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後編 龍の少年と龍の少女
第28話
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ハジミは、今までの人生の中でも一番真剣な思いで、カードを引いた。
「力、剣が三本、調和……」
ハジミは、ぎゅっと目をつぶり、顔を手で覆い、カードの意味を一生懸命思い出していた。
「力のカードねえ……。出会いの奇跡? 見えない力? 誠実?」
いんちき占いばかりやっていたハジミは、カードの正しい読み方を、あまり覚えていなかった。クジャが、悩んでいるハジミに声をかけた。
「ハジミ、そのカード、逆位置だよ」
「え! 逆位置! 逆位置だと……あまりいいカードじゃないわね」
「とがった刃物、っていう意味もあるよ」
「刃物ねえ……、じゃあ、刃物でも扱っている家の子どもなのかしら」
ハジミは首をかしげた。
「じゃあ、次……。これも逆位置ね。なんだかあまりいい意味じゃなさそう……」
「そうでもないよ。逆のほうが、いい意味のカードもある。このカードは、うん、そうだね、ある職業を表わしている」
「職業?」
「前のカードと照らし合わせて、考えてごらん」
クジャは、昔と変わらず、優しくて、でもちょっと気難しそうな笑みを見せた。
「ええと、とがった刃物を使う職業? 何かしら……。あれ、この剣が刺さっているのは、ひょっとして、心臓? じゃあ、きっと、手術……医者ね」
「よくわかったね」
「もちろんよ」
ハジミは得意げな顔をした。
「じゃあ、医者の家の子どもなのね。最後のカードは、調和。確か、家庭で新しいことがある、っていう意味もあるのよね。……と、いうことは……」
言い終えて、ハジミは自分の顔を手で覆った。
「わたし、ひどい結果を出してしまった! もうすぐ生まれてくる赤ちゃんから、お姉さんを引き離せっていうのね!」
ハジミは泣き出した。クジャはいつものように慰めようとはせず、厳しく言い放った。
「ハジミ。これが僕たちの役目だ」
「ああ、わたし、ちっとも、自分の役目と向き合おうとしなかった! だから、今、こんなにも、胸が張り裂けそうな思いになるのね!」
しくしく泣いているハジミの耳に、どこかから、泣かないで、と言う声が届いた。ハジミは涙を拭った。
「クジャの占いは、どういう結果になったの?」
クジャはどこか遠くを見ているような目つきで、三枚のカードを並べた。
「器が十枚、宝石が一つ、魔物の逆位置……。龍神さまは、こうおっしゃっている。島でも相当な権力をもち、繁栄している家で暮らす、周りを幸せにするような力のある、男の子だと。僕とは全く違う生まれの子だね」
クジャはため息をついた。彼の意識は、ここにちゃんと戻ってきた。
「ハジミは、この占いの結果を、自分が招いたものと捉えた。僕は今でも、この力を、龍神さまが与えてくれたものだと思っている。いったいどっちが、誠実なんだろうか……」
「……わからないわ」
部屋の扉を叩く音がした。入り口の兵士の声がした。
「クジャさま、ハジミさま。王さまが、新しい龍神の化身についての神託をおうかがいしたいそうです」
「通してくれ」
重々しい口調で、クジャが応えた 。
「力、剣が三本、調和……」
ハジミは、ぎゅっと目をつぶり、顔を手で覆い、カードの意味を一生懸命思い出していた。
「力のカードねえ……。出会いの奇跡? 見えない力? 誠実?」
いんちき占いばかりやっていたハジミは、カードの正しい読み方を、あまり覚えていなかった。クジャが、悩んでいるハジミに声をかけた。
「ハジミ、そのカード、逆位置だよ」
「え! 逆位置! 逆位置だと……あまりいいカードじゃないわね」
「とがった刃物、っていう意味もあるよ」
「刃物ねえ……、じゃあ、刃物でも扱っている家の子どもなのかしら」
ハジミは首をかしげた。
「じゃあ、次……。これも逆位置ね。なんだかあまりいい意味じゃなさそう……」
「そうでもないよ。逆のほうが、いい意味のカードもある。このカードは、うん、そうだね、ある職業を表わしている」
「職業?」
「前のカードと照らし合わせて、考えてごらん」
クジャは、昔と変わらず、優しくて、でもちょっと気難しそうな笑みを見せた。
「ええと、とがった刃物を使う職業? 何かしら……。あれ、この剣が刺さっているのは、ひょっとして、心臓? じゃあ、きっと、手術……医者ね」
「よくわかったね」
「もちろんよ」
ハジミは得意げな顔をした。
「じゃあ、医者の家の子どもなのね。最後のカードは、調和。確か、家庭で新しいことがある、っていう意味もあるのよね。……と、いうことは……」
言い終えて、ハジミは自分の顔を手で覆った。
「わたし、ひどい結果を出してしまった! もうすぐ生まれてくる赤ちゃんから、お姉さんを引き離せっていうのね!」
ハジミは泣き出した。クジャはいつものように慰めようとはせず、厳しく言い放った。
「ハジミ。これが僕たちの役目だ」
「ああ、わたし、ちっとも、自分の役目と向き合おうとしなかった! だから、今、こんなにも、胸が張り裂けそうな思いになるのね!」
しくしく泣いているハジミの耳に、どこかから、泣かないで、と言う声が届いた。ハジミは涙を拭った。
「クジャの占いは、どういう結果になったの?」
クジャはどこか遠くを見ているような目つきで、三枚のカードを並べた。
「器が十枚、宝石が一つ、魔物の逆位置……。龍神さまは、こうおっしゃっている。島でも相当な権力をもち、繁栄している家で暮らす、周りを幸せにするような力のある、男の子だと。僕とは全く違う生まれの子だね」
クジャはため息をついた。彼の意識は、ここにちゃんと戻ってきた。
「ハジミは、この占いの結果を、自分が招いたものと捉えた。僕は今でも、この力を、龍神さまが与えてくれたものだと思っている。いったいどっちが、誠実なんだろうか……」
「……わからないわ」
部屋の扉を叩く音がした。入り口の兵士の声がした。
「クジャさま、ハジミさま。王さまが、新しい龍神の化身についての神託をおうかがいしたいそうです」
「通してくれ」
重々しい口調で、クジャが応えた 。
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