ザ・聖女~戦場を焼き尽くすは、神敵滅殺の聖女ビームッ!~

右薙光介

文字の大きさ
上 下
5 / 45

第4話

しおりを挟む
「で、こいつ誰なワケ?」
「ポリー伯爵家のご令嬢、アンナ様です。『光の刻印』がお身体にある、今代の聖女候補ですよ」

 マーガレットの紹介に、渋々といった様子でスカートをつまみ上げカーテシーをするアンナ。

「おう、そうかい。アタシはスラムの何でも屋、セイラだ。覚えなくていいぜ。ここにはよくわかんねぇ仕事できただけだ」

 礼儀として、軽く会釈だけ返しておく。
 カーテシーなんて、アタシはまともにできないし、摘まみ上げるスカートも履いちゃいない。

「あなたにも『光の刻印』がありますの?」
「似たような形の痣があるだけさ。いい迷惑だよ」

 心底のたっぷりとしたため息を披露する。
 こんなキラキラした適当な候補がいるなら、何もどぶの底スラムからアタシを捕まえてくることないだろうに。

「セイラ様は今から湯あみですので、これで失礼いたしますね」
「……ええ。ごきげんよう」

 アンナの言葉に「ゴキゲンヨウ」とオウム返しをして、マーガレットの後ろについて行く。
 背後から視線を感じるが、タダ見するくらいなら金でも恵んでほしいところだ。

「なぁ、マーガレット」
「はい?」
「ああいうのが何人もいるのかい?」
「はい。現在十余名の候補者様がこちらの大聖堂に御滞在されてますよ」

 はぁ……場違い感が増してきた。
 そんなにたくさんいるってのに、何だってアタシなんかが連れてこられたのか。
 あれか?
 あえて、下の人間を一人置くことでガス抜きしようって魂胆か?

 まったく、エルムスめ。性格の悪い。
 まぁ、金の為なら少々のサンドバッグくらいにはなってやるさ。
 この様子だと、命のやり取りはなさそうだし、それで金貨が手に入るなら儲けものだ。

「さぁ、セイラさん。上から下までピッカピカにして差し上げますからね」
「はぇ?」

 エルムスへの文句を考えているうちに、いつの間にか浴室についていた。

「さ、脱いで脱いで。手伝いは必要ですか?」
「いらねぇよ! ってか、マーガレットも一緒なのか?」
「当たり前でしょう? きっちりと、お世話させていただきますからね!」

 やる気みなぎる様子のマーガレットが、修道服をするすると脱いでいく。
 心の中で舌打ちしていると、その肌に目が留まった。

 腕、脚、背中、腹、胸。
 マーガレットの体中に、ミミズ腫れのような傷がある。
 視線に気が付いたらしいマーガレットが、小さく俯く。

「これは見苦しいものを……失礼しました。すぐに湯衣で隠しますので」
「いや、じろじろ見ちまってすまなかったね」

 あれは、鞭で打たれた後の傷だ。
 こんな年若い女に、誰があんなことをしたのか。
 相変わらず世界は狂ってる。

「さぁ、セイラさま。お覚悟なさいませ」
「待て、アタシは自分でできる!」
「はいはい、これもお仕事の内でございますよ」

 すっかり道具を取りそろえて笑うマーガレットに、アタシは渋々うなずくしかなかった。
しおりを挟む
感想 39

あなたにおすすめの小説

お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~

みつまめ つぼみ
ファンタジー
 17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。  記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。  そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。 「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」  恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!

【完結】おじいちゃんは元勇者

三園 七詩
ファンタジー
元勇者のおじいさんに拾われた子供の話… 親に捨てられ、周りからも見放され生きる事をあきらめた子供の前に国から追放された元勇者のおじいさんが現れる。 エイトを息子のように可愛がり…いつしか子供は強くなり過ぎてしまっていた…

「次点の聖女」

手嶋ゆき
恋愛
 何でもかんでも中途半端。万年二番手。どんなに努力しても一位には決してなれない存在。  私は「次点の聖女」と呼ばれていた。  約一万文字強で完結します。  小説家になろう様にも掲載しています。

聖女召喚

胸の轟
ファンタジー
召喚は不幸しか生まないので止めましょう。

そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?

氷雨そら
恋愛
 結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。  そしておそらく旦那様は理解した。  私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。  ――――でも、それだって理由はある。  前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。  しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。 「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。  そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。  お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!  かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。  小説家になろうにも掲載しています。

【完結】伯爵令嬢が効率主義の権化になったら 〜厄介事(第二王子と侯爵子息)が舞い込んできたので、適当にあしらいました〜

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「『面倒』ですが、仕方が無いのでせめて効率的に片づける事にしましょう」  望まなかった第二王子と侯爵子息からの接触に、伯爵令嬢・セシリアは思慮深い光を瞳に宿して静かにそう呟いた。 ***  社交界デビューの当日、伯爵令嬢・セシリアは立て続けのトラブルに遭遇する。 とある侯爵家子息からのちょっかい。 第二王子からの王権行使。 これは、勝手にやってくるそれらの『面倒』に、10歳の少女が類稀なる頭脳と度胸で対処していくお話。  ◇ ◆ ◇ 最低限の『貴族の義務』は果たしたい。 でもそれ以外は「自分がやりたい事をする」生活を送りたい。 これはそんな願望を抱く令嬢が、何故か自分の周りで次々に巻き起こる『面倒』を次々へと蹴散らせていく物語・『効率主義な令嬢』シリーズの第2部作品の【簡略編集版】です。 ※完全版を読みたいという方は目次下に設置したリンクへお進みください。 ※一応続きものですが、こちらの作品(第2部)からでもお読みいただけます。

〈完結〉毒を飲めと言われたので飲みました。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。 国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。 悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。

婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです

秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。 そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。 いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが── 他サイト様でも掲載しております。

処理中です...