さればこそ無敵のルーメン

宗園やや

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第十六話

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 馬車が馬ソリになって雪の上を走れる様になると、馬車特有の揺れがほとんど無くなった。
 しかし体感出来るレベルで急激に気温が下がって行くので、快適な旅とは言い難かった。豆炭が焚かれた簡易ストーブは有るが、揺れが全く無い訳ではないので、火事を警戒して派手に燃やす事は出来ない。なので、一応は屋内なのに、吐く息は真っ白だった。
「到着しましたら、シオン教教会が援助出来る宿を取ります。皆様が寒さに慣れるまで、そこで待機をお願いします」
「はい」
 平然としているコクリ。
 それに頷いたテルラは寒さで縮こまっている。

 馬車で一泊の旅が終わり、朝一番でハープネット国の王都に着いた。
 馬車を降り、ボタン雪が降っている街を歩くテルラ一行。あまりの寒さに、昨日は雪を珍しがっていたテルラとカレンも大人しくなっていた。言葉を発する元気も無い。
「過剰な厚着をしていても寒いなんて、異常気象とは恐ろしいですわね。あ、宿ですわ。もう少しの辛抱ですわよ」
 わりと平気そうなレイは、雪に埋もれている立派な宿を指差した。午前中なのに、宿の目印である鉄の提灯に火が灯されている。その火のお陰で提灯に積もる雪が解け、豪雪でも宿を見失わない状況になっていた。
「お疲れさまでした。私とポツリは教会に帰って皆様の事を報告しますので、しばらく暖を取っていてください」
 ハンター用の大部屋が無かったので大人数用の部屋を取ったコクリは、テルラに鍵を渡した後、ポツリを連れて宿を出て行った。テルラ達は、宿のロビーに備え付けられたダルマストーブを囲んだまま二人の巫女を見送った。
「シオン教の制服が真っ黒なのは、雪の中でも目立つ様になんですね」
 テルラの言葉に無言で俯く仲間達。寒過ぎて、冷たい空気を吸うのも億劫になっている。
 真っ赤になっているダルマストーブを無言で囲んでいると、レイがそわそわとテルラを伺いだした。
「……テルラ? 具合が悪かったりしますか?」
「いえ? どうしました?」
「いつものテルラなら、この間を利用して消費した保存食を補充しよう、とおっしゃると思うのですが。もしくは、食事をしよう、とおっしゃると思います。お昼にはちょっと早いですが、朝食が簡単なお弁当でしたし」
「ええと、まぁ、そうなんですけど……余りにも寒くて体の動きが悪い、と言うか、ストーブから離れたら寒さが痛いと言うか……」
 カレンとプリシゥアが同意して頷く。
「いけません。馬車の中でコクリさんに雪国での心得を教わりましたでしょう? 空腹は体温維持に支障をきたすので絶対禁止。朝は除雪が済むまで外に出られないので、朝食の買い込みは忘れない様に、と」
「そうですけど、まだ日は高いです。身体が温まるまで、もう少しこうしていましょう」
 再び同意の頷きをするカレンとプリシゥア。
「いけません。女神教の教えに有りますでしょう? 『後で』は怠け者の第一歩です、と。行きますわよ」
 そう言われたら宗教者のテルラは動かない訳に行かなくなる。
「……そうですね。では、部屋に荷物を置いたら行きましょう」
「私は留守番ってのは、ダメ?」
 ストーブに手を翳しながら訊くカレンを蔑みの目で見るレイ。
「その埋め合わせは高く付きますわよ。高くなる理由は――言わなくても承知していますわよね?」
「はいはい、分かりました。行きます、行きますよっと」
 旅の道具を部屋に置いて身軽になった一行は、宿の人に食品店と食堂の位置を聞いてから外に出た。外は水筒の水が氷る気温なので、効率良く動かないと身体が冷え切ってしまう。
「ウワーオ、吹雪いてるよぅ。きっついぃー」
 手袋をしていても指先が痛くなるので、ポケットに手を入れて身体を縮こませるカレン。横殴りの雪におびえる様に薄目になってしまうが、油断するとはぐれてしまうほど視界が悪いので先頭を行くレイの背中から目を離さない。自然といつもの隊列になったのだが、レイは不平不満を言わず、むしろ進んで風除けになってくれている。
「ねぇ、レイは先頭で辛くないの?」
「滅茶苦茶辛いですわ。寒くて辛くて、勝手に涙が出て来ますわ。なのに、なぜか心が躍って笑えて来ましたわ。ウフ、ウフフ」
「へ、へぇー。楽しそうだから、遠慮無くレイを風除けにするね」
「どうぞ。テルラもわたくしの真後ろにどうぞ。なんならコートの下で抱っこして差し上げても宜しいですわよ。完全に包めば、きっとお互いに温いですわ」
「確かに辛さが緩和されそうですが、止めておきましょう。それで動きが悪くなったら元も子も有りませんから。さ、早く用事を済ませましょう」
「アラ残念。でも、そうですわね。靴下も重ね履きしていますのに、冷たさがブーツを突き抜けていますわ。急ぎましょう」
 テルラ一行は、雪風に身体を打たれながら速足になった。
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