14 / 36
第二章 宗教団体が、いろいろと、企んでる。
6
しおりを挟む
「ぅおおおおおおおおぉぉぉぉっ!」
ソウキが吼え、唐突に立ち上がった。
あの異様な圧力は、もうエイユンたちを押しては来ない。だがなくなってはいない。今まで、煮えたぎる鍋の蓋の隙間からぐらぐらと溢れ出ていた大量の湯気が、蓋を強く押さえることで漏れなくなったような感じだ。つまりソウキの中で、あの圧力はまだ弱ることなく熱いまま、凝縮されて存在している。
ソウキという鍋が、割れてしまわないのが不思議なほどの圧力。その正体は、ソウキの頭上に湯気のような、蜃気楼のような、薄く透ける姿を晒してみせた。
「っっ! ま、まさか、本当に!?」
「あれを知っているのかジュン?」
「いや、そりゃ直接見たことはないけど、伝説に語られている通りの姿で……というか、アンタにも想像はつくだろ? ここまでの流れを考えれば」
ジュンの言う通り、エイユンもついさっき考えたことだ。
「では、あれが……」
ゆらりと立つソウキの頭上に、ゆらりと上半身のみを見せている人物。
血のような紅い髪を振り乱し、それと同じ色のドレスを纏った、恐ろしげな形相の美女。
その視線だけで、弱い者ならば心を射抜かれ気を絶してしまいそうな、この世のものとは思えぬ力に満ち満ちた存在。
「……古代魔王ジェスビィ……」
ジュンとエイユンから少し離れた建物の陰で、カズートスが声を漏らす。
その声が聞こえたのか、ソウキがいきなり走った。ジュンとエイユンには目もくれずカズートスの元まで一直線、問答無用の拳一撃で、カズートスを殴り倒す。倒れたカズートスを、まだまだ許さぬとばかりに、ソウキは滅茶苦茶に踏みつけた。
「ええい、憎々しい憎々しい! 貴様が、貴様らが、我が名を口にすることすら汚らわしい! よいか、シャンジルに伝えよ! 私は、必ずやこの魂を喰らい尽くして我が物とし、この手でアルヴェダーユを倒す! 貴様の思い通りにはさせんとな!」
全身アザだらけ足跡だらけにされたカズートスが、ゴミのように蹴り飛ばされた。伝えよも何も、踏みつけ始める前の拳一撃で、とっくにカズートスは意識を失っていたのだが。
ソウキは舌打ちしてから振り向いて、ジュンとエイユンに向かって歩いてきた。
「貴様らも、シャンジルめの一味か」
「え。い、いや、俺たちはシャンジルの教団とは敵対してるんだ。なあエイユン」
「悪霊よ。ソウキの気配がほぼ消えてしまっているようだが、何をした?」
ジュンの呼びかけを無視して、エイユンはソウキに尋ねた。いや、ソウキの体を借りて喋っている紅い女、ジェスビィに尋ねた。
ソウキの頭上に浮かぶジェスビィと、ソウキ本人の顔が、糸で繋がる操り人形のように、同時に歪められた。そして同じように口を動かし、二人分の声を重ねて言葉を紡ぐ。
「悪霊、と言ったのか?」
「ああ言った。いたいけな少年に取り憑いてその体を弄ぶ、汚らわしく邪な醜さ極まる魂とでも言い換えた方が良いか?」
「エイユンエイユン、ちょっと黙ってくれっ。どうやらあいつ、本当に本物の……」
ジュンはエイユンを止めようとしたのだが、手遅れだった。激怒したソウキが、すなわちジェスビィが、獣のように吼えて襲いかかってくる。
相変わらず、常人離れした速度の踏み込みだ。エイユンとジュンは左右に分かれて跳び退り、その一撃をかわす。ソウキは勢い余って駆け抜け、風の唸りを響かせた。
ついさっき、危うくソウキに追い詰められるところだったジュンは冷や汗をかく。まして今は、あの伝説の古代魔王・ジェスビィがその体を操っているらしいのだ。だがエイユンはどうせ、操られているかわいそうな美少年・ソウキを全力では攻撃できないだろう。
