28 / 45
第27話
しおりを挟む
「アタシは……」
アタシが反論をしようとしたところに、指を立ててエルムスが続ける。
「それと、モールデン砦の戦いで見せたあなたのあの力。そして、今のあなたの姿。教会としては、もはや点数云々の話ではなくなっているんです。神託の言葉を、お伝えしましたよね?」
──『光の刻印を持つ小麦と空の娘は、暗き道を照らし、闇を裂き、我らを悠久の平穏へと導くであろう……』
……うん?
光の刻印、よし。
小麦色の髪、よし。
空色の瞳、よし。
「……やっべ……」
冷汗が止まらなくなった。
「おいおい、マジかよ……。勘弁しろよ。聖女とか柄じゃない。エルムス、ここで精算だ。契約更新は無し。飯食ったらアタシは帰る」
「セイラ。みんな、君を待っていたんだ」
「そんなこと言われても、無理なもんは無理さ。アタシは、スラムの便利屋だから、依頼されれば何だってやるさ。でも、さすがに聖女はできないよ」
『聖女をする』ということが、いかに恐ろしいことか。
アタシはあの戦場で知った。
「エルムス、あんただからいうけどさ……アタシは怖いのさ」
「セイラ?」
「あの戦場で、アタシが聖女だからと命を無碍にする連中が山ほどいた。スラム育ちのアタシなんかと釣り合わないたくさんの命だ。あれは、耐えられない」
俯くアタシの肩に手を置いて、エルムスが目線をあわせるべく跪く。
「セイラ。あなたの言う通り、命の価値は平等ではありません」
司祭様の言うことかよ。
「ただ、それは……皆がそれぞれに定めるものなんです。あなたが釣り合わないと言うあなたの命は、あの場の全員があのようにして守る価値があると信じた命でもあります。僕も含めて」
肩の手が離れ、代わりにそれがアタシの頬を撫でる。
優しい手つきだ。
「ですので、セイラ。聖女であることを恐れないでください」
「……ッ。ああ、もう……わーったよ。もう少しだけ雇われてやる」
エルムスの手に小さく頬ずりして答える。
まったく、このクソ司祭め!
惚れた弱みに付け込むなんて詐欺師かよ。
「良かった。では、正式な通知は後ほど」
立ち上がるエルムスの手を握って止める。
「なぁ、エルムス」
「何ですか? セイラ」
「なんで、あんたはアタシが聖女だと思ったんだ?」
前々からの疑問を、そっと投げる。
なんだかこのタイミングでしか、真実が聞けない気がした。
「僕はあなたと一度会っているんですよ」
「……覚えてないね」
「そうでしょうね。でも、その時に確信したんです……。あなたこそ、聖女だと。きっと、あなたを迎えに行くと」
──きっと迎えに来るから。
脳裏で、旧い記憶がふわりと浮かび上がる。
もう何年になるだろうか?
妹が死んだ時と同じくらい昔だ。
「エルムス、あんた……」
「思い出してもらえた様で結構。では、ゆっくりと食べて、しっかりと寝てくださいね」
そう微笑んで、エルムスは部屋を出ていく。
それを見送ったまま、アタシは味が薄い食事を、考え事をしながら黙々と詰め込んだ。
アタシが反論をしようとしたところに、指を立ててエルムスが続ける。
「それと、モールデン砦の戦いで見せたあなたのあの力。そして、今のあなたの姿。教会としては、もはや点数云々の話ではなくなっているんです。神託の言葉を、お伝えしましたよね?」
──『光の刻印を持つ小麦と空の娘は、暗き道を照らし、闇を裂き、我らを悠久の平穏へと導くであろう……』
……うん?
