上 下
128 / 277
第十五話

3

しおりを挟む
 山肌に大きな穴が開いてた。彫刻が施された石の柱で支えられた、かなり立派な入り口だった。
「うっわ、おっきい穴。山を登って来た馬車がそのまま入れるんじゃない?」
「って言うか、入れる様に作ったんじゃないっスかね。お貴族様なら馬車で来るっスから」
 会話していたカレンとプリシゥアは、良い匂いに気付いて鼻を鳴らした。
 正面を見ると、山道の両脇に無数の屋台が並んでいた。そこで食事をしている人も多く、通行人が普通の街の様に行き来している。
「わー、凄い。お祭りかな。お腹空いたよ、早く行こう」
 お昼は一切れの干し肉を歩きながら齧っただけだったので、カレンのお腹が鳴った。
 テルラも疲れを隠さずに大きなリュックを背負い直す。
「僕もお腹ペコペコです。日が暮れる前に食べてしまいましょう」
 一行は速足で進んだが、屋台に辿り着く前に槍を持った数人の兵士に止められた。
「お待ちください、旅人さん。シーキュー図書都市は初めてですか?」
「あ、はい。僕達はハンターです。休憩と観光がてら、シーキュー図書都市を横断したいと思っています」
「ハンターですか。あ、ここでは確認しません。クエストを受ける際に、中の役所で提示してください」
 身分証明のバッジを示そうとした一行を片手で制する兵士。
「中に入る前に、いくつか注意して貰う事が有ります。守らなければ即逮捕、場合によっては裁判無しの死罪になりますので、キチンと聞いてください」
「はい。みなさん、聞きましょう」
 テルラ一行は、隊列を崩して兵士達の前に並んだ。そうしている間にも肉を焼いた匂いや香辛料の良い匂いがしているので、カレンとプリシゥアの腹が鳴った。
「一番大事なのは、都市内は火気厳禁です。ランプの灯もダメです。ハンターなら野営用の火種を持っているでしょうが、絶対に取り出さないでください」
「本を護るためですね。分かりました」
「本を護る以外にも、地下都市なので、火事が起こると大惨事になりますから。魔法の炎も禁止です。料理も禁止です。ですので、都市の人の胃袋はここで維持しています」
「祭りじゃなかったんだ」
 屋台の方を見ながら呟くカレン。
「繰り返しますが、中は火気厳禁です。絶対に護ってください。違反すると死罪ですからね」
 厳しく言う兵士に向けて右手を上げるプリシゥア。
「じゃ、中はどうやって歩くんスか? 奥の方は真っ暗じゃないんスか?」
「蛍導灯と言う魔具で照らされていますから、中は明るいですよ。奥で生活している学者さんは携帯用の蛍導灯ランプで手元を明るくしているそうです。安くはないですが、レンタルも有ります。これのレンタル料で外貨を稼いでいるので、読書の際は是非ご利用ください」
「分かりました」
「また、当然ながら窃盗も罪になります。本なので盗み易いんでしょうね、結構な被害が有ります。本を購入したら購入証明書が発行されますので、絶対に捨てないでください。買った本でも、これが無いと盗品扱いになります。都市から出る時は簡単な手荷物検査が有りますので、ご協力ください」
「はい」
「原書、禁書と言った希少本を扱った区域に入った際は、厳重なボディチェックが義務となっています。貴方方は女性が多いですから、検査が嫌なら近付かない方が良いですよ」
「分かりました」
「最後は食事です。飲み物食べ物を中に持ち込むのは自由です。事前に時刻指定の予約をすれば宿まで出前してくれる店も有りますし、宿によっては中での注文を受け付けています。ただし、水気を禁止している区域も有りますので、その都度注意してください」
「はい」
「では、どうぞ中へ。人生の糧となる知識との出会いが有ります様に」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

善とか悪とか、魔法少女とか

結 励琉
ファンタジー
 銀行の金庫室からの現金紛失事件や、女子高生の失踪事件が立て続きに起きていたある日、高校に入ったばかりの少女、藤ヶ谷こころはSNSで勧誘を受けアルバイト紹介会社を訪れた。  会社の担当者箕輪は、自分たちは魔法のような力(ウィース)を持っているティーツィアという組織であり、マールムと呼ぶ現金紛失事件の犯人と戦うために、こころに魔法少女となってくれないかと依頼した。  こころの決断は?  そして、「善」とは?「悪」とは?  彼女の運命はどうなる?  結励琉渾身の魔法少女ファンタジー、今開幕!

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

雪月 夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

メグルユメ

パラサイト豚ねぎそば
ファンタジー
シキは勇者に選ばれた。それは誰かの望みなのか、ただの伝統なのかは分からない。しかし、シキは勇者に選ばれた。果たしてシキは勇者として何を成すのだろうか。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

処理中です...