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第一章:始まりの国・エルフの郷

第13話

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「フン……他愛無いのう。」

 実に詰まらなさそうにそう吐き捨てた大魔王エリスは、ぶら下げてていたサーシャを放り捨てるように投げた。勢いよく投げ飛ばされたサーシャは先ほどの爆発によってめくり上げられた大きな岩に体を打ち付けられる。

「お母様っ!」
「大長老様っ!」

 サラとミーナがそれぞれ声を上げサーシャの下へ近寄った。岩に背中を預け俯(うつむ)くサーシャ。二人が様子をうかがうと命はあるもののすでに意識はなく、もはや戦うことはかなわないだろう。
 ゆっくりとした動きでエリスが地上に降り立つ。そのまま一歩一歩、踏みしめるような動きでサラたちの下へ近づいてきた。

「極大魔法……【疾風極大魔法テンペスト】には驚かされたが、まぁ所詮はこのような物じゃな。妾の敵ではないのう。」
「何故……何故あの魔法をくらっておきながら、傷一つ付いていないのですか? いくら大魔王とはいえ、極大魔法をその身に受けて無傷であることはないはずです……!」

 大魔王の余裕綽々の発言にミーナが疑問の声を上げる。極大魔法は原始魔法における最大の威力を誇る魔法である。その名の通り「大(だい)なる極(きわ)み」であるのだ。故にその発動には莫大な魔力と、類稀なる魔法適性値が必要となる。まさに最終手段であり、これが通じないことは即ち打つ手がない事を示すのだ。
 だが、現に大魔王は無傷の状態でサラたちの前に立っている。不敵な笑みを浮かべる様子は相対する二人に恐怖を与えるものだった。

「貴様の言っていることは決して間違っておらぬぞ、ダークエルフよ。確かにさっきの魔法は見事じゃった。敵ながら天晴じゃ。だが、貴様らには敗因が二つある。」
「敗因、ですって……?」

 とうとうエリスとの距離は数メートルにまで縮まった。エリスはそこで歩みを止めてミーナの疑問に答える。指を二本立ててサラたちを見るその視線は余裕に満ち溢れている。

「一つ目は妾に使った魔法じゃ。確かに極大魔法は原始魔法の中で最大の破壊力があるじゃろう。だが、それは一個人に向けて撃つような物じゃあない。敵対する軍隊や、敵国の首都を破壊するのに使うのが好ましいの。貴様らは虫を殺すのに隕石を落とすのか?」

 その言葉にミーナが悔しそうな顔をする。認めたくはないがエリスの言は的確であるからだ。いくら威力が高かろうとその範囲も広ければムラが出る。それならばむしろ大魔法レベルを連発した方が効果があっただろう。
 エリスが中指を折り曲げた。白魚のような人差し指がミーナとサラへ掲げられる。

「もう一つは、妾の勝負運に負けたことじゃの。これを見るがよい。」

 そう言うとエリスは右の手のひらを上に向けてサラたちの方へ突き出した。そしてある呪文を詠唱する。

「暗黒特殊魔法、【始端者クラミツハ】。」

 その言葉と共にエリスの掲げた手のひらからまるで水の様に黒い魔力があふれ出した。あふれ出した魔力は足元にたまり水たまりの様に広がる。そして次の瞬間、あふれ出した魔力から立ち上るように一つの形が形成された。
 それはまるで蛇のようだった。紫色の気炎を両の目から噴き出す漆黒の蛇。それはエリスの身体からほんの少し離れたところを、まるで締め上げるようにまとわりつく。

「そ、それは……?」

 サラが少し怯えたようにエリスへ問いかけた。エリスはその問いかけにすぐには答えず、周りを漂う蛇を愛おし気に撫でる。

「……この身体、クロエとかいう奴は転生者らしいの? 新しいこの肉体を用意されたようじゃが、元は人類種じゃな。」
「そうですが……それがどうしたというのです?」
「まぁ聞け。この身体は妾が感じる限り、悪魔族(デーモン)を素体に強大な闇と光の力を併せ持つ稀有な肉体じゃ。恐らく世界で唯一の種族……『魔神族(カオスロード)』とでも名付けるかの。そのおかげで妾はもはや大魔王などではない別の存在……魔神とも言うべき存在になった訳じゃ。」
「ですから、それが何だと言うのです!?」

 ミーナが挑むような口調で答えた。だが、エリスはその態度を気にすることなく言葉を続ける。

「こやつが転生する時、どうやら複数人で転生したらしいが、こやつらはとある特別な魔法を授けられたようじゃ。各々が心に秘めたる思いを反映した、世界でこやつらしか使えぬ特別な魔法……『属性特殊魔法』と呼ぶらしい。妾の周りに浮かぶこれこそ、クロエの特殊魔法【始端者(クラミツハ)】じゃ。その効果は単純、相手の魔法を吸収し己が力に変える。単純じゃが……まぁ何とも反則的な魔法じゃの。その力と、魔神たる妾の力……合わせればどうなるかの?」

 エリスが驚くべき言葉を口にした。転生者には特別な魔法、属性特殊魔法が与えられており、クロエのそれは相手の魔法を吸収するものだという。それは今までの魔法戦闘の基礎を覆すような驚異的な魔法であった。

「……分かりましたわ。あなたがお母様の魔法を食らっても傷一つ追っていない理由、その魔法を使ったのですわね?」
「その通りじゃよ、エルフの小娘。おかげで元気満タンじゃ。」

 そう言って笑うエリスは【始端者クラミツハ】を消した。サラが憎々し気にエリスを睨む。
 だが、そこでミーナがとある事実に気が付いた。

「……待ちなさい。あなたが無傷である理由は分かりました。しかし、いくつか疑問が生まれます。何故あなたがクロエさんの転生の時のことなどを知っているんです? ただ復活したにせよ、何故転生者たるクロエさんの身体で復活した? 他にも、今のあなたは過去のあなたとは何かが違う。まるで復活したのではなく……そう、|生まれ(・・・)|変わった(・・・・)かのような……」

 ミーナのその言葉にエリスは少しだけ驚いたような顔をした。しかしすぐに元の笑顔に表情を戻すとミーナへ向かって話しかけた。

「驚いたぞ、ダークエルフよ。貴様、存外に賢いじゃないか。どうじゃ、妾の部下にならんか?」
「お断りします。私には主がすでにおりますので。」

 すげなくエリスの誘いを断るミーナ。その返答に「じゃろうな。」と別段残念そうな雰囲気も見せないエリス。その反面うまく話をそらされたミーナは悔し気だ。
 ここで、今まで話に興じていたエリスが雰囲気を変えた。殺気をはらんだ視線を向け足元の影から【堕剣グラム】を引きずり出すと、その剣先をサーシャへまっすぐ向ける。

