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第三章 魔術師も、覚悟を決めて、戦う。
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シャンジルの館。ジュンは昼間、取引を持ちかけるために一度ここを訪れた。あの時も静かだったが、今はそれ以上に、ひっそりと静まり返っている。
ソウキが先導し、一行が目指しているのは、一階の最深部だ。館の地下に儀式用の地下室があり、そこへ通じる唯一の入口がある部屋、そこがシャンジルの部屋だという。
「なるほどな。普通、ボスってのは最上階にいたがるもんだけど、そういう理由で一階か」
「そう。あの扉の向こう」
真っ直ぐ長い廊下の突き当たりに、一際大きく豪華な扉が見えた。
あの向こうにシャンジルがいるのだ。三人は少し緊張して歩いていく。すると、
「来たか、ソウキ」
扉が内側から開いた。その向こうに立っていたのは、三人とも知っている男。
「カズートス様?」
「って、今頃なんでお前なんかが出て来る?」
「驚いたな。ソウキの身の上話を聞いて以来、存在をすっかり忘れていたぞ」
ソウキたちは三者三様に驚きの声を上げた。
カズートスは少々こめかみをピクつかせながら、精一杯に威厳を込めた声で答えた。
「お前たちの話を聞いて、大急ぎでシャンジル様にお伝えせねばと思ってな。今、シャンジル様は地下で準備を進めておられる。ジェスビィをお前の魂から引き出す術のな。その邪魔にならぬよう、他の者たちは既に遠ざけてあるし、わしもお前たちを案内したらすぐに出て行く」
そう言ってカズートスは、扉を大きく開けて三人を招いた。
「さあ、来るが良い。シャンジル様がお待ちだ」
はい、と元気良く返事をして、ソウキが部屋に入る。
ジュン、そしてエイユンが後に続く。
「ジュン。今のところ、おかしなところはないようだと私は考えている。君はどうだ」
「え? ああ、シャンジルが何か良からぬことを企んでるかも、とか? でも奴のことなら、他ならぬアルヴェダーユが保証してるんだから、疑う余地なんてないだろ。今俺たちが心配するべきなのは、ジェスビィの強さだけだ」
「……」
「何だよ。どうしたんだ、難しい顔して」
エイユンは、カズートスに続いて部屋に入っていくソウキの背を見て、その背の奥へと目を凝らす。何かが消化不良、何かがひっかかる、そんな顔で。
「……いや。ジェスビィはあの子に災いをもたらす邪悪な存在で、アルヴェダーユとジェスビィは対立していて、アルヴェダーユと共闘しジェスビイを倒すのはあの子を救うこと。だから、何も疑うことはない……な。うん、そうだ。すまん、変なことを言った」
「疑うって、あのなぁエイユン。アルヴェダーユは、この地上界を救った女神様なんだぞ。今だってアンタの言う通り、邪悪な存在と戦おうとしてる。何を疑うことがあるんだ」
「ああ、だから、すまん。惑わせてしまったな。私が考え過ぎているだけだろう」
ジュンと、微かな疑念を抱くエイユンも、シャンジルの部屋に入った。
床は鏡のように磨かれた大理石、壁と壁際にはいかにも高価そうな絵画や彫刻が並んで飾られ、部屋の奥には一国の王が鎮座していそうな豪華絢爛な玉座がある。
一言で表現するなら成金趣味。そんな部屋だ。どうやらシャンジルは、自分やソウキの境遇を重く真剣には考えていないらしい。儀式の為に金が必要なら、こんなことに無駄遣いはできないはずなのだが。
エイユンが眉をひそめているのは、そんなことを考えているからだろう。と察したジュンは、苦笑しつつ言った。
「シャンジルが自分の立場を利用して私腹を肥やしてるのが許せない、とか思ってるだろ」
「よくわかったな」
「そりゃ、はっきり言ってアンタの思考は単純というかワンパターンというか」