光の刻印、よし。
小麦色の髪、よし。
空色の瞳、よし。
「……やっべ……」
冷汗が止まらなくなった。
「おいおい、マジかよ……。勘弁しろよ。聖女とか柄じゃない。エルムス、ここで精算だ。契約更新は無し。飯食ったらアタシは帰る」
「セイラ。みんな、君を待っていたんだ」
「そんなこと言われても、無理なもんは無理さ。アタシは、スラムの便利屋だから、依頼されれば何だってやるさ。でも、さすがに聖女はできないよ」
『聖女をする』ということが、いかに恐ろしいことか。
アタシはあの戦場で知った。
「エルムス、あんただからいうけどさ……アタシは怖いのさ」
「セイラ?」
「あの戦場で、アタシが聖女だからと命を無碍にする連中が山ほどいた。スラム育ちのアタシなんかと釣り合わないたくさんの命だ。あれは、耐えられない」
俯くアタシの肩に手を置いて、エルムスが目線をあわせるべく跪く。
「セイラ。あなたの言う通り、命の価値は平等ではありません」
司祭様の言うことかよ。
「ただ、それは……皆がそれぞれに定めるものなんです。あなたが釣り合わないと言うあなたの命は、あの場の全員があのようにして守る価値があると信じた命でもあります。僕も含めて」
肩の手が離れ、代わりにそれがアタシの頬を撫でる。
優しい手つきだ。
「ですので、セイラ。聖女であることを恐れないでください」
「……ッ。ああ、もう……わーったよ。もう少しだけ雇われてやる」
エルムスの手に小さく頬ずりして答える。
まったく、このクソ司祭め!
惚れた弱みに付け込むなんて詐欺師かよ。
「良かった。では、正式な通知は後ほど」
立ち上がるエルムスの手を握って止める。
「なぁ、エルムス」
「何ですか? セイラ」
「なんで、あんたはアタシが聖女だと思ったんだ?」
前々からの疑問を、そっと投げる。
なんだかこのタイミングでしか、真実が聞けない気がした。
「僕はあなたと一度会っているんですよ」
「……覚えてないね」
「そうでしょうね。でも、その時に確信したんです……。あなたこそ、聖女だと。きっと、あなたを迎えに行くと」
──きっと迎えに来るから。
脳裏で、旧い記憶がふわりと浮かび上がる。
もう何年になるだろうか?
妹が死んだ時と同じくらい昔だ。
「エルムス、あんた……」
「思い出してもらえた様で結構。では、ゆっくりと食べて、しっかりと寝てくださいね」
そう微笑んで、エルムスは部屋を出ていく。
それを見送ったまま、アタシは味が薄い食事を、考え事をしながら黙々と詰め込んだ。
1
お気に入りに追加
278
あなたにおすすめの小説
神のいとし子は追放された私でした〜異母妹を選んだ王太子様、今のお気持ちは如何ですか?〜
星井柚乃(旧名:星里有乃)
恋愛
「アメリアお姉様は、私達の幸せを考えて、自ら身を引いてくださいました」
「オレは……王太子としてではなく、一人の男としてアメリアの妹、聖女レティアへの真実の愛に目覚めたのだ!」
(レティアったら、何を血迷っているの……だって貴女本当は、霊感なんてこれっぽっちも無いじゃない!)
美貌の聖女レティアとは対照的に、とにかく目立たない姉のアメリア。しかし、地味に装っているアメリアこそが、この国の神のいとし子なのだが、悪魔と契約した妹レティアはついに姉を追放してしまう。
やがて、神のいとし子の祈りが届かなくなった国は災いが増え、聖女の力を隠さなくなったアメリアに救いの手を求めるが……。
* 2023年01月15日、連載完結しました。
* ヒロインアメリアの相手役が第1章は精霊ラルド、第2章からは隣国の王子アッシュに切り替わります。最終章に該当する黄昏の章で、それぞれの関係性を決着させています。お読みくださった読者様、ありがとうございました!