「さて、無駄話は終いじゃ。そこを退くが良い、ハイエルフとダークエルフの小娘ども。この身体は貴様らを傷つけることを望んでおらなんだ。その意思は最大限尊重してやろう。」

 そういって全身に魔力をみなぎらせるエリス。まるで目に見えるかのようなその魔力量は、先ほどの「元気満タン」という言葉は嘘ではないことを示すようだ。
 思わず身をこわばらせるサラとミーナ。だが、二人ともその場を動こうとはしない。その態度がエリスの心をざわつかせる。

「退けというのが分からんのか! せっかく見逃してやろうと言うのじゃぞ!? 諸共に斬られたいとでも言うのか!」
「……嫌です。退きません!」
「あ?」

 おもむろにサラが立ち上がり、サーシャとミーナの間に立ちふさがった。キッとエリスを睨むその姿はとても気丈である。だが、隠しきれない恐怖はその小さく震える体によく表れていた。
 それを見たエリスは眉間の溝を深くした。口角も吊り上がる。笑顔は本来攻撃の意思を表すものだということがよくわかる、実に凄惨な笑みだった。

「……おい、貴様。一体それは何のつもりじゃ? 茶番は良いから早く退かんか。」
「嫌です! お願いです、クロエさん! 目を覚まして!」

 サラが涙を流しながら叫ぶ。だがエリスはその叫びを意にも介さない。彼女は内心「クロエ」と呼ばれることに少なくない苛立ちを覚えていた。自分とは関係ない名を呼ばれることは存外腹が立つものなのである。隠しきれない苛立ちをそのままに、エリスは目の前に立つサラを睨みつける。

(まぁ、再三にわたって注意はしたやった訳じゃし……殺してしまっても構わんじゃろ。)

 見切りをつけたエリスはサラをサーシャ諸共殺すことにした。所詮エリスにとってサラは少しぐらい情けをかけてやっても良いかと思う程度。何が何でも殺したくない相手ではないのだ。

(そう言えば、このハイエルフはこの郷の長の事を母と呼んでおったな。親子で死ねるなら本望じゃろ。)

 そう考えエリスは手にしたグラムを両手で持ち左脇に構える。横なぎに三人を両断する構えだ。自分の思いが届かなかったのか、覚悟を決めたサラがギュッと固く目をつぶった。
 感慨も何もなく、ただ無慈悲に魔神の大剣が振るわれるかと思われたその時、不意に大剣を構えるエリスが硬直した。剣を取り落とし頭を抱えて苦しみだす。

「が! あ……ぐぅっ!?」

 エリスの苦しみ様にサラとミーナが困惑の視線を向ける。その視線の先、苦しむエリスはとうとう膝をつき両手で頭を抱えて苦しみだした。

「クッ……き、貴様……今更何の用じゃ……! この身体はすでに妾の物じゃ! 返せなど、そんな事聞く訳なかろうが……!!」

 気丈にもそう叫ぶ大魔王エリス。だが、その瞳はすでに涙で満ちていた。

「い、一体どうしたって言うんですの……?」

 エリスの謎の言動に、サラが疑問の声を上げる。エリスはまるで見えない何かと言い争うように声を上げて苦しんでいた。
 するとその時、不意にサラの背後から呻(うめ)くような声が聞こえた。サラがそちらに目を向けると、意識を失っていたサーシャが目を覚ましていた。ミーナがサーシャに声をかけている。

「大長老様! しっかりなさってください!」
「心配はいりません……死にはしませんよ……」
「お母様、先ほどからクロエさんの様子がおかしいんですの。何かご存知ですの?」

 サラの問いかけにサーシャは視線を上げて苦しむエリスの姿を見た。少しの間考えるように観察していたが、すぐに口を開いた。

「……恐らくですが、現在エリスの中で取り込まれかけたクロエさんの意識が戦っているのでしょう……私が戦っている時も、何度か同じようなことがありました……」
「で、では……!」

 サラが希望を見つけたように声を上げる。その反応にサーシャも頷く。

「ええ、まだ希望はあります……ミーナ、これを……」

 サーシャはそう言うと懐からとあるものを取り出した。ミーナに手渡されたそれは黒色の皮で出来た首飾りだった。一見するとただのチョーカーであるが、それからは底知れない神聖な何かを感じる。それを手にしたミーナが驚いて声を上げた。

「こ、これは……! かつて『光の女神アテナ』が身に着けていたとされる装飾品ではないですか!? これは郷の至宝とも言うべき物……これをどうしろと……?」
「それは、強い光の性質をもつ封印具でもあるのです……現在の、大魔王……いえ、魔神エリスの意識が弱まっている今なら、これで封印ができるはずです……これが恐らく、最後のチャンス……頼みましたよ、ミーナ、サラ……」

 そこまで言うとサーシャは再び意識を失ってしまった。サラとミーナはサーシャをそっと横にすると、先ほどまでのどこか諦めたような雰囲気は一転、希望に燃える瞳で立ち上がった。

「ミーナ、私がクロエさんをひきつけますわ。その間にこれを。」
「分かりました。」

 そう言ってサラはミーナに封印具を渡す。受けとるミーナの表情、その表情はいつもと変わらない物にみえた。
 苦しむ大魔王エリスだが、その異様な雰囲気を感じ取ったのだろう。苦悶の表情をあげながらも立ち上がりサラとミーナを睨み付けた。

「うぐ……き、貴様ら……! 何故貴様らがそれを持っている!?」
「悪い魔神様を封印して、大切な人を取り戻すためですわ!」
「ほざけ! 封印など……されてたまるか!」

 そう叫ぶとエリスは右手を前に突き出し【暗黒小魔法ダーク】を放ってきた。だがそれはヘロヘロの軌跡を描く、何とも頼りないものだった。
 サラとミーナは放たれた魔法を難なく避けると、それぞれがそれぞれの役割を果たすべく行動を開始した。サラは弓を取り出すと魔力を込めて展開、威力を殺した風の矢を生成する。