一刻も早く、魔術を叩き込んで有無を言わさず倒した方がいい。ジェスビィはどうやらソウキの体に縛られているようだから、その体を打って気絶させれば何とかなるだろう。
「よしいくぞっ! 今度もその、気光とやらで防げるもんなら防いでみやがれっ!」
ジュンは自分の中にある魔力を高め、術を用いて火に変換する。カズートスたちに使ったような小さなものではない、右の拳を包み込むそれは、拳の二倍以上ある火の玉だ。
駆け抜け、戻ってくるソウキに狙いを定め、ジュンが火を纏わせた拳を構える。すると、
「待てジュン!」
ソウキよりも先に、ソウキ以上のダッシュでエイユンが来た。ジュンに背中を押し付け、ソウキとの間に立ちはだかる。
「エイユン? 何をする気だ!」
「君も解っているだろう。今のあの子は操られているだけだ。傷つけるわけにはいかない」
「だ、だからって、」
「任せろ。たとえ神に仕えていなくとも、私は尼僧、聖職者。悪霊の相手は専門分野だ」
そのエイユンの言葉に、ソウキの形相が更に険しくなった。足を止めて、吠える。
「き、貴様、また言ったな! この私を悪霊だとおおぉぉ!」
「先程も言ったであろう。いたいけな少年の体を、己が欲望のまま自由にしているお前に、神だの魔王だのと大層なものを名乗る資格はない。この機会に、淫乱色魔とでも名乗れ」
「だからエイユン、いちいちそう無意味に怒らせなくてもっ」
と言うジュンに、エイユンはソウキの方を向いたまま、小声で答えた。
「怒らせる意味ならあるぞ。ソウキは今、明らかに弱くなっている。なぜだか解るか?」
「え? 弱くなってる?」
「ああ。踏み込みも拳も遅くなっている。その理由は、ジェスビィが気光の使い方を知らないせいだ。気光は、体外に放出されるものだけではない。体内で、筋力や感覚を向上させることもできるのだ。それができないということは……下がっていろ、ジュン!」
「死ねええええええええぇぇぇぇっ!」
ソウキが来た。下がっていろと言われたジュンは後退して、ソウキとエイユンを見る。少し落ち着いてソウキを観察すると、速さの差までは判らないものの、全身の動かし方が前ほど滑らかでないのは見て取れた。
エイユンは、向かって来るソウキに対してまっすぐ走った。杖は左手に持って、右手は拳を握り込まず力を抜いて、走るリズムに合わせて自然に動かしているだけだ。
杖がある分、エイユンの方がリーチは長いので、先に攻撃の間合いに入る。接近した二人がその間合いに入ると、エイユンは左手の杖で脚払いを仕掛けた。
ソウキはそれを跳んでかわす。といってもエイユンに頭上から襲い掛かるような大ジャンプではない。エイユンの杖のギリギリ上を掠めるように、走り幅跳びよろしく前方へと跳んだのだ。ここまで走ってきた勢いを殺すどころか、むしろそれを助走として勢いをつけ、跳躍することによって一気に加速し、エイユンに肉薄してその顔に拳を叩き込む!
「ソウキ本人でも、そう動いただろうな。だがソウキ本人ならきっと、いや間違いなく、もっと速かったはずだ」
ソウキの拳はエイユンの顔面を砕くことなく、紙一重でかわされた。ソウキの右拳が、エイユンの右耳を掠め、長い黒髪が風圧によってふわりと揺れる。
「加えて、怒りに狂い我を忘れたお前の技の荒さは、ソウキの洗練された鋭い拳脚とは、もはや比較にならぬほど雑だ」
水が低きに流れるような動きで、ソウキの攻撃をするりと回避しながら前進したエイユンは、そのまますれ違うかに見せて、右掌をソウキの胸に当てた。その掌で一瞬、眩い光が炸裂すると、ソウキの体が激しく吹っ飛ぶ!
