龍神の化身

田原更

文字の大きさ
上 下
6 / 30
前編 ハジミとクジャ

第6話

しおりを挟む
 部屋の真ん中は少し高くなっていて、座卓が据えてあった。

 フィオガハに言われたので、ハジミとクジャは座卓の前に座った。座卓には、小さな引き出しがついていた。

「開けてみな」

 ハイルが急かすように言った。ハジミは思い切って引き出しを開けた。クジャはおそるおそる引き出しを開けた。中には、カードの束が置いてあった。

「何ですか?」

 ハジミが尋ねると、ハイルはにやりと笑った。

「これが、俺たち龍神の化身が使う、占いの道具だ」

 ハイルはクジャの引き出しに入っていたカードの束を素早く取ると、両手を使ってしゃっしゃとカードを切った。

「龍神の化身に選ばれたあなたたちの役目は、龍神の言葉をみなに伝えること。けれど、龍神さまは、めったに人の言葉を口になさらない。龍神さまのご意思は、すべて、このカードで伝えられる」

 フィオガハが説明しているうちに、ハイルは座卓の上に、カードの束の上から三枚のカードを並べた。左から順に、星のカード、歯車のカード、器が三枚描かれたカードだ。

「さて、これはどういう意味だ?」

 ハイルはまたしても、にやりと笑った。

「ええと、星……歯車? 器が一つ、二つ……」

「見たまんまじゃないか。それにお前、数が数えられないのか?」

 さっきまで青白かったクジャの顔が、一気に真っ赤になった。ハイルはクジャの肩をばんばん叩き、今度はハジミの顔を見た。

「じゃ、お前はどう思う?」

 ハジミはかちんときた。ハジミは兄さんたちにさえ、お前、なんて乱暴な言葉で呼び捨てられたことはない。

「何を占ったのかわからなければ、何も答えられません」

 ハジミがぷんぷん怒ると、ハイルは豪快に笑った。

「おお、頭がいいな。じゃあすぐに、覚えてくれるだろう。よかったな、フィオ、楽ができて。俺なんか、数の数え方から、教えないとならねえ」

 ハジミとクジャは、一月ほどかけて、カード占いのやり方を教わった。フィオガハとハイルがいないとき、ハジミはクジャに文字の読み方と書き方を教えた。それでわかったことが二つあった。一つは、龍神の化身の力は、ただの占いに過ぎないこと、もう一つは、クジャはとても賢いことだ。

 しかし、クジャがどんなに賢くても、貧しい家で、あまり家族に恵まれずに育ったクジャと、甘やかされて育った大金持ちのお嬢さまのハジミとでは、会話がかみ合わなかった。ハジミは家が恋しくなってきた。

(ただ、占いをするだけなら、わたしである必要がないわ。わたしは、これから学び舎で勉強して、いつか、父さまから船をいただいて、商売をするはずだったのに……。頭のいいハジミなら、きっとできるって、父さま、笑っていたのに)

「父さま、母さま、兄さまたち。会いたい……帰りたい……」

 ハジミは涙で枕を濡らした。しっかり者のハジミとはいえ、まだ六歳の女の子だったのだ。

                  **

 今では、クジャはハジミの親友だ。ハジミの話をじっと静かに聞いてくれて、ときおり、ハジミが思ってもいなかったような答えを返してくれる。占いの結果を読み解くのに困ったときに、クジャに尋ねると、クジャはぱっと霧が晴れるようなことを教えてくれる。だから、ハジミはもう、クジャのことを弟だとは思っていない。それに、ハジミには、子分がいるのだ。ときにうっとうしい、子分が。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈 
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

【完結】殿下、自由にさせていただきます。

なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」  その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。  アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。  髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。  見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。  私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。  初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?  恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。  しかし、正騎士団は女人禁制。  故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。  晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。     身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。    そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。  これは、私の初恋が終わり。  僕として新たな人生を歩みだした話。  

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

生まれたばかりですが、早速赤ちゃんセラピー?始めます!

mabu
児童書・童話
超ラッキーな環境での転生と思っていたのにママさんの体調が危ないんじゃぁないの? ママさんが大好きそうなパパさんを闇落ちさせない様に赤ちゃんセラピーで頑張ります。 力を使って魔力を増やして大きくなったらチートになる! ちょっと赤ちゃん系に挑戦してみたくてチャレンジしてみました。 読みにくいかもしれませんが宜しくお願いします。 誤字や意味がわからない時は皆様の感性で受け捉えてもらえると助かります。 流れでどうなるかは未定なので一応R15にしております。 現在投稿中の作品と共に地道にマイペースで進めていきますので宜しくお願いします🙇 此方でも感想やご指摘等への返答は致しませんので宜しくお願いします。

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

目が覚めたら夫と子供がいました

青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。 1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。 「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」 「…あなた誰?」 16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。 シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。 そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。 なろう様でも同時掲載しています。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

処理中です...