「……クロエさん、少し我慢してくださいね!」

 その言葉と共に矢が放たれた。まっすぐに飛ぶ矢は防御も取れない魔神エリスの腹部、みぞおちに命中した。

「かはッ……!?」

 体をくの字に折ってよろめくエリス。その隙を逃さず背後に忍び寄ったミーナが首に封印具をはめようとする。だが、すんでのところでミーナの両手首をエリスがつかんだ。

「クッ……離しなさい!」
「い、嫌じゃあ……ッ!」

 お互いがせめぎあい拮抗するかと思われたが、その身体は元々クロエの物。単純な腕力でミーナに適うはずもなく徐々に封印具が首に近づいていく。

「あ……や、嫌……嫌じゃ……! わ、妾はもう、封印などされたくない……! 何で、妾が……!」
「――ッ!」

 クロエの身体で、クロエの顔で、涙を流しながら発せられたその言葉にミーナの手が一瞬緩みそうになる。だが、その時サラの声がミーナに届いた。

「ミーナッ!!」
「――はい!」

 ミーナは力を込めてエリスの、クロエの首に封印具を巻く。その瞬間、辺り一面を渦巻いていた重苦しい雰囲気は霧散、おどろおどろしい魔力も消えた。封印具をつけられたクロエはそのまま意識を失い地面に倒れる。

「ク、クロエさん……!」

 サラが心配そうに声を上げる。ミーナがすぐに駆け寄ってその様子をうかがう。すぐにミーナは顔を上げると、心配ないとばかりに頭を振った。

「ご安心ください。意識を失っているだけです。」
「そ、そうですの……」

 サラが安心したように大きく息をついた。そのまま脱力したようにペタンと腰を落としてしまう。

「これで、終わったんですのね……奇跡的に死人も出なかったようですし、本当に良かったですわ……」
「そうですね……そうだ、厳戒態勢の解除と救急の要請をしなくては。」

 そう言うとミーナは郷へ向けて【魔力念話テレパス】を送った。これで直に救助が来るだろう。

(本当に長かったですわ……でも、実際はそこまで時間がたってなかったみたいですわね。まだ太陽が沈んでおりませんもの。)

「……しかし、クロエさんは何者なんでしょうか?」

 ミーナがふとした様子でそう言った。もはや彼女の存在は明らかにただの転生者とは言い難いものにある。その身体に眠っていた大魔王、いや、魔神の存在。与えられた役割(ロール)。全てが謎に包まれている。
 暗い表情で考え込むミーナを他所に、サラは意識を失っているクロエの頭を抱えて自分の膝へ乗せる。そのまま、その頭をなでながら口を開いた。

「良いじゃないですの。たとえクロエさんが何者であろうとも、ここにいるクロエさんはクロエさんですわ。私たちの良く知る、照れ屋で可愛くて、少し意地っ張りなところがあって、でも寂しがり屋で……そんなかけがえのない存在なのですわ。」

 サラの言葉にミーナも表情を緩める。その場に少し穏やかな雰囲気が流れたその時、ふと遠くから複数の気配が近づいてくるのを、サラとミーナは感じ取った。おそらくそれは先ほどミーナが手配した救護隊なのだろう。ずいぶんと早い行動だが、ここには傷ついた郷の最高責任者がいるのだ。その素早さも納得できる。サラはそう考えて郷の方向を注視した。
 だが、サラたちの前に現れたのは救護隊ではなかった。それは主に郷内の警護や、大長老の身辺警護を担う集団だった。彼らは完全武装の状態で油断なくクロエとの距離を詰める。

「対象に反応なし! 今が好機である、総員対象を捕縛せよ!」

 集団の指揮を執っているらしいエルフの男が指令を出した。同時に屈強なダークエルフの男たちがサラからクロエを奪い取り、この郷では貴重だろう、金属製の拘束具でがんじがらめにしてしまった。その様子にサラが慌てて立ち上がり抗議する。

「お、お待ちなさい! こんな幼子相手に、一体何の狼藉ですの!?」

 サラの叫びに先ほどのエルフの男が前に出た。この男、どこかで見たことがあると思うサラであったが、彼は郷の長老の一人、ハイエルフだった。

「これは、サラ様ではないですか。そのお優しいお気持ちは大変結構でございますが、この娘は大長老様でも敵わなかった相手、しかも我々エルフの憎む魔王共の親玉、大魔王エリス・ジークリット・メフィストフェレスである可能性が高いのですぞ? この場で首を刎ねないだけ慈悲深いと思って頂かねば。」

 サラはその言葉を聞き悔しそうに歯ぎしりをした。男の言葉は正論であるからだ。少しやりすぎであるのは否めないが、今回の件が大長老でも抑えきれなかった案件であり、まごうことなき正論であるからだ。

(ですけど……だからと言って納得できるかは別ですわ!)

 サラが今まさに同胞に牙を剥かんとしたその時、横から手を出してそれを制する者がいた。サラがそちらを向く。そこにいたのはミーナだった。

「お嬢様、落ち着いてください。どうか、ご冷静に。」
「ミ、ミーナ! ですけど、クロエさんに対するあの仕打ち、黙って見ていられませんわ!」
「……分かっておりますとも。」

 ミーナはそう返事をすると先ほどの男、ハイエルフの長老へと向き直った。ミーナの鋭い眼光に長老はたじろぐ。

「こ、これはこれは……大長老様の秘書兼身辺警護長のミーナ・アレクサンドリア殿ではないですか。我々に、な、何の用ですかな?」

 どうやらこの男はミーナと面識があったようだ。郷における長老の地位はミーナの秘書兼身辺警護長と等しいのである。武官と文官の違いなのだ。
 サラは男のその言葉を受けて、まっすぐ見つめ返しながら言った。

「ご無沙汰しております。一つ苦情申し上げたいのですが、そちらの少女の拘束は過剰と思われますので、即刻解除していただけませんか? 精々手錠が関の山であると思うのですが。」

 ミーナの言葉にハイエルフの男は目を向いて驚いた。そして身を乗り出すように反論をする。

「な、何をバカなことを! この娘がどういった存在か、今まで戦っていたあなたなら知らないはずがないでしょう!? こいつは十中八九、かの大魔王エリス・ジークリット・メフィストフェレスなのですよ! 先ほどもサラ様に申し上げました通り、この場で殺処分しないだけでも十分理性的ではないですか?」

 男はあくまで正論をぶつけてくる。それが最善の方法であり正攻法であると知っていたからだ。
 だが、あくまでミーナは冷静に対処を続ける。言葉を荒げることもなく、ただ淡々と事実を述べていくのだった。

「では、あなた方の拘束している少女の首元をごらんなさい。それが何を意味するのか、ハイエルフで長老と言う任を負うあなたならば理解できるはずです。」
「く、首元ですと……?」

 訝(いぶか)しげな声を上げながら男はガチガチに拘束されたクロエの拘束具の隙間から首元をのぞき込む。そこからは微かに黒色のチョーカーがその姿を現していた。それを確認した男は途端に狼狽しだす。

「こ、ここ、これは! 大長老様が保管していらっしゃる『光の女神アテナ』の首飾りではないですか! 郷の至宝とも言えるものが、なぜこんな娘に!?」
「これはその経歴から、非常に高い光の加護を持つ聖遺物……魔の物にとってはこれ以上ない程の封印具となり得るのです。それをつけている限り復活することはありません。」
「し、しかし……」

