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第十話

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 一行は三手に分かれて王子探索を始めた。
 テルラとプリシゥア組は食材を扱っている店を回る事にした。
「えーっと、聞き込みをするにしても、どう訊けば良いんスかね。女魔法使いが買い出ししてるって予想してたっスけど、私はアイツの顔知らないっスよ。会ったのは暗い洞窟の中だったっスから、良く見えなかったっス」
「普段見ない余所者が来ませんでしたか、で良いと思います。大聖堂の方でも似た様な聞き込みをしているでしょうが、グレイの案では王子に警戒されれば成功との事でしたので、全部の店を回る気持ちで行きましょう」
「了解っス。……聞き込みは地味で面白くないっスが、仕事っスからね。頑張るっス」
「頑張りましょう。話を聞くのは僕がしますので、プリシゥアは僕達を窺っている人が居ないかに注意してください」
「了解っス」

 丸一日掛けて聞き込みをしたテルラとプリシゥアは、夕方に宿に帰った。
 玄関付近の待合室で待機していた黒髪ボブの女に大聖堂側が得た情報は無いかと確認していると、レイとカレン組も帰って来た。
「今回も王女の威光を使って住宅街の方を回ってみたけど、全然成果無しだったよ」
「ちょっと、カレン。妙な言い方をしないでくださいまし。――気を取り直して。空き家や空き地に余所者が住み着いていないかを訊いて回ったんですけど、噂も無かったですわ。やはり目立つところには居ませんわね」
「そうですか。僕達の方も空振りです。街や大聖堂の方も。なので、明日は全員で壁際を歩きましょう。
一日掛けて街を一周し、東西南北の門番から話を聞きましょう」
 言いながら食堂の方を見るテルラ。すでに飲み始めているおじさん達が居る。
「……グレイはまだ帰って来てない様ですね。部屋で待ちましょうか」
「そうですわね」
 部屋に戻った一行は、装備の手入れをしたり服のホコリを落としたりした。
 グレイが帰って来たのは、完全に日が沈んでからだった。
「ただいま」
「おかえりなさい、グレイ。遅かったですけど、何か問題でもありましたか?」
 疲れた吐息を吐きながら海賊帽を脱いだグレイは、テルラの質問に首を横に振りながら椅子に座った。
「何も無い。留守にならないところに盗みに入るなら日の出日の入りが定番だから、張るんならこの時間になるだけだ。夜中と昼間は僧兵が頑張ってるから大丈夫だ。明日も夜明け前に出て見張る」
「明日は全員で歩くつもりでしたが、そうなるとまたグレイは別行動ですか」
「みんな一緒じゃないとダメならそっちに行くが」
「いえ、そちらも大事なので、別行動で良いでしょう。では、夕食にしましょう」
「ああ。俺は明日の朝と昼の分の弁当も頼まないとな」

 そして、王子探索二日目。
 足を棒にして歩いても成果無しだった。
「あー、疲れた。お風呂入りたいけど、この街だといくらになるんだろ」
「大聖堂に行って聖女に頼めば、水風呂ならタダで入れそうっスね。カレンが言い出しっぺだから、カレンがお願いするっスよ」
 そんな事を言いながら宿に帰ると、黒髪ボブの女が青い顔で話しかけて来た。
「大変です。今朝、少年が一人行方不明になりました」
 驚く一行。
 テルラが前に出て訊く。
「なんですって? すると、あの大女の魔物が復活したんですか?」
「大聖堂でもそう思って魔物の死骸を確かめましたが、変化無しだったそうです。行方不明になった状況も違いますし、違う事件でしょう。しかし、同じ魔物の可能性も大いに有ります」
「行方不明になった状況が違うとは、具体的にはどの様に?」
「過去の行方不明事件は夜間に突然消えるのみでしたが、今日の事件は朝の登校途中で消えています。よみがえりなら太陽の下に出て来る事はないので、私個人は十中八九模倣犯と思っています。この事件はこちらで調査しますが、場合によっては皆さんの手を借りるかも知れません」
「分かりました。気に留めておきます」
 頷いているテルラの前に真剣な顔で出るカレン。
「えっと、もしも大女の魔物が甦ってたら、この前貰ったクエスト報酬は没収されますか?」
「それは無いと思います。遺体が残っていますので」
「良かった。――じゃ、明日はどうする?」
 カレンは仲間に向き直る。
「行方不明事件が気になりますね。ハイタッチ王子が関わっていると思いますか? 騒ぎを起こして注意をそちらに向けようとしている、とか」
 テルラの言葉に頷くのはグレイ。
「奴が何かの召喚を諦めていないのなら、奴の仕業である可能性は十分に有り得るな。聖女暗殺はあくまでひとつの手であって、召喚自体は魔物を生贄にしても出来る様だったし。男の子はこの街では保護対象になっているだろうから、代償としての価値は高いだろうな」
「召喚の潜在能力を持つグレイが言うなら、そっちで間違いないでしょう。なら、明日は予定を変更して、再び街中を探索しましょうか。前回とは違った場所を探しましょう」
「となると、わたくしとカレンは、職人街の方に行ってみましょうか」
「なら、私とテルラは学校関係の施設が有る場所を回るっスかね。男の子がいっぱ居るっスから。無意味っスかね? テルラ」
「プリシゥアの考えに反対する理由は無いですね。では、明日も頑張りましょう」
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