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後編 龍の少年と龍の少女
第19話
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「クジャさま、ハジミさま」
クジャとハジミの召使いの中で、一番年上の召使いが、召使いの少年と少女を連れてきた。見知らぬ子たちだった。
「ささ、奴らがここへ上がって来る前に、お召し物をお脱ぎになって、召使いの服にお着替えください。この者たちが、クジャさまとハジミさまの身代わりを務めます」
「だめだ!」
クジャが声を荒らげた。
「この子たちが、僕らのかわりに、ひどい目に遭うかもしれない。そんなことは許されない」
「クジャさま。あなた方は我らの希望なのです。何があっても、お守りせねばならないのです」
ハジミの心は揺らいでいた。この少女に任せれば、重圧から解き放たれる。みんな、そうやって、誰かに押しつけてここを抜け出してきたのだ。それに、ハジミは生きて、父さんの仕事の手伝いをしなければならない。その仕事は、サヤ島のために重要なはずだ。
「僕はいい。僕には帰るところもない。父さんには二度と帰ってくるな、って言われている。でも、君たちには、優しい家族がいるんじゃないか」
「わたくしたちには、家族はおりません」
少年と少女は口をそろえて、言葉を継いだ。
「クジャさま、ハジミさま、どうか生き延びてください。わたくしたちの希望として、生き続けてください」
ハジミは、今さらになって、龍神の化身と責任の重さを知った。頭ががんがんしてきた。幼い日、火遊びをして、父さんに叱られたことを思い出した。ハジミの父さんは火遊びだけを叱ったのではない。ハジミが責任の重さに気づいていないことを叱ったのだ。
(今になって、気づいたって、もうどうしようもない……。だけど)
ハジミは自分を責める気持ちを、いったん脇に置いて、眉をきりっとさせた。
「わかったわ。あとは頼んだわよ」
ハジミは、ぱっと服を脱ぎ捨てた。
「ハジミ!」
クジャは怒っているような、慌てているような、少し照れているような声をあげた。
「クジャも着替えなさい。もたもたしている場合じゃないのよ」
召使いの少女はてきぱきと服を脱ぎ着した。ハジミは生まれてはじめて、自分一人で服を着た。
「ハジミさま、ご立派です。さあ、クジャさま……」
「クジャ、この子たちの思いを無駄にしてはだめだ!」
召使いとジャポに促され、クジャはやっと着替えはじめた。
「ごめんよ……君たちがひどい目に遭わないように、毎日、龍神さまに祈るよ」
「ありがとうございます」
召使いの少年と少女は、深々と頭を下げた。帽子の飾り紐が、ゆらゆらと揺れた。
こうして、ハジミとクジャは召使いとして生きることになった。ナリム王はどこかへ連れていかれた。王妃と王子が、かりそめの統治者となった 。
クジャとハジミの召使いの中で、一番年上の召使いが、召使いの少年と少女を連れてきた。見知らぬ子たちだった。
「ささ、奴らがここへ上がって来る前に、お召し物をお脱ぎになって、召使いの服にお着替えください。この者たちが、クジャさまとハジミさまの身代わりを務めます」
「だめだ!」
クジャが声を荒らげた。
「この子たちが、僕らのかわりに、ひどい目に遭うかもしれない。そんなことは許されない」
「クジャさま。あなた方は我らの希望なのです。何があっても、お守りせねばならないのです」
ハジミの心は揺らいでいた。この少女に任せれば、重圧から解き放たれる。みんな、そうやって、誰かに押しつけてここを抜け出してきたのだ。それに、ハジミは生きて、父さんの仕事の手伝いをしなければならない。その仕事は、サヤ島のために重要なはずだ。
「僕はいい。僕には帰るところもない。父さんには二度と帰ってくるな、って言われている。でも、君たちには、優しい家族がいるんじゃないか」
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少年と少女は口をそろえて、言葉を継いだ。
「クジャさま、ハジミさま、どうか生き延びてください。わたくしたちの希望として、生き続けてください」
ハジミは、今さらになって、龍神の化身と責任の重さを知った。頭ががんがんしてきた。幼い日、火遊びをして、父さんに叱られたことを思い出した。ハジミの父さんは火遊びだけを叱ったのではない。ハジミが責任の重さに気づいていないことを叱ったのだ。
(今になって、気づいたって、もうどうしようもない……。だけど)
ハジミは自分を責める気持ちを、いったん脇に置いて、眉をきりっとさせた。
「わかったわ。あとは頼んだわよ」
ハジミは、ぱっと服を脱ぎ捨てた。
「ハジミ!」
クジャは怒っているような、慌てているような、少し照れているような声をあげた。
「クジャも着替えなさい。もたもたしている場合じゃないのよ」
召使いの少女はてきぱきと服を脱ぎ着した。ハジミは生まれてはじめて、自分一人で服を着た。
「ハジミさま、ご立派です。さあ、クジャさま……」
「クジャ、この子たちの思いを無駄にしてはだめだ!」
召使いとジャポに促され、クジャはやっと着替えはじめた。
「ごめんよ……君たちがひどい目に遭わないように、毎日、龍神さまに祈るよ」
「ありがとうございます」
召使いの少年と少女は、深々と頭を下げた。帽子の飾り紐が、ゆらゆらと揺れた。
こうして、ハジミとクジャは召使いとして生きることになった。ナリム王はどこかへ連れていかれた。王妃と王子が、かりそめの統治者となった 。
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