 ミーナの言葉を受けてもいまだ決断付かずまごつく男。その様子にミーナが最後のダメ押しを放つ。

「まさか……魔王の類や私を信頼できないとしても、大長老様を信頼できないと言うつもりですか?」
「め、滅相もないっ!! お、おい! 拘束を緩めるんだ、早く!」

 ミーナの顔に顔を青ざめさせたハイエルフの男はダークエルフらにそう命じた。命じられたダークエルフらは慌てて拘束を外しにかかる。それを黙って見ていたサラの内心は白けたものだった。

(最初は自分の権力をちらつかせるくせに、さらに上の権威を見せたとたんに手のひら返しの尻尾振り……やはりこの郷の上層部は信用なりませんわ。)

 サラの険しい表情を見て何か思うのか、ミーナがサラの耳元で囁いた。

「お嬢様、ご安心ください。ああして拘束するということは少なくとも裁判にかける余地を持っていることに他なりません。それまでは命の保証もされますから。」
「そ、それはそうですけど……」

 ミーナの言葉でもサラの不安はぬぐい切れなかったようだ。念のためミーナは言葉を重ねる。

「何より、今回の事件はこの郷の歴史の中でも最高クラスの物となるでしょう。そうなれば今回の事件の裁定を下すのは大長老様を除いて他ありません。大長老様でしたら今回の事情も分かっていらっしゃいますし、幸運なことにクロエさんが覚醒した後のことはほんの一握りの者しか知りません。」
「そう、ですわね……しばらくは大人しくしておきましょう……」

 サラがそう言って黙り込んだ。完全に納得はしていないだろうが、落としどころは見つけた様子である。

(敵を倒して、仲間は無事で……それで一件落着とは行かないのですわね。物語の様にうまく事は運びませんもの……)

 まるで己の無力さを恨むかのように、唇をかみしめて連れ去られるクロエを見送るサラ。こうしてエルフの郷の歴史に永久に残るであろう大事件は幕を下ろしたのだった。










 ――再びやってきたこの世界。荒れ狂う風が頬をなでる。
 ――目覚めると忘れてしまうこの世界。遥か、高い、空の色。
 ――クロエが一人たたずむこの世界。だけど、やはり後ろに何かの気配がする。

「……なかなかに大変な目にあったね。あの子は気難しいよ?」
「ボクの後ろからばっかり話しかけてくるのは何でなのさ?」
「シャイなんだよ。恥ずかしがり屋なのさ。それよりも、ようやく君はスタートラインに立ったんだ。ご感想をどうぞ?」
「感想って……まぁボクはボクなりに精一杯やるだけだよ。後悔は、したくない。」
「へぇ……言うじゃん。良い心意気だ。私には出来なかったことさ。ぜひ頑張ってほしいね。」
「出来なかったって、何が……」

 ――振り返った視線の先、そこには誰もいなかった。
 ――しかし、どこからか声が聞こえてくる。
 ――「自分と、仲間を信じることだね。」と。
 ――荒れ狂う風が背中を押す。









 クロエが目を覚ましたそこは、どこかヒンヤリとした寝心地の良い空間だった。ただ、無性に背中が痛い。それはその寝ている床の素材によるからだろう。

「んぅ……くぁ、あ……ふぅ。あれ、ここは……?」

 とりあえず伸びでもしようとして手を持ち上げるクロエ。しかし、その両手からはこのエルフの郷ではなかなか聞かない硬質的な、重たい金属の擦れる「ジャラ……」という音が響いた。それを聞き自身の両手に視線を送ったクロエは今までの記憶を思い出す。

「……そっか。とりあえず終わったんだね……」

 重たい音を放つ手錠を自嘲するかのような視線で眺めながらクロエはそう呟いた。
 魔神エリス・ジークリット・メフィストフェレスが覚醒している内、クロエは度々意識を取り戻していた。エリスの意識が薄まる度にクロエの意識は表層に上がり、エリスは苦しんでいた。エリスの一連の行動はまるで夢を見ているかのような感じでクロエは把握している。故に自身の両手にかかる手錠に疑問は覚えなかったのだ。
 手錠から目線を動かし辺りを見回す。そこは誰が見ても牢屋と分かるぐらいに分かりやすい石造りの空間だった。このエルフの郷でこれだけの石材は貴重であろう。この空間にかけるエルフの思いが伝わるようだ。なんと牢の入口にはとても貴重な金属素材の鉄格子まで用いられている。

(こうして捕らえられていても生きているわけだし……最悪の事態だけは免れたのかな?)

 ふとクロエは牢の中に備え付けられた鏡を見た。そこに映る自分の姿、その首元に映るまるで首輪のようなチョーカー。それこそエリスが恐れた封印具なのだろう。手錠につながれた手で触れても特に何も感じない。

「これがそんな大層な物には見えないけどね……どっちかって言うと何か首輪みたいで、こんな小さい子に着けられているのは倫理的にマズそうだけど……」
「おい! さっきから何をブツブツ言っている! 起きたならさっさとこちらへ来い。裁判を始めるぞ。」

 いつの間にか一人のエルフの男性が鉄格子の前に立ちクロエを険しい顔で睨んでいた。クロエが鉄格子の方へ近づくと、その男はクロエが凶器を持っていないか、封印具をつけているかを厳重に確認した後、恐る恐ると言う風に鉄格子の扉を開けクロエを外へと出した。
 手錠に縄をつけクロエを引っ張るエルフの男。その間もその男は文句を言っている。

「まったく……どうして俺がこんな役目を……魔王の類になんか魔王の類になんか近づきたくないって言うのによ……」

(……覚悟してたつもりだけど、やっぱりこうして忌避されると辛いもんだね……)

「ん? なんだその目は? とっとと歩かんか!」
「……はい。」

 男はクロエの手錠につながる縄を引っ張り催促をする。足取りも重くクロエは歩き出す。牢は地下に設けられた施設であったようで、階段を上がって出た先には外の光景が広がっていた。そこはいわゆる地獄絵図と言う形容がぴったりの景色が広がっていた。至る所に血の跡がこびりつき、路の各所にはモンスターや魔物の死骸が散乱されている。住民はその後片づけに追われているが普段は肉を食べない彼らである。死骸に近づくことすら難しいようだ。
 道行くクロエに郷の人々が気づいた。大っぴらに声を上げる者はいないが皆一様にクロエの方を見て小声で何かを話している。何事かとクロエがそちらを向くと何もしていないにもかかわらず小さく悲鳴を上げて後ずさった。