「がああああぁぁぁぁっ!」
ソウキの、いやジェスビィの苦悶の悲鳴が響き渡る。
飛ばされたソウキが、受身も取れずに地面に落下した。そしてエイユンに触れられた胸、強い光を放っている胸を、掻き毟って悶絶している。どうやらかなりの苦痛らしく、ソウキは立ち上がるどころではなく、地面をごろごろと転がり回ることしかできずにいる。
「さっき、傷つけるわけにはいかない、とか言ってなかったか?」
苦しむソウキをこわごわ見ながら、ジュンがエイユンに近づいていく。
エイユンはソウキの様子から目を離さずに答えた。
「傷つけてはいない。言っただろう? 悪霊の相手は専門分野だと。今のも気光の技で、ソウキの肉体をムリヤリ操っている悪霊のみを焼くものだ。ソウキ自身には傷はつかない」
「そりゃまた便利だな。けど、ジェスビィがこんな簡単に一発でやられるはずはないぞ」
「ああ。それは今の手応えからも解っている。だが少し妙だったな」
「妙?」
「奴はまだ全力を出していない。自分の力を抑えているようなんだ。あれほどの憤怒が演技とは思えないんだが、これは一体……」
二人が見ている前で、ソウキは息を荒げて立ち上がった。
掻き毟っていた胸は、武闘着がズタズタに引き裂かれて胸が顕わになっている。薄く白い胸板に赤い爪痕が何条も刻まれて、その引っ掻きの成果なのか、光は消えたようだ。
「ソウキを傷つけたくはなかったが、そこまで強引に私の気光を潰してしまうとはな。淫乱とはいえ流石は古代魔王、といったところか」
今度のはジュンにもわかる。胸を引っかいていた時、ソウキは爪を通じて体内に魔術を流し込んでいたのだ。高めた魔力を術に変換し、それを改めて体内に戻す。自分の体内に流し込まれた毒(エイユンの気光)を消すために、強力な薬を使ったわけだ。
だが、自身をあそこまで苦しめるほどの毒だ。それを打ち消す薬となると、余程の強さでなくてはならない。そしてそんなものが、体にいいはずがない。
結果としてソウキは、毒は中和できたものの多大なダメージを残してしまったのだ。その苦痛に顔を歪めながら、ソウキは低い声で言う。
「どうやら、貴様らを侮っていたようだ……この体を操っての体術では、貴様らを始末できんらしい……だが、我が本分たる魔術ならば!」
ソウキが吼え、唐突に立ち上がった。
あの異様な圧力は、もうエイユンたちを押しては来ない。だがなくなってはいない。今まで、煮えたぎる鍋の蓋の隙間からぐらぐらと溢れ出ていた大量の湯気が、蓋を強く押さえることで漏れなくなったような感じだ。つまりソウキの中で、あの圧力はまだ弱ることなく熱いまま、凝縮されて存在している。
ソウキという鍋が、割れてしまわないのが不思議なほどの圧力。その正体は、ソウキの頭上に湯気のような、蜃気楼のような、薄く透ける姿を晒してみせた。
「っっ! ま、まさか、本当に!?」
「あれを知っているのかジュン?」
「いや、そりゃ直接見たことはないけど、伝説に語られている通りの姿で……というか、アンタにも想像はつくだろ? ここまでの流れを考えれば」
ジュンの言う通り、エイユンもついさっき考えたことだ。
「では、あれが……」
ゆらりと立つソウキの頭上に、ゆらりと上半身のみを見せている人物。
血のような紅い髪を振り乱し、それと同じ色のドレスを纏った、恐ろしげな形相の美女。
その視線だけで、弱い者ならば心を射抜かれ気を絶してしまいそうな、この世のものとは思えぬ力に満ち満ちた存在。
「……古代魔王ジェスビィ……」
ジュンとエイユンから少し離れた建物の陰で、カズートスが声を漏らす。
その声が聞こえたのか、ソウキがいきなり走った。ジュンとエイユンには目もくれずカズートスの元まで一直線、問答無用の拳一撃で、カズートスを殴り倒す。倒れたカズートスを、まだまだ許さぬとばかりに、ソウキは滅茶苦茶に踏みつけた。
「ええい、憎々しい憎々しい! 貴様が、貴様らが、我が名を口にすることすら汚らわしい! よいか、シャンジルに伝えよ! 私は、必ずやこの魂を喰らい尽くして我が物とし、この手でアルヴェダーユを倒す! 貴様の思い通りにはさせんとな!」
全身アザだらけ足跡だらけにされたカズートスが、ゴミのように蹴り飛ばされた。伝えよも何も、踏みつけ始める前の拳一撃で、とっくにカズートスは意識を失っていたのだが。
ソウキは舌打ちしてから振り向いて、ジュンとエイユンに向かって歩いてきた。
