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6巻
6-1
しおりを挟む竜の島
生活拠点にしている塔のソファで一息ついた俺――☆1のアストルは、沸々と煮えたぎる気持ちを抑えながら、情報の整理を始めた。
――恋人のユユとその姉であるミントが攫われた。
今すぐにでも連れ戻しに行きたいところだが、冷静さを欠いてはまた失敗してしまうだろう。
ここは反省も踏まえて一度現状を振り返るべきだ。
エルメリア王国でナーシェリア王女に関連する事件を解決して、ここ学園都市に帰ってきた俺達のパーティは、奇妙な一団とすれ違った。
『ダカー派』と呼ばれる竜信仰の連中である。
その時視線を感じた気がしたが、あの時点ですでに状況は動いていたのかもしれない。
☆1という最低のアルカナを持つ身ながら、学園都市で『賢人』の地位を得た俺を疎む者は多い。赤の派閥に属するマフィア紛いの賢人マルボーナもその一人だ。
この世界において、アルカナの☆の多寡は人の価値に等しい。奴は〝☆1風情〟の俺が同じ賢人という地位にあるのが面白くなかったのだろう。
そんなマルボーナに『ダカー派』からユユとミントの件で依頼があった。それがきっかけとなって、俺を罠に嵌める計画が組み上がったと考えるのが自然だ。
マルボーナにとっては、一石二鳥の良い案だったに違いない。査問会で俺を足止めしている間に姉妹を攫い、『ダカー派』に引き渡した。俺には、二人を殺したと匂わせる内容の手紙をよこしたが、あれはどちらかというと嫌がらせみたいなものだったのだろう。
それで俺は、怒りと勢いに任せて、マルボーナの塔へ向かった。姉妹を殺されたと思ったから。そして、マルボーナ本人とその塔に属する人間を、粛々と虐殺した。古代魔法も使ったし、『クレアトリの杖』の宝珠に宿した人工神聖存在――ミスラも呼んで、徹底的にやった。
アレは紛れもない虐殺だ。誰にも慈悲をかけなかったし、人間として見なかった。
しかし、そこで姉妹が生きていることがわかったのは不幸中の幸いだったと思う。
すでに連れ去られていなくなった後だったが、マルボーナの頭の記憶を直接ひっかきまわして、依頼主が『ダカー派』であると突き止められた。
今俺にできるのは、彼らを追う準備と……『ダカー派』の追跡に出たパーティメンバーのチヨが戻るのを待つことだけだ。
東方の『忍者』の技を使う優秀な斥候であるチヨが戻ってきたのは、日が傾いてあたりが薄暗くなりはじめた頃だった。
「遅くなりました。申し訳ありません」
彼女の姿を見るなり、俺は待ちきれずに問いかける。
「二人は……!?」
「姿は確認できませんでした。しかし、学園都市の南……街道を少し進んだところで例の『ダカー派』の集団を捕捉しました。あちらも手練れの斥候を放っていてなかなか近づけませんでしたが、あの移動速度であれば、今からでも充分に追いつけます」
姉妹の行き先を見失っていないとわかり、少し胸を撫で下ろす。
何も解決してはいないとはいえ、完全に行方が掴めないなんてことにならなくて良かった。
「チヨ。戻ってきたばかりで悪いが、案内を頼む」
狼人族の侍で、チヨの義理の父であるレンジュウロウが早速刀を手に立ち上がる。
「はっ。お任せくださいませ」
「ちょっと待って、チヨさん。はい、これ、アストル君考案の疲労回復茶とクッキー。一息だけでもおつきなさいな」
レンジュウロウに続き、今まさに扉を出ようとするチヨを、穏やかな女性の声が呼び止めた。彼女――パメラは、俺達パーティのリーダーであるエインズの奥さんだ。
「もう、レンジュウロウさん。女の子を気遣うことを少しは覚えてくださいね」
「むぅ……。すまぬな、チヨ」
「いいえ、チヨに気遣いは不要ですよ、お父様。では、今のうちにルートの確認を」
