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前編 ハジミとクジャ
第13話
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その年の満月のお祭りが終わるまで、クジャとハジミの元には、誰もお告げを聞きにこなかった。
クジャとハジミは、子どもらしく遊んでいた。龍神のカードの一枚一枚に点数をつけて、どちらが大きな数字を引くかという遊びは、暇つぶしにぴったりだった。占いの練習もした。ハジミは、若い召使いたちのために、恋占いをしてやった。若い召使いたちは大変喜んだ。
星見の部屋は広いので、かけまわって遊ぶこともできた。クジャは、棒を持ってきてもらい、ジャポと剣術ごっこをしていた。しかし、この遊びは、もっぱらジャポが勝った。さすが、武芸を尊ぶリグノア教の精霊なだけはあった。
「ジャポはすごいわね。ダイポは? ダイポは魔法、使えないのかしら?」
ハジミは意地悪く、ダイポに尋ねた。
「使えるよ! 見ててよ! びっくりするぞ!」
ダイポはぴょんぴょん跳ねた。何度も何度も跳ねた。そうするうちに、床とダイポの間に、一瞬、火花が散った。
「どうだ! これが僕の、炎の魔法だ! すごいだろう!」
「あははははは……」
ハジミは腹を抱えて笑った。
「ダイポ、それは魔法じゃないわ。火打石と同じじゃない」
「ぐぬぬぬ……」
ダイポは悔しがった。ハジミはまだ笑っていた。
「ひどいや、ハジミ! フィオは、すごいねって、手を叩いて喜んでくれたのに」
「だって、フィオガハも、それくらいの魔法の力しか、なかったもの」
「じゃあ、ハジミは! ハジミはどうなのさ!」
ハジミはダイポを侮りすぎた。ダイポなら言い返さないだろうと、たかをくくっていたのだ。
「え、ええと、わたしは……」
(全く使えない、なんて、とても言えないわ……)
ハジミは目をつぶり、懸命に考えた。
「二度と魔法の力を使うな、って、父さまに言われたの」
「へえ、なんでぇ?」
ダイポがハジミの顔をのぞきこむようにして、尋ねた。決して悟られてはいけない、と、ハジミは両手を握りしめた。
「わたしには、生まれつき、強い魔法の力が備わっているの。ここに来る一年ほど前のことだけど、わたし、その力のせいで、うちの倉庫を焼いてしまったの……。倉庫がね、まるで木の葉のように、たちまち燃えつきてしまったわ」
「ひええ……」
ダイポが震え上がった。
「わたし、生まれてはじめて、父さまに叩かれたわ。そして言われたの。もう二度と、魔法の力を使うな、って……」
「わかった、ハジミはすごい。頼むから、魔法の力なんて、使わないでね……」
ダイポは、ぺこぺこ頭を下げるように、身体を前に傾けた。
「もちろん、使わないわ……」
ハジミはうつむいた。うつむきながら、べろりと舌を出し、考えていた。嘘をつくなら、半分くらいは本当のことを混ぜるといい、と。
この話の真相はこうだ。ハジミは両親を驚かしたくて、ついに魔法が使えるようになったと、嘘をついた。わたしが指をぱちんと鳴らせば、もくもく煙が上がる、と、自慢げに言い放った。両親は、まあ、面白そう、とのんきなことを言ったが、すぐに青ざめた。ハジミは本当に、煙を出したのだ。ハジミが窓に向かって指を鳴らしたとき、建物の外にいた召使いが、馬の飼い葉に火をつけた。煙がもくもく上がった。しかし、その日は風が強かった。火のついた飼い葉が、建物の裏手の古い倉庫の屋根まで飛び、あっという間に倉庫を燃やしたのだ。
火をつけた召使いは、ハジミと同じくらいの年だった。召使いは飛び火の恐ろしさを知らなかった。ハジミの言うことを聞く以外、何も考えずに過ごしてきたのだ。ハジミの父さんは、ハジミが火をつけるよう命令したことを知ると、愛娘を遠慮なく叩いた。ハジミが、わたしのせいじゃない、召使いが悪いのよ、と泣くと、もう一発、叩いた。
「自分の言葉の重さを知れ! もう二度と、魔法ごっこをするな!」
ハジミはわあわあ泣きながら、ごめんなさい、魔法ごっこは二度としません、と謝った。しかし、ハジミはわかっていなかった。父さんは、魔法ごっこなどどうでもよくて、ハジミには、人の上に立つ責任の重さをわかってほしかったのだ、ということを 。
