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番外編 往復書簡
第13話 往復書簡
しおりを挟むヴィンセントとクロードは無言でベッドへと向かうと、ふたりで広いベッドの上に乗り上げた。
落ち着かない様子のクロードは、ベッドの上でも目線を泳がせている。
そんなクロードの手を取り、ヴィンセントは優しく問いかけた。
「横になれますか?」
「……僕がですか?」
クロードは目を丸くして、不安そうに尋ね返してきた。なにか勘違いしているらしい。
ヴィンセントは苦笑しつつ、クロードの疑問に答える。
「俺がリードするだけです。あなたをとって食うような真似はしません」
「騎乗位でするということですか?」
「まあ、そうですね……」
ちゃんとそういう単語は記憶に残っているのだな、とヴィンセントは少し感心してしまった。
それはそれとして、実はヴィンセントには騎乗位の経験がなかった。以前のクロードとの閨事ときは正常位が後背位のどちらかで、ヴィンセントがクロードの上に乗ったこともなければ、リードしたことも一度もない。
まあ、なんとかなるだろう──そんな軽い気持ちで、ヴィンセントは事を進めようとしていた。
とにかく、クロードのものを勃たせて、自分で中を解して、挿れればいいのだ。
おそらくクロードがなにもしなくても、ヴィンセントが頑張ればどうとでもなるだろう。
「目を閉じていても構いません。なるべく早く終わらせます」
「……目を閉じるなんて、そんなことはしません」
「ですが、俺の体は傷痕が多いので、あまり見ていて気分の良いものではないかと」
いかにも心外だと言いたげな顔をするクロードにそう言いながら、ヴィンセントは自身の寝衣の結び目を解いた。
すると、寝衣の前が自然と開き、首筋から臍の下まで、ヴィンセントの素肌が無防備に晒される。
下着は履いたままなのでさほど羞恥心はないが、それを見せられたクロードは途端に顔を真っ赤にして口をはくはくとさせた。
「そっ、そんな突然っ……!」
「失礼しました。体の傷に関しては、見ていただいた方が早いかと思いまして」
「傷がどうとかっ、そんな問題じゃないですっ!」
「そ、そうですか……」
確かに、傷のことは以前のクロードもあまり気にしていなかった。いや、あれは気にしていたといえば気にしていたのだろうか──
「あの……」
ヴィンセントが以前のクロードのことを思い出していたところで、赤面したままのクロードから控えめな声がかけられる。
「はい、なんでしょうか?」
「父上から、ヴィンセントさんは僕の命の恩人だと聞きました。盗賊から襲われていたところを助けていただいたと」
「…………まあ、そうですね」
歯切れの悪い返答になったのは、あのとき、最後の最後でヴィンセントは背中を切りつけられて気を失ってしまったからだ。
その直後、助けを呼びに行っていたクロードの従者のひとりが応援を引き連れて戻って来たのでなんとかなったが、それがなければヴィンセントどころか、クロードの命もなかったのかもしれない。
実際のところ、ヴィンセントよりも従者の彼のほうがよっぽどクロードの命の恩人なのではないかとヴィンセントは思うこともあるが、クロードたちの中ではそうではないらしい。
たまたま通りかかっただけの見ず知らずの男が命懸けで助けてくれたから……ということもきっと大きいのだろう。
あれがきっかけで、ヴィンセントはクロードの妻になった。
不相応ではあるが、クロードを愛していることを自覚したいまとなっては、まるで運命のようにも思える。きっと、いまのクロードのも、以前のクロードも、そんな風には思わないだろうが。
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読んでくださったのですね。それから返信までしてくださり、なんというか感無量です。
本当に勝手にすすめた本だったので、気に入ってくれたみたいでとても嬉しいです。
文章を読んで、私もこの本を読んでいた時の静かな感動というか、素晴らしい本に出会えた幸運、そういった気持ちを思い出しました。
さて、内省的、と何度も書いていらっしゃいますね。私はそこまではっきり言葉として意識していなかったですが、確かに「ミーナは糸を紡ぐ」と「鳴りひびく鐘の時代に」は、そのような類似点があったのかもしれませんね。
そうなると、もしかしたらこの本が、私と田原さんの作品を繋げたのかもしれませんね。
もちろんそれだけではないと思いますが、そう考えると面白いな、と思ったのです。
本当に、そう考えると面白いですね。
素晴らしい本を紹介してくださって、ありがとうございました。
ここ数日、作品を楽しませてもらいました。どこか懐かしいような世界観と文体で、なかなか重いテーマを扱っているな、と思いました。
ミーナの機織りは、未熟な彼女が成長して自分に向き合い、愛情や、この世にある悲しみや憎しみなどを学んでいくことと重ね合わせているのでしょうね。
染色のことなども、初めて知ることが多かったです。尿で発酵は、嫌ですね。
ミーナが苦労するのは、その生まれや彼女が未熟であることに加えて、現代的な価値観を持っているからだと感じました。
ミーナとイェルクの気持ちがすれ違う様子は、他人事とは思えないまま読んでいました。
人間ってほんのちょっとの誤解で、喧嘩をしてしまうものですよね。
なるべく、そうしないでいられるといいのですが。
それと、この作品を読んでいて、最近読んだマリアグリーペの「鳴りひびく鐘の時代に」をなぜか思い出しました。その作品は、もうちょっと硬い感じですが、もし読んだことがないなら、ぜひ、と思い、勝手ながら最後に紹介しておきます。
では、ありがとうございました。
yamatukaさま
『鳴りひびく鐘の時代に』を読み終わったので、改めて返信いたします。
ご感想ありがとうございます。アルファポリスで感想頂いたのは初めてで、感動しております。
ミーナについて、解像度高く捉えてくださってありがとうございます。とても嬉しいです。
自分軸で生きているところが現代的なのかもしれませんね。
「鳴りひびく鐘の時代に」については知りませんでした。古い作品のようですが、まだ出回っているようなので、今度是非読んで見ようと思います。
おすすめの本をご紹介いただき、ありがとうございました。
**************************************************************
以下追記
『鳴りひびく鐘の時代に』読み終わりました。
内省的でおよそ王に向いていないアルヴィドと、気高く利発なヘルゲ。
大人になると、こんなに深く、美しく、誰かと繋がることは恐らくできないでしょう。二人の繋がりが少しうらやましくもありました。
エンゲルケの愛と、エリシフの恋の描写も素晴らしくて、何よりとても美しかったです。
内面世界を丁寧に描いた、内省的なファンタジーでした。こんな表現があるのかと、驚かされることの多い作品でした。
実は、『ミーナは糸を紡ぐ』は、内省的なファンタジーを書こうと思って作った作品です。
ミーナが過去をたぐり寄せ、現在を見つめ、未来にたどり着くまでを書こうと思いました。
糸紡ぎ・染色・機織りはそのための暗喩でした。
この作品が内省的なファンタジーだということが伝わっていたならば、これほど嬉しいことはありません。