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第12話

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 エルムスお得意の台詞を借りて、カウンターの強面を脅してやる。
 面倒なやりとりはごめんだ。

「はいよ。そっちの旦那も一緒か?」
「そうだ。バーモンに用事だよ」

 バーモンはこの斡旋所を取り仕切る顔役だ。
 こんな場所にいるからには清廉潔白な人間であるはずなどないが、それでも幾分『まとも』な感覚を持った人間ではある。

 エルムスを伴って、扉の先へ向かうと筋骨隆々とした大男が、煙草を燻らせていた。

「おう、バーモン」
「バーモンさん、だろうが。セイラ」

 にやりと笑った大男が、煙草を灰皿に押し付ける。

「見ないやつだな」
「アタシのコレさ」
「はン、色気づきやがって。それで?」

 ずしりと重い麻袋を一つ、机に置く。

「ここに金貨が百枚入ってる。こいつでガキどもに定期的に食える仕事をやってくれ」
「百枚だ? 何だ、てめぇ……ヤバい金じゃないだろうな」

 命で集めた金だ。
 ある意味ヤバいかもな。

「四割までは抜いていい。頼んだよ、バーモン」
「『バーモンさん』だ、セイラ。あと、オレをなめんじゃねぇ……取次はキッチリ二割だ」
「よろしく頼んだよ、バーモンさん」

 アタシに口角を上げてみせたバーモンが、エルムスを見る。

「おう、坊主の旦那。こいつ、口は悪ぃが見ての通りいい女なんだ。幸せにしてやってくれよな」

 バーモンの言葉に、なんだか恥ずかしくなる。

「バーモン! 馬鹿言ってんじゃないよ。アタシがいない間、頼んだからね」
「ハッ、言われなくても何とか回すのがオレの仕事だ」

 ニヤニヤ笑いのバーモンに舌打ちして踵を返す。
 ここでの用は終わった。

「いくよ、エルムス」
「ああ」

 あっけにとられたか何かしただろうか。
 いつもよりも気の抜けた様子のエルムスを伴って、斡旋所を後にする。

「まだ寄る所があんだ。付いてきたからには付き合ってもらうよ」
「承りましたよ」

 やや気を取り直したらしいエルムスを連れて歩く。

 下町で炊き出しをしている教会。
 スラムのガキどもがよく盗みを働くパン屋。
 スラムの駆け込み寺になっている医院。

 それぞれに、金貨の入った袋を手渡し……時には頭を下げる。
 下手を打てば、ここに戻ってくることはできない。
 彼岸に金貨は持ち込めないのだから、あぶく銭の如く全部使っちまおう。

「あともう少しだよ」

 やや疲れた様子のエルムスに、花屋を指さして見せる。
 残った金貨は、一枚こっきりだが……花はそう高い買い物ではない。

「あら、セイラ。いつものかい?」
「ああ。今日はありったけおくれ」

 いつも笑顔の女店主に金貨を手渡し、アタシは両手いっぱいの白い花を……持ち切れない分はエルムスに持たせて、ある場所に足を向けた。
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