29 / 45
第28話
しおりを挟む
「聖女セイラ!」
ようやく歩けるようになって数日たったある日、例の裏庭へ向かおうとしたアタシを聞きなれない声が呼び留めた。
誰かと思って振り向くが、顔を見ても思い出せない。
どこかで見た顔だとは思うんだけど。
「あんた、誰だっけ」
「……ッ」
一瞬怯んだ優男が、笑顔を作り直す。
全体的に細くて頼りない感じの金髪天パ……どっかで見た気するが思い出せない。
身なりからすると貴族だともうが。
「マドック。マドック・エルメリア。この国の王子だよ。聖女セイラ」
「ああー……思い出したよ。アンナのアレじゃないか。何か用事かい?」
アタシの返答にまたも怯んだ王子様は、わかりやすい作り笑いで無遠慮にこちらへ近づいてくる。
まぁ……王族だし、遠慮する相手もいないか。それにしたって、気に入らないけど。
「今後、君の面倒はボクが見ることになった。仲良くしようじゃないか」
「はぁ?」
なに言ってんだ、コイツ。
頭の中にゴミでも詰まってるのか?
「あんたはアンナのオトコだろう?」
「そうでもない。聖女なんだろ? 君が」
「だったら何だってのさ」
いいかげん、イライラしてきた。
ヤニが切れてはなからイライラしてるのに、こんな意味の分からないやつに絡まれるなんて、ついてない。
一発ぶん殴って転がしておくか?
いや、そうするとエルムスの立場が悪くなるかもしれない。
「ボクは王子で君は聖女なんだ。拒否権はないよ? 国民と平和のためにね」
「くだらない。興味ないね」
どうせその『国民』とやらにはスラムの人間は含まれちゃいない。
「貧民街の少女が聖女となって王子様と結ばれる。誰もが憧れるシンデレラ・ストーリーじゃないか」
「触んな」
触れようとする王子の手をはたき落す。
「何が気に入らないんだい? 大人しくしていれば君は王妃にすらなれる可能性があるっていうのに」
「頭の軽そうな日和見のヘタレが抜かすんじゃないよ。王子か何か知らないけどさ、あんた安っぽいよ」
私の言葉に、一瞬怒気を漲らせるが、逆に睨み返すとすぐに引っ込めて血の気を引かせる。
この程度のカスが王族ってんだから、やってられない。
「失せな。いやいい、アタシが行く」
「待っ……」
またも触れようとする王子の脛を力いっぱい蹴ってやる。
声なき悲鳴を上げて、うずくまったバカを置いてけぼりにアタシは足早にその場を立ち去って、廊下を行く。
しばし歩き回ると、目当てに行きついた。
「おい、エルムス!」
「セイラ?」
「ちょっと顔貸せ」
何かの仕事中だったエルムスの襟をひっつかんで、アタシは廊下をズンズンと歩いていった。
ようやく歩けるようになって数日たったある日、例の裏庭へ向かおうとしたアタシを聞きなれない声が呼び留めた。
誰かと思って振り向くが、顔を見ても思い出せない。
どこかで見た顔だとは思うんだけど。
「あんた、誰だっけ」
「……ッ」
一瞬怯んだ優男が、笑顔を作り直す。
全体的に細くて頼りない感じの金髪天パ……どっかで見た気するが思い出せない。
身なりからすると貴族だともうが。
「マドック。マドック・エルメリア。この国の王子だよ。聖女セイラ」
「ああー……思い出したよ。アンナのアレじゃないか。何か用事かい?」
アタシの返答にまたも怯んだ王子様は、わかりやすい作り笑いで無遠慮にこちらへ近づいてくる。
まぁ……王族だし、遠慮する相手もいないか。それにしたって、気に入らないけど。
「今後、君の面倒はボクが見ることになった。仲良くしようじゃないか」
「はぁ?」
なに言ってんだ、コイツ。
頭の中にゴミでも詰まってるのか?
「あんたはアンナのオトコだろう?」
「そうでもない。聖女なんだろ? 君が」
「だったら何だってのさ」
いいかげん、イライラしてきた。
ヤニが切れてはなからイライラしてるのに、こんな意味の分からないやつに絡まれるなんて、ついてない。
一発ぶん殴って転がしておくか?
いや、そうするとエルムスの立場が悪くなるかもしれない。
「ボクは王子で君は聖女なんだ。拒否権はないよ? 国民と平和のためにね」
「くだらない。興味ないね」
どうせその『国民』とやらにはスラムの人間は含まれちゃいない。
「貧民街の少女が聖女となって王子様と結ばれる。誰もが憧れるシンデレラ・ストーリーじゃないか」
「触んな」
触れようとする王子の手をはたき落す。
「何が気に入らないんだい? 大人しくしていれば君は王妃にすらなれる可能性があるっていうのに」
「頭の軽そうな日和見のヘタレが抜かすんじゃないよ。王子か何か知らないけどさ、あんた安っぽいよ」
私の言葉に、一瞬怒気を漲らせるが、逆に睨み返すとすぐに引っ込めて血の気を引かせる。
この程度のカスが王族ってんだから、やってられない。
「失せな。いやいい、アタシが行く」
「待っ……」
またも触れようとする王子の脛を力いっぱい蹴ってやる。
声なき悲鳴を上げて、うずくまったバカを置いてけぼりにアタシは足早にその場を立ち去って、廊下を行く。
しばし歩き回ると、目当てに行きついた。
「おい、エルムス!」
「セイラ?」
「ちょっと顔貸せ」
何かの仕事中だったエルムスの襟をひっつかんで、アタシは廊下をズンズンと歩いていった。
1
お気に入りに追加
279
あなたにおすすめの小説
逆行令嬢は聖女を辞退します
仲室日月奈
恋愛
――ああ、神様。もしも生まれ変わるなら、人並みの幸せを。
死ぬ間際に転生後の望みを心の中でつぶやき、倒れた後。目を開けると、三年前の自室にいました。しかも、今日は神殿から一行がやってきて「聖女としてお出迎え」する日ですって?
