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第五話

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 レイが買い物から帰って来るのを待ってから、テルラは一階台所隣のリビングに全員を集めた。
「クエストの相談なら、俺は準備万端だ」
 コートを脱いでジャケットにタイトなミニスカート姿になっているグレイが、リビングに入るなりやる気を見せた。長銃は部屋に置いてあるが、拳銃はベルトに差してある。
「クエストは受けました。ですが、グレイにクエストの詳細を伝える前に、重要な事を話し合わなければならなくなりました」
 上座のソファーに座っているテルラが深刻そうに言う。
「何だ? 問題でも起こったのか?」
 他の女達も海賊に捕らえられた村娘みたいな暗い雰囲気で座っているので、グレイは椅子に座らずに訊いた。もしも自分に不利益が有る話だったら、すぐさま逃げられる様に。
「グレイは、料理は出来ますか?」
「は? 料理?」
 テルラの奇妙な質問に警戒度を高めるグレイ。
「料理です。ここまでの道中でやっていた、干し肉を調味料で煮込む様な簡単な物ではなく、僕達5人の健康に支障が出ない、普通の料理です。栄養が偏らなければ、質素な家庭料理でも構いません」
「普通の料理か……。言われてみれば、身体に気を遣う様な料理はした事がないな。海の上に居た頃はコックがしてたし。船を失ってからは、魚をぶつ切りにした潮汁くらいしか作ってないな。動物を仕留めても、雑に肉を削いで焼いただけだったし」
「そうですか……」
 残念そうに俯くテルラ。
 他の女達も静かに溜息を吐いている。
「それが?」
「自室以外の掃除はシスター・トキミが週一のペースやってくれます。洗濯は元々個人個人でやらなくてはいけない物なので問題は有りません。しかし、料理はそう言う訳には行けません」
「どうして。外食で良いじゃないか。さっき一人で歩き回ったが、食い物屋はそこそこ有ったぞ。まぁ、人が居ないから開いてはいなかったが」
「そこが問題なんです。今回受けたクエストは、数日後に再び行われる魔物退治への参加です。そこで僕達が魔物を退治出来れば商人の行き来が復活しますが、物資が潤うまで数日掛かります。退治に失敗すれば、当然物資不足が続きます。役所の人が言うには、物資不足の状態だと、朝から開いている外食屋は無いそうなんです」
「ははぁ、なるほど。少なくとも数日間の朝食は自分達で作らないといけない訳か」
「そうです。それに、外食ばかりでは無意味にお金が掛かります。なので、最低でも朝食くらいは自炊しましょう。その朝食作りは公平に当番制にしたいと思います。反対の人は挙手をお願いします」
 テルラが仲間達を見渡す。
 手を挙げている者は一人も居ない。
 その様子に驚いたグレイは、逃げ易い体勢を止めてテルラが座っているソファーの背凭れに後ろから肘を突いた。
「全員賛成だと? ――当然の疑問だからあえて訊くが、王女が料理なんか出来るのか? テルラだって良いところのお坊ちゃんだろ? 食う専門の人生だったんじゃないのか?」
 頷く金髪の少年。
「恥ずかしながら、そうです」
 銀髪の王女も頷く。
「わたくしも。ですが、出来ないからと何もしない訳には参りません。ここに居るわたくし達は平等ですから」
「カレンも料理の経験が無いと言うので、明日になったら僕達三人でシスター・トキミに炊事のやり方を教わろうと思っています。ですので、一日目はプリシゥアにお願いしました」
 僧兵特有の身体の線が出るシャツを着ている亜麻色の髪の少女が頭を掻く。
「私は修行で野外食の練習もしたっスから、この村に来るまでの食事も私がメインでやってたっス。そのまま私が炊事当番をしても良かったっスが、私ばっかりするのは不公平って言うっスから、それに従うっス。反対する理由は無いっスからね」
「もしもグレイに料理の心得が有るのなら、二日目の当番はグレイにお願いしたいと思っていました。どうでしょう」
「材料費は?」
「共用の財布から出します」
「なら構わない。しかし、5人分か。量の加減が良く分からないな」
「最初は誰もが不安です。大丈夫ですよ、お互い様なので、味が悪くても皆許しますよ」
「自分も食う訳だから、最低でも食える物を作るさ」
「お願いします。今、レイに厚紙を買って来て頂いたので、僕が当番表を作ります。――では、今回受けたクエストに就いての話し合いに移りましょう」
「そうだな」
 グレイは空いているソファーに座った。
 それとほぼ同時に玄関のドアがノックされた。
「あら、お客様かしら。この街に来たばかりのわたくし達を訪ねる人が居るなんて、怪しいですわ」
「教会の人かも知れませんね」
 レイとテルラが会話している横でプリシゥアが立ち上がる。
「私が出て来るっス」
 戦闘用の足捌きで音も無くリビングを出て行ったプリシゥアは、すぐに戻って来た。
「役所の人だったっス。私達が本当に不死の魔物を倒せるなら、明日もまた魔物退治に行きたいって言ってるっス。どう返事するっスか?」
「連日で魔物退治に出ると?」
 テルラが訊き返すと、レイが知った風に頷いた。
「それだけ物資不足が深刻なんでしょう」
「なるほど。――不死の魔物を倒せるかどうかを試すのなら早い方が良いと思いますが、みなさんはどう思いますか?」
「賛成ですわ」
「良いと思うっス」
 レイとプリシゥアは相変わらず無条件で賛成したが、カレンは面倒臭そうな顔をしていた。
「旅の疲れを取ろうと思ってたから、ちょっと嫌だな。急かすなら準備用の特別料金出して貰わないと」
「ははっ、特別料金は良い案だ。それが貰えるなら俺も賛成だ」
 グレイが笑うと、テルラは困った様に苦笑した。
「今後の事を考えると、特別料金は要求しない方が良いのではないかと。わざわざ来てくださった役所の人に良い印象を持たれれば、美味しい仕事を回して頂けるかもしれませんし」
「それも道理だ。どうだ? カレン」
「グレイが良いのなら」
「じゃ、さっさと仕事を片付けようぜ、テルラ」
「分かりました。クエストは日帰りの予定ですが、泊まりになったら、屋外の調理担当は変わらずプリシゥアにお願いします」
「了解っス」
「では、魔物退治は明日で結構ですと返事をしますね」
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