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第十二話

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 15歳前後の黒髪少年が、国境の街の隊長宅前で地べたに座っていた。
 その横には、のっぺらぼうの仮面をかぶった女性が綺麗な姿勢で立っている。
 徴兵で派遣された少年兵や若い騎士が大半を占める街なので活気や女っ気は無いが、笑い声やふざけ気味の言い合いが無い訳ではない。
「お、作戦会議は終わったか?」
 隊長宅から見知った二人の少女が出て来たので、少年は座ったまま気安く話し掛けた。
 黒髪をヘアベンドで留めておでこを出している、少年と同年代の少女が応える。
「まだ終わってないよ。後は偉い人レベルでの話し合いだから、レイとテルラは残ってる」
「偉くない俺達は口出し出来なくてヒマだから出て来ただけだ」
 海賊帽に黒コートの10歳程度の赤髪少女が続いて言う。
「ま、普通はガキに発言権は無いわな。俺がはなっから追い出されてるのと同じで」
 少年が苦笑いしながら立ち上がると、黒コートの少女の目付きが鋭くなった。
「どうした? グレイ」
「アレは――この街の人間じゃないな」
 警戒モードに入ったグレイの前に5人の男性が来た。剣や鎧で武装していて、良い体格をしている。
「ちょっと聞きたいんだが、役所はどこに有るんだろうか」
「すまん。分からん」
 あっさりと応えるグレイに気落ちする男達。
「そうか。地元の子なら分かると思ったんだが――手間を取らせたな」
「俺達は余所者だよ。ハンターで、来たばっかりだから分からない」
「何? 子供がハンターだと? お前もか? お前も」
 おでこの少女と刀の柄に手を乗せている少年を順に見る男達。
 仮面の女性は怪しいと思っているのか、全く目を向けていない。
「役所の位置を聞くって事は、お前達もハンターか? 仕事を求めてこんなところまで来たのか?」
「ああ。国境に大量の魔物が湧いたと噂になってるから、仕事が有るかと思ってな。俺達以外にも、それなりの数のパーティが来るんじゃないかな」
 グレイは片眉を上げて男達の装備を見た。使い込まれているので、百戦錬磨なのだろう。
 魔物騒ぎが活発になれば、プロのハンターがこぞってやって来て仕事を奪い合う。ぬるま湯育ちの子供ではその中に入って儲けるのは難しそうだ。
 参考になる。
「ふぅん。まぁ、戦力はいくらあっても足りない状況だろうから、仕事は有るんじゃないかな」
「そうか。ちなみに、この立派な家は何だ? 目立つから来てみたが、貴族様の家でもなさそうだが」
「ここは国境警備隊隊長の家だ。普通の街なら市長の家って感じらしい」
「役所と同じお国の施設だったか。紛らわしいな。――邪魔したな。もうちょっと探してみるよ」
「おう。頑張れよ」
 グレイが雑に手を振ると、男達も雑に手を振り返してから離れて行った。
「この世界では魔物退治のクエストを役所で受けるって聞いたんだが、あいつらが言ってたのはそれか?」
 黒髪少年が訊いたので、おでこの少女、カレンが頷く。
「そうだよ。私達も、普段は役所で受けてるよ」
「クエストを専門に扱っている、冒険者ギルドみたいなのは無いのか? この世界で言うならハンターギルドか」
「ギルド?」
 カレンが首を傾げている様子を見た少年は、グレイにも視線で質問した。
「俺も聞いた事は無いな」
「ギルドって言うのは、クエスト受注以外にも、ハンター同士の情報交換をしたり、仲間を探したり、怪我をした時の保険をしてくれるたりする場所なんだけど。この訊き方ならどうだ?」
 食い下がられたグレイが顎に指を当てる。
「ハンター専用の施設って感じか。保険ってのが何なのかは分からないが、情報交換とか仲間探しが出来る専用の場所は無いな」
「俺はこの世界に定住するつもりだったから、そう言うのが有れば良いなって思ってたんだけど……そうか、保険すら無いのか」
「まぁ、専用施設が有れば便利だから、レイに言ってみれば良いんじゃないか。アレでも王女だから、国のためになるなら力を貸してくれるだろうさ」
「そうだな。後で話してみるよ。定住出来なさそうだけど、まだ出来ないと決まった訳じゃないしな」
 溜息を吐いた少年は、再び地面に座って正面の建物に目を向けた。木造のその家の窓には、高級そうなレースのカーテンが掛かっていた。男だらけな街なのに妙に所帯染みてるな、と思ったらふと思い付いた。
「この世界にないと言えば――まさかとは思うが、この世界にマヨネーズって有るか?」
 少女二人は、聞いた事が無いと首を横に振った。
「って事は、俺と同じ世界から来た奴の仕業か。何を考えて食い物を魔物みたいにしてるんだろう」
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