龍神の化身

田原更

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前編 ハジミとクジャ

第7話

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 一月たつと、フィオガハとハイルは宮殿を出ていった。ハジミはフィオガハがうらやましくなった。自分に役目を押しつけて、フィオガハは自由の身になったのだ。

(わたしも早く、ここを出たい……)

 ハジミは泣き出しそうな気持ちを抑えて、フィオガハとハイルを見送った。クジャは寂しそうな顔をしていた。ハイルをお兄さんのように、フィオガハをお姉さんのように思っていたからだ。ハジミではなく。それも、ハジミをくさくさした気持ちにさせた。

 二人と入れ替わるように、神官が二人、星見の部屋に入ってきた。二人の神官はうやうやしく礼をした。

「クジャさま。リグノア教のご神体までご案内いたします」

「ハジミさま。シュトノク教のご神体までご案内いたします」

 神官の声は重なり合った。

「ご神体……?」

 ハジミとクジャはおそるおそる尋ねた。

「ご神体とは、精霊さまが宿る、聖なる木のことです」

「ご神体とは、精霊さまが宿る、聖なる石のことです」

 またしても、神官の声が重なり合った。

「精霊さま……?」

 ハジミとクジャは、また、おそるおそる尋ねた。

「精霊とは、神さまの遣いでございます」

「神さまが、クジャさまとハジミさまをお守りするために、お遣わしになりました」

「精霊さまは、龍神の化身しか、見ることのできない存在です」

「精霊さまをご覧になって、はじめて、お二人は龍神の化身として、認められるのです」

 それを聞いたハジミは、心の底から、精霊さまが見えませんように、と願った。

 ハジミは、一ヶ月ぶりに、シュトノク教の神殿にやってきた。参拝の時間は終わっていて、広い神殿も静かになっていた。ハジミは、フィオガハに会った部屋の隣に通された。

 そこには、黒く輝く、石の玉が置いてあった。その色は、なんとなく、クジャの目の色に似ていた。クジャの目の何倍の大きさかは、ハジミにはわからなかった。

 石の玉の横に、小石がころりと転がっていた。おかしい、と、ハジミは思った。神殿の中はちり一つないほど清潔だったのに、一番大切なご神体が安置されている場所に、どうして小石が転がっているのだろう。

「ここの掃除当番は、よほどうっかりしているようね。こんな小石を見落とすなんて!」

 お嬢さま育ちのハジミは、掃除が行き届いていないと、不愉快になるのだ。

「小石。小石でございますか。小石をご覧になったのですね」

 神官は何かとても感動しているようだった。ハジミは首をかしげた。すると、転がっていた小石が、ぴょんと跳びはねた。小石には、つぶらな瞳のような模様があった。

 ハジミは息をのんだ。小石はぴょんぴょん跳びはねて、ハジミの足下までやってきた 。
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