エイユンが杖を握る手に力を込めるのが見えたので、ジュンは咳払いしてゴマかす。
「え~、つまりだ。シャンジルが「この件、俺は降りる」とでも言い出したら大変だろ? ソウキもアルヴェダーユも困る。だったら、ご機嫌取りというか交換条件は必要だ。稼いだ額のいくらかをシャンジルの懐に入れる、なんてのは当然だよ」
「ご機嫌取りも何も、シャンジルはこの世界を救った偉大な僧侶の末裔なのだろう?」
「先祖は先祖、自分は自分ってことだろ。言っとくけど、この俺だってタダ働きする気はないぜ。この件が片付いたら、シャンジルやアルヴェダーユに報酬をせびる予定だ。強奪するわけじゃないんだし、もちろん今から真面目に全力で戦うんだから、構わないだろ?」
「……」
エイユンは少し残念そうな顔をしたが、何も言わない。何か反撃が来るかと思っていたジュンは拍子抜けしたが、同時にほんのちょっぴり、胸にチクリときた。
『あー……今の言い方、ちょっとロコツにガメツかったかな。でもどうせ後々やることなんだし、今の内に言っておいた方が、いやもう少し言い方があったか? うむむ』
ジュンとエイユンのそんなやり取りとは関係なく、カズートスは玉座の裏に回り、床に開いた穴に入っていった。暗いその穴の中は、少し急な角度の下り階段になっている。
カズートスを先頭に、ソウキ、ジュン、エイユンと続く。ソウキの説明によると、この地下室はシャンジルがこの街に来て館を買い取った時に、最初からあったものだという。
階段を降りきって地下室に到着したジュンとエイユンは、その光景に目を見張った。ここはもう、地下室なんてものではない。地下の大空洞、巨大洞窟だ。面積、いや体積でも、地上にある三階建ての館に劣ってはいない。それ程にだだっ広く、天井も無闇に高い。
あちこちに篝火があるので、暗さによる不自由はない。見渡してみると、一行が降りてきた階段の出口は壁に穿たれた穴で、その壁から左右と前方に空間が広がっている。人の手は入っていないようで、地面も壁も天井も滑らかさは全くない、天然の岩肌だ。だから、歩くのに苦労するほどではないが、足場はデコボコしている。
その足場、この広大な洞窟のほぼ中央に、大きな大きな円形の図が描かれている。複雑怪奇な模様が組み合わさり、あちこちに高価そうな剣や杖、杯などが配置されているそれは、強力な魔術・法術を行使する時に用いられるもの。魔法陣と呼ばれているものだ。
だが、エイユンはもちろんジュンも、これほど巨大なものは見たことがない。見たことがないから、その大きさに圧倒されてしまった。
圧倒されてしまったから、ジュンは自分の中で生じた微かな違和感に気づかなかった。法術を行う為の陣にしては少しおかしいような、という違和感を流してしまったのだ。
その魔法陣の中心で、男が一人、篝火に囲まれて立っていた。白い神官衣を纏い黄金の冠を被り、後は長い髭でもあれば威厳が出るだろうがそれはない、四十絡みの男。
説明されるまでもなく、ジュンにもエイユンにもわかる。この男がシャンジルだ。
「よく来たな」
その男、シャンジルはジュンたち三人に語りかけた。カズートスはもう引き上げたので、今ここにはシャンジルを含めて四人しかいない。
ジュンたちはソウキを先頭に、魔法陣に足を踏め入れてシャンジルへと近づいていく。
「カズートスから話は聞いたぞ。その二人が、ジェスビィを倒せるやもしれぬ助っ人か」
「はい。ジュンさんは、カズートス様や他の幹部の皆様をまるで寄せ付けぬ魔術師。エイユンさんは僕を遥かに越える気光の達人です」
「そうらしいな。アルヴェダーユ様が認められたのだ、間違いはあるまい」
頷くシャンジルの顔には、緊張と共に薄い笑いが入っている。
エイユンはジュンの袖を引いて一歩下がり、ジュンの耳元で囁いた。
