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第五章 邪神召喚、女神降臨
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紋章から光の粒子が溢れ出し、ア―サ―の体を包み込む。【黒い光】でも来るのかと思いきや、意外にもエミアロ―ネの時と同様の眩しい光だ。
そういえば、暗き情念の杖を出した時もそうだった。
やがてその光が消えると、
「ん……っと」
ア―サ―の姿は一変していた。
髪は全く変わっておらず、人相もあまり変化はない。が、今のア―サ―はもう少年ではなく少女。微妙な顔の輪郭の丸みが、あるいはしっとりとした頬の肌質が、そう告げている。
もっともそんな細かいところで分析せずとも、首から下を見れば一目瞭然。いささか起伏に乏しいとはいえ、やはりその丸みを帯びた体の線は、少女のものだ。
そして、そういう体の線がはっきりと判る服装をしているのが今のア―サ―。黒と赤とで色っぽく、体型こそ幼いながらも妖艶そのもの。夜な夜な男性を色香で惑わす小悪魔です、といった風情だ。
だが本当にそれをやるには、やはり身体の起伏の無さはネックになるだろうが。
そのことを感じたカユカは、
《……ヨとしては》
ア―サ―の魂の中で、溜息まじりに言った。
《やはり、これでは不満が残るのう。装束はヨの理想のデザインなのじゃが……そう、例えば来世がこの衣装を着てくれれば完璧じゃの》
《え。私が?》
「エミアロ―ネさんが?」
ア―サ―は自分の出で立ちを見て(性転換も三度目なので慣れた)、それとエミアロ―ネを重ね合わせる。
いつもの凛々しい白い戦装束ではなく、この妖しい戦装束を頭の中でエミアロ―ネに着せてみる。
すると。
《……ア―サ―君? ア―サ―君っ⁉》
顔を火照らせてのけぞってるア―サ―に、エミアロ―ネの刺々しい声が刺さった。
「す、すみません。ちょっと刺激が」
《あのねえ》
「も、もう大丈夫です。さ、急がなきゃっ」
ア―サ―は、慌てて山を下っていった。
山から駆け下りてきてこちらに向かってくる少女の、ただごとでなく悪魔的な出で立ちに、
「あ、あ、あれは何?」
オデックとイルヴィアは、それはもう驚いた。二人とも