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後編 龍の少年と龍の少女
第17話
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ハジミは自分の部屋から椅子を持ってきた。残念ながら、椅子は一つしかなかった。ハジミはクジャの部屋に勝手に入り、椅子を一つ持ち出した。何回か部屋を出たり入ったりして、やっと、飾り窓に手が届く高さの踏み台を準備した。
次はとがったものだが、残念ながら、ハジミの部屋にもクジャの部屋にも、とがったものは一つもなかった。ハジミはいらいらして、飾り窓をばんばん叩いた。
「君の力じゃ、割れないよ。けがしちゃう。もうやめて」
クジャが静かにハジミを制した。ハジミはクジャをにらみつけた。
「邪魔しないでよ!」
クジャはまた一つ、ため息をついた。
「ハジミ、窓に両手をつけて、時計回りに回してごらん」
言われたとおりにすると、丸い飾り窓が、ぱかっと外れた。
「どういう仕組み……?」
「わからない」
「あなたなんで、窓が開くって知っているの?」
「昔はここで星を見ていたって、言ったことがあるよね。この飾り窓から、星を見ていたんだと思う。本当は、屋根がないほうが、綺麗に見えるんだろうけど。だから、外し方がきっとあると思って、夜中こっそり試したことがある。もちろん、ジャポにも手伝ってもらってね」
クジャが少し得意げに笑った。ハジミは自分のお供が、小さな石ころであることを、つくづく恨めしく思った。
「ねえ、ハジミ。星を見て」
ハジミはクジャの言うとおり、飾り窓から首を出して星を見た。満月に照らされた夜空には、まるで宝石をちりばめたように星が輝いていた。
「きれいね。母さまの宝石箱みたい」
「星が騒いでいるんだ、それを感じないかい?」
「星が騒ぐ……?」
ハジミは首をかしげた。夜風に吹かれて、前髪が揺れた。
「最近、北と南の空の星が、妙に瞬いているんだ。胸騒ぎがする。きっと何かよくないことが起こる。召使いに頼んで、リグノア教とシュトノク教の神殿にいる星見たちの意見も聞いてきてもらった。彼らも、口をそろえて、よくないことが起こるって、言っている……」
クジャがうつむいた。ハジミは首を左右に動かして、北の空と南の空を見た。星が騒いでいると言われても、よくわからない。ハジミは目を細めて、遠くを見てみた。水平線の向こうで、何かが輝いていた。いくつもいくつも、数え切れないほどの明かりが見えた。
ハジミは胸がどきどきしてきた。クジャが感じた胸騒ぎを、もっともっと強く感じていた。あれは船の明かりだ。北の海にも、南の海にも、数え切れないほどの船が浮かんでいる。
(どうして、こんなときに!)
ハジミは泣いた。夜風が涙をさらっていった。
(どうして、どうしてよ! 邪魔しないでよ!)