聖女なんてお断りです!
追放された聖女の悠々自適な側室ライフ
白雪の雫
ファンタジー
「聖女ともあろう者が、嫉妬に狂って我が愛しのジュリエッタを虐めるとは!貴様の所業は畜生以外の何者でもない!お前との婚約を破棄した上で国外追放とする!!」
平民でありながらゴーストやレイスだけではなくリッチを一瞬で倒したり、どんな重傷も完治してしまうマルガレーテは、幼い頃に両親と引き離され聖女として教会に引き取られていた。
そんな彼女の魔力に目を付けた女教皇と国王夫妻はマルガレーテを国に縛り付ける為、王太子であるレオナルドの婚約者に据えて、「お妃教育をこなせ」「愚民どもより我等の病を治療しろ」「瘴気を祓え」「不死王を倒せ」という風にマルガレーテをこき使っていた。
そんなある日、レオナルドは居並ぶ貴族達の前で公爵令嬢のジュリエッタ(バスト100cm以上の爆乳・KかLカップ)を妃に迎え、マルガレーテに国外追放という死刑に等しい宣言をしてしまう。
「王太子殿下の仰せに従います」
(やっと・・・アホ共から解放される。私がやっていた事が若作りのヒステリー婆・・・ではなく女教皇と何の力もない修道女共に出来る訳ないのにね~。まぁ、この国がどうなってしまっても私には関係ないからどうでもいいや)
表面は淑女の仮面を被ってレオナルドの宣言を受け入れたマルガレーテは、さっさと国を出て行く。
今までの鬱憤を晴らすかのように、着の身着のままの旅をしているマルガレーテは、故郷である幻惑の樹海へと戻っている途中で【宮女狩り】というものに遭遇してしまい、大国の後宮へと入れられてしまった。
マルガレーテが悠々自適な側室ライフを楽しんでいる頃
聖女がいなくなった王国と教会は滅亡への道を辿っていた。
【完結】人々に魔女と呼ばれていた私が実は聖女でした。聖女様治療して下さい?誰がんな事すっかバーカ!
隣のカキ
ファンタジー
私は魔法が使える。そのせいで故郷の村では魔女と迫害され、悲しい思いをたくさんした。でも、村を出てからは聖女となり活躍しています。私の唯一の味方であったお母さん。またすぐに会いに行きますからね。あと村人、テメぇらはブッ叩く。
※三章からバトル多めです。
【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です
葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。
王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。
孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。
王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。
働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。
何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。
隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。
そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。
※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。
※小説家になろう様でも掲載予定です。
聖女業に飽きて喫茶店開いたんだけど、追放を言い渡されたので辺境に移り住みます!【完結】
青緑
ファンタジー
聖女が喫茶店を開くけど、追放されて辺境に移り住んだ物語と、聖女のいない王都。
———————————————
物語内のノーラとデイジーは同一人物です。
王都の小話は追記予定。
修正を入れることがあるかもしれませんが、作品・物語自体は完結です。
私は聖女(ヒロイン)のおまけ
音無砂月
ファンタジー
ある日突然、異世界に召喚された二人の少女
100年前、異世界に召喚された聖女の手によって魔王を封印し、アルガシュカル国の危機は救われたが100年経った今、再び魔王の封印が解かれかけている。その為に呼ばれた二人の少女
しかし、聖女は一人。聖女と同じ色彩を持つヒナコ・ハヤカワを聖女候補として考えるアルガシュカルだが念のため、ミズキ・カナエも聖女として扱う。内気で何も自分で決められないヒナコを支えながらミズキは何とか元の世界に帰れないか方法を探す。
神のいとし子は追放された私でした〜異母妹を選んだ王太子様、今のお気持ちは如何ですか?〜
星井柚乃(旧名:星里有乃)
恋愛
「アメリアお姉様は、私達の幸せを考えて、自ら身を引いてくださいました」
「オレは……王太子としてではなく、一人の男としてアメリアの妹、聖女レティアへの真実の愛に目覚めたのだ!」
(レティアったら、何を血迷っているの……だって貴女本当は、霊感なんてこれっぽっちも無いじゃない!)
美貌の聖女レティアとは対照的に、とにかく目立たない姉のアメリア。しかし、地味に装っているアメリアこそが、この国の神のいとし子なのだが、悪魔と契約した妹レティアはついに姉を追放してしまう。
やがて、神のいとし子の祈りが届かなくなった国は災いが増え、聖女の力を隠さなくなったアメリアに救いの手を求めるが……。
* 2023年01月15日、連載完結しました。
* ヒロインアメリアの相手役が第1章は精霊ラルド、第2章からは隣国の王子アッシュに切り替わります。最終章に該当する黄昏の章で、それぞれの関係性を決着させています。お読みくださった読者様、ありがとうございました!
* 初期投稿ではショートショート作品の予定で始まった本作ですが、途中から長編版に路線を変更して完結させました。
* この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。
* ブクマ、感想、ありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる