10 / 30
前編 ハジミとクジャ
第10話
しおりを挟む
思い返してみれば、クジャに会うまで、ハジミには友達がいなかった。屋敷の娘たちは、みな、使用人だった。ハジミははっきりとした上下関係の中で生きてきた。自分が上だという意識を、生まれながらに持っていた。だから、はじめてクジャにあったときに抱いた気持ちも、姉さんになる、つまり、クジャより自分が上、という認識だった。
今では、クジャと自分は対等だと思っている。けれど、ハジミは今でも、ダイポはもちろん、ジャポのことも、どこかで召使いとして扱っている。少なくともジャポは、ハジミのことを友達だと言ってくれるのに。
「ジャポとダイポは、誰かを起こして、私たちが逃げようとしているって、言いつけたりしないわよね?」
クジャが立ち止まって、くるりと振り返った。
「ハジミ、何を今さら。ジャポとダイポの姿は、僕たち以外の誰にも見えないし、二人の声は、誰にも聞こえないんだよ」
クジャの目線が、いつの間にか、ハジミを見上げるのではなく、見下ろすようになっていた。ハジミは少し胸が痛くなった。
「今でも思うの。ここの宮殿の人たちは、みんな、子どもだましのお芝居をしているだけじゃないかって。龍神の化身なんて、本当はいないのよ。私たちはずっと、騙されているんだわ」
「ハジミ……」
クジャは悲しそうな顔をした。こうこうと輝く左手ではなく、右手をハジミに伸ばしてきた。ダイポに、よしよししてやる手つきと同じだった。
(嫌だわ、クジャにだけは、子ども扱いされたくない!)
ハジミは音を鳴らさないように注意しながら、両手を合わせた。
「さあ、行くわよ、クジャ。私たちは、観客席から降りるの。もう、子どもだましのお芝居を観るような年じゃないのよ!」
ハジミとクジャは、再び、星見の部屋を目指して歩き始めた。星見の部屋へと続く階段が、もう目の前にあった。
**
ハジミとクジャが精霊たちをつれて星見の部屋に戻ったことは、あっという間に宮殿内に知れ渡った。星見の部屋の前には、見張りの兵士がついた。ハジミとクジャに仕える召使いの数が、倍に増えた。ハジミはこれでやっと、生家と同じ暮らしができると、喜んだ。クジャはもじもじして困っていた。
精霊と龍神の化身は、同じ部屋で寝食をともにする決まりだった。ハジミは大いに反抗したが、召使いたちもしきたりだといって譲らなかった。結局、ダイポは、部屋の隅に置かれた飼い猫用のかごから、ハジミの許しなしには決して出てこないという条件付きで、ハジミと部屋をともにすることを許された 。
今では、クジャと自分は対等だと思っている。けれど、ハジミは今でも、ダイポはもちろん、ジャポのことも、どこかで召使いとして扱っている。少なくともジャポは、ハジミのことを友達だと言ってくれるのに。
「ジャポとダイポは、誰かを起こして、私たちが逃げようとしているって、言いつけたりしないわよね?」
クジャが立ち止まって、くるりと振り返った。
「ハジミ、何を今さら。ジャポとダイポの姿は、僕たち以外の誰にも見えないし、二人の声は、誰にも聞こえないんだよ」
クジャの目線が、いつの間にか、ハジミを見上げるのではなく、見下ろすようになっていた。ハジミは少し胸が痛くなった。
「今でも思うの。ここの宮殿の人たちは、みんな、子どもだましのお芝居をしているだけじゃないかって。龍神の化身なんて、本当はいないのよ。私たちはずっと、騙されているんだわ」
「ハジミ……」
クジャは悲しそうな顔をした。こうこうと輝く左手ではなく、右手をハジミに伸ばしてきた。ダイポに、よしよししてやる手つきと同じだった。
(嫌だわ、クジャにだけは、子ども扱いされたくない!)
