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第九話

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「いけませんわ、聖女様が危険な事をなさっては。魔物退治はわたくし達にお任せくださいまし」
 ルエピの魔物退治同行を、レイが真っ先に反対した。
 不満げに唇を尖らせる金髪の聖女。
「ハンター活動をなさっている王女様が仰っても説得力が無いですわ。危険は承知の上。急がなければ被害者の生存が危ぶまれるの」
「聖女様が目立って動いたら様々な面倒事が予想されます。ここは一先ず遠慮して頂けたら」
「彼も言ったじゃない。よみがえり退治に効果的な魔法が使える人が居たら助かるって。そっちはそう言うの、無いんでしょ?」
「よみがえりは頭を潰せば倒せるのでしょう? ならわたくしの剣で十分です。問題の魔物が一匹でないならそうも言っていられませんが」
「一匹よ。多分。よみがえってるんじゃなくて、別個体が順番に出て来て同じ行動をしているならいっぱい居るかもだけど、いくらなんでもそれは無いだろうし」
 王女と聖女が睨み合っている間にカレンが口を挟む。
「で、レイの本音は?」
「幼女がまた増えてテルラが目移りしたら、わたくしが困りますわ」
「まさかとは思うが、幼女って俺の事か?」
 ヤイヤイと言い合っているとドアが開け放たれた。
 全員が言葉を止め、そちらに視線を向ける。
「あら、ルエピ。また魔物退治?」
 聖女と同じ水のローブを着た女性が部屋に入って来た。レイと同じか、いくつか上くらいの年齢で、綺麗な金髪だった。
「姉様。――紹介するわ。こちらは私の姉、ウィパ・ミック。ミック一族は全員水を生み出せるから、姉様も聖女の資格をお持ちなの」
「聖女は複数人居るって事か?」
 グレイが訊くと、ウィパはいじわるそうに微笑んだ。
「一族の中で一番魔力が高い女性が大聖堂を代表する聖女となるんです。今の聖女であるルエピは、命を全て燃やせばリトン街の全てを水没させてしまえるほどの魔力を持っているの。そこまでの魔力は無い私は、だから聖女の予備ね」
「予備だなんて」
 テルラがフォローするが、ウィパは力無く首を横に振る。
「水を生み出せる聖女は、その力が存在の全て。だから、次点の私は聖女じゃないの。――私としては、ルエピが積極的に魔物退治に参加してくれた方が嬉しいわ。だって、危ないものねぇ」
 ウフフと含み笑いをするウィパ。
 感じが悪いとテルラパーティ全員が思っていると、ウィパは入り口のドアを閉めた。そして、ドアの向こうに気配が無い事を念入りに確認する。
「どう? ルエピちゃん。こんな感じで良い?」
「良い感じよ、姉様!」
 突然和気藹々とし始める姉妹に呆気に取られるテルラパーティ。
「あ、あの、これは?」
「実はですね、テルラ。不死の魔物が出て状況が悪くなってから、わざと仲の悪い姉妹を演じているの。そうしなければ聖都の大聖堂と連絡が出来なかったから」
 座ったまま説明を始めるルエピの斜め後ろに立ったウィパが妹の肩に手を置いた。一転、仲の良い姉妹の雰囲気になっている。
「補足しますね。姉の私が反聖都派のリーダーになり、その者達をコントロールしているんです。妹に傅かなければならない私の立場なら、反聖都派の者達も同情して言う事を聞いてくれますし。そうして隙を作らなければ郵便は送れませんでした」
 理解して頷くレイ。
「なるほど。お見事と言いたいところですけど、回りくどくないですか? それに、今後のお姉様の立場を考えると、良策とはとても……」
「私の事は二の次三の次です。誘拐された男の子達が早く帰って来るのが一番です。正直、時間的に初期に攫われた子は絶望的ですけど、それでも生きている子が居るのなら、早く魔物を倒して痕跡を辿らないといけないんです。不死の魔物が退治さたら演技を止める手筈です」
 テルラが感心する。
「ご立派です。ちなみに前回退治した時は、痕跡はどうなったのですか?」
「残念ながら、何も。でも、ご家族の気持ちを慮ったら、倒せば何らかの手掛かりが有るのではと思うしかないんです」
「とにかく! さっさと魔物を倒せば解決なの! だから、一芝居打ってまで皆様においで頂いたの! 私も手伝いますから、どうかこの街を救って!」
 立ち上がって頭を下げるルエピを見て、護衛の女性僧兵達も頭を下げた。
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