「あ……」

 そうして忌避されるクロエもまた傷ついたように顔をしかめた。その心は悲しみで埋め尽くされていた。
 そのような引き回りまがいの連行の後、クロエは郷の裁判所へ到着した。ミーナから数十年は使われたことがないと教わった裁判所、まさかその数十年ぶりの被告が自分になるなどとは夢には思わなかったクロエである。
 待合室などの設備はなく、入り口をくぐるとすぐにそこは裁判所であった。そこには郷の恐らく上層部なのであろう、上等な服を着たエルフが顔をそろえていた。クロエの入廷に皆小声で話を始める。

「あれが噂の……」
「あんな見た目でか……」
「なんと恐ろしい……」
「何故この郷にあのような者がいるのだ……」

 クロエの人類種よりも優れた耳はその小さな会話すら拾ってしまった。聞く気のない自分への侮蔑の言葉に心がさらに重くなる。
 クロエがうつむいたまま裁判所内の中心部、頑丈な拘束具のついた椅子に座らされ拘束された時。不意に裁判所の入口が騒がしくなる。クロエが横を向いて入口を向くと、そこには見慣れた金髪の女性が立っていた。入口を守る衛兵と何かもめている。

「お、お下がりください! ここは関係者以外立ち入り禁止です!」
「私を関係者とせず誰を関係者とするつもりですの!? 少なくとも今中にいる誰よりも今回の件を知ってますわ!」
「し、しかし……これは長老様からのご指示でして……」
「それならば大長老の一人娘として命じますわ! あなた達、今すぐそこを退きなさい!」

 押し問答の末、なんとか傍聴席への立ち入り許可をもぎ取ったようだ。周りの視線をものともせずサラは急いで傍聴席への階段を上る。そしてその最上段に立つとクロエの方を向いて手を振りながら大きな声で話しかけた。

「クロエさん! 大丈夫、すぐに自由になれますわ!」
「サラさん……」

 サラの温かい言葉にクロエの目が潤む。目覚めて初めての温かい言葉に、荒みかけていたクロエの心が暖められるのを感じた。

(正直、サラさんには嫌われても仕方ないかなって思ってたのに……誰よりも迷惑をかけた相手なのに……)

 両手が拘束されている以上、涙が流れたとしたらそれを拭うことは出来ない。クロエは必死の思いで涙を堪えた。
 それから幾ばくもしない内にクロエが入ってきた入口とは逆、カーテンで隠された入口から一人のエルフの女性と大長老が姿を現した。女性は入口すぐ脇の演説台のような場所に、大長老は階段を上がりクロエを正面から見下ろすような位置の玉座に座る。
 クロエを見下ろす大長老。その視線は初めてクロエが二人っきりで面会した時のような鋭い物であった。そしてそのどこか鋭い雰囲気の姿そのままに、口を開き威厳にあふれた口調で話し出す。

「……始めなさい。」
「ハッ。それではこれよりそこの少女、クロエにまつわる一連の事件の裁判を開始します。」

 エルフの女性の言葉を開幕の合図に裁判が開始された。女性はこの裁判が始まるまでの間にサラやミーナ、その他とにかくこの件を知る者からの情報を集めたと思われる報告書を読み上げていった。事件のあらましを話し、そこへクロエがどのように関わったのかを確認する。時折クロエへ確認の意味合いを込めて放たれる質問もあったが、クロエはその全てにただ「はい。」と淡々と答えていった。
 しばらくの話があった後、女性が「以上です。」と言って、裁判所内は一時静寂に包まれた。そしてその静寂を破るように大長老が口を開く。

「事件のあらましは確認できました。裏付けも被告人の認証の下行われました。では、クロエ。最後に何か言いたいことがあれば述べなさい。」

 クロエはその言葉を聞くと、身動き一つ取れない状態のままではあるが、力強い言葉で大長老へ向けて話し出した。

「……今回の事件は、さっきも確認してくれた通りすべてボクに責任があります。ボクの意識下で行われたことではないとは言え、この郷を荒らすという明確な敵対行為を働きました。許されざる行いであると思います。なので、罪を与えるのであればボクだけに与えてください。サラさんや、ミーナさんは関係ありません。」

 毅然と放たれたその言葉に、サラが立ち上がり傍聴席の最前列に設けられた柵へ駆け寄り口を開いた。

「ま、待ってください! 何を言ってるんですの、クロエさん!? クロエさんが悪いわけないじゃないですの!」
「静粛になさい!」

 サラの擁護の言葉は大長老の一喝によって打ち消された。言葉を遮られたサラは大長老の方を恨めし気に睨む。
 サラの睨みの視線もどこ吹く風。大長老はクロエを見下ろすと、どこまでも感情を込めない冷たい言葉で判決を言い渡す。

「被告、クロエ。あなたの気持ちは受け取りました。我々としてもあなたの事情を最大限くみ取ったうえでその願いを聞き入れましょう。そして、それを踏まえた上であなた判決を言い渡します。主文、被告クロエを国外追放処分とします。裁判終了後、速やかにこの郷を出立なさい。そして二度とこの郷へ足を踏み入れることを禁じます。」

 国外追放処分。それはこのエルフの郷における最高刑であった。その判決に傍聴席のエルフらは一斉に安堵のため息を漏らす。
 ――ただ一人をのぞいては。

「い、異議ありですわ! 大長老、それは本気ですの!?」

 傍聴席の最前列、柵から身を乗り出さんばかりに前のめりのサラであった。サラは判決に不服があるのだろう。まっすぐに大長老を見据えると猛烈な抗議を始めた。

「今回の件はクロエさんの意思では無いのですわよ!? それだと言うのに、こんな幼い少女に国外追放処分を言い渡しますの!?」
「無論です、サラ・エルゼアリス。あなたの言い分を加味した上でも今回の事件は被害が大きすぎます。奇跡的に死者はいないものの、負傷者多数に家屋などの建造物の被害も甚大です。負傷していないものの中には心に大きな傷を負った者もいます。何より、一番見過ごせない点として、クロエの中に封印されている大魔王、いえ、魔神エリス・ジークリット・メフィストフェレスの存在です。そのような超危険存在を郷に置いておく訳にはいきません。」

 サラの抗議を理路整然と反論していく大長老。その言葉にサラが思わず口を噤(つぐ)む。だが、このまま納得することは到底できないのか、さらは再び口を開いた。

「で、ですけど……! いくら何でもクロエさんはまだ子供ですのよ!? あなたはこんな子供を危険な郷の外へ放り出すと言いますの!? 郷の外がいかに危険かはここにいる者ならだれもが知ることですわ。それを踏まえた上でその判決をしたと言うのなら、あなたの方がよほど魔王のようですわ!」