* 初期投稿ではショートショート作品の予定で始まった本作ですが、途中から長編版に路線を変更して完結させました。
* この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。
* ブクマ、感想、ありがとうございます。
私は聖女(ヒロイン)のおまけ
音無砂月
ファンタジー
ある日突然、異世界に召喚された二人の少女
100年前、異世界に召喚された聖女の手によって魔王を封印し、アルガシュカル国の危機は救われたが100年経った今、再び魔王の封印が解かれかけている。その為に呼ばれた二人の少女
しかし、聖女は一人。聖女と同じ色彩を持つヒナコ・ハヤカワを聖女候補として考えるアルガシュカルだが念のため、ミズキ・カナエも聖女として扱う。内気で何も自分で決められないヒナコを支えながらミズキは何とか元の世界に帰れないか方法を探す。
【完結】薔薇の花をあなたに贈ります
彩華(あやはな)
恋愛
レティシアは階段から落ちた。
目を覚ますと、何かがおかしかった。それは婚約者である殿下を覚えていなかったのだ。
ロベルトは、レティシアとの婚約解消になり、聖女ミランダとの婚約することになる。
たが、それに違和感を抱くようになる。
ロベルト殿下視点がおもになります。
前作を多少引きずってはいますが、今回は暗くはないです!!
11話完結です。
王命を忘れた恋
須木 水夏
恋愛
『君はあの子よりも強いから』
そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。
強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?
そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。
追放された聖女の悠々自適な側室ライフ
白雪の雫
ファンタジー
「聖女ともあろう者が、嫉妬に狂って我が愛しのジュリエッタを虐めるとは!貴様の所業は畜生以外の何者でもない!お前との婚約を破棄した上で国外追放とする!!」
平民でありながらゴーストやレイスだけではなくリッチを一瞬で倒したり、どんな重傷も完治してしまうマルガレーテは、幼い頃に両親と引き離され聖女として教会に引き取られていた。
そんな彼女の魔力に目を付けた女教皇と国王夫妻はマルガレーテを国に縛り付ける為、王太子であるレオナルドの婚約者に据えて、「お妃教育をこなせ」「愚民どもより我等の病を治療しろ」「瘴気を祓え」「不死王を倒せ」という風にマルガレーテをこき使っていた。
そんなある日、レオナルドは居並ぶ貴族達の前で公爵令嬢のジュリエッタ(バスト100cm以上の爆乳・KかLカップ)を妃に迎え、マルガレーテに国外追放という死刑に等しい宣言をしてしまう。
「王太子殿下の仰せに従います」
(やっと・・・アホ共から解放される。私がやっていた事が若作りのヒステリー婆・・・ではなく女教皇と何の力もない修道女共に出来る訳ないのにね~。まぁ、この国がどうなってしまっても私には関係ないからどうでもいいや)
表面は淑女の仮面を被ってレオナルドの宣言を受け入れたマルガレーテは、さっさと国を出て行く。
今までの鬱憤を晴らすかのように、着の身着のままの旅をしているマルガレーテは、故郷である幻惑の樹海へと戻っている途中で【宮女狩り】というものに遭遇してしまい、大国の後宮へと入れられてしまった。
マルガレーテが悠々自適な側室ライフを楽しんでいる頃
聖女がいなくなった王国と教会は滅亡への道を辿っていた。
【完結】婚約破棄にて奴隷生活から解放されたので、もう貴方の面倒は見ませんよ?
かのん
恋愛
ℌot ランキング乗ることができました! ありがとうございます!
婚約相手から奴隷のような扱いを受けていた伯爵令嬢のミリー。第二王子の婚約破棄の流れで、大嫌いな婚約者のエレンから婚約破棄を言い渡される。
婚約者という奴隷生活からの解放に、ミリーは歓喜した。その上、憧れの存在であるトーマス公爵に助けられて~。
婚約破棄によって奴隷生活から解放されたミリーはもう、元婚約者の面倒はみません!
4月1日より毎日更新していきます。およそ、十何話で完結予定。内容はないので、それでも良い方は読んでいただけたら嬉しいです。
作者 かのん
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
だから聖女はいなくなった
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」
レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。
彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。
だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。
キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。
※7万字程度の中編です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる