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第二章 宗教団体が、いろいろと、企んでる。
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ルークスの家で夕食を摂った後、エイユンとジュンは、今夜の宿を二手に分けた。
エイユンは万一の場合に備え、ルークスの家に泊まることに。そしてジュンは、教団の動きを見張るべく、シャンジルの館が建っている丘のすぐ近くにある安宿に。
これを提案したのはジュンだったが、エイユンも元々そう考えていたとのことで、すんなり賛同した。
だが今、もう夜も更けているのに、ジュンは宿ではなく、人気のない公園広場にいた。
虫の声も聞こえない、静かな場所だ。だから、何人も連なって歩く足音はよく響く。そしてその足音に応えるように、少年の声がした。
「おいでなすったか。インチキ新興宗教団体の皆様、いかほどお持ち頂けたのかな?」
月と星の、微かな明かりが頼りの暗い中にあっても、少年の銀髪は目立つ。
だがそれに劣らず、カズートスたちの白いローブもなかなか目立っている。
カズートスと、その左右を固める総勢六人の男たちの纏うローブが、目立っている。
「そういや昼間は名乗ってなかったから、一応自己紹介しておこうか。俺の名はジュン。で、治療をしていた尼さんはエイユン」
「わしの名はカズートス。教祖シャンジル様に仕えておる。この者たちはわしの部下だ」
カズートスは名乗り返しながら、ジュンをじろじろと見た。
とりあえずこのジュンという少年には、取り立てて感ずるものはない。只者としか思えない。警戒すべきはエイユンとかいう尼僧だけと考えて良さそうだ。
しかしそのエイユンが、ここにはいない。どこかに潜んでいるのか? あるいはこの取引が、この少年の独断によるものなのか。
「確認したいのだが、お前に金を払えば、そのエイユンという尼僧は治療をやめるのだな?」
「ああ。まあ、明日すぐにってわけにはいかないかもしれんが、遠からず必ず、この街を出て行くことは約束するぜ」
「つまり、この取引はお前たち二人の合意によるものと考えて良いのだな。ならばなぜ、エイユンはここに来ないのだ」
ジュンがちょっと、ぎくりとする。
「そこはほら、その、アレだ。アンタらが取引に応じず、俺たちを暴力によって捕らえようとするかもしれないだろ? それを警戒した俺は、エイユンにここには来るなと言ったんだ。俺が捕まってもエイユンが無事なら、まだやりようはあるからな」
「なるほどな。それは慧眼だ」
カズートスが指を鳴らす。すると部下たちの手に光が宿り、その光が固まって掌の少し上に浮き、拳ほどの大きさの、火の玉へと変わった。
六人がそれぞれ一つずつ、六個の火の玉を掌の上にふわふわと浮かべている。
「大人しくするのならケガはせずに済むが、どうだ?」
部下たちは火の玉を掲げたまま、左右に展開した。ジュンの真正面に立つカズートスを中心として三人ずつ左右に分かれ、均等に間隔を開けてジュンを包囲するように動く。だが包囲といっても、ジュンの真横より先には進まない。ジュンの背後まで回って円形に囲むと、いざ攻撃の時に同士討ちの恐れがあるからだ。
「ふ~ん。なんつーか、物騒なこった。かつて、この地上界を滅亡から救ったという、古代神アルヴェダーユを奉じる教団のやることか?」
「お前のような愚か者による妨害の為に、古代魔王ジェスビィが蘇りでもすれば、地上界の破滅に繋がる。それだけは絶対に避けねばならんからな」
「その割には、やってることがセコイような気がするけどな。ちまちまとお布施集めとは」
「それはお前が無知なだけだ。お前のような素人には信じられぬことだろうが、古代神・魔王と交信し契約するのにも、やはり金がかかるのでな」
ジュンの眉が、ぴくりと動いた。
「さあ、もういいだろう。大人しく我らに従うか、力ずくで従わされるか。まさかこの状況で、まだ金をせびり取ろうなどとは考えておるまい? ……おい! 聞いているのか!」
「あ、ごめんごめん。ちょっと考えごとしてたもんで」
「では、その考えごとの結論は?」
「当初の方針に変更無し、だ」
ジュンは右手を水平に伸ばし、自分の真横に位置していたカズートスの部下を指差した。
すると、指された部下が掲げていた火の玉が、何の前触れもなく突然爆発! 至近距離からの爆風衝撃により、部下はあえなく倒れ、気を失った。
「何っ!?」
カズートスと、残り五人が目を見張る。
今、ジュンは確かに指差しただけだった。他には何も見えなかった。
たったそれだけで、離れた場所に立つ人間が構成している術を、暴走させたというのか?
