。
コクリも王子に向けて声を張る。
「神だった場合は、行うべきは退治ではありません。神の怒りを鎮める儀式でしょう。それは私達シオン教教会の役目です。他の神である可能性も視野に入れて、教会総出で川の神について調べます」
言いながら後輩巫女を横目で見るコクリ。
調べ物は自分の役目である事を察したポツリは、さり気なく顔を逸らす。
先輩巫女は無意味な反抗を無視して話を続ける。
「王子も北の民の伝承を調べてください。シオン教は我々北の住人の教えですが、移民の民が作った教会の歴史は浅い。恥ずかしながら、教会は未だにその全てを把握していませんから」
「分かっています。古い部族は特に南の王家を嫌っているので、教えの古い部分を秘儀にしていますからね。本来なら隠す事でもないのに。だが、彼等もこの寒気に困っている。そこを頼りに何とか話を聞き出してみますよ」
ハープネットの街を守る門を潜った犬ゾリは、王宮門前に横付けした。他の国に有る様な数階建ての城ではなく、とても広い平屋だった。雪が降る地方なので、冬季で道が塞がっても政治が行える様に、役所等の行政施設も一緒になっているそうだ。
「おかえりなさい、レインボー様。無事に魔物を倒せた様ですね。お陰で青空を取り戻せました。――え? なぜククリ様が?」
魔物退治の結果が気になっていたのか、王宮を守る門番控え小屋から出て来たリカチ王女と数名の護衛が間を置かずに出迎えてくれた。
犬ゾリから降りたテルラは、リカチ王女に苦笑して見せた。
「吹雪を呼んでいた魔物について、ハープネットの王族同士で話し合わなければならなくなりました。詳しくはククリ様が説明してくださります」
「なるほど……? では、レインボー様達も王宮に?」
「いえ、現状ではわたくし達は部外者ですので、一旦宿に戻りますわ。ククリ様、後はよろしくお願いします」
「はい。――レインボー姫達にはこのままお帰り願えれば、それが一番なのですが」
「そうなる様に願っていますわ」
失礼な事を言うククリ王子と、それを受けて微笑んでいるレイを、リカチ王女は不思議そうに見ていた。
ククラ王子とお付きの老人は歩きなので、ソリの速度を彼等に合わせていているから進みは遅い。
使わなかった瓶と酸は鍜治場に返却した。
「特別な処理をしなかったので、アレの正体が何であれ、今まで通り復活するでしょう。数日で復活するんですよね?」
テルラに訊かれたコクリが「はい」と頷いた。
「次は復活直後にどこで目撃されるかを確かめなければなりません。もしもこの国の伝承通りの水源辺りで復活したのなら、ポツリさんの言う川の神である可能性を考えなければなりません」
「どこで復活するかは盲点でしたが、水源と言えば山奥。この深い雪の中で山を見張るのは不可能に近い、いえ、不可能です」
「時間は掛かりますが、山以外の場所で復活したと言う報告が無ければ、消去法で山での復活になるのでは」
「北の国はとても広いんです。エルカノート国国境の街からハープネット王都までの距離を1とすると、未開の地が30から50は有ります。全ての部族にお願いすれば観測は出来ますが、その手配をしている間に王都は氷に包まれるでしょう」
「確かに……」
テルラとコクリが話し合っている横で、ククラ王子はほぞを噛む。
異常気象を呼んでいた魔物が死んだので吹雪は収まっている。
なので、王子が苦悩している表情が良く見えた。
「もしもアレが神だとしたら、我々はとんでもない事をしでかした事に」
「不死の魔物でなく、神であった場合、僕達の出番は有りません。エルカノート国のハンターがハープネット国の神を倒したら問題になりますから」
テルラは、コクリとの会話を中断してククラに声を飛ばす。
コクリも王子に向けて声を張る。
「神だった場合は、行うべきは退治ではありません。神の怒りを鎮める儀式でしょう。それは私達シオン教教会の役目です。他の神である可能性も視野に入れて、教会総出で川の神について調べます」
言いながら後輩巫女を横目で見るコクリ。
調べ物は自分の役目である事を察したポツリは、さり気なく顔を逸らす。
先輩巫女は無意味な反抗を無視して話を続ける。
「王子も北の民の伝承を調べてください。シオン教は我々北の住人の教えですが、移民の民が作った教会の歴史は浅い。恥ずかしながら、教会は未だにその全てを把握していませんから」
「分かっています。古い部族は特に南の王家を嫌っているので、教えの古い部分を秘儀にしていますからね。本来なら隠す事でもないのに。だが、彼等もこの寒気に困っている。そこを頼りに何とか話を聞き出してみますよ」
ハープネットの街を守る門を潜った犬ゾリは、王宮門前に横付けした。他の国に有る様な数階建ての城ではなく、とても広い平屋だった。雪が降る地方なので、冬季で道が塞がっても政治が行える様に、役所等の行政施設も一緒になっているそうだ。
「おかえりなさい、レインボー様。無事に魔物を倒せた様ですね。お陰で青空を取り戻せました。――え? なぜククリ様が?」
魔物退治の結果が気になっていたのか、王宮を守る門番控え小屋から出て来たリカチ王女と数名の護衛が間を置かずに出迎えてくれた。
犬ゾリから降りたテルラは、リカチ王女に苦笑して見せた。
「吹雪を呼んでいた魔物について、ハープネットの王族同士で話し合わなければならなくなりました。詳しくはククリ様が説明してくださります」
「なるほど……? では、レインボー様達も王宮に?」
「いえ、現状ではわたくし達は部外者ですので、一旦宿に戻りますわ。ククリ様、後はよろしくお願いします」
「はい。――レインボー姫達にはこのままお帰り願えれば、それが一番なのですが」
「そうなる様に願っていますわ」
失礼な事を言うククリ王子と、それを受けて微笑んでいるレイを、リカチ王女は不思議そうに見ていた。
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