ハジミは観念して、飾り窓から首を引っ込め、窓を閉めた。踏み台代わりの椅子から降りた。
「ハジミ、諦めてくれたんだね……」
クジャがほっとした顔をして、近寄ってきた。ハジミはその顔を、ぱん、と平手打ちした。
「どうしてわたしに、何も教えてくれなかったの……。どうして何も、相談してくれないの! わたしはあなたの姉さまになるって言ったのに、クジャはわたしを頼ってくれない! 胸騒ぎのことを、クジャが教えてくれてたら、わたし、今日逃げようなんて思わなかった! みんなに眠り薬を盛ろうなんて、思わなかった!」
「ハジミ、ごめん」
クジャは真っ直ぐにハジミを見つめ、深く、深く頭を下げた。
「もういいわ。それより、すぐにみんなをたたき起こすわよ。北の海と南の海に、数え切れないほどの船がいる。あれは……軍艦だと思う」
クジャはさあっと青ざめた。
二人はわざと大きな音を立てて階段を降り、酔って眠った大人たちを片っ端から起こして回った。
けれど、すべてが手遅れだった。サヤ島は、翌朝にはぐるりと軍艦に囲まれて、わけのわからないうちに、降伏するしかなかった 。
次はとがったものだが、残念ながら、ハジミの部屋にもクジャの部屋にも、とがったものは一つもなかった。ハジミはいらいらして、飾り窓をばんばん叩いた。
「君の力じゃ、割れないよ。けがしちゃう。もうやめて」
クジャが静かにハジミを制した。ハジミはクジャをにらみつけた。
「邪魔しないでよ!」
クジャはまた一つ、ため息をついた。
「ハジミ、窓に両手をつけて、時計回りに回してごらん」
言われたとおりにすると、丸い飾り窓が、ぱかっと外れた。
「どういう仕組み……?」
「わからない」
「あなたなんで、窓が開くって知っているの?」
「昔はここで星を見ていたって、言ったことがあるよね。この飾り窓から、星を見ていたんだと思う。本当は、屋根がないほうが、綺麗に見えるんだろうけど。だから、外し方がきっとあると思って、夜中こっそり試したことがある。もちろん、ジャポにも手伝ってもらってね」
クジャが少し得意げに笑った。ハジミは自分のお供が、小さな石ころであることを、つくづく恨めしく思った。
「ねえ、ハジミ。星を見て」
ハジミはクジャの言うとおり、飾り窓から首を出して星を見た。満月に照らされた夜空には、まるで宝石をちりばめたように星が輝いていた。
「きれいね。母さまの宝石箱みたい」
「星が騒いでいるんだ、それを感じないかい?」
「星が騒ぐ……?」
ハジミは首をかしげた。夜風に吹かれて、前髪が揺れた。
「最近、北と南の空の星が、妙に瞬いているんだ。胸騒ぎがする。きっと何かよくないことが起こる。召使いに頼んで、リグノア教とシュトノク教の神殿にいる星見たちの意見も聞いてきてもらった。彼らも、口をそろえて、よくないことが起こるって、言っている……」
クジャがうつむいた。ハジミは首を左右に動かして、北の空と南の空を見た。星が騒いでいると言われても、よくわからない。ハジミは目を細めて、遠くを見てみた。水平線の向こうで、何かが輝いていた。いくつもいくつも、数え切れないほどの明かりが見えた。
ハジミは胸がどきどきしてきた。クジャが感じた胸騒ぎを、もっともっと強く感じていた。あれは船の明かりだ。北の海にも、南の海にも、数え切れないほどの船が浮かんでいる。
(どうして、こんなときに!)
ハジミは泣いた。夜風が涙をさらっていった。
(どうして、どうしてよ! 邪魔しないでよ!)
ハジミは観念して、飾り窓から首を引っ込め、窓を閉めた。踏み台代わりの椅子から降りた。
「ハジミ、諦めてくれたんだね……」
クジャがほっとした顔をして、近寄ってきた。ハジミはその顔を、ぱん、と平手打ちした。
「どうしてわたしに、何も教えてくれなかったの……。どうして何も、相談してくれないの! わたしはあなたの姉さまになるって言ったのに、クジャはわたしを頼ってくれない! 胸騒ぎのことを、クジャが教えてくれてたら、わたし、今日逃げようなんて思わなかった! みんなに眠り薬を盛ろうなんて、思わなかった!」
「ハジミ、ごめん」
クジャは真っ直ぐにハジミを見つめ、深く、深く頭を下げた。
「もういいわ。それより、すぐにみんなをたたき起こすわよ。北の海と南の海に、数え切れないほどの船がいる。あれは……軍艦だと思う」
クジャはさあっと青ざめた。
二人はわざと大きな音を立てて階段を降り、酔って眠った大人たちを片っ端から起こして回った。
けれど、すべてが手遅れだった。サヤ島は、翌朝にはぐるりと軍艦に囲まれて、わけのわからないうちに、降伏するしかなかった 。
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