ハジミは音を鳴らさないように注意しながら、両手を合わせた。
「さあ、行くわよ、クジャ。私たちは、観客席から降りるの。もう、子どもだましのお芝居を観るような年じゃないのよ!」
ハジミとクジャは、再び、星見の部屋を目指して歩き始めた。星見の部屋へと続く階段が、もう目の前にあった。
**
ハジミとクジャが精霊たちをつれて星見の部屋に戻ったことは、あっという間に宮殿内に知れ渡った。星見の部屋の前には、見張りの兵士がついた。ハジミとクジャに仕える召使いの数が、倍に増えた。ハジミはこれでやっと、生家と同じ暮らしができると、喜んだ。クジャはもじもじして困っていた。
精霊と龍神の化身は、同じ部屋で寝食をともにする決まりだった。ハジミは大いに反抗したが、召使いたちもしきたりだといって譲らなかった。結局、ダイポは、部屋の隅に置かれた飼い猫用のかごから、ハジミの許しなしには決して出てこないという条件付きで、ハジミと部屋をともにすることを許された 。
3
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。
猫菜こん
児童書・童話
私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。
だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。
「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」
優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。
……これは一体どういう状況なんですか!?
静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん
できるだけ目立たないように過ごしたい
湖宮結衣(こみやゆい)
×
文武両道な学園の王子様
実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?
氷堂秦斗(ひょうどうかなと)
最初は【仮】のはずだった。
「結衣さん……って呼んでもいい?
だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」
「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」
「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、
今もどうしようもないくらい好きなんだ。」
……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。
ハンナと先生 南の国へ行く
松山さくら
児童書・童話
10歳のハンナは、同じ街に住むジョン先生に動物の言葉を教わりました。ハンナは先生と一緒に南の国へ行き、そこで先生のお手伝いをしたり、小鳥の友達を助けたりします。しかしハンナたちが訪れた鳥の王国には何か秘密がありそうです。
守護霊のお仕事なんて出来ません!
柚月しずく
児童書・童話
事故に遭ってしまった未蘭が目が覚めると……そこは死後の世界だった。
死後の世界には「死亡予定者リスト」が存在するらしい。未蘭はリストに名前がなく「不法侵入者」と責められてしまう。
そんな未蘭を救ってくれたのは、白いスーツを着た少年。柊だった。
助けてもらいホッとしていた未蘭だったが、ある選択を迫られる。
・守護霊代行の仕事を手伝うか。
・死亡手続きを進められるか。
究極の選択を迫られた未蘭。
守護霊代行の仕事を引き受けることに。
人には視えない存在「守護霊代行」の任務を、なんとかこなしていたが……。
「視えないはずなのに、どうして私のことがわかるの?」
話しかけてくる男の子が現れて――⁉︎
ちょっと不思議で、信じられないような。だけど心温まるお話。
魔界プリンスとココロのヒミツ【完結】
小平ニコ
児童書・童話
中学一年生の稲葉加奈は吹奏楽部に所属し、優れた音楽の才能を持っているが、そのせいで一部の部員から妬まれ、冷たい態度を取られる。ショックを受け、内向的な性格になってしまった加奈は、自分の心の奥深くに抱えた悩みやコンプレックスとどう付き合っていけばいいかわからず、どんよりとした気分で毎日を過ごしていた。
そんなある日、加奈の前に突如現れたのは、魔界からやって来た王子様、ルディ。彼は加奈の父親に頼まれ、加奈の悩みを解決するために日本まで来たという。
どうして父が魔界の王子様と知り合いなのか戸惑いながらも、ルディと一緒に生活する中で、ずっと抱えていた悩みを打ち明け、中学生活の最初からつまづいてしまった自分を大きく変えるきっかけを加奈は掴む。
しかし、実はルディ自身も大きな悩みを抱えていた。魔界の次期魔王の座を、もう一人の魔王候補であるガレスと争っているのだが、温厚なルディは荒っぽいガレスと直接対決することを避けていた。そんな中、ガレスがルディを追って、人間界にやって来て……
【完】ノラ・ジョイ シリーズ
丹斗大巴
児童書・童話
✴* ✴* 母の教えを励みに健気に頑張る女の子の成長と恋の物語 ✴* ✴*
▶【シリーズ1】ノラ・ジョイのむげんのいずみ ~みなしごノラの母の教えと盗賊のおかしらイサイアスの知られざる正体~ 母を亡くしてみなしごになったノラ。職探しの果てに、なんと盗賊団に入ることに! 非道な盗賊のお頭イサイアスの元、母の教えを励みに働くノラ。あるとき、イサイアスの正体が発覚! 「え~っ、イサイアスって、王子だったの!?」いつからか互いに惹かれあっていた二人の運命は……? 母の教えを信じ続けた少女が最後に幸せをつかむシンデレラ&サクセスストーリー
▶【シリーズ2】ノラ・ジョイの白獣の末裔 お互いの正体が明らかになり、再会したノラとイサイアス。ノラは令嬢として相応しい教育を受けるために学校へ通うことに。その道中でトラブルに巻き込まれて失踪してしまう。慌てて後を追うイサイアスの前に現れたのは、なんと、ノラにうりふたつの辺境の民の少女。はてさて、この少女はノラなのかそれとも別人なのか……!?
