<神話風ファンタジー>花の女神と英雄の話

田原更

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中編 雪の冷たさ

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 こうしてクヴァは、南に向かって旅立ちました。しかし、あまたの怪物を倒したクヴァも、寒さには敵いませんでした。

 クヴァは吹雪に襲われました。南に向かって懸命に歩みを進めるクヴァの目の前に、一軒の小屋が現れました。クヴァは、吹雪から逃れるため、小屋で暖をとることにしました。

 小屋の中には、娘が一人おりました。娘は暖かそうな毛皮を何枚も被り、炉端でじっと座っていました。娘はクヴァを見て驚きました。

「あなたは誰ですか」

「私はクヴァ。南に向かう、旅人です。吹雪が収まるまで、ここで暖をとらせていただきたい」

 娘はクヴァを疑いの目で見つめていました。

「怖がらせてしまい、すみません。お詫びに、とある英雄の話を聞かせましょう」

 娘はしばらくの間、身体をこわばらせていましたが、クヴァが、正体を明かさずに語る英雄譚を聞くうちに、手を叩いて喜び、朗らかに笑い出しました。

「こんなに楽しい思いをしたのは、久しぶりです。父も母も死に、たった一人で暮らしていました。いくら火を焚き、いくら毛皮を被ろうとも、心の中に降り積もる雪の冷たさは、決して消えはしませんでした。ですが、あなたと語らううちに、私の心に春がやってきました」

 クヴァは、一人で暮らす娘の寂しさに同情を寄せ、そっと抱きしめました。

 幾日か経ち、吹雪が止みました。クヴァは再び旅立つ決意をしました。旅支度をするクヴァに、娘はこう言いました。

「あなたとの思い出の証として、一輪の花をください」

「まだ冬だ。どこを見渡しても、花などありはしない」

「この小屋の軒下を掘ってください。そこに花があるでしょう」

 言われたとおり、クヴァは軒下を手で掘りました。そこには、黄色い花が咲いていました。クヴァはその花を娘のもとに持っていきました。

「その黄色い花を、私の髪に飾ってください」

 言われたとおり、クヴァは黄色い花を、娘の髪に飾ってやりました。娘は、雪を掘って冷たくなったクヴァの手に、そっと口づけしました。

「私が被る毛皮のうち、どれでも好きなものをお持ちください」

 クヴァは、毛皮を一枚一枚あらため、一番長い毛皮を選びました。その毛皮は、クヴァの身体をすっぽりと覆いました。

「ありがとう。そして……すまない。私は、どうしても行かねばならぬのだ」

 娘は頭に飾った花をそっとなでながら言いました。

「この花は、福寿草。春を告げる花。あなたが私に告げた春は、とこしえに続くでしょう。さあ、英雄クヴァ、もう行きなさい」

「気づいていたのか?」

 クヴァは目を瞬きました。娘はくすくす笑いました。

「ええ、初めから」

 娘がくれた毛皮のおかげで、クヴァはどんな吹雪にも負けずに進めるようになりました。クヴァは南に向かって歩き続けました。
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