<神話風ファンタジー>花の女神と英雄の話

田原更

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前編 太陽の子

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 昔々、あるところに、満月のように美しい娘がおりました。あまりの美しさから、娘は太陽神に見初められ、息子を一人産みました。娘はその子を太陽の子、クヴァと名付け、大切に育てました。

 神の子であるクヴァは、人とは思えぬほどの怪力を持っていました。その力で、あまたの怪物を退治したクヴァは、いつしか神々さえ一目置くほどの存在となりました。


 ある冬の日、クヴァの元に美しい女神が現れました。クヴァは女神を前にし、ひざまずきました。

「太陽の子、クヴァ。わたしは花の女神、ジズミカ。あなたのあまたの功績は、私が暮らす常春の楽園まで届いています」

「恐れ多いことです」

 クヴァは頭を垂れました。

「あなたにお願いがあるのです。聞いてくれますか?」

 花の女神は野ばらのように美しい笑みを浮かべました。

「何なりと」

 クヴァは顔をあげました。

「あなたに、退治してほしい怪物がいるのです」

「どのような怪物であろうとも、女神様のお望みであれば、必ず退治してみせましょう」

「まあ、心強い」

 花の女神は再び、野ばらのような笑みを浮かべました。

「私の庭に、白い獣が現れました。その獣は、私の庭の花を枯らしてしまうのです。私は花の女神。言わば花の母。わが子を奪う獣を、どうか退治してください」

 花の女神は風にそよぐスミレの花のように、細い身体を悲しみで揺らしました。

「必ず、やり遂げてみせましょう」

 クヴァは胸元で拳を握りました。それを見た花の女神は、三度目の、野ばらのような笑みをみせました。

「獣を退治したあかつきには、あなたに永遠の若さを授けましょう」

 神の子であるクヴァも、並の人同様、いつか老いて死ぬ運命でした。その運命の一つから逃れられることは、どんな宝を授かるより魅力的でした。

「願ってもないことです」

 クヴァは晴れやかな笑顔を女神に向けました。花の女神は微笑みました。

「ただし、私の庭の花の、たった一輪でも摘み取ったならば、あなたに老いを与えましょう」

「ご安心ください。決して、女神様に背くことはいたしません」

「わかりました。あなたを信じましょう。旅立つあなたに、祝福を」

 花の女神はクヴァに腕を伸ばしました。クヴァは花の女神の手にそっと口づけしました。

「では、早速、女神様の元へ参ります。女神様が暮らす常春の楽園は、いずこにありましょう?」

「ここより、遙か南。あなたが来るのを、ずっと待っています」

 そう言うと花の女神は風のように消えました。辺りには花の香りだけが残りました。
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