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後編 龍の少年と龍の少女
第16話
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「ハジミ。僕だって、誇りがある。誇りを持っている。だから、僕はここにいる。できることなら……君もここにいてほしい。ここにいることに、誇りを持ってほしい」
クジャはやっと、いつものように笑った。ハジミに手を伸ばしてきた。その手つきは、ダイポをよしよししてやるときの手つきに……そっくりだった。
「冗談じゃないわ!」
ハジミは、大広間で寝ているみんなが起きてしまうような大声を出した。
「わたしが何に対して誇りを持つかは、わたし自身が決めるわ! ここにいることは、みんなの役に立つことは、わたしにとっての誇りじゃない! 自分の言葉を発して、自分の力で自由に生きることが、わたしにとっての誇りなの!」
「ハジミ……」
クジャは悲しそうな顔をした。
「どれだけの人が、君を愛して、守ってくれているのか、わからないの? 君は、その優しさを全部捨てて、生きていくつもりなの?」
「うるさいわね! 周りが勝手に世話を焼いただけで、世話を焼いてくれなんて頼んだ覚えはないわ!」
ハジミは怒って、足をどん、と踏みならした。クジャは先ほどよりもっともっと悲しそうな顔をして、目を伏せて、唇を震わせた。
「一人で生きていけると思うなら、行きなよ。僕は君と一緒にいかない。君に、僕のことをすべて決められるのは嫌だから。僕は僕の意志で、龍神の化身として生きていくんだ」
クジャはハジミから顔をそらした。
「踏み台代わりの椅子くらい、自分で持ってきなよ。縄だって、自分で用意すればいいのに」
「あら! この宮殿、縄の類いも、はしごも、鍵付の倉庫に全部隠してあるの、ご存じない? わたしたち龍神の化身が、逃げ出さないようにするためよ!」
ハジミはいらいらした口調で言い返した。
「そうか。だから胸元に、何かを隠し持っているんだね」
「お察しのいいこと。そうよ、毛糸玉を隠しているの。わたしが持つのを許された、唯一の長い紐よ」
暇つぶしに、編み物をする。それが、最近、子どもらしい遊びがつまらなくなったハジミの数少ない楽しみだ。
「それを縄代わりに? そうか、やっぱり僕の魔法の力頼みだったんだね」
クジャはあきれ顔をした。
「最初から、あなたの魔法の力と、わたしの勇気があれば、って言ったでしょう!」
「じゃあ、毛糸を貸して。魔法の力で、君の身体くらいの重さなら支えられるようにするから。さよなら、ハジミ。六年間君と一緒にいられて、楽しかったよ」
クジャは寂しそうに笑った。
わたしと一緒に来て。お願い。一緒に来て。六年間、ずっと一緒だったじゃない……。
「わたしはあなたみたいな臆病者、大っ嫌いよ!」
やぶれかぶれな気持ちになった。ハジミはクジャに向かって、あっかんべえをした 。
クジャはやっと、いつものように笑った。ハジミに手を伸ばしてきた。その手つきは、ダイポをよしよししてやるときの手つきに……そっくりだった。
「冗談じゃないわ!」
ハジミは、大広間で寝ているみんなが起きてしまうような大声を出した。
「わたしが何に対して誇りを持つかは、わたし自身が決めるわ! ここにいることは、みんなの役に立つことは、わたしにとっての誇りじゃない! 自分の言葉を発して、自分の力で自由に生きることが、わたしにとっての誇りなの!」
「ハジミ……」
クジャは悲しそうな顔をした。
「どれだけの人が、君を愛して、守ってくれているのか、わからないの? 君は、その優しさを全部捨てて、生きていくつもりなの?」
「うるさいわね! 周りが勝手に世話を焼いただけで、世話を焼いてくれなんて頼んだ覚えはないわ!」
ハジミは怒って、足をどん、と踏みならした。クジャは先ほどよりもっともっと悲しそうな顔をして、目を伏せて、唇を震わせた。
「一人で生きていけると思うなら、行きなよ。僕は君と一緒にいかない。君に、僕のことをすべて決められるのは嫌だから。僕は僕の意志で、龍神の化身として生きていくんだ」
クジャはハジミから顔をそらした。
「踏み台代わりの椅子くらい、自分で持ってきなよ。縄だって、自分で用意すればいいのに」
「あら! この宮殿、縄の類いも、はしごも、鍵付の倉庫に全部隠してあるの、ご存じない? わたしたち龍神の化身が、逃げ出さないようにするためよ!」
ハジミはいらいらした口調で言い返した。
「そうか。だから胸元に、何かを隠し持っているんだね」
「お察しのいいこと。そうよ、毛糸玉を隠しているの。わたしが持つのを許された、唯一の長い紐よ」
暇つぶしに、編み物をする。それが、最近、子どもらしい遊びがつまらなくなったハジミの数少ない楽しみだ。
「それを縄代わりに? そうか、やっぱり僕の魔法の力頼みだったんだね」
クジャはあきれ顔をした。
「最初から、あなたの魔法の力と、わたしの勇気があれば、って言ったでしょう!」
「じゃあ、毛糸を貸して。魔法の力で、君の身体くらいの重さなら支えられるようにするから。さよなら、ハジミ。六年間君と一緒にいられて、楽しかったよ」
クジャは寂しそうに笑った。
わたしと一緒に来て。お願い。一緒に来て。六年間、ずっと一緒だったじゃない……。
「わたしはあなたみたいな臆病者、大っ嫌いよ!」
やぶれかぶれな気持ちになった。ハジミはクジャに向かって、あっかんべえをした 。
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