チヨはクッキーを齧りながら地図を取り出し、机に広げる。
「このルートです。『におい玉』を馬車に放っておいたので、追跡用の蟲で正確に後を追えます。馬車は三台、全て二頭立て。周囲に警戒用の斥候が二人と、護衛用と思しき武装者が五人。一団の正確な人数と、どの馬車にお二人がいるのかは確認できませんでした」
追跡者としては完璧な仕事だ。
「ふむ……このルートだと、行き先は南沿岸部にある港町、ポートアルムじゃの。『ダカー派』の本拠地であるダマヴンド島へ戻るつもりかもしれんな」
ダマヴンド島は、『西の国』の南に位置する大きな島である。
一応、『西の国』の一部とされているが、その実態は『ダカー派』が支配する一つの国のようなものであり、閉鎖的で他地域との政治的な関わりをほとんど持たない。文献によると、昔は『西の国』と敵対関係にあったらしい。
「馬を使えば、最初の宿場町で追いつけると思われます」
「彼らと交渉はできそうですか?」
俺の質問に、チヨは首を捻る。
「理由はわかりませんが、かなり警戒している様子でした。マルボーナは〝売値が付いたから攫った〟と言っておりましたし、『ダカー派』は最初からお二人を狙っていた可能性があります」
二人を攫ってきたら金を払うと依頼したというなら、それがどういう理由であれ、友好的とは言えない。姉妹に何か用事があるだけなら、俺の塔を訪れて用向きを説明すればいい。それをギャングに依頼して金で解決して連れ去るなど、後ろ暗い事情があるとしか考えられない。
つまり、奴らは〝敵〟と看做していいだろう。
「しかしよ、竜信仰なんて言いながら陸竜の手綱をマルボーナに渡しちまうなんて、信者が聞いて呆れる」
俺の冒険者予備学校時代からの親友であるリックが、装備の点検をしながらぼやいた。
「それに関してなんだが、今回の件で確信したことがある」
おそらく、『ダカー派』の連中が奉じているのは〝神格化した特定のドラゴン〟だ。それ以外のドラゴンは敵か道具程度にしか考えていないのだろう。そうでもなければ、マルボーナに支払いの一部として陸竜を操る魔法道具を渡したりはしないはずだ。
つまり、俺達が対峙した陸竜は単純に戦力の一つとして使役されているだけであり、信仰の対象などではないと考えられる。
『ダカー派』にとっては〝竜と名のつくデカいトカゲ〟程度の認識に違いない。
「ふむ。なればアストルよ、その特定のドラゴンとやらにはアタリがついておるのか?」
レンジュウロウに質問された俺は、以前読んだ文献の記憶を掘り出しながら答える。
「資料が少なすぎて正しいかはわからないんですけど……『終末』関連の古文書に『アズィ・ダカー』という邪竜の記述がありました。またの名を〝終末の蛇伯〟。強大な力を持った竜で、かつてこの一帯はその竜の支配地だったらしいです」
かなり曖昧な記述であった上に、俺が見た古文書自体も複製されたものなので、真贋は不明だが……正解からそう遠くないと直感している。
黙って話を聞いていたエインズがため息と共に呟く。
「どっちにしろ、二人が攫われた理由はわかんねぇってことか」
「ああ。そして、どっちにしろ返してもらう」
「お待たせいたしました。出立いたしましょう」
お茶でクッキーを流し込んだチヨが、準備しておいた旅荷物を背負う。
俺達もすでに準備は万全だ。旅道具に、武器、薬品、巻物、魔法道具。戦闘になることを想定した――どちらかと言うと〝討伐クエスト〟に行く時のような装備品である。
相手は人間だが、話が通じない手合いであれば、単に敵であると割り切る。
そう……マルボーナ一味と同じだ。
「まずは馬を借りねばな」
「すでに声掛けをしてございます。南門そばの貸馬屋へ参りましょう」
レンジュウロウに応え、チヨが番号の書かれた木札を差し出した。