「ジュン、やはり妙だ。ここで我々がジェスビィを倒して一件落着してしまえば、シャンジルの荒稼ぎも終わってしまうはずだろう? なのにあの男、我欲の相がどんどん強まっている。あいつは、まだまだ稼げると思っているぞ。疑うことなく、本心から」
「いや、相、とか言われても。これは、全世界の救世主たるアルヴェダーユの指示なんだぞ。一介の魔術師や尼僧の、ちょっとした違和感で逆らうわけにはいかないだろ」
「魔術師や尼僧のって、君も何か?」
「ああ、ちょっとな。だけど、これからここで繰り広げられるのは、掛け値なしに伝説レベルの展開だ。俺やアンタの知識の枠を外れててもおかしくない。だったら、自分の知ってることと食い違う部分もあるだろうさ」
「それはそうかもしれないが……」
儀式を始めるというシャンジルに促されて、ジュンとエイユンは魔法陣の外に出た。ソウキは残って、シャンジルと向かい合っている。
シャンジルは両手で複雑な印を組み、解き、中空に指の軌跡で図を描き始めた。そして朗々と、どの国の言語を用いても字には書けない発音で、呪文らしきものを唱えていく。
魔法陣が大きいので、今、ジュンとエイユンはソウキたちから少し離れている。ソウキたちを真横から見る位置にいるので、ソウキもシャンジルも表情などは観察できる。とはいえ何かあった場合、一瞬で駆けつけられる距離ではない。
だがソウキ本人の強さは証明済みだし、アルヴェダーユの助力もある。ジェスビィはソウキの体を強引に操っていたからうまくいかなかったが、体の操作をソウキに委ねたまま、内側からアルヴェダーユが法術で支えてやれば、素のソウキよりも強くなれるはずだ。
と、アルヴェダーユは説明していた。ジェスビィとの戦いでは、その状態のソウキとジュン、エイユンの三人で戦う予定だ。戦況に応じて、アルヴェダーユが出たりもする。
だから、今シャンジルが何かをしても、ソウキもアルヴェダーユも害されることはないだろう。ないはずだ。
それでもなぜか収まらぬ胸騒ぎを顔に浮かべて、エイユンは儀式を見守っている。この地下空洞にいるのは四人だけ、聞こえる音はシャンジルの唱える呪文だけ。
と、ジュンが、はっと息を飲んだ。
「違う……そうだ、これは違うぞ!」
ソウキが先導し、一行が目指しているのは、一階の最深部だ。館の地下に儀式用の地下室があり、そこへ通じる唯一の入口がある部屋、そこがシャンジルの部屋だという。
「なるほどな。普通、ボスってのは最上階にいたがるもんだけど、そういう理由で一階か」
「そう。あの扉の向こう」
真っ直ぐ長い廊下の突き当たりに、一際大きく豪華な扉が見えた。
あの向こうにシャンジルがいるのだ。三人は少し緊張して歩いていく。すると、
「来たか、ソウキ」
扉が内側から開いた。その向こうに立っていたのは、三人とも知っている男。
「カズートス様?」
「って、今頃なんでお前なんかが出て来る?」
「驚いたな。ソウキの身の上話を聞いて以来、存在をすっかり忘れていたぞ」
ソウキたちは三者三様に驚きの声を上げた。
カズートスは少々こめかみをピクつかせながら、精一杯に威厳を込めた声で答えた。
「お前たちの話を聞いて、大急ぎでシャンジル様にお伝えせねばと思ってな。今、シャンジル様は地下で準備を進めておられる。ジェスビィをお前の魂から引き出す術のな。その邪魔にならぬよう、他の者たちは既に遠ざけてあるし、わしもお前たちを案内したらすぐに出て行く」
そう言ってカズートスは、扉を大きく開けて三人を招いた。
「さあ、来るが良い。シャンジル様がお待ちだ」
はい、と元気良く返事をして、ソウキが部屋に入る。
ジュン、そしてエイユンが後に続く。
「ジュン。今のところ、おかしなところはないようだと私は考えている。君はどうだ」
「え? ああ、シャンジルが何か良からぬことを企んでるかも、とか? でも奴のことなら、他ならぬアルヴェダーユが保証してるんだから、疑う余地なんてないだろ。今俺たちが心配するべきなのは、ジェスビィの強さだけだ」