 サラの言葉に幾人かの傍聴人が目をそらす。そう、いくら今回の件を引き起こした張本人とは言え、裁判所の真ん中で厳重に拘束された痛々しい姿の被告は紛れもない少女なのだ。傍聴人の中には子供もいる者がいるのだろう。中にはちょうどクロエと同じような年かさの子供もいる者もいるだろう。自分の子供が郷の外へ。その想像だけであふれ出る罪悪感が心を苛(さいな)むのだ。
 だが、その言葉を受けた当人である大長老はどこまでも涼やかな表情で、感情を一切見せない顔でサラを見つめる。

「言葉が過ぎますよ、サラ・エルゼアリス。自重なさい。私とて考えなしに言ったわけではありません。そこの者については戦闘能力などに問題はないと部下より報告が上がっています。魔法の使用に関しても十分。何より、幸か不幸か今のジーフ樹海はモンスターや魔物が激減しています。それら全ての要素を加味した上で、私は問題ないと判断したのです。」

 サラの言葉も正論ならば、大長老の言葉もまた正論。正論同士の鬩(せめ)ぎあいはより権威の高いものに軍配が上がった。傍聴席に集う傍聴人たちの大勢は大長老側に傾いている。

「で、でも……!」

 サラが諦めきれないとばかりに口を開く。だが、彼女自身もはや反論することができないのだろう。「でも」の後に続く言葉がどうしても見つからないようだ。
 それを確認した大長老はもはやこれ以上の詮議は必要なしと判断したのだろう。座っている椅子の前の台に置かれた木槌を手に取ると、台へ叩きつけ堅い木材特有の高い音を響かせ注目を集めた。

「……これ以上の議論は認めません。判決は出ました。これにて裁判を終了します。被告クロエは判決に従い速やかに郷を出ていくように。」
「……はい。わかりました。」
「ク、クロエさん!?」

 サラが驚いたように声を上げた。クロエは屈強なダークエルフの男に囲まれながら体に着けられた拘束具を外されていく。そして椅子から立ち上がるとサラの方を向いて話し出した。

「大丈夫ですよ、サラさん。郷の外のモンスターや魔物はボクが倒したみたいですし、短い期間でしたけどサラさんやミーナさんから色々学んだんですから。」
「で、でも……」
「……それに、ボクの中に魔神がいるのは確かなんですから。ボクみたいな存在が、この郷の中にいるわけにはいきませんよ。」

(そう……この郷の成り立ちを考える以上、ボクのような存在が許されるはずはない。それに、ボクの存在は郷に知れ渡っているからこのまま郷にいても窮屈だよ。)

 ダークエルフらに連行されながらクロエはそう考えていた。裁判所を出ていく直前、サラと目が合う。サラの納得がいかないと言う表情に少し心の痛むクロエだったが、仕方のない事と無理やり自分を納得させるのだった。










 それから数十分後、クロエは郷の外れ、郷の門にいた。サラの家に戻ることも許されず門まで直で連行されたのである。

(とは言っても、私物なんてなかったから別に構わないんだけどね……)

 いくら国外追放者相手とは言え流石に同情があるのか、郷の門にてクロエは数日分の食料とその他道具、多少の路銀の入ったカバンを受け取った。ここまでクロエを連行したダークエルフらはクロエを門へ送り届けると手錠を外して去って行ったが、門に詰めている門番のエルフの男らは恐る恐ると言った様子でクロエにいろいろと教えてくれたのだ。
 現在、クロエは一人森の中を歩いている。背中には荷物の入ったずた袋を担ぎ、右手には門番のエルフに書いてもらった簡易な地図を持っている。このエルフの郷から一番近い国へ向かう道だ。

(なんだか変に寂しく感じると思ったら……そうか、こうして一人で歩くのってトライウルフに追いかけられてた時以来なんだな。いつもサラさんかミーナさんと一緒だったから……)

 クロエは湿っぽくなってしまった気持ちを振り払うように頭を振った。そして努めて明るく聞こえるように声を上げるのだった。

「さ、さぁて! どこに行こうかな。せっかく一人なんだし、自由に……」

 だが所詮は空元気、わざと発した明るい声はうっそうと茂る森に吸い込まれて逆に空寒く感じてしまう。先の事件の被害を免れたのであろう、鳥らしき生き物の鳴き声が姿の見えない恐ろしさとしてクロエの心を苛(さいな)む。

「……サラさん……ミーナさん……」

 ポツリとつぶやいた言葉が、遂にクロエの心の堤防を決壊させた。愛しい人をつぶやく言葉と共に、瞳からぽたりと涙が落ちる。ひとたび落ちた涙はぽたぽたと、止(とど)まるところを知らずクロエの頬を濡らしていく。もう失ったもの、取り戻せないものを思い返し、一人ただただ涙する。その感情は後悔なのだろうか。

「ヤダ……嫌だよ……一人ぼっちは、嫌だ……」

 拭(ぬぐ)う涙も乾かぬうちに、新しい涙が袖口を濡らす。ヒックヒックとしゃくりを上げて歩くその姿は、まるで迷子になった少女のようだ。
 しかしその時、ふとクロエの耳にガサガサと草むらをかき分けて進んでくる何者かの音が聞こえてきた。それはどうやらクロエの方向に向かってくるらしい。この時クロエはある一つの可能性を考えた。
 国外追放を命じた大長老がクロエの討伐隊を投入したという可能性だ。
 それは非現実的なものではない。エルフの郷における最高刑が国外追放である以上、郷の裁判所でクロエの処刑を命じることは出来ない。しかし、世界のためを思うのならば殺すのが最善策である。故に、一度は国外追放を命じ後ほど討伐隊を仕向けるのである。これならば郷の一般エルフらは何も知らずに済むのだ。
 クロエはその可能性に思い当たると歩くのをやめた。そして抵抗せずに殺されることを覚悟して、目を閉じて直立不動で立ち尽くす。

(……やっぱり、ボクはいない方がいいよね……うん、本来なら川に落ちたあの時ボクは死んでたんだ。むしろこうやっていい人たちに会えて、楽しい思い出ももらえて幸せだったよ。)

 ガサガサとクロエの方へ迫る音はどんどん近づいてくる。目を開けばその相手が分かるだろう。しかし、目をつぶるクロエにはそれを知るすべはない。

(他のみんなはどうなったのかな……ボクみたいに死ぬことにならなければいいけど……どうか、お元気で。)

 最後の瞬間を覚悟して待つ。すると、とうとうその謎の音はクロエのすぐ目の前までやってきたようだ。思わずビクッと身をすくめる。

(来る……!)