一人につき一頭借りてくれたようだ。
「わりぃ、パメラ。すぐ戻るからよ」
「焦らないでいいわよ。いつも通り、確実、堅実、執拗に、ね?」
「任せろ」
エインズと抱擁し、軽いキスを交わしたパメラが、俺の手を取った。
「アストル君、あなたもよ? エインズをお願いね?」
「わかっています。留守番をお願いします」
「ええ、一人になっちゃうと少し寂しいわ。早く二人と一緒に戻ってきてね?」
パメラは微笑むが、きっと不安に思っているだろう。
身重の彼女に心配をかけるのは良くない。さっさと終わらせて戻ってこよう。
「ええ、すぐに戻ります。必ず、二人と一緒に」
「オレもいるんだ、あんまり固くなるなよ? 久々のコンビだ……オレらならやれるさ」
リックが俺の肩を軽く叩いて真っ先に扉から出ていく。レンジュウロウとチヨがこれに続き、最後に俺とエインズが部屋を後にした。
パメラを一人にしてしまうことには、良心の呵責を覚えるが、戦闘になる可能性が高い以上、エインズにも出てもらわなければ、こちらが危険だ。
「すまない、エインズ」
「ナマ言うんじゃねぇ。あの二人だってオレにとっちゃ家族と一緒だ。……おめぇもだぞ? アストル。一人だけで背負うな。危機ってのは家族全員で乗り越えるもんだ」
ニヤリと口角を上げるエインズ。レンジュウロウも頷いて同意を示す。
「然り。お主、前に言っておったではないか。〝塔にいる者は家族だ〟と。なれば……ワシもチヨも、リックの坊主もみな家族であろう?」
「坊主は余計じゃね?」
「未熟者は坊主で充分じゃ。怪我をせぬように立ち回れよ、リック」
レンジュウロウに頭をわしわしされて憤慨するリックを横目に、俺は決意を新た一歩踏み出した。
「……ああ、家族を取り戻そう。そのためだったら、俺はなんだってできる」
◆
馬に乗って学園都市の南門を抜ける。
すでに夜の帳が下り、西の空には小さな星明りがきらめきはじめている。
「速度的に考えて、宿場町までは移動していないはずです。人数的にも、宿場町の外で野営をしている可能性が高いと思います」
チヨが糸を括りつけた親指ほどの甲虫を取り出して説明した。これも東方伝来の忍びの技らしい。
人間には感知できない特定の匂いを追うように訓練した蟲を使い、その匂いを対象に擦りつけておくことで確実に追跡を行うそうだ。
……本当に、東方の技術というのは魔法とは違ったアプローチが多くて興味深い。
「チヨさん、出会い頭に戦闘になる可能性は?」
「あちらはかなり密に斥候を放ち、警戒にあてています。この人数だと近寄れば確実に補足されるでしょう。故に、もし戦闘の意思があるならば、待ち伏せという形をとってくると思われます」
なら、待ち伏せがあると考えて行動するべきか。
「……交渉できりゃいいんだけどな」
エインズの呟きに、俺は首を横に振って応える。
「金で解決できるならなんとかするさ。ただ、どうも二人を狙っていた節がある。実際マルボーナも別の手持ち奴隷を売りつけようとしていたみたいだし」
マルボーナから毟り取った記憶の断片にそういう情報があった。
しかし、『ダカー派』は〝あの二人が欲しい〟と、相当の報酬を積み上げて、強くマルボーナに依頼したようだ。あの姉妹をそこまでして欲する理由が浮かばないが、何かあるのだろうか……
それに、二人を手に入れた途端に帰路につくというのも妙だ。
噂じゃ、あの集団は〝探し物〟をしていたはずではなかったのか?
まさか、その〝探し物〟がユユ達姉妹だった?
……いや、その線はないはずだ。
二人はエルメリア王国の王都出身で、『西の国』に来るのは生まれて初めてだった。『西の国』の島国に本拠地を構える少数民族につけ狙われる理由が見当たらない。
で、あれば……可能性としては俺への罠だろうか?