「貴様らも、シャンジルめの一味か」
「え。い、いや、俺たちはシャンジルの教団とは敵対してるんだ。なあエイユン」
「悪霊よ。ソウキの気配がほぼ消えてしまっているようだが、何をした?」
ジュンの呼びかけを無視して、エイユンはソウキに尋ねた。いや、ソウキの体を借りて喋っている紅い女、ジェスビィに尋ねた。
ソウキの頭上に浮かぶジェスビィと、ソウキ本人の顔が、糸で繋がる操り人形のように、同時に歪められた。そして同じように口を動かし、二人分の声を重ねて言葉を紡ぐ。
「悪霊、と言ったのか?」
「ああ言った。いたいけな少年に取り憑いてその体を弄ぶ、汚らわしく邪な醜さ極まる魂とでも言い換えた方が良いか?」
「エイユンエイユン、ちょっと黙ってくれっ。どうやらあいつ、本当に本物の……」
ジュンはエイユンを止めようとしたのだが、手遅れだった。激怒したソウキが、すなわちジェスビィが、獣のように吼えて襲いかかってくる。
相変わらず、常人離れした速度の踏み込みだ。エイユンとジュンは左右に分かれて跳び退り、その一撃をかわす。ソウキは勢い余って駆け抜け、風の唸りを響かせた。
ついさっき、危うくソウキに追い詰められるところだったジュンは冷や汗をかく。まして今は、あの伝説の古代魔王・ジェスビィがその体を操っているらしいのだ。だがエイユンはどうせ、操られているかわいそうな美少年・ソウキを全力では攻撃できないだろう。
一刻も早く、魔術を叩き込んで有無を言わさず倒した方がいい。ジェスビィはどうやらソウキの体に縛られているようだから、その体を打って気絶させれば何とかなるだろう。
「よしいくぞっ! 今度もその、気光とやらで防げるもんなら防いでみやがれっ!」
ジュンは自分の中にある魔力を高め、術を用いて火に変換する。カズートスたちに使ったような小さなものではない、右の拳を包み込むそれは、拳の二倍以上ある火の玉だ。
駆け抜け、戻ってくるソウキに狙いを定め、ジュンが火を纏わせた拳を構える。すると、
「待てジュン!」
ソウキよりも先に、ソウキ以上のダッシュでエイユンが来た。ジュンに背中を押し付け、ソウキとの間に立ちはだかる。
「エイユン? 何をする気だ!」
「君も解っているだろう。今のあの子は操られているだけだ。傷つけるわけにはいかない」
「だ、だからって、」
「任せろ。たとえ神に仕えていなくとも、私は尼僧、聖職者。悪霊の相手は専門分野だ」
そのエイユンの言葉に、ソウキの形相が更に険しくなった。足を止めて、吠える。
「き、貴様、また言ったな! この私を悪霊だとおおぉぉ!」
「先程も言ったであろう。いたいけな少年の体を、己が欲望のまま自由にしているお前に、神だの魔王だのと大層なものを名乗る資格はない。この機会に、淫乱色魔とでも名乗れ」
「だからエイユン、いちいちそう無意味に怒らせなくてもっ」
と言うジュンに、エイユンはソウキの方を向いたまま、小声で答えた。
「怒らせる意味ならあるぞ。ソウキは今、明らかに弱くなっている。なぜだか解るか?」
「え? 弱くなってる?」
「ああ。踏み込みも拳も遅くなっている。その理由は、ジェスビィが気光の使い方を知らないせいだ。気光は、体外に放出されるものだけではない。体内で、筋力や感覚を向上させることもできるのだ。それができないということは……下がっていろ、ジュン!」
「死ねええええええええぇぇぇぇっ!」
ソウキが来た。下がっていろと言われたジュンは後退して、ソウキとエイユンを見る。少し落ち着いてソウキを観察すると、速さの差までは判らないものの、全身の動かし方が前ほど滑らかでないのは見て取れた。
エイユンは、向かって来るソウキに対してまっすぐ走った。杖は左手に持って、右手は拳を握り込まず力を抜いて、走るリズムに合わせて自然に動かしているだけだ。
杖がある分、エイユンの方がリーチは長いので、先に攻撃の間合いに入る。接近した二人がその間合いに入ると、エイユンは左手の杖で脚払いを仕掛けた。
ソウキはそれを跳んでかわす。といってもエイユンに頭上から襲い掛かるような大ジャンプではない。エイユンの杖のギリギリ上を掠めるように、走り幅跳びよろしく前方へと跳んだのだ。ここまで走ってきた勢いを殺すどころか、むしろそれを助走として勢いをつけ、跳躍することによって一気に加速し、エイユンに肉薄してその顔に拳を叩き込む!
