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第一話
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騒いでいた信徒達が一人残らず帰った後の大聖堂は落ち着いた整然を取り戻していた。
そんな大聖堂の中庭で、100名ほどの僧兵が並ばされていた。上は筋肉の隆起が見て取れるくらい身体にフィットしたランニングシャツを着ていて、下は対極にダボっとしたズボンを履いている。
僧兵達は、大司教とその息子の登場に、キッチリと揃った動きで左の掌に右の拳を打ち付ける礼をした。
「皆の者、楽な姿勢となり、良く聞け。今日の昼の礼拝で、女神が顕現なされた。明日、私と息子は、その詳細を王に伝える為、王都へと赴く。よって、この中の半数を護衛として同行させる」
礼を解いて気を付けの姿勢になった僧兵達を、大司教の息子がじっと見詰めている。人差し指と親指で円を作り、それを左目で覗く形で。
そうすれば、その者が持っている潜在能力が文字となって浮かび上がるのだ。それが女神から与えられたガーネットの左目の能力だった。
「彼らの潜在能力は三種類しかありません。確認の為に、いくつか質問して宜しいですか?」
全員を見終えた息子は大司教に耳打ちする。
「どんな質問だ?」
「代表者三人に得意な戦い方を聞きます」
「許す」
頷いた大司教は僧兵に向き直る。
「私の息子でありダンダルミア大聖堂の跡取りでもあるテルラティアが質問する。質問された者は心して応える様に」
「ハッ!」
数歩前に出たテルラティアは、最前列の中心付近に居る一人の男に質問する。
「貴方は拳での戦いが得意ですか?」
「はい」
赤と青のオッドアイとなった10歳の少年の顔を真っ直ぐ見て生真面目に頷く若者。
次に、最前列の端の方に居る女性に話し掛けるテルラティア。数人居る女性も筋肉の隆起が見て取れるサイズのランニングシャツを着ているので、少々目のやり場に困る。
「貴女は棒での戦いが得意ですか?」
「はい」
「そして――貴方。貴方は人より体力が多い事が自慢ですか?」
「はい」
集団の中心付近に居る、一際身体の大きい僧兵が頷く。
「分かりました。大司教」
数歩下がった少年は、恰幅の良い父に再び耳打ちをする。
「彼らの潜在能力は、『拳の極み』『棒術の極み』『剛健の極み』の三種類しかありません。大司教と司教の三人が『教義のカリスマ』であったのと同じく、立場や才能が同じなら潜在能力も同じ様です」
「そうか……。では、魔物退治に役立ちそうな能力はこの中には無い、と言う事になるか」
「はい。ここに集められた彼等は大聖堂を護る僧兵の中でもトップクラスの実力を持っていると言うお話でしたが、潜在能力だけで見た場合に限れば、魔物の優位に立てる可能性は感じられません」
「ただ強いだけで魔物を退治出来るなら、ここまで深刻な害にはならないだろうからな」
父の言葉に大きく頷いてから続けるテルラティア。
「ですが、女神が授けてくださった潜在能力がこの程度だとは思えません。もう少し可能性を探りたいので、しばらくお時間をください」
「うむ。王城に行くのは明日だ。今日は修行を休み、女神がくださった能力をもっと理解するが良い」
「ありがとうございます」
大司教は僧兵に向き直り、綺麗に丸められている頭を下げた。
その隣で少年も金色の頭を下げた。
「皆の者、ご苦労だった。選別は以上だ。今回はこれで解散とする。沙汰は追って行うので、各自持ち場に戻られよ」
「ハッ!」
礼をした僧兵達は、訓練が行き届いた機敏な動きで中庭を去って行った。
そんな大聖堂の中庭で、100名ほどの僧兵が並ばされていた。上は筋肉の隆起が見て取れるくらい身体にフィットしたランニングシャツを着ていて、下は対極にダボっとしたズボンを履いている。
僧兵達は、大司教とその息子の登場に、キッチリと揃った動きで左の掌に右の拳を打ち付ける礼をした。
「皆の者、楽な姿勢となり、良く聞け。今日の昼の礼拝で、女神が顕現なされた。明日、私と息子は、その詳細を王に伝える為、王都へと赴く。よって、この中の半数を護衛として同行させる」
礼を解いて気を付けの姿勢になった僧兵達を、大司教の息子がじっと見詰めている。人差し指と親指で円を作り、それを左目で覗く形で。
そうすれば、その者が持っている潜在能力が文字となって浮かび上がるのだ。それが女神から与えられたガーネットの左目の能力だった。
「彼らの潜在能力は三種類しかありません。確認の為に、いくつか質問して宜しいですか?」
全員を見終えた息子は大司教に耳打ちする。
「どんな質問だ?」
「代表者三人に得意な戦い方を聞きます」
「許す」
頷いた大司教は僧兵に向き直る。
「私の息子でありダンダルミア大聖堂の跡取りでもあるテルラティアが質問する。質問された者は心して応える様に」
「ハッ!」
数歩前に出たテルラティアは、最前列の中心付近に居る一人の男に質問する。
「貴方は拳での戦いが得意ですか?」
「はい」
赤と青のオッドアイとなった10歳の少年の顔を真っ直ぐ見て生真面目に頷く若者。
次に、最前列の端の方に居る女性に話し掛けるテルラティア。数人居る女性も筋肉の隆起が見て取れるサイズのランニングシャツを着ているので、少々目のやり場に困る。
「貴女は棒での戦いが得意ですか?」
「はい」
「そして――貴方。貴方は人より体力が多い事が自慢ですか?」
「はい」
集団の中心付近に居る、一際身体の大きい僧兵が頷く。
「分かりました。大司教」
数歩下がった少年は、恰幅の良い父に再び耳打ちをする。
「彼らの潜在能力は、『拳の極み』『棒術の極み』『剛健の極み』の三種類しかありません。大司教と司教の三人が『教義のカリスマ』であったのと同じく、立場や才能が同じなら潜在能力も同じ様です」
「そうか……。では、魔物退治に役立ちそうな能力はこの中には無い、と言う事になるか」
「はい。ここに集められた彼等は大聖堂を護る僧兵の中でもトップクラスの実力を持っていると言うお話でしたが、潜在能力だけで見た場合に限れば、魔物の優位に立てる可能性は感じられません」
「ただ強いだけで魔物を退治出来るなら、ここまで深刻な害にはならないだろうからな」
父の言葉に大きく頷いてから続けるテルラティア。
「ですが、女神が授けてくださった潜在能力がこの程度だとは思えません。もう少し可能性を探りたいので、しばらくお時間をください」
「うむ。王城に行くのは明日だ。今日は修行を休み、女神がくださった能力をもっと理解するが良い」
「ありがとうございます」
大司教は僧兵に向き直り、綺麗に丸められている頭を下げた。
その隣で少年も金色の頭を下げた。
「皆の者、ご苦労だった。選別は以上だ。今回はこれで解散とする。沙汰は追って行うので、各自持ち場に戻られよ」
「ハッ!」
礼をした僧兵達は、訓練が行き届いた機敏な動きで中庭を去って行った。
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