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第七話

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 今朝もテルラ達は役所の掲示板の前に立った。
 相変わらず良いクエストが無かったので、魔物退治以外のクエストにも視線を向けてみた。
「お金が尽きない様に稼ぐのって、本当に大変ですわね。――ん? これは」
 一枚の張り紙で動きを止めるレイ。
「プリシゥア。これ、あの子犬の事じゃありませんの?」
「え?」
 プリシゥアもその張り紙に顔を近付ける。
「間違って捨てられた三匹の子犬を探しています。毛色は明るい茶色。生後一ヵ月程度だけど、結構大きめ。……確かにあの子犬達みたいっスね」
 原則として依頼主の情報は張り紙には書かれないため、本当にあの子犬達の事かは分からない。
 だが、『間違って捨てられた』と言う部分がとても気になるので目が離せない。
「良いクエストが無いから俺は帰るぞ」
「私もー。読みたい本が有るから、お菓子買ってから帰るー」
 グレイとカレンはさっさと帰って行った。
「どうしますか?」
 テルラに訊かれたプリシゥアは、たっぷり悩んだ後、張り紙を手に取って剥がした。
「これは私が受けるしかないっスね。コレだけじゃ何が有ったのかがサッパリ分からないっスから、とにかく依頼主に話を聞いてみるっス」
 プリシゥアは張り紙を受付に持って行き、必要な手続きをした。
 テルラとレイは何も言わずに待っていてくれたので、住所が書かれたメモをポケットに入れながら二人の元に戻る。
「依頼者は宿に居るみたいっス。テルラを家に送ったら、一人で話を聞きに行くっス」
「一人で大丈夫ですか? 何らかのトラブルだった場合は交渉事になると思いますが。場合によっては――」
 テルラが心配すると、プリシゥアは笑顔で力こぶを作った。
「相手は普通の親子連れみたいっスから、そんな無茶はしないと思うっスよ。襲われても腕力では負けないっス」
「それは僕も承知していますが……」
 プリシゥアは、半身になって心配するテルラを役所の外に促した。
「勿論、薬を盛られない様に物を食べないとか、そんな感じで警戒するっス。さ、帰るっス」

 一旦家に帰って戦闘用の籠手や脛当てを装備したプリシゥアは、窓口で教えて貰った宿に一人で向かった。一階は簡単な飲食が出来るカフェになっているので、そこそこ賑やかだった。商人や旅人がこんなに居るのなら、自分達以外のハンターがこの街に来るのも時間の問題だろう。
「こんにちはっス。私はハンターで、依頼者とお話をしに来たっス。タイズスさんって言うんスけど」
 身分証代わりのバッジを宿のカウンターで示し、依頼者の部屋番号を聞いた。話が通っていたので、すぐに教えて貰えた。
「ありがとうっス」
 プリシゥアは宿の二階に行き、教えて貰った部屋番号のドアをノックした。
「こんにちはっス、タイズスさん。クエストを受けて来たハンターっス。お話を伺いたいんスけど、良いっスか?」
 中で誰かが走る音がして、ドアが勢い良く開けられた。顔を出したのは、テルラと同い年くらいの男の子だった。
「クエストを受けてくれてありがとう! えっと、探して欲しい犬は――」
 続いて大人の男性が出て来て、子供の頭を押さえ付けた。
「コラコラ落ち着け。――挨拶も無しに失礼しました。俺はこの子の親です。明日までにクエストを受けて貰えなかったら帰るって約束していたので興奮しているんです。この街にはハンターが少ないって話でしたから」
「ハンターが多くても、報酬が安いクエストは普通無視されるっスからね。で、子犬の事っスが」
「クエストの発注主はこの子ですが、この通り興奮してるので、代わりに俺が話をしましょう。折角なので、下のカフェでお茶をしながら話しましょう」
 一階に降りた三人は、タイズスのおごりで紅茶と適当なお菓子を注文した。
「宿に泊まっているって事は、タイズスさんはよその街の人なんスか?」
「はい、隣の街から来ました。で、犬の事なんですが――」

 男性は語る。
 タイズスの家で飼っている犬が子犬を生んだ。
 男の子は喜んだが、それ以外の家族は喜ばなかった。
 大型犬なので、数が増えると食費が凄い事になるからだ。

「普通の中型犬でも、いや小型犬でも、多頭飼いは難しいですからね。仕方ないので子犬はどこかにあげようかと相談していたんです」
 目の前に置かれたパンケーキに手を付けずにジッとしていた男の子が口を開く。
「でも、僕はそれに反対したんです。なのに、僕の小遣いを全部エサ代にしても良いから飼おうって話をしている最中に、お爺ちゃんが勝手に子犬を捨てちゃったんです。僕が連れて帰らない様に、わざわざ隣のこの街に」
「ははぁ、そう言う事っスか」
 プリシゥアは遠慮なくパンケーキを食べている。カフェの厨房から出て来た物なら警戒しなくても良いだろう。蜂蜜とバターが熱でトロトロになっていて、とても美味しい。
「捨てられてから何日も経っているから、もう飢え死にしているかも知れません。生まれたばかりの子犬だから。でも、もしかしたら、まだ生きているかも知れない。だから、なるべく早く探して欲しいんです」
 必死な子供の表情にウソが無い事を見て取ったプリシゥアは、静かにフォークを置いた。
「実はその子犬、もう見付けているかも知れないんスよ。だからその子犬かどうかを確認するために私が来たんス」
「え? 本当ですか?」
「ただ、二匹はもう引き取り手が見付かってるっス。一匹は子犬を最初に見付けた女の子が引き取ったっス」
「……え? 引き取った? 貰われちゃったって事ですか?」
「捨て犬だったスからね。生かすためにはそれ以外の手が無かったっス。理解して欲しいっス」
 男の子は悲しそうに俯いた。
 でもまだ落ち込むのは早いとプリシュアは明るい調子で続ける。
「最後の一匹はまだ残ってると思うっスから、会いに行ってみるっスか?」
「行きます!」
 子供は即答した。
 父親に視線を送ったら仕方なさそうに頷いたので、プリシゥアは子供のパンケーキを指差した。

「子犬は教会に預けてあるっス。残さず食べたら行くっス。女神様は食べ物を粗末にする子を見守ってくださらないっスからね」
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