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第十三話

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「フハハッ。王女と大聖堂の跡取りを生贄にしたら、まさか女神が出て来るとはな」
 めまいから覚めるとハイタッチ王子が動き出した。演劇での悪役が良くやる様な、悪そうな笑い声を上げている。
「貴女達は突入一日目ですが、この時点では突入から半月近く経っています。時を操作した矛盾を晴らすため、貴女達の記憶を弄ります」
 女神オグビアがカレン達の頭を撫でた。すると、頭の中に体験していないはずの記憶が浮かび上がった。
 テルラ達は順調に援軍と合流し、要塞内のブロックをひとつひとつ踏破して行った。
 泡を潰し、食物の魔物を倒し、ヤドカリの様な魔物も倒した。
 不死の魔物は倒せていないが、怪我人も病人も無く侵攻は進む。
 そして中盤に差し掛かった頃、テルラが注釈付きの潜在能力の気配を見付けた。
 テルラしか潜在能力を見る事が出来ないので、彼に従ってとある通路の途中に有る部屋に入った。
 その部屋にはハイタッチ王子の卑劣な罠が仕掛けられており、パーティの先頭を務めるレイと、周りが見えなくなっていたテルラがそれに引っ掛かって命を落とした、と言う流れだった様だ。
「ちょっと待て。二人の死体は最初のブロックに有ったんじゃないのか? 中盤で死んだのなら、あそこに有る訳ないじゃないか」
 グレイが言うと、女神オグビアは王女モード時のレイより優雅に美しく頷いた。
「ですから、時の歪みが発生して事実関係の乱れが由々しきレベルに達しているのです。人間にも矛盾を指摘出来るほどに。それを修復するために、この世界の管理を担当している女神がこうして地上に降りているのです」
「お、おう。そうだったな。しかし、そんな滅茶苦茶が通るもんなのか。訳が分からんぞ」
「通りません。通らないので、その矛盾を自然修復しようとして、その時にテルラとレイが居た最初のブロックに死体が現れたのでしょう。しかし実際は未来の出来事なので、カレンの鏡にしか映らなかったのです。なぜカレンだけなのかは、今は無視してください。逐一説明している余裕も無いですし」
 女神オグビアはハイタッチ王子に向き直る。
 王子は部屋の中に居て、女神やグレイ達は廊下に居る。
 テルラとレイは部屋の入口付近で死んでいる。外傷は無い。死因に関する記憶が無いのは意図的なのか。
「女神よ。召喚の契約に従い、その真名を示せ。その真名をもって俺に従え」
 テルラとレイの遺体のそばに立っていたハイタッチ王子が偉そうに言う。
 しかし女神オグビアは凛とした表情で金髪の青年を見据える。
「ハイタッチ。貴方の願いと考えは分かりました。貴方の本質も、元々は悪ではなかったのでしょう。しかし、貴方の計画は全ての世界で違反となる、重大なルール違反です。ですので、この世界の神として、その計画を挫かなければならないのです。観念なさい」
「なに……? 召喚主に反抗するのか?」
「私は召喚されていません。彼女達に協力するため、自ら地上に立っています」
 女神オグビアはカレン達の背後に周り、グレイとプリシゥアの肩に手を置いた。そして小声で囁く。
「通常、地上に常駐していない神は人間の営みに手を出せません。ですので、表面上は貴女達がこの場を解決してください。実際は私がかなり深くまで手を貸しているので、絶対に成功します。安心して」
 訳も分からず戸惑っている三人の少女は、成功を確信している女神の説得力に押されて頷いた。
「二人を生き返らせるには、ここに至る道筋を変えなければなりませんので、ここでのやりとりの記憶も後に改ざんされるでしょう。承知し、仲間を失う恐怖に負けない様に気を張ってください」
「……召喚されていない、だと? どう言う事だ? 生贄を捧げた以上、必ず何かが呼び出されるはずだが――もしや、その小娘共が召喚術を妨害するなにかをしたのか?」
「まぁ、そう言う事になるんだろうな」
 訝しんでいるハイタッチ王子に拳銃を向けるグレイ。一応要人なのでトリガーに指は掛けていない。
「どうやら時間がおかしくなってるみたいだな。まさかとは思うが、時間を巻き戻して死んだ彼女が生きている時間まで戻ろうってのか? それ以外にこんな事をする理由が無いし」
 ハイタッチ王子は驚いて目を剥いた。
「なぜ彼女を知っている」
「王子の手下をしていた魔法使いにお願いされたんスよ。亡くなった彼女さんはこんな事望んでいない、王子を救ってくれって」
 応えたのはプリシゥア。念の為に非戦闘員のカレンを背に庇う位置に移動している。
「あいつか。それをお前達に漏らした経緯が気になるが、まぁ良い。その通りだ。――お前達は言ったな。俺の望みは絶対に叶わないと。今回も神の召喚に失敗したみたいだしな」
 ハイタッチ王子は女神を顎で示す。神の威光を全く意に介していない不遜な態度。
「だが、それは保険だ。お前達に一矢報いたかったからやっただけで、失敗はもとより承知。本命は別の場所に居る魔物だ。俺が願っても叶わないのなら、俺の願いと同じ願いを持つ別人を操り、そいつが望む方向に向かわせれば良いのだ。それなら俺の願いが叶ったのと同じ結果になるだろう?」
「だから異世界の人を召喚したの? 魔物として召喚したのはなんで?」
 カレンが訊くと、ハイタッチ王子は肩を竦めた。
「それも知っているのか。――異世界とか魔物とかはどうでも良いのだ。あいつが生きている時間まで何者かに時間操作して貰えれば良いのだから。それが出来るのがあの女だっただけだ」
「その為に、この要塞を警護していた大勢の兵士を殺したんでしょ? 大切な彼女を生き返らせようとしているくせに、関係無い人達をいっぱい殺しても平気なの?」
「バカめ。まるで分かってないのだな。時間を巻き戻せば、誰も死んでいない事になるんだぞ。何の問題も無い」
「??」
 カレンがポカンとした顔をしたら、ハイタッチ王子は理解力の無さをあざける様に鼻を鳴らした。
「例えば一年前に戻れば、今回の召喚で死んだ人間は誰も居ない。当たり前だ、事が起こっていないのだからな。つまり、時間を戻せば全てが良い方向に向かうのだ。分かれ」
「ああ、分かったよ。一年前なら今回の被害者はみんな元気だろう。それどころか俺の船も沈んでいないから、過去に戻れるのなら、ぜひ戻って貰いたいもんだ。今の記憶を持って行けるなら失敗を回避出来るから、ハンターなんかしなくて良いからな」
 トリガーガードに刺した指で拳銃をクルクルと回すガンスピンを披露したグレイは、王子に負けないくらいふてぶてしい態度で溜息を吐いた。
「だが残念だ。時を操る魔物のところには、その魔物が元居た世界から来た男が向かっている。因縁の有る知り合いらしい。この不自然な状況は、もうすぐ奴が解決してくれるさ」
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