「ソウキ本人でも、そう動いただろうな。だがソウキ本人ならきっと、いや間違いなく、もっと速かったはずだ」
ソウキの拳はエイユンの顔面を砕くことなく、紙一重でかわされた。ソウキの右拳が、エイユンの右耳を掠め、長い黒髪が風圧によってふわりと揺れる。
「加えて、怒りに狂い我を忘れたお前の技の荒さは、ソウキの洗練された鋭い拳脚とは、もはや比較にならぬほど雑だ」
水が低きに流れるような動きで、ソウキの攻撃をするりと回避しながら前進したエイユンは、そのまますれ違うかに見せて、右掌をソウキの胸に当てた。その掌で一瞬、眩い光が炸裂すると、ソウキの体が激しく吹っ飛ぶ!
「がああああぁぁぁぁっ!」
ソウキの、いやジェスビィの苦悶の悲鳴が響き渡る。
飛ばされたソウキが、受身も取れずに地面に落下した。そしてエイユンに触れられた胸、強い光を放っている胸を、掻き毟って悶絶している。どうやらかなりの苦痛らしく、ソウキは立ち上がるどころではなく、地面をごろごろと転がり回ることしかできずにいる。
「さっき、傷つけるわけにはいかない、とか言ってなかったか?」
苦しむソウキをこわごわ見ながら、ジュンがエイユンに近づいていく。
エイユンはソウキの様子から目を離さずに答えた。
「傷つけてはいない。言っただろう? 悪霊の相手は専門分野だと。今のも気光の技で、ソウキの肉体をムリヤリ操っている悪霊のみを焼くものだ。ソウキ自身には傷はつかない」
「そりゃまた便利だな。けど、ジェスビィがこんな簡単に一発でやられるはずはないぞ」
「ああ。それは今の手応えからも解っている。だが少し妙だったな」
「妙?」
「奴はまだ全力を出していない。自分の力を抑えているようなんだ。あれほどの憤怒が演技とは思えないんだが、これは一体……」
二人が見ている前で、ソウキは息を荒げて立ち上がった。
掻き毟っていた胸は、武闘着がズタズタに引き裂かれて胸が顕わになっている。薄く白い胸板に赤い爪痕が何条も刻まれて、その引っ掻きの成果なのか、光は消えたようだ。
「ソウキを傷つけたくはなかったが、そこまで強引に私の気光を潰してしまうとはな。淫乱とはいえ流石は古代魔王、といったところか」
今度のはジュンにもわかる。胸を引っかいていた時、ソウキは爪を通じて体内に魔術を流し込んでいたのだ。高めた魔力を術に変換し、それを改めて体内に戻す。自分の体内に流し込まれた毒(エイユンの気光)を消すために、強力な薬を使ったわけだ。
だが、自身をあそこまで苦しめるほどの毒だ。それを打ち消す薬となると、余程の強さでなくてはならない。そしてそんなものが、体にいいはずがない。
結果としてソウキは、毒は中和できたものの多大なダメージを残してしまったのだ。その苦痛に顔を歪めながら、ソウキは低い声で言う。
「どうやら、貴様らを侮っていたようだ……この体を操っての体術では、貴様らを始末できんらしい……だが、我が本分たる魔術ならば!」
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

魔王英雄伝 ~ドラゴンの幼女と魔剣の妖女~
川口大介
ファンタジー
駆け出し冒険者のクリスは、夢の中で謎の声から告げられた。
自分が、伝説の英雄ジークロットの転生した者、すなわち生まれ変わりであると。
半信半疑ながらその声に導かれるまま行くクリスは、怪力の幼女ラディアナと出会う。
その正体はドラゴンであり、今は呪いによって人間の姿にされているとのこと。
更にラディアナの先祖はジークロットの従者であり、ラディアナ自身がその
従者の転生、生まれ変わりであるという。
共に旅することとなった二人は、クリスを導いていた謎の声の主と出会う。
その正体は……
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
猿の内政官 ~天下統一のお助けのお助け~
橋本洋一
歴史・時代
この世が乱れ、国同士が戦う、戦国乱世。
記憶を失くした優しいだけの少年、雲之介(くものすけ)と元今川家の陪々臣(ばいばいしん)で浪人の木下藤吉郎が出会い、二人は尾張の大うつけ、織田信長の元へと足を運ぶ。織田家に仕官した雲之介はやがて内政の才を発揮し、二人の主君にとって無くてはならぬ存在へとなる。
これは、優しさを武器に二人の主君を天下人へと導いた少年の物語
※架空戦記です。史実で死ぬはずの人物が生存したり、歴史が早く進む可能性があります
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる