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第六話

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 泥棒を追い掛けて行ったプリシゥアは、門の一歩外まで行ったところで引き返して来た。
「月が明るいっスけど、夜中に深追いするのも危ないんで追い掛けなかったっス。申し訳ないっス」
「構いません。それより、盗まれた物が無いかチェックしませんと」
 マッチを擦ってランプを点けたテルラは、明るくなった室内を見渡した。
 机の引き出しは閉まったまま。
 押し入れの折れ戸も閉まったまま。
 両方共開け閉めの時に多少なりとも音がするので、泥棒が明けていたら開けっ放しにしているだろう。
 その他には、ネグリジェ姿のレイがぼんやりとテルラを見詰めていて、窓の外で寝間着姿のプリシゥアが庭の方を警戒している。
「遅れて申し訳ございません。何の騒ぎでしょうか」
 身軽な恰好ながらも帯剣している派遣勇者の二人が屋敷に来て、プリシゥアの横から部屋を覗いた。
 女性のベリリムがランプを持っている。
「泥棒ですわ」
「物は取られていない様なので、入られてすぐに撃退出来た様です。レイのお陰ですね」
「うふふ。どういたしまして」
 事情を聞いた途端に青褪める派遣勇者の二人。
「なんて事だ。この俺が居ながら、不審者の侵入を許してしまうとは」
 ヤミトは、無意味に格好付けて頭を抱えた。
「そんな事より、なんでレイがテルラの部屋に侵入した泥棒に気付いたんスかねぇ? 結構早かったみたいっスよねぇ?」
 プリシゥアのジト目から顔を逸らしたレイは、無言で微笑みながらランプの光から遠ざかった。ネグリジェ姿を男性に見られるのは淑女として恥ずかしいから。愛するテルラになら見られても構わないが、ヤミトの視線は素で嫌だ。
「泥棒は追い返した事ですし、もう寝ましょうか」
「そうですね。まだ夜中ですし」
「眠いっス」
 テルラとプリシゥアはレイの言葉に頷いたが、派遣勇者の二人は視線で会話してから揃って窓枠に手を置いた。
「泥棒仲間が居るかも知れないので、今夜は我々が警備します。お庭をお借りしても宜しいでしょうか」
「大丈夫っスよ、ヤミトさん。普通、同じ日に連続で同じ家に入る泥棒は居ないっスから。居たら素人っス」
 プリシゥアの言葉に頷くレイ。
「わたくしの護身術を前にしても全く怯まなかったので、戦闘力だけを見れば結構なやり手でしたわ。引き際も弁えていましたし、少なくともマヌケではありませんでしたわ」
「ですが、我々は王女の護衛も仕事です。事が起こってしまった以上、恰好だけでもここを護らなければならないんです」
「恰好だけとか言わないでください」
 ベリリムにどつかれるヤミト。
 その後、澄まし顔で続けるベリリム。
「とにかく、街の平和を守るのも勇者の仕事。元々私達は夜を護る騎士でしたので、どうかお任せください」
「夜中に何を騒いでいる。何か有ったのか?」
 長銃を背負い、拳銃を構えたグレイが二階から降りて来た。肌触りが良さそうなパジャマを着ている。
「泥棒が入ったんですよ。――これ以上騒ぐとカレンも起きて来ますね。ヤミトさん。僕達はこのまま眠りますが、本当に護衛をお願いしても良いんですか?」
「お任せあれ、テルラくん」
「申し訳ありませんが、今夜だけお願いします。みなさん、戸締りをしっかりして眠りましょう」
「プロの騎士が護衛するっスなら、今夜は熟睡しても良いっスね。明日朝一で戸締りの再チェックをするっス。全部屋全窓チェックするっス。テルラの部屋だけじゃなく、レイやグレイの部屋も入るっスよ。カレンの部屋も、本人の許可を得てからするっス」
「分かりましたわ。では、おやすみなさい」
「おやすみなさい」
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