「お、お前、何をしたっ?」
「うんうん。驚く気持ちは解るけど、別にタネも仕掛けもなかったりするんだぜ実は」
言いながらジュンは、ひょいひょいと指差していった。カズートスの部下たちは、何が何だか解らぬまま自分たちの手にある火の玉を爆破させられ、倒されていく。慌てて術を消そうとした者も間に合わず爆破され、あっと言う間に残りの五人も全滅してしまった。
ぷすぷすと煙が立ち上る中、ジュンがカズートスに向かって歩いていく。カズートスはというと、もう立っているのがやっと。ガタガタと震える頼りない足は、逃げることさえできそうにない。
そんなカズートスによく見えるように、ジュンは人差し指をまっすぐ立てた。
「ほら。落ち着いてよくよく見れば、見えなくはないだろ?」
その指の先端、先の先に……砂一粒のような極小の灯りが見える。
光自体がそう強いものではない上、あまりにも小さいので、しかと目を凝らさねば暗い中ですら目立たない。そんな灯りだ。
だがその灯りの性質に、カズートスは見覚えがある。たった今ジュンに倒された、六人の部下たちがやっていたのと同じ術、魔術の火だ。
ただ、火だということが解らないほどに、小さいというだけで。
「こいつを、凄いスピードで撃ち出した。それだけのことさ」
「それだけ……だと……」
カズートスの額に、冷や汗の雫が流れた。魔力の凝縮、術の研磨、高速射出、それらをこなしつつ正確な照準。並大抵のことではない。
カズートスは、自分の見る目の無さを呪った。このジュンという少年、いわゆる「只者ではない」レベルを超えてしまっている。とんでもない手練れだ。
「アンタとはちゃんと取引したいから、痛めつけはしない。安心してくれ。つーか、アンタと取引しないと、本っっ当にタダ働き同然になっちまうからなこの事件。あの、美少年好きでクソ真面目で、泣きたくなるぐらいにバカ強い尼さんのおかげで」
「! お、お前が恐れるほどの奴なのか、その尼僧は!?」
驚愕したカズートスの問いに、ジュンは無言で頷く。頷いて、真横を指差した。反射的にカズートスは身を屈めるが、自分が指されたのではないとすぐに気づき、顔を上げる。
ジュンの視線の先、指差した先の方で、何かがぶつかって弾けたような音がした。熱く焼けた鉄板に水滴をひとつ、落としたような音だ。
おそらく、ジュンのあの極小火の玉が何かに……いや、誰かに当たったのだろう。
『防がれた、か。しかし魔術の気配はなかったな。何だ?』
ジュンはこちらに向かって走ってくるその人影を見た。夜目は利くジュンだが、まだ距離があるのでよく見えない。どうやらかなり小柄で、華奢だ。女……いや、ルークスのこともあるから油断はできない、とジュンは警戒する。
とはいえ警戒するのは、何も性別だけが理由ではない。姿勢を低くして走るその速度が、異様に速いのだ。素人ではない。今度こそ、金物屋のおじさんなどではなく、訓練された暗殺者か何かに違いない。
ならば接近される前に、優位に立っておかねば。
エイユンは万一の場合に備え、ルークスの家に泊まることに。そしてジュンは、教団の動きを見張るべく、シャンジルの館が建っている丘のすぐ近くにある安宿に。
これを提案したのはジュンだったが、エイユンも元々そう考えていたとのことで、すんなり賛同した。
だが今、もう夜も更けているのに、ジュンは宿ではなく、人気のない公園広場にいた。
虫の声も聞こえない、静かな場所だ。だから、何人も連なって歩く足音はよく響く。そしてその足音に応えるように、少年の声がした。
「おいでなすったか。インチキ新興宗教団体の皆様、いかほどお持ち頂けたのかな?」
月と星の、微かな明かりが頼りの暗い中にあっても、少年の銀髪は目立つ。
だがそれに劣らず、カズートスたちの白いローブもなかなか目立っている。
カズートスと、その左右を固める総勢六人の男たちの纏うローブが、目立っている。
「そういや昼間は名乗ってなかったから、一応自己紹介しておこうか。俺の名はジュン。で、治療をしていた尼さんはエイユン」
「わしの名はカズートス。教祖シャンジル様に仕えておる。この者たちはわしの部下だ」
カズートスは名乗り返しながら、ジュンをじろじろと見た。
とりあえずこのジュンという少年には、取り立てて感ずるものはない。只者としか思えない。警戒すべきはエイユンとかいう尼僧だけと考えて良さそうだ。
しかしそのエイユンが、ここにはいない。どこかに潜んでいるのか? あるいはこの取引が、この少年の独断によるものなのか。
「確認したいのだが、お前に金を払えば、そのエイユンという尼僧は治療をやめるのだな?」
「ああ。まあ、明日すぐにってわけにはいかないかもしれんが、遠からず必ず、この街を出て行くことは約束するぜ」
「つまり、この取引はお前たち二人の合意によるものと考えて良いのだな。ならばなぜ、エイユンはここに来ないのだ」
ジュンがちょっと、ぎくりとする。
「そこはほら、その、アレだ。アンタらが取引に応じず、俺たちを暴力によって捕らえようとするかもしれないだろ? それを警戒した俺は、エイユンにここには来るなと言ったんだ。俺が捕まってもエイユンが無事なら、まだやりようはあるからな」