「クロエさんッ!!」
「え?」

 どこかで聞いたような声がクロエの名前を叫びながら抱き着いてきた。抵抗する意思のなかったクロエはそのまま押し倒されてしまう。

「ふみゃっ!?」
「あぁ、クロエさん……そんな涙まで流して……寂しかったんですわね! 大丈夫ですわ、私が来ましたもの!」
「サ……サラさん!? ど、どうしてここに……?」

 そう、草むらをかき分け、クロエの下へ急いでいたのは先ほど裁判所で別れたばかりのサラであったのだ。涙の跡が残るクロエの顔を心配そうに覗き込んでいる。

「あ、あの……と、とりあえず退いてくれませんか……? この体勢は、ちょっと……」
「え……? あ! も、申し訳ないですわ! す、すぐ退きますので……」

 まるでサラがクロエを押し倒したかのような体勢に二人は顔を赤く染めて顔をそらした。実際問題、事実だけ見ればサラがクロエを押し倒したのは間違いではないのだが。
 クロエの上から退いたサラは大きなカバンを背負っていた。よほど急いできたのだろう、恥ずかしさからの赤面以外にもその顔は赤く上気していた。薄っすらと額から汗もかいている。

「サ、サラさん……一体どうしたっていうんですか? それに、その荷物……」

 クロエが呆然と言った様子でサラに質問をした。疑問を投げかけられたサラはどこか恥ずかしそうにはにかむと、頬を指でかきながら打ち明けるように口を開いた。

「え、えへへ……家出してきちゃいました。」
「は?」

 意味が分からないと言うようにクロエが声を上げる。その声にサラが打ち明けるように話し始めた。
 あの裁判の後、やはり納得がいかなかったサラは何と大長老の邸宅に乗り込み、長老と大長老が集まる会議室へ突入。そのまま全員の前で抗議を行ったのだと言う。だが、結果は振るわず、一度下った判決を覆すことは出来ないと言われ、むしろクロエの正体を見抜けず郷の中へ連れてきたサラを非難する意見まで出てしまったのだ。
 とうとう堪忍袋の緒が切れたサラは、長老の前で大長老に念のため持ってきたという絶縁状を|文字通り(・・・・)叩きつけ、更には出奔を宣言した。すぐに自宅へ帰ると必要な荷物のみを詰め込み、大慌てでクロエの後を追いかけたのだと言う。

「そ、そんな……マズいですよ、サラさん! サラさんにだってあの郷での暮らしがあったじゃないですか。それを投げうってくるだなんて……」

 クロエがサラの話を聞いて顔を青ざめさせて言った。クロエ自身心の片隅でサラが追いかけてきてくれたら、など考えることもあった。だが、実際に追ってくるとは思いもしなかったのだ。
 だが、サラはクロエの狼狽を意に関せず笑顔でクロエの言葉を否定した。

「構いませんわ! 私自身あの郷のどこか封建的な雰囲気はうんざりしていましたし、それに、こんな可愛い子を郷の外にほっぽりだすだして平気な顔をする人たちとの暮らしなんて、こちらから願い下げですわ!」
「サラ、さん……」

 サラの力強い言葉にクロエは感動したように呟く。表面上だけはせめて申し訳ない様子でいようと努めているのか、緩みそうになる顔を必死に引き締めている。
 だが、どうしても気持ちは隠せないようだ。背後に見えるクロエの尻尾がパタパタと左右に振られていた。それをサラも気づいたのだろう。「あら」と声を上げて笑顔を見せた。

「……分かりました。あの、それじゃあ、よろしくお願いしま……って! な、何笑ってるんですか!?」
「いーえいえ、何でもありませんわ♪」

 サラの言葉にクロエは「もう……!」と怒ったようなポーズをとっているが、その実嬉しくてたまらないようだ。サラはご機嫌な様子でクロエの傍へ近寄ると、その手を取って口を開く。

「改めまして、よろしくお願いしますわ。」
「……はい、お願いします。」










 再会から数時間。森を歩く二人である。その足取りはクロエ一人の時よりもしっかりしたものだった。

「クロエさん、もう少ししたら湖に着きますわ。今日はそこで夜を明かしましょう。」
「え? でも、まだ明るいですよ? もう止まるんですか?」

 サラの言葉にクロエが驚きの言葉を上げる。クロエの言葉通り、木々の合間から覗く空はまだ明るい。サラの言葉通り夜を明かす準備をするには早すぎるのではとクロエは考えたのだ。

「そうですわね、確かにテントを張るにはまだ早いかもしれませんわ。でも、この先はテントを張れるほど十分な広さを確保できるほど開けた場所もありませんの。かといって、夜の森を歩き続ける危険は冒したくないですわ。ですので、少し早いですけど見晴らしの利く湖の畔(ほとり)で場所を確保するのが得策ですの。」

 サラの言葉に納得するクロエ。二人はザクザクと森の中を進んでいく。その最中、思い出したかのようにサラが口を開いた。

「それにしても、ミーナは薄情ですわね。」
「え?」

 サラの突然の言葉にクロエは疑問の声を上げる。ミーナは言葉を続けた。

「ミーナですわ! 私と同じくらいの時をクロエさんと過ごしたと言うのに、裁判所にすら顔を出しませんもの! ミーナがあんな人だとは思いませんでしたわ。もう知りません!」

 怒り心頭といった様子で吐き捨てるサラ。その様子にクロエとしては何も言えない。

(サラさんの気持ちも分からなくはないけど……ボクがそれを言えた義理じゃないし……)

「ま、まぁ……良いじゃないですか。ミーナさんにも何か事情があったのかもしれないですし……」
「……ふーん、クロエさんはミーナの肩を持つんですのね……ハッ! も、もしや、何か特別な感情でも……」
「あ! 湖が見えましたよ!」

 サラの言葉をぶった切るようにクロエが声を上げて走り出した。木立を抜けた先、そこには驚くべき光景が広がっていた。
 それはとても異様な光景だった。まるでこれから夕食が始まると言わんばかりに準備がなされたキャンプ道具や調理器具の数々。後から続いてきたサラもその光景に絶句する。

「こ、これは……?」

 驚く二人を他所(よそ)に湖畔には静かな時間が流れている。不意に二人の近くの茂みが音を立てた。それにつられて視線をやると、二人と同じように木立を抜けてとある人物が姿を現した。二人の表情が驚愕に染まる。