クジャとハジミは、子どもらしく遊んでいた。龍神のカードの一枚一枚に点数をつけて、どちらが大きな数字を引くかという遊びは、暇つぶしにぴったりだった。占いの練習もした。ハジミは、若い召使いたちのために、恋占いをしてやった。若い召使いたちは大変喜んだ。
星見の部屋は広いので、かけまわって遊ぶこともできた。クジャは、棒を持ってきてもらい、ジャポと剣術ごっこをしていた。しかし、この遊びは、もっぱらジャポが勝った。さすが、武芸を尊ぶリグノア教の精霊なだけはあった。
「ジャポはすごいわね。ダイポは? ダイポは魔法、使えないのかしら?」
ハジミは意地悪く、ダイポに尋ねた。
「使えるよ! 見ててよ! びっくりするぞ!」
ダイポはぴょんぴょん跳ねた。何度も何度も跳ねた。そうするうちに、床とダイポの間に、一瞬、火花が散った。
「どうだ! これが僕の、炎の魔法だ! すごいだろう!」
「あははははは……」
ハジミは腹を抱えて笑った。
「ダイポ、それは魔法じゃないわ。火打石と同じじゃない」
「ぐぬぬぬ……」
ダイポは悔しがった。ハジミはまだ笑っていた。
「ひどいや、ハジミ! フィオは、すごいねって、手を叩いて喜んでくれたのに」
「だって、フィオガハも、それくらいの魔法の力しか、なかったもの」
「じゃあ、ハジミは! ハジミはどうなのさ!」
ハジミはダイポを侮りすぎた。ダイポなら言い返さないだろうと、たかをくくっていたのだ。
「え、ええと、わたしは……」
(全く使えない、なんて、とても言えないわ……)
ハジミは目をつぶり、懸命に考えた。
「二度と魔法の力を使うな、って、父さまに言われたの」
「へえ、なんでぇ?」
ダイポがハジミの顔をのぞきこむようにして、尋ねた。決して悟られてはいけない、と、ハジミは両手を握りしめた。
「わたしには、生まれつき、強い魔法の力が備わっているの。ここに来る一年ほど前のことだけど、わたし、その力のせいで、うちの倉庫を焼いてしまったの……。倉庫がね、まるで木の葉のように、たちまち燃えつきてしまったわ」
「ひええ……」
ダイポが震え上がった。
「わたし、生まれてはじめて、父さまに叩かれたわ。そして言われたの。もう二度と、魔法の力を使うな、って……」
「わかった、ハジミはすごい。頼むから、魔法の力なんて、使わないでね……」
ダイポは、ぺこぺこ頭を下げるように、身体を前に傾けた。
「もちろん、使わないわ……」
ハジミはうつむいた。うつむきながら、べろりと舌を出し、考えていた。嘘をつくなら、半分くらいは本当のことを混ぜるといい、と。
この話の真相はこうだ。ハジミは両親を驚かしたくて、ついに魔法が使えるようになったと、嘘をついた。わたしが指をぱちんと鳴らせば、もくもく煙が上がる、と、自慢げに言い放った。両親は、まあ、面白そう、とのんきなことを言ったが、すぐに青ざめた。ハジミは本当に、煙を出したのだ。ハジミが窓に向かって指を鳴らしたとき、建物の外にいた召使いが、馬の飼い葉に火をつけた。煙がもくもく上がった。しかし、その日は風が強かった。火のついた飼い葉が、建物の裏手の古い倉庫の屋根まで飛び、あっという間に倉庫を燃やしたのだ。
火をつけた召使いは、ハジミと同じくらいの年だった。召使いは飛び火の恐ろしさを知らなかった。ハジミの言うことを聞く以外、何も考えずに過ごしてきたのだ。ハジミの父さんは、ハジミが火をつけるよう命令したことを知ると、愛娘を遠慮なく叩いた。ハジミが、わたしのせいじゃない、召使いが悪いのよ、と泣くと、もう一発、叩いた。
「自分の言葉の重さを知れ! もう二度と、魔法ごっこをするな!」
ハジミはわあわあ泣きながら、ごめんなさい、魔法ごっこは二度としません、と謝った。しかし、ハジミはわかっていなかった。父さんは、魔法ごっこなどどうでもよくて、ハジミには、人の上に立つ責任の重さをわかってほしかったのだ、ということを 。
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