他の賢人達同様に、特異な☆1である俺に、何かしらの価値を見出したのかもしれない。
だが、マルボーナに対して俺の身柄を要求していた様子はなかった。マルボーナにしても、俺については他の賢人に〝レンタル〟するための商品と考えていたようだし。
いずれにせよ、判断材料が少なすぎる。
そして、どんな実情や事情があろうとも……二人を取り返す。
もう一山、〝死体の山〟を築いても、だ。
焦燥に追い立てられながらも、冷静さをなんとか保って馬を駆る。バーグナー冒険者予備学校で、冒険者の嗜みとして教えられた乗馬がこんな場面で役立つとは、人生わからないものだ。
しばし無言で仲間達と街道を駆けていく。
この一帯は学生の課題や冒険者ギルドの依頼として魔物や野盗の討伐が頻繁に行われることもあってか、それらに遭遇することはなく、俺達は街道を最速で走り抜けた。
「……!」
先頭を走っていたチヨが不意に馬の足を止める――いや、止められた。
暗闇に目を凝らすと、特徴的な服装の人影が街道に立ちはだかっているのが微かに見える。
しかし、月の光に照らされているはずなのに、その姿を上手く捉えられない。
どうやら、相当手練れの斥候のようだ。
チヨの前に出たレンジュウロウが、馬上から彼らを見下ろして問う。
「……お主ら、『ダカー派』の者か?」
「それに答える義理はない」
服装とその答えが、すでに『ダカー派』であると明言しているようなものだが。
「マルボーナから不法に買い付けた者を、返していただきに参った」
口を閉ざしたまま、うっすらと殺気をにじませる二人組に、レンジュウロウが牙を見せて唸る。
「あまりワシをやる気にさせるなよ、小童ども。ワシは今、気が立っておる」
後ろにいる俺にもわかるくらい濃い殺気が、レンジュウロウの全身から放たれるのがわかった。
二人組は一瞬それにたじろいだものの、退く様子はなく、こちらを睨みつけてくる。
「……渡さぬ。我らの真なる世界のために。失せよ、簒奪者の末裔よ」
「何を……ッ! 二人を返せ。お前達の都合など……知ったことじゃないぞ!」
俺の言葉を宣戦布告と見たのか、二人組が曲刀を抜く。
「……奥からも来ます!」
夜目の利くチヨさんが、増援を警告する。
この部隊展開の速さ、魔法か何かを使ってこちらの様子を窺っていたのかもしれない。
「真なる、神聖なるアズィ・ダカーの名において汝らを〝浄滅〟する」
「難しい言葉使ってんじゃねえよ!」
馬から飛び降り、双剣を抜いたリックが、曲刀の片割れと戦闘を始める。
増援から矢が数本飛来するが、〈矢避けの護り〉に阻まれて地面へと落下する。
突然の戦闘開始でも問題はない。すでに強化は完了している。
「やっぱりこうなんのかよ! まあいい、こいつら叩きのめして奪い返すぞ」
「わかりやすくていいぜ! おらおら! どきやがれ」
エインズの言葉に口角を上げて応えたリックの姿が、かき消える。
いや、速すぎて俺では追えなくなっただけだ。
〈敏捷強化〉〈迅速〉〈倍速〉でスピードを強化されたリックが、自身のユニークスキルである【隼の如く】を使えば、もはや常人では捉えられない。手練れであっても、この状態のリックを押し止めることは相当に難しいだろう。
さて、俺は俺で増援の対処にあたろう。冷静に、確実に……
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マルボーナはともかく、『ダカー派』の連中には直接的な恨みを持っているわけではない。
実際、剣を抜かれるまで話し合いで解決して……姉妹が必要などうしようもない事情があるなら、彼女達の身柄と引き換えに何か協力できれば、とすら考えていた。
だが、いざこうして戦いが始まってしまうと、妙に心が澄んでいく。濁りなき純粋な殺意が、俺の意識を冴えさせていくと感じた。
……それでも、そんな本能じみた感覚を抑えて、目の前の増援部隊数人に語り掛ける。
「二人を返してくれませんか」
「邪魔をするな! 鱗なき者よ!」
拒否の言葉を放った手前の弓兵に、拾った石を〈必中投石〉で撃ち込む。
得物を持つ利き腕の肘から先を吹き飛ばされた弓兵が、悲鳴を上げてうずくまった。
「こっちの台詞だ。邪魔をするな……! あの姉妹は俺のモノだ……ッ!」
俺はそのまま魔法式の構成に入る。
「Tio igis la ŝtonon de gruzo. Eksaltis, krude verŝas!(これなるは石の礫。飛び上がり、無作法に降り注ぐ!)──〈石の雨〉」
