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第十二話

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「そろそろ時間です。みなさん、準備しましょう」
 砂が落ち切った砂時計を大きなリュックに仕舞ったテルラは、周囲の騎士兵士達にも聞こえる音量で言いながらリュックを背負った。
 カレンもリュックを背負い、レイ、プリシゥア、グレイの三人は自分の武器をチェックをした。
 数分ほど立ったまま待つと、前の方から順番に行軍が始まった。
「滞りなく要塞に再侵入していますね。毒は問題無く処理出来た様ですね」
 林を抜けて開けた場所に移動すると、壁が壊れている要塞の様子が良く見えた。
 パーティの中でしんがりを務めているプリシゥアがテルラと同じ方向を見ながら頷く。
「思ったより脅威じゃないのかもっスね。勿論、前もって処理してなかったらヤバイと思うっスけど」
「って言うか、魔物が居ないのは毒で追い出されたからじゃないのか?」
 屋内では長銃が使い難いので、黒コートの下で拳銃を握っているグレイが周囲に言う。
「かも知れませんわね。さぁ、わたくし達も要塞内に入りますわよ」
 周囲の騎士に案内されるまま、まずレイが通り易い様に整理された瓦礫を踏み越える。
 続いてテルラとカレンが要塞内に入り、プリシゥアとグレイ、そしてカワモトと続く。
 一歩間を置いて、後詰の兵士達も要塞内に入る。
「床が乾いていますわ。毒を除去したと言っても少な過ぎます。かなり量が少なかったのでしょうか」
 石床を見ながら進んでいたレイが違和感を訴えた。
 泡はシャボン玉の様に飛んで行くので、よほど大量の泡を潰さない限り、残存量は少ないと予想されていた。
 しかし、そうだったとしてもこの状況は不自然だ。
「一時間で全て蒸発してしまったんでしょうか。それとも、要塞内で割れてしまっても邪魔にならない様に、最初から処理し易い形になっていたとか?」
 テルラが色々な可能性を模索していると、後ろのカワモトが驚いた声を出した。
「おおっと、危ない!」
「どうした!」
 反応速度が一番早いグレイが振り向きながら拳銃を構えた。
 カワモトは、何かを避けた後の様な姿勢で後ろを見ていた。
「今のは、アレか。鬼の親分と同じ奴か。――これはもしや、毒は地下に行ってるんじゃないのか?」
「どう言う事だ?」
 グレイが拳銃を下ろしながら訊く。
「今、火の玉みたいな光が飛んで来て、壁の大穴から出て行ったろ? 鬼の親分を倒した時も飛んで行ったから、魔物の魂か何かだと思う。そうだとすると、お前達の言う不死の魔物がどこかで死んだって事になる。戦闘が起きてないみたいなのにどこでって考えると、地下だと考えるのが自然かなって」
「つまり、毒は床の隙間から地下に流れて行って、地下に居た魔物を倒した、と言う事でしょうか」
 テルラが確認すると、カワモトは「多分な」と頷いた。
「とすると、地下には行けない、と言う事ですね。――しかし、火の玉みたいな光が飛んで行ったと言う情報は初ですね。どちらに向かって飛んで行きましたか?」
「確か、この要塞の南側は砂漠の方を警戒しているんだよな。そっちだ」
「南、ですか。泡も、主に南の方に飛んで行っています。関係有るんでしょうか」
「って言うか、お前達には見えなかったのか? 火の玉」
「聞いた事が有りませんので、カワモトさんにしか見えていない様ですね。それが事実だとすると、不死の魔物を退治するには、酸で溶かして封をするのではなく、その火の玉みたいな光を取り出すのが有効、と言う事になりますね」
「なりますねは良いけど、それが見えないんじゃ私達にはどうにも出来ないよ」
 カレンの当然のツッコミに唸るテルラ達。
 立ち止まったまま悩んでいると、グレイが呆れた声を出した。
「今は敵陣の中だ。考え事は命取りになるぞ」
「おっと、確かにその通りです。みなさん、気を引き締めましょう」
 リーダーの言葉に従い、陣形を整えるテルラパーティ。
「地下の魔物は、毒が引いた後で国境の兵に処理して頂きましょう。不死の魔物が居て、それが死んでいなかったら、火の玉みたいな光は無関係かも知れませんし」
 それでこの場を締めたテルラ達は歩みを再開させた。
 テルラ達が止まっていたせいで進めなかった後方の兵も歩き始める。
 要塞内の廊下は、万が一敵が侵入されても素早く動かれない様に、無駄にジグザグだったり直角に曲がっていたり下り坂上り坂が有ったりした。そのせいで、直線距離はさほどではないのに、やたらと歩かされた。
「今、前の方で弓を撃った音がしましたわ。泡が出た様ですわ」
 先頭のレイがパーティーメンバーに状況を知らせる。
 その報告は、大体10分置きくらいで何回も出された。
「泡は未だに出現し続けていますね。数日放置したら、また廊下いっぱいに充満してしまいすね」
 テルラが深刻そうに言ったが、プリシゥアは気楽に笑みながら手を振った。
「そうなったらまた倒せば良いっスよ。毒も地下に行って一石二鳥っス」
「次のブロックはまだ泡でいっぱいだろうし、ここだけ見て心配するのはさすがの私もやり過ぎかなって思うな」
 前を進む騎士兵士が居るので意味は無いのだが、折角だからと曲がり角で鏡を使っているカレンも気楽に笑う。
「そうですね。言われてみれば、ちょっと慎重過ぎましたね。隣国内だからか、ちょっと緊張しているみたいです」
 苦笑いして肩の力を抜いたテルラだったが、その表情からこわばりが取れる事は無かった。
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