上 下
4 / 277
第一話

3

しおりを挟む
 騒いでいた信徒達が一人残らず帰った後の大聖堂は落ち着いた整然を取り戻していた。
 そんな大聖堂の中庭で、100名ほどの僧兵が並ばされていた。上は筋肉の隆起が見て取れるくらい身体にフィットしたランニングシャツを着ていて、下は対極にダボっとしたズボンを履いている。
 僧兵達は、大司教とその息子の登場に、キッチリと揃った動きで左の掌に右の拳を打ち付ける礼をした。
「皆の者、楽な姿勢となり、良く聞け。今日の昼の礼拝で、女神が顕現なされた。明日、私と息子は、その詳細を王に伝える為、王都へと赴く。よって、この中の半数を護衛として同行させる」
 礼を解いて気を付けの姿勢になった僧兵達を、大司教の息子がじっと見詰めている。人差し指と親指で円を作り、それを左目で覗く形で。
 そうすれば、その者が持っている潜在能力が文字となって浮かび上がるのだ。それが女神から与えられたガーネットの左目の能力だった。
「彼らの潜在能力は三種類しかありません。確認の為に、いくつか質問して宜しいですか?」
 全員を見終えた息子は大司教に耳打ちする。
「どんな質問だ?」
「代表者三人に得意な戦い方を聞きます」
「許す」
 頷いた大司教は僧兵に向き直る。
「私の息子でありダンダルミア大聖堂の跡取りでもあるテルラティアが質問する。質問された者は心して応える様に」
「ハッ!」
 数歩前に出たテルラティアは、最前列の中心付近に居る一人の男に質問する。
「貴方は拳での戦いが得意ですか?」
「はい」
 赤と青のオッドアイとなった10歳の少年の顔を真っ直ぐ見て生真面目に頷く若者。
 次に、最前列の端の方に居る女性に話し掛けるテルラティア。数人居る女性も筋肉の隆起が見て取れるサイズのランニングシャツを着ているので、少々目のやり場に困る。
「貴女は棒での戦いが得意ですか?」
「はい」
「そして――貴方。貴方は人より体力が多い事が自慢ですか?」
「はい」
 集団の中心付近に居る、一際身体の大きい僧兵が頷く。
「分かりました。大司教」
 数歩下がった少年は、恰幅の良い父に再び耳打ちをする。
「彼らの潜在能力は、『拳の極み』『棒術の極み』『剛健の極み』の三種類しかありません。大司教と司教の三人が『教義のカリスマ』であったのと同じく、立場や才能が同じなら潜在能力も同じ様です」
「そうか……。では、魔物退治に役立ちそうな能力はこの中には無い、と言う事になるか」
「はい。ここに集められた彼等は大聖堂を護る僧兵の中でもトップクラスの実力を持っていると言うお話でしたが、潜在能力だけで見た場合に限れば、魔物の優位に立てる可能性は感じられません」
「ただ強いだけで魔物を退治出来るなら、ここまで深刻な害にはならないだろうからな」
 父の言葉に大きく頷いてから続けるテルラティア。
「ですが、女神が授けてくださった潜在能力がこの程度だとは思えません。もう少し可能性を探りたいので、しばらくお時間をください」
「うむ。王城に行くのは明日だ。今日は修行を休み、女神がくださった能力をもっと理解するが良い」
「ありがとうございます」
 大司教は僧兵に向き直り、綺麗に丸められている頭を下げた。
 その隣で少年も金色の頭を下げた。
「皆の者、ご苦労だった。選別は以上だ。今回はこれで解散とする。沙汰は追って行うので、各自持ち場に戻られよ」
「ハッ!」
 礼をした僧兵達は、訓練が行き届いた機敏な動きで中庭を去って行った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

悪役令嬢に転生したおばさんは憧れの辺境伯と結ばれたい

ゆうゆう
恋愛
王子の婚約者だった侯爵令嬢はある時前世の記憶がよみがえる。 よみがえった記憶の中に今の自分が出てくる物語があったことを思い出す。 その中の自分はまさかの悪役令嬢?!