ランクⅢ魔法を、いくつかの魔法節を破棄して唱える。唱えなかった分の魔法節は脳内で処理を行なった。バーグナー伯爵家を飛び出してきた冒険者予備学校時代の友人――ミレニアとの魔法の特訓が、意外なところで効力を発揮している。
スキルによる詠唱の高速化とは、すなわち魔法節の処理速度の加速だ。それを『無詠唱化』で代替して脳内で処理すれば、ハイランクの魔法の場合はどうか……という発想でもって研究していたのだが、ぶっつけ本番にしては上手くいった。
「ひっ……うあぁッ!」
「ぎぃああ!」
大小さまざまな石がスコールのように降り注ぎ、数名からなる増援部隊を呑み込み、叩き潰していく。
小型の盾を構えて要所をカバーする者もいたが、いかんせんこの魔法を防ごうと思えば、体をまるごと隠せるタワーシールドでも持ってこなければ無傷とはいくまい。
「投降を」
俺の短い促しに反応し、増援部隊が立ち上がって武器を捨てた。
俺は胸を撫で下ろす。何も、楽しんで殺したいわけじゃない。殺さないで済むならそれに越したことはない……と、トドメを刺したい衝動に駆られる自分を納得させる。
それにしても丈夫な連中だ。あれだけの石礫に打ち据えられてまだ立ち上がってくるなんて。
「鱗ナキ者ヨ……!」
捕縛の魔法をかけようかというその時、粗い金属をすり合わせたような声が目の前の男の口から漏れた。
……何かおかしい。
「ギィアァアアアアッ!」
絶叫のような咆哮を上げて男がうずくまる。
その背中が盛り上がり、男の顔が……いや、全身の肌が黒く変色していく。
身につけた外套を裂きながらその体が巨大化し、黒く変色した肌が徐々に鱗に覆われていくのを見て、俺は納得し、そして戦慄した。
奴らが口にした〝鱗なき者〟とは、せいぜい、信者でないものを指す言葉くらいにしか考えていなかったのだが、文字通り鱗を備える姿に変身するなんて予想外だ。
「鱗ナキ者ヨ……! 見ヨ、コレガ救イデアル」
金属質な声で話す男のその顔は、蛇かトカゲを思わせる爬虫類めいた風貌になっていた。体は梟熊などの大型の魔物よりも大きく、指先には強靭そうな爪を備えた姿に変化している。
「蜥蜴人か? いや、それにしては人としての要素が少ないな」
蜥蜴人は、『西の国』のさらに西、『ウェストエンド諸島』に一大勢力を構える獣人族だ。彼らもドラゴンを信仰しており、その隠された神殿の最奥には本物のドラゴンがいると言われている。
「我ハ竜トナル者! 『アズィ・ダカー』ト共ニ歩ム者! スナワチ『竜従者』ナリ」
蜥蜴人扱いがお気に召さなかったのか、変異した男──『竜従者』が口から緑色の炎を覗かせる。
「〈水幕Ⅱ〉。続いて、〈耐火Ⅱ〉」
無詠唱で二つの魔法を自分にかけながら身をよじる。
吐き出された炎が、俺をかすめるが……よし、大したダメージではなさそうだ。
常駐させた強化魔法の上からこれらを使用すれば、それほど脅威ではない。
「無事かよ、アストル!」
突然、リックが俺の隣へと現れた。なかなか心臓に悪いな。
「一人で飛び出しおって、ヒヤヒヤさせるでないわ」
レンジュウロウの小言を軽く流し、リックが視線で『竜従者』を示す。
「さっきの奴らは片付けた! で、コイツはなんだ?」
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「アストル、ミントの気配はどうだ?」
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俺の言葉に反応したのか、変異した者達が一斉に動き出した。
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「来いよ、トカゲ野郎! 見切れるもんならな!」
リックが【隼の如く】を使って加速する。
次の瞬間……『竜従者』の一人が小さく血しぶきを散らす。
「くっ、浅いな……! 鱗がかてぇ」
「鱗ナキ者ヨ……! コノ姿ヲ見タ以上、生キテ戻ルコトハデキヌ」
リックに迫るその巨体に、大槍が深々と突き刺さる。レンジュウロウが投げた大槍だ。
「笑止! 面食らいはしたが、お主ら程度……我が伏見流の敵ではないわ……!」
刺さった槍をそのままに、レンジュウロウが腰の刀に手をかける。
その瞬間、ぞわりとした怖気が背中を駆け抜けた。
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