「……」
「何だよ。どうしたんだ、難しい顔して」
エイユンは、カズートスに続いて部屋に入っていくソウキの背を見て、その背の奥へと目を凝らす。何かが消化不良、何かがひっかかる、そんな顔で。
「……いや。ジェスビィはあの子に災いをもたらす邪悪な存在で、アルヴェダーユとジェスビィは対立していて、アルヴェダーユと共闘しジェスビイを倒すのはあの子を救うこと。だから、何も疑うことはない……な。うん、そうだ。すまん、変なことを言った」
「疑うって、あのなぁエイユン。アルヴェダーユは、この地上界を救った女神様なんだぞ。今だってアンタの言う通り、邪悪な存在と戦おうとしてる。何を疑うことがあるんだ」
「ああ、だから、すまん。惑わせてしまったな。私が考え過ぎているだけだろう」
ジュンと、微かな疑念を抱くエイユンも、シャンジルの部屋に入った。
床は鏡のように磨かれた大理石、壁と壁際にはいかにも高価そうな絵画や彫刻が並んで飾られ、部屋の奥には一国の王が鎮座していそうな豪華絢爛な玉座がある。
一言で表現するなら成金趣味。そんな部屋だ。どうやらシャンジルは、自分やソウキの境遇を重く真剣には考えていないらしい。儀式の為に金が必要なら、こんなことに無駄遣いはできないはずなのだが。
エイユンが眉をひそめているのは、そんなことを考えているからだろう。と察したジュンは、苦笑しつつ言った。
「シャンジルが自分の立場を利用して私腹を肥やしてるのが許せない、とか思ってるだろ」
「よくわかったな」
「そりゃ、はっきり言ってアンタの思考は単純というかワンパターンというか」
エイユンが杖を握る手に力を込めるのが見えたので、ジュンは咳払いしてゴマかす。
「え~、つまりだ。シャンジルが「この件、俺は降りる」とでも言い出したら大変だろ? ソウキもアルヴェダーユも困る。だったら、ご機嫌取りというか交換条件は必要だ。稼いだ額のいくらかをシャンジルの懐に入れる、なんてのは当然だよ」
「ご機嫌取りも何も、シャンジルはこの世界を救った偉大な僧侶の末裔なのだろう?」
「先祖は先祖、自分は自分ってことだろ。言っとくけど、この俺だってタダ働きする気はないぜ。この件が片付いたら、シャンジルやアルヴェダーユに報酬をせびる予定だ。強奪するわけじゃないんだし、もちろん今から真面目に全力で戦うんだから、構わないだろ?」
「……」
エイユンは少し残念そうな顔をしたが、何も言わない。何か反撃が来るかと思っていたジュンは拍子抜けしたが、同時にほんのちょっぴり、胸にチクリときた。
『あー……今の言い方、ちょっとロコツにガメツかったかな。でもどうせ後々やることなんだし、今の内に言っておいた方が、いやもう少し言い方があったか? うむむ』
ジュンとエイユンのそんなやり取りとは関係なく、カズートスは玉座の裏に回り、床に開いた穴に入っていった。暗いその穴の中は、少し急な角度の下り階段になっている。
カズートスを先頭に、ソウキ、ジュン、エイユンと続く。ソウキの説明によると、この地下室はシャンジルがこの街に来て館を買い取った時に、最初からあったものだという。
階段を降りきって地下室に到着したジュンとエイユンは、その光景に目を見張った。ここはもう、地下室なんてものではない。地下の大空洞、巨大洞窟だ。面積、いや体積でも、地上にある三階建ての館に劣ってはいない。それ程にだだっ広く、天井も無闇に高い。
あちこちに篝火があるので、暗さによる不自由はない。見渡してみると、一行が降りてきた階段の出口は壁に穿たれた穴で、その壁から左右と前方に空間が広がっている。人の手は入っていないようで、地面も壁も天井も滑らかさは全くない、天然の岩肌だ。だから、歩くのに苦労するほどではないが、足場はデコボコしている。