「「ミ、ミーナ(さん)!?」」
「はい? おや、お早いご到着ですね。」

 呆気にとられる二人の前に姿を現したのは、この広い世界を探しても恐らくこの人以外にはいないだろうと言う特徴的な外見、褐色の肌と紫がかった銀髪。メイド服を身にまとう大長老の秘書兼身辺警護長、ミーナ・アレクサンドリアであった。
 彼女は二人の呼びかけに首をかしげて返事をすると、恐らく拾ってきたのであろう薪(たきぎ)を近くに置いて二人へ話しかけた。

「フフッ、お二人とも見事なまでの驚愕ですね。とりあえず聞きたいことなどは多くございましょうが、まずは食事にいたしましょう。冷めてしまってはせっかく苦労して食材を集めた食事が台無しですから。」

 混乱の最中にかけられた言葉につい従ってしまう二人。まるでそこに初めから置かれていたような机と椅子に腰かけると、卓上にできたての料理が運ばれる。そして、静かな湖畔を横目にした優雅な夕食は始まるのだった。
 会話もほとんどなされないままに食事が終わる。食事を終えた三人は仲良く用意された紅茶を飲んでいた。

「……ふぅ。落ち着きましたわ。で、ミーナ? 説明してくれますわよね?」

 サラが紅茶の入ったカップを机の上に置き、ミーナにそう話しかけた。その様子は食事中も見せていたどこか不機嫌な雰囲気が薄れているようだ。
 サラの言葉に答えず、ミーナは【パンドラ】を突如展開。一通の封筒を取り出しながらサラへ話しかける。

「お嬢様、まずは何も言わずこの手紙を読んでください。そうすれば大体の疑問は氷解するかと。中にはクロエさんに書かれた手紙もありますので、もしよろしければご一緒にお読みください。」
「手紙、ですの……?」

 サラが疑問の声を上げながら差し出された手紙を受け取る。しっかりと封のなされたその封筒に記された差出人の名前はサーシャ・エルゼアリス、大長老の名前だった。
 疑問だらけのままサラが封筒を開き、手紙を取り出す。クロエに書かれたものを手渡し自分宛ての手紙も取り出して黙読する。クロエもそれを横目に黙読を始めた。

『クロエさんへ

 今この手紙を読んでいらっしゃる頃は、恐らく郷の外にいるのでしょうね。この手紙はあなたが意識を失っている間に書いたものです。おそらくクロエさんは受けられたでしょうが、裁判で私はあなたに厳しいことを言うことになると思います。どうかお許しください。あなたの正体は郷の長老たちの手によって半ば公然の秘密の様に郷中へ広まってしまいました。故に私はあなたへこの郷における最高刑の「国外追放」を言い渡すことになるでしょう。
 しかし、安心してください。もちろん危険な郷の外、ひいては広い世界へあなた一人を送り出すつもりは毛頭ありません。クロエさんの旅のパートナーとしてミーナをお付けします。過去に一人旅の経験のある彼女ならば心強い存在となり得るでしょう。どうか、あなたの旅があなたにとって幸多からん物となることを祈っています。

 エルフの郷大長老 サーシャ・エルゼアリス

 追伸
 私の娘のサラですが……もしかしたら、いいえ、恐らく私に絶縁状でも叩きつけてあなたの後を追うかもしれません。不束(ふつつか)な娘ですが、どうぞよろしくお願いします。』

 以上がクロエへ向けて書かれた手紙である。そこに書かれた内容はクロエの抱いていた疑問の数々を見事に氷解させるものであった。一番驚くべきは追伸以後の内容である。未来予知とも言うべき想像はまさに実現していた。
 サラの手紙にも似たようなことが書かれていたのだろう。クロエの横で同じように手紙を黙読するサラの顔は真っ赤に染まっていた。

「……実は私、お嬢様は来ると予想しておりました。ただそれはあくまで予想であり、本当に来ると言う実感はありませんでした。それだと言うのに裁判前にその手紙を書かれたということは……いやはや、流石大長老様はよく見ていますね。」
「う、うう、うるさいですわよ、ミーナ!」

 サラが顔を赤く染めたままミーナの言葉にかみつく。だがそれはおそらく照れ隠しなのだろう。口元に浮かんだ笑みが隠された感情を示唆している。
 手紙を読み終えてクロエは改めてミーナを見た。いつもと変わらないその雰囲気、まるで郷から少し離れた場所にキャンプに来ましたと言わんばかりである。そのまるで平静と変わらない様子に思わずクロエは疑問をしてしまう。

「ミーナさん、本当に良かったんですか? こんなボクの為に郷を出るなんて……もし、命令で出なければならないと言うなら、ボクは構いませんから早く郷へ……ムグッ!」

 言葉を続けるクロエの口をミーナは人差し指でふさいだ。そしてニコッと笑うとクロエの言葉に応えるべく口を開いた。

「……そこまでです、クロエさん。私とてお嬢様と同じ、自らの意思でここへ来たのです。確かに体裁上は大長老様の命ではありますが、それは私の意思を汲んでくださった大長老様が付けてくださった体裁なのです。クロエさんが裁判を受け終わるまでの間に様々な準備や職務の引継ぎなどを終えてきました。失礼ですが、クロエさんやお嬢様の装備では旅をするのに不十分ですから。」

 そう言うとミーナは【パンドラ】を展開、クロエとミーナにとあるものを手渡した。それは服だった。郷で作られている簡素(シンプル)なつくりの物ではなく、丈夫な素材で作られている。明らかに郷の中で作られたものではない。

「こ、これはどうしたんですの……?」

 サラがミーナに尋ねる。クロエも同じ疑問を持っていたようでミーナの回答を待っていた。

「これは、いつか今日のような日が来た時の為にあらかじめ発注していた物なのです。郷は移住を認めておりませんからいつか必ずクロエさんはこの郷を出て行かれます。そうなると十中八九お嬢様もそれについていかれると思いましたので、二人分の、旅に耐えられる衣装を用意していたのですよ。まさか、こんな早く必要になるとは思ってもいませんでしたが。」

 そう苦笑して笑うミーナ。その未来予知かとまごうばかりの予測は流石と言うしかない。
 ミーナの気持ちがうれしかったのか、クロエは思わず目頭が熱くなっているようだ。渡された服を腕に抱いて、少し涙ぐんだ声をあげる。

「ありがとう……ございます……!」

 その様子にサラとミーナが嬉しそうに笑う。湖畔のキャンプには穏やかな時間が流れる。これから三人には楽しい事ばかりではなく辛いことも待ち構えているだろう。だが、クロエはそんなことなど気にならないほどに未来を楽しみにしていた。

(辛い事とかもあるだろうけど……二人がいるならそれだって楽しくなるよ。)

 クロエはそんなことを考えながら目の端に浮いた涙を拭うと、サラとミーナの方へ向き直って笑いながら言った。

「二人に会えて、良かったです。」


 ―第一章・完―
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