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第34話

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「さぁ、セイラ。何を聞きたいのかしら?」
「……アタシは、なんだ?」

 捻りも遠慮もない、ド直球。
 だが、一番に聞きたのがそれだったのだから仕方名がない。

「難しい質問ね。あなたはあなたよ、セイラ。でも、何になりたいかは、決められる」
「アタシは……よくわかんないよ。聖女だって、みんなが言うんだ。押し付けるんだ。聖女であることを、アタシに求める。そんなの、無理だよ」
「あらあら、セイラ。そんなことを誰が言ったのかしら。良くないことだわ」

 アタシの頬に触れて、教皇が微笑む。
 しわの刻まれた、苦労した人間の顔だ。

「でも、あんたが……神さんからそう伝えられたんだろ?」
「そうよ。神様は、聖女が現れて光で照らすとおっしゃったわ。決して、私達で聖女を選んでいいとは、一言も仰っていない」

 なんだろう、安心する。
 この人がそばに居ると、妙に安心してしまう自分がいる。

「ねぇ、セイラ。人は人でしかないわ。人の営みから外れることはできない」
「だろうね」
「だから、人は人でしか救えないの。神様は、救ってくださらない」

 それを教会のトップが言っていいのか?

「だって、神様は人がよくわからないんですもの。神様は全能でいらっしゃるけど全知ではいらっしゃらない。人がわからない御方に、人を救うなんて無理な話なの」
「じゃあ、何で……ッ」
「わからないから、人に授ける。真に人を理解する人に、人を救う力を。飢えたものに分け、恵み、生きるすべを示し、道を説き、邪悪を前にして折れず対する者に。──あなたの事よ、セイラ」

 そう微笑む教皇の顔はひどく儚い。

「アタシはそんなんじゃない!」
「あなたは優しい子よ。ちょっと口は悪いけど、聖女たるに相応しい心を持っている。神は全てを見ておられて……その上で求めるものに、力をお与えになるのよ」

 そこで、気が付いた。
 確かに、アタシは求めたのだ。
 神の力を。

「あなたが決めなさい、セイラ。神の力の代行者として……聖女として。人として。全てを救ってもいいし、何も救わなくてもいい」
「アタシはスラムの便利屋だよ? そんな大それたこと、わかんないよ……ッ!」

 微笑む教皇が再び頬を撫でる。

「いつもどおり、思った通りでいいのよ。あなたの自由でいいのよ」
「そんなの……! 卑怯じゃないか」
「じゃ、卑怯ついでに一つお願いしていいかしら、便利屋さん」

 教皇が首に提げたロケットから、何かを取り出してアタシに握らせる。

「私、もう長くないの。だから、お仕事の依頼よ」
「これ……!」

 渡されたのは、欠けた銅貨。
 いつか妹が天に旅立った時、あの優しい司祭に報酬として支払ったもの。

「神様だってタダじゃ働かないわ。そうでしょ? セイラ」
「……何の、仕事だよ」

 涙と声を抑え込みながら、名前も知らぬ恩人の手を握る。

「この世界を救ってくれないかしら。もう、誰の泣く顔も見たくないわ」
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