✴* ✴* ✴* ✴* ✴* ✴* ✴* ✴* ✴* ✴*
月神山の不気味な洋館
ひろみ透夏
児童書・童話
初めての夜は不気味な洋館で?!
満月の夜、級友サトミの家の裏庭上空でおこる怪現象を見せられたケンヂは、正体を確かめようと登った木の上で奇妙な物体と遭遇。足を踏み外し落下してしまう……。
話は昼間にさかのぼる。
両親が泊まりがけの旅行へ出かけた日、ケンヂは友人から『旅行中の両親が深夜に帰ってきて、あの世に連れて行く』という怪談を聞かされる。
その日の放課後、ふだん男子と会話などしない、おとなしい性格の級友サトミから、とつぜん話があると呼び出されたケンヂ。その話とは『今夜、私のうちに泊りにきて』という、とんでもない要求だった。
化け猫ミッケと黒い天使
ひろみ透夏
児童書・童話
運命の人と出会える逢生橋――。
そんな言い伝えのある橋の上で、化け猫《ミッケ》が出会ったのは、幽霊やお化けが見える小学五年生の少女《黒崎美玲》。
彼女の家に居候したミッケは、やがて美玲の親友《七海萌》や、内気な級友《蜂谷優斗》、怪奇クラブ部長《綾小路薫》らに巻き込まれて、様々な怪奇現象を体験する。
次々と怪奇現象を解決する《美玲》。しかし《七海萌》の暴走により、取り返しのつかない深刻な事態に……。
そこに現れたのは、妖しい能力を持った青年《四聖進》。彼に出会った事で、物語は急展開していく。
鎌倉西小学校ミステリー倶楽部
澤田慎梧
児童書・童話
【「鎌倉猫ヶ丘小ミステリー倶楽部」に改題して、アルファポリスきずな文庫より好評発売中!】
https://kizuna.alphapolis.co.jp/book/11230
【「第1回きずな児童書大賞」にて、「謎解きユニーク探偵賞」を受賞】
市立「鎌倉西小学校」には不思議な部活がある。その名も「ミステリー倶楽部」。なんでも、「学校の怪談」の正体を、鮮やかに解明してくれるのだとか……。
学校の中で怪奇現象を目撃したら、ぜひとも「ミステリー倶楽部」に相談することをオススメする。
案外、つまらない勘違いが原因かもしれないから。
……本物の「お化け」や「妖怪」が出てくる前に、相談しに行こう。
※本作品は小学校高学年以上を想定しています。作中の漢字には、ふりがなが多く振ってあります。
※本作品はフィクションです。実在の人物・団体とは一切関係ありません。
※本作品は、三人の主人公を描いた連作短編です。誰を主軸にするかで、ジャンルが少し変化します。
※カクヨムさんにも投稿しています(初出:2020年8月1日)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる