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第八話

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 勇者としての朝の一日は、門の警備に話を聞く事から始まる。
 アトイは北門、スヴァンは南門。魔物の目撃情報はないか、不審な旅人が居なかったか、その他気になるところはないか、手分けして情報収集する。
「おはようございます、アトイさん」
 女性に声を掛けられた勇者は、門番に礼を言ってから振り向いた。
「おはようございます、カレンさん、プリシゥアさん」
「今日一日よろしくお願いするっス」
「よろしく。俺はこのまま仕事を進めても良いのかな?」
「はいっス。こちらの準備は万全っス。何も問題は無いっス」
「じゃ、このまま東門に向かう。スヴァンは西門に向かい、その後に昨日君達に話し掛けたあの噴水の前で落ち合う。あそこが街の中心だからね。これが毎日の日課だ」
「分かったっス。闇が起こったら音を立てない様にお願いするっス」
「了解だ」
 一人の勇者と二人のハンターは、街中に魔物の影が無いかを確認しながら街を囲む壁に沿って歩いた。
 そして東の門番から情報を貰う。壁の外の畑が魔物に荒らされる被害が有る様だ。
「この街は壁の外にも畑や農家が有るんスか?」
「プリシゥアさん達は聖都から来たんだったね。都会の方がどうなっているかは俺には分からないけど、ここらの大地主が外に土地を持っているのは珍しくないよ」
「そしてアルバイトを雇って色々作ってるんだよね。ウチの村もそんな感じだったよ。そうすれば無職の人が減るしね」
「カレンさんの言う通り。で、これを言い訳に使うのかい?」
「そうしましょう。一緒に行動出来れば何でも良いっぽいので」
「じゃ、それで。噴水の方に行こう」
 女の歩幅に合わせて歩いていたせいでスヴァンを待たせてしまった。
「遅いぞ、アトイ。ん? 後ろの二人はハンターの」
「すまない。偶然会ったので、一緒に行動していたんだ」
 打ち合わせ通り偶然会った事にしてくれたので、カレンも予定通りそれに乗った。
「闇のクエスト完了確認のために、二手に分かれてるんです。そしたら、なんか、外の畑で魔物の害が出たって話を聞いて。アトイさんがそっちに行くって言うんで、闇と関係有るかどうか分からないから、一緒に退治に行きましょうって事になったんです」
 緊張で話下手になっているカレンを訝しげに見るスヴァン。
「本当にハンターと共闘する気か? アトイ」
「本当だ。女性二人だけで塀の外を歩かせると事件が増えそうだしな」
「まぁ……そうだな」
「スヴァンの方はどうだった?」
「南と西は特に何もなかった。すぐに行くか?」
「行こう。東の方だ」
 頷き合う勇者二人。
 その後、スヴァンがカレンとプリシゥアを指差す。
「君達は闇事件を探っているだけだろ? それとは関係ない戦闘になったら、絶対に安全な位置まで距離を取る事。邪魔になるなよって言ってるんだ。良いね?」
「大丈夫ですよ。伊達に王女と一緒のパーティーになってる訳じゃありません。プリシゥアだって凄く強いですし。まぁ、そう言う事態にならないのが一番ですけど」
 丸出しのおでこを撫でながら言うカレン。
 しかしスヴァンは厳しい表情で首を横に振った。
「いや。被害が出ているのが確認出来たら、絶対に原因を究明しないといけないんだ。原因が動物だったら役所に任せるが、魔物だったら絶対に退治しないといけない。街の魔物被害をゼロにするのが勇者の仕事だからな」
「へぇ。凄いですね。そこんところの気構えはハンターとは違うんですね」
 特に感心していないカレンが感心した風な声を出すと、プリシゥアが籠手の具合を確かめながら頷いた。
「勇者と呼ばれる所以っスね。まぁ、私は僧兵で前のめりな戦い方の訓練はしてないっスから、万が一私らが戦う事になっても、邪魔にはならないと思うっスよ」
「どう言う事?」
 スヴァンが首を傾げる。
「あ、知らないんスか。僧兵の主な仕事は教会の防衛っス。なので、騎士とか兵士とかの様々な業種の戦闘員と共闘する場合は、自然と後方担当になるんスよ。そう言う訓練をしてるっス。だから勇者の邪魔にはならないんスよ」
 それを聞いたアトイが感心する。
「なるほど、その職業に合った立ち位置が有ると言う事だね。信用してるよ。じゃ、時間も押してるし、行こうか」
 アトイが先導し、男女四人で東の門から出た。
 目標の農家から状況を聞き、被害が出た付近に行ってみる。
 そこは山を削って作った畑だった。動物避けの柵が派手に壊され、食い散らされた根菜が散らばっている。原型は留めていないが、白いので、恐らくは大根か。
「結構食われてるな。多分、山の方から降りて来たんだろうな」
「もしも大量に魔物が居るのなら、山の中で巣を作っているかも知れないな」
 男二人で相談しているところに口を挟むカレン。
「そう言えば、私達も山の中で巣を作ろうとしている魔物を退治した事が有りますよ。その魔物も畑を荒らしてました。テルラの指示で皆殺しにしましたよ」
「情けを掛けるとまた増えるからな。正しい判断だ」
 スヴァンは山の方を見ながら付き合い程度の返事をした。視線の先では、肩から降りた子ザルが草で隠されている道を発見していた。
「獣道が出来てるな。何度も通っていた様だ。どう見る? アトイ」
「最初は斥候が何度か通って、安全と判断されたから集団で山を下りた、ってところか」
「意見が合ったな。魔物だったら俺達も全滅させないといけないから、数が多かったら何度か通う事になりそうだな」
「その時はハンターを頼るさ。どうだ? その時は君達も仕事を受けてみるか?」
 アトイに話を振られたカレンは、急だったのでしどろもどろになる。
「え? あー、決めるのはテルラで、時間が掛かるクエストは全員一致じゃないと受けないんです」
「ははは、そっか。ハンターにもルールが有るんだな。では、二人はここで待っていてくれ。魔物が居たら情報をやるよ」
「はい、待ってます。気を付けて」
「ここは魔物が出た場所だから、そっちも気を抜かずにね」
 二人の勇者は、獣道に入って山を登って行った。
 それを見送ったカレンは、足元に有る歯型付きの大根のカケラを軽く蹴った。
「プリシゥア。どう思う? 私は怪しくないと思うけど」
「真面目で勇敢っスね。まぁ、分かりやすく尻尾を出す人だったら苦労は無いっスよ。レイの方に期待するっス」
「そうだね」
 頷いたカレンは適当な草葉に腰を下ろし、勇者達が帰って来るのを待った。
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