国外追放者、聖女の護衛となって祖国に舞い戻る

はにわ
ファンタジー
ランドール王国最東端のルード地方。そこは敵国や魔族領と隣接する危険区域。 そのルードを治めるルーデル辺境伯家の嫡男ショウは、一年後に成人を迎えるとともに先立った父の跡を継ぎ、辺境伯の椅子に就くことが決定していた。幼い頃からランドール最強とされる『黒の騎士団』こと辺境騎士団に混ざり生活し、団員からの支持も厚く、若大将として武勇を轟かせるショウは、若くして国の英雄扱いであった。 幼馴染の婚約者もおり、将来は約束された身だった。 だが、ショウと不仲だった王太子と実兄達の謀略により冤罪をかけられ、彼は廃嫡と婚約者との婚約破棄、そして国外追放を余儀なくされてしまう。彼の将来は真っ暗になった。 はずだったが、2年後・・・ショウは隣国で得意の剣術で日銭を稼ぎ、自由気ままに暮らしていた。だが、そんな彼はひょんなことから、旅をしている聖女と呼ばれる世界的要人である少女の命を助けることになる。 彼女の目的地は祖国のランドール王国であり、またその命を狙ったのもランドールの手の者であることを悟ったショウ。 いつの間にか彼は聖女の護衛をさせられることになり、それについて思うこともあったが、祖国の現状について気になることもあり、再び祖国ランドールの地に足を踏み入れることを決意した。

迷宮サバイバル! 地下9999階まで生き残れ!

ねこねこ大好き
ファンタジー
迷宮サバイバル! 生き残るためには進むしかない! 目的地は最深部、地下9999階! 見習い冒険者、レイはお宝目当てに冒険者ギルドの見習いとして、最深部10階の初級迷宮へ潜る。 始めは荷物持ち、それでもひーひー言いながら、地下3階までたどり着く。 そこで不注意から落とし穴に引っかかり、下層へ飛ばされる。 たどり着いたのは、あるはずのない階層、地下11階。上り階段なし。 絶望するが、同じく下層へ飛ばされた仲間がいた。 見習い魔術師、ローズ。 見習い僧侶、チュリップ。 見習い騎士、リリー。 脱出するために三人の仲間とともに地下9999階を目指して迷宮サバイバルを開始する。 「生き残るためには、進むしかない!」 (2018/08/04:完結)

王太子様に婚約破棄されましたので、辺境の地でモフモフな動物達と幸せなスローライフをいたします。

なつめ猫
ファンタジー
公爵令嬢のエリーゼは、婚約者であるレオン王太子に婚約破棄を言い渡されてしまう。 二人は、一年後に、国を挙げての結婚を控えていたが、それが全て無駄に終わってしまう。 失意の内にエリーゼは、公爵家が管理している辺境の地へ引き篭もるようにして王都を去ってしまうのであった。 ――そう、引き篭もるようにして……。 表向きは失意の内に辺境の地へ篭ったエリーゼは、多くの貴族から同情されていたが……。 じつは公爵令嬢のエリーゼは、本当は、貴族には向かない性格だった。 ギスギスしている貴族の社交の場が苦手だったエリーゼは、辺境の地で、モフモフな動物とスローライフを楽しむことにしたのだった。 ただ一つ、エリーゼには稀有な才能があり、それは王国で随一の回復魔法の使い手であり、唯一精霊に愛される存在であった。

婚約者が病弱な妹に恋をしたので、私は家を出ます。どうか、探さないでください。

待鳥園子
恋愛
婚約者が病弱な妹を見掛けて一目惚れし、私と婚約者を交換できないかと両親に聞いたらしい。 妹は清楚で可愛くて、しかも性格も良くて素直で可愛い。私が男でも、私よりもあの子が良いと、きっと思ってしまうはず。 ……これは、二人は悪くない。仕方ないこと。 けど、二人の邪魔者になるくらいなら、私が家出します! 自覚のない純粋培養貴族令嬢が腹黒策士な護衛騎士に囚われて何があっても抜け出せないほどに溺愛される話。

処理中です...