その足場、この広大な洞窟のほぼ中央に、大きな大きな円形の図が描かれている。複雑怪奇な模様が組み合わさり、あちこちに高価そうな剣や杖、杯などが配置されているそれは、強力な魔術・法術を行使する時に用いられるもの。魔法陣と呼ばれているものだ。
だが、エイユンはもちろんジュンも、これほど巨大なものは見たことがない。見たことがないから、その大きさに圧倒されてしまった。
圧倒されてしまったから、ジュンは自分の中で生じた微かな違和感に気づかなかった。法術を行う為の陣にしては少しおかしいような、という違和感を流してしまったのだ。
その魔法陣の中心で、男が一人、篝火に囲まれて立っていた。白い神官衣を纏い黄金の冠を被り、後は長い髭でもあれば威厳が出るだろうがそれはない、四十絡みの男。
説明されるまでもなく、ジュンにもエイユンにもわかる。この男がシャンジルだ。
「よく来たな」
その男、シャンジルはジュンたち三人に語りかけた。カズートスはもう引き上げたので、今ここにはシャンジルを含めて四人しかいない。
ジュンたちはソウキを先頭に、魔法陣に足を踏め入れてシャンジルへと近づいていく。
「カズートスから話は聞いたぞ。その二人が、ジェスビィを倒せるやもしれぬ助っ人か」
「はい。ジュンさんは、カズートス様や他の幹部の皆様をまるで寄せ付けぬ魔術師。エイユンさんは僕を遥かに越える気光の達人です」
「そうらしいな。アルヴェダーユ様が認められたのだ、間違いはあるまい」
頷くシャンジルの顔には、緊張と共に薄い笑いが入っている。
エイユンはジュンの袖を引いて一歩下がり、ジュンの耳元で囁いた。
「ジュン、やはり妙だ。ここで我々がジェスビィを倒して一件落着してしまえば、シャンジルの荒稼ぎも終わってしまうはずだろう? なのにあの男、我欲の相がどんどん強まっている。あいつは、まだまだ稼げると思っているぞ。疑うことなく、本心から」
「いや、相、とか言われても。これは、全世界の救世主たるアルヴェダーユの指示なんだぞ。一介の魔術師や尼僧の、ちょっとした違和感で逆らうわけにはいかないだろ」
「魔術師や尼僧のって、君も何か?」
「ああ、ちょっとな。だけど、これからここで繰り広げられるのは、掛け値なしに伝説レベルの展開だ。俺やアンタの知識の枠を外れててもおかしくない。だったら、自分の知ってることと食い違う部分もあるだろうさ」
「それはそうかもしれないが……」
儀式を始めるというシャンジルに促されて、ジュンとエイユンは魔法陣の外に出た。ソウキは残って、シャンジルと向かい合っている。
シャンジルは両手で複雑な印を組み、解き、中空に指の軌跡で図を描き始めた。そして朗々と、どの国の言語を用いても字には書けない発音で、呪文らしきものを唱えていく。
魔法陣が大きいので、今、ジュンとエイユンはソウキたちから少し離れている。ソウキたちを真横から見る位置にいるので、ソウキもシャンジルも表情などは観察できる。とはいえ何かあった場合、一瞬で駆けつけられる距離ではない。
だがソウキ本人の強さは証明済みだし、アルヴェダーユの助力もある。ジェスビィはソウキの体を強引に操っていたからうまくいかなかったが、体の操作をソウキに委ねたまま、内側からアルヴェダーユが法術で支えてやれば、素のソウキよりも強くなれるはずだ。
と、アルヴェダーユは説明していた。ジェスビィとの戦いでは、その状態のソウキとジュン、エイユンの三人で戦う予定だ。戦況に応じて、アルヴェダーユが出たりもする。
だから、今シャンジルが何かをしても、ソウキもアルヴェダーユも害されることはないだろう。ないはずだ。
それでもなぜか収まらぬ胸騒ぎを顔に浮かべて、エイユンは儀式を見守っている。この地下空洞にいるのは四人だけ、聞こえる音はシャンジルの唱える呪文だけ。
と、ジュンが、はっと息を飲んだ。
「違う……そうだ、これは違うぞ!」
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