「なるほどな。それは慧眼だ」
カズートスが指を鳴らす。すると部下たちの手に光が宿り、その光が固まって掌の少し上に浮き、拳ほどの大きさの、火の玉へと変わった。
六人がそれぞれ一つずつ、六個の火の玉を掌の上にふわふわと浮かべている。
「大人しくするのならケガはせずに済むが、どうだ?」
部下たちは火の玉を掲げたまま、左右に展開した。ジュンの真正面に立つカズートスを中心として三人ずつ左右に分かれ、均等に間隔を開けてジュンを包囲するように動く。だが包囲といっても、ジュンの真横より先には進まない。ジュンの背後まで回って円形に囲むと、いざ攻撃の時に同士討ちの恐れがあるからだ。
「ふ~ん。なんつーか、物騒なこった。かつて、この地上界を滅亡から救ったという、古代神アルヴェダーユを奉じる教団のやることか?」
「お前のような愚か者による妨害の為に、古代魔王ジェスビィが蘇りでもすれば、地上界の破滅に繋がる。それだけは絶対に避けねばならんからな」
「その割には、やってることがセコイような気がするけどな。ちまちまとお布施集めとは」
「それはお前が無知なだけだ。お前のような素人には信じられぬことだろうが、古代神・魔王と交信し契約するのにも、やはり金がかかるのでな」
ジュンの眉が、ぴくりと動いた。
「さあ、もういいだろう。大人しく我らに従うか、力ずくで従わされるか。まさかこの状況で、まだ金をせびり取ろうなどとは考えておるまい? ……おい! 聞いているのか!」
「あ、ごめんごめん。ちょっと考えごとしてたもんで」
「では、その考えごとの結論は?」
「当初の方針に変更無し、だ」
ジュンは右手を水平に伸ばし、自分の真横に位置していたカズートスの部下を指差した。
すると、指された部下が掲げていた火の玉が、何の前触れもなく突然爆発! 至近距離からの爆風衝撃により、部下はあえなく倒れ、気を失った。
「何っ!?」
カズートスと、残り五人が目を見張る。
今、ジュンは確かに指差しただけだった。他には何も見えなかった。
たったそれだけで、離れた場所に立つ人間が構成している術を、暴走させたというのか?
「お、お前、何をしたっ?」
「うんうん。驚く気持ちは解るけど、別にタネも仕掛けもなかったりするんだぜ実は」
言いながらジュンは、ひょいひょいと指差していった。カズートスの部下たちは、何が何だか解らぬまま自分たちの手にある火の玉を爆破させられ、倒されていく。慌てて術を消そうとした者も間に合わず爆破され、あっと言う間に残りの五人も全滅してしまった。
ぷすぷすと煙が立ち上る中、ジュンがカズートスに向かって歩いていく。カズートスはというと、もう立っているのがやっと。ガタガタと震える頼りない足は、逃げることさえできそうにない。
そんなカズートスによく見えるように、ジュンは人差し指をまっすぐ立てた。
「ほら。落ち着いてよくよく見れば、見えなくはないだろ?」
その指の先端、先の先に……砂一粒のような極小の灯りが見える。
光自体がそう強いものではない上、あまりにも小さいので、しかと目を凝らさねば暗い中ですら目立たない。そんな灯りだ。
だがその灯りの性質に、カズートスは見覚えがある。たった今ジュンに倒された、六人の部下たちがやっていたのと同じ術、魔術の火だ。
ただ、火だということが解らないほどに、小さいというだけで。
「こいつを、凄いスピードで撃ち出した。それだけのことさ」
「それだけ……だと……」
カズートスの額に、冷や汗の雫が流れた。魔力の凝縮、術の研磨、高速射出、それらをこなしつつ正確な照準。並大抵のことではない。
カズートスは、自分の見る目の無さを呪った。このジュンという少年、いわゆる「只者ではない」レベルを超えてしまっている。とんでもない手練れだ。
「アンタとはちゃんと取引したいから、痛めつけはしない。安心してくれ。つーか、アンタと取引しないと、本っっ当にタダ働き同然になっちまうからなこの事件。あの、美少年好きでクソ真面目で、泣きたくなるぐらいにバカ強い尼さんのおかげで」
「! お、お前が恐れるほどの奴なのか、その尼僧は!?」
驚愕したカズートスの問いに、ジュンは無言で頷く。頷いて、真横を指差した。反射的にカズートスは身を屈めるが、自分が指されたのではないとすぐに気づき、顔を上げる。
ジュンの視線の先、指差した先の方で、何かがぶつかって弾けたような音がした。熱く焼けた鉄板に水滴をひとつ、落としたような音だ。
おそらく、ジュンのあの極小火の玉が何かに……いや、誰かに当たったのだろう。
『防がれた、か。しかし魔術の気配はなかったな。何だ?』
ジュンはこちらに向かって走ってくるその人影を見た。夜目は利くジュンだが、まだ距離があるのでよく見えない。どうやらかなり小柄で、華奢だ。女……いや、ルークスのこともあるから油断はできない、とジュンは警戒する。
とはいえ警戒するのは、何も性別だけが理由ではない。姿勢を低くして走るその速度が、異様に速いのだ。素人ではない。今度こそ、金物屋のおじさんなどではなく、訓練された暗殺者か何かに違いない。
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