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第六章 邪神の奇跡、二人の奇跡
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「だ、大丈夫じゃないです。けど、」
ア―サ―は何とか立ち上がり、ラブラブレ―ドを持ち上げて構えた。
「結局、僕が頼りないからなんですよね。エミアロ―ネさんやカユカちゃんにそんなことさせたのも、その後で体がこんなに痛むのも。それでも、せめて、これぐらいのことはっ!」
ア―サ―は走った。暴風リンに向かって。
『……うぐぐぐっ!』
硬いトゲに全身を覆われたミミズが、何十匹も体内を這い回ったら、こんな感じなのだろうか。痛い。死ぬほど痛い。
だが、ここでくじけたらどうなる? 体育館では貧血で倒れて、二人に支えられて。ここでは戦って倒れて、今度は別の二人に支えられて。
支えられ人生まっしぐら、自分一人では何もできやしないのか。
「ぼ、僕だって、僕だってっっ!」
ラブラブレ―ドを構えてア―サ―が走る。
暴風リンは、そんなア―サ―を見据えて……はいない。
ア―サ―のことなど無視して、
「うおおおおぉぉっ!」
魔力を込めた両腕を突き上げた。
攻撃が来る、と思ってア―サ―が一瞬立ち止まる。
暴風リンの両腕から、魔力の光が稲妻のように放たれた。だがその狙いはア―サ―ではなく、その背後の生徒たちでもない。
上。空。雲の渦の中央。
「えっ?」
それに気付いたア―サ―が見上げた時。
暴風リンの魔力を受けた雲の渦の回転が、一気に早まった。
《い、いかん! 急げ来々世! ソヤツは、門を力ずくでこじ開ける気じゃ!》
空のヒビがどんどん広がり、地面が細かく振動を始めた。暴風リンの生命力と魔力が尽きかけている為、この空間が崩壊しつつあるのだ。
だが雲の渦、邪神の門の回転もどんどん早まっている。
そして暴風リンは。
「さあ来い白の女神! 俺はもう、逃げも隠れもせん! 俺が死ぬのが先か、それとも俺が神の力を……」
「させるかああああぁぁっ!」
ア―サ―は突進し、渾身の力を込めてラブラブレ―ドを振り下ろした。
空のヒビが一気に増え、広がる。
雲の渦から雷が一閃、迸る。
ア―サ―は構わず、暴風リンの肩口から脇腹まで一気に斬り裂いた。同時に、暴風リンの体に雷が落ちる!
「ぅぐおおおおぉぉっっ!」
次の瞬間、暴風リンの魔力と肉体が爆発した。
凄まじい音と光と衝撃が、ア―サ―を全包囲から吹っ飛ばす――
一瞬、だったのか二瞬か三瞬か。
気付いた時には、ア―サ―はラブラブレ―ドを振り下ろしきっていた。切っ先は地面に埋まり、そこに暴風リンはいない。
空を見上げるまでもなく、辺りが明るくなっているのは解る。どうやら元の世界に帰って来たらしい。
辺りを見回してみる。……体育館がない!
「っ⁉」
小学校はある。中学校もある。青い空に白い雲。やはり、帰って来たのは間違いない。
ということは、あの亜空間は消滅しておらず、体育館は置き去りになっている?
ということは、暴風リンはまだ……
「探してもムダだぞ。あの連中なら、また後で供物になってもらう為に、あっちに置いてきたからな。ところで、」
聞き覚えのある声が、空から降ってきた。
「どんなに可能性が小さくても、ギリギリまで希望を捨てずに戦う。そうすれば奇跡は起こる。そういうのを信じるか?」
もの凄く聞き覚えのある声だ。
「善も悪も、強さも弱さも、全てを超えるのが神の奇跡。つくづく実感したぞ、俺は」
これは、ア―サ―にとっては自分の声よりも耳に馴染んだ少女の声だ。
見上げたア―サ―の視線の先、空にその子が立っていた。
「……! イ、イルヴィア……」
体育のみならず、勉強も人に誇れるレベルではないア―サ―だが、今、事態がどうなっているのかは瞬時に理解できた。
ただ、それを認めたくはないだけで。
「そ、そんな……」
イルヴィアが静かに降りてきた。
地面に立ち、ア―サ―と向かい合う。
もちろん、この子は今イルヴィアではない。
「まずは自己紹介をさせて貰おうか。俺は神の力を授かりし者、暴風リン。力を借りたってんじゃない。授かったんだ。解るか?」
と、イルヴィア=暴風リンは誇らしげに胸を張った。
その胸には、つい先程倒したはずのデコロスモンスタ―を象った首飾りがある。
ア―サ―がそれに気付く、と、視線からそのことを察した暴風リンが、
「間一髪だったぞ正に。こいつを潰されたら意識体を完全に消されて、魂が本体(用務員さん)に飛ばされてたとこだ」
首飾りを摘んで、禍々しく笑った。
ア―サ―にとっては見慣れたイルヴィアの顔が、ア―サ―は全く見たことのない、邪悪な笑みを浮かべている。
『……くっ』
ア―サ―は、目を逸らしたい思いで一杯だった。が、耐えた。耐えて、ラブラブレ―ドを手にしたまま、じりじりと間合いを測る。
《ア―サ―君、解ってるわね?》
「はい」
ア―サ―が、ラブラブレ―ドを握る手に力を込める。
イルヴィアを傷つけずに、暴風リンを一刀のもとに斬り祓う。その為に狙うのは、一点。
「運良くこいつがここにいたおかげで、俺はこいつの肉体を乗っ取っ……」
「てぇぇ――――――――いっ!」
暴風リンの演説の真っ最中、その言葉をブチ切るようにア―サ―が一気に間合いを詰めた。
ア―サ―は何とか立ち上がり、ラブラブレ―ドを持ち上げて構えた。
「結局、僕が頼りないからなんですよね。エミアロ―ネさんやカユカちゃんにそんなことさせたのも、その後で体がこんなに痛むのも。それでも、せめて、これぐらいのことはっ!」
ア―サ―は走った。暴風リンに向かって。
『……うぐぐぐっ!』
硬いトゲに全身を覆われたミミズが、何十匹も体内を這い回ったら、こんな感じなのだろうか。痛い。死ぬほど痛い。
だが、ここでくじけたらどうなる? 体育館では貧血で倒れて、二人に支えられて。ここでは戦って倒れて、今度は別の二人に支えられて。
支えられ人生まっしぐら、自分一人では何もできやしないのか。
「ぼ、僕だって、僕だってっっ!」
ラブラブレ―ドを構えてア―サ―が走る。
暴風リンは、そんなア―サ―を見据えて……はいない。
ア―サ―のことなど無視して、
「うおおおおぉぉっ!」
魔力を込めた両腕を突き上げた。
攻撃が来る、と思ってア―サ―が一瞬立ち止まる。
暴風リンの両腕から、魔力の光が稲妻のように放たれた。だがその狙いはア―サ―ではなく、その背後の生徒たちでもない。
上。空。雲の渦の中央。
「えっ?」
それに気付いたア―サ―が見上げた時。
暴風リンの魔力を受けた雲の渦の回転が、一気に早まった。
《い、いかん! 急げ来々世! ソヤツは、門を力ずくでこじ開ける気じゃ!》
空のヒビがどんどん広がり、地面が細かく振動を始めた。暴風リンの生命力と魔力が尽きかけている為、この空間が崩壊しつつあるのだ。
だが雲の渦、邪神の門の回転もどんどん早まっている。
そして暴風リンは。
「さあ来い白の女神! 俺はもう、逃げも隠れもせん! 俺が死ぬのが先か、それとも俺が神の力を……」
「させるかああああぁぁっ!」
ア―サ―は突進し、渾身の力を込めてラブラブレ―ドを振り下ろした。
空のヒビが一気に増え、広がる。
雲の渦から雷が一閃、迸る。
ア―サ―は構わず、暴風リンの肩口から脇腹まで一気に斬り裂いた。同時に、暴風リンの体に雷が落ちる!
「ぅぐおおおおぉぉっっ!」
次の瞬間、暴風リンの魔力と肉体が爆発した。
凄まじい音と光と衝撃が、ア―サ―を全包囲から吹っ飛ばす――
一瞬、だったのか二瞬か三瞬か。
気付いた時には、ア―サ―はラブラブレ―ドを振り下ろしきっていた。切っ先は地面に埋まり、そこに暴風リンはいない。
空を見上げるまでもなく、辺りが明るくなっているのは解る。どうやら元の世界に帰って来たらしい。
辺りを見回してみる。……体育館がない!
「っ⁉」
小学校はある。中学校もある。青い空に白い雲。やはり、帰って来たのは間違いない。
ということは、あの亜空間は消滅しておらず、体育館は置き去りになっている?
ということは、暴風リンはまだ……
「探してもムダだぞ。あの連中なら、また後で供物になってもらう為に、あっちに置いてきたからな。ところで、」
聞き覚えのある声が、空から降ってきた。
「どんなに可能性が小さくても、ギリギリまで希望を捨てずに戦う。そうすれば奇跡は起こる。そういうのを信じるか?」
もの凄く聞き覚えのある声だ。
「善も悪も、強さも弱さも、全てを超えるのが神の奇跡。つくづく実感したぞ、俺は」
これは、ア―サ―にとっては自分の声よりも耳に馴染んだ少女の声だ。
見上げたア―サ―の視線の先、空にその子が立っていた。
「……! イ、イルヴィア……」
体育のみならず、勉強も人に誇れるレベルではないア―サ―だが、今、事態がどうなっているのかは瞬時に理解できた。
ただ、それを認めたくはないだけで。
「そ、そんな……」
イルヴィアが静かに降りてきた。
地面に立ち、ア―サ―と向かい合う。
もちろん、この子は今イルヴィアではない。
「まずは自己紹介をさせて貰おうか。俺は神の力を授かりし者、暴風リン。力を借りたってんじゃない。授かったんだ。解るか?」
と、イルヴィア=暴風リンは誇らしげに胸を張った。
その胸には、つい先程倒したはずのデコロスモンスタ―を象った首飾りがある。
ア―サ―がそれに気付く、と、視線からそのことを察した暴風リンが、
「間一髪だったぞ正に。こいつを潰されたら意識体を完全に消されて、魂が本体(用務員さん)に飛ばされてたとこだ」
首飾りを摘んで、禍々しく笑った。
ア―サ―にとっては見慣れたイルヴィアの顔が、ア―サ―は全く見たことのない、邪悪な笑みを浮かべている。
『……くっ』
ア―サ―は、目を逸らしたい思いで一杯だった。が、耐えた。耐えて、ラブラブレ―ドを手にしたまま、じりじりと間合いを測る。
《ア―サ―君、解ってるわね?》
「はい」
ア―サ―が、ラブラブレ―ドを握る手に力を込める。
イルヴィアを傷つけずに、暴風リンを一刀のもとに斬り祓う。その為に狙うのは、一点。
「運良くこいつがここにいたおかげで、俺はこいつの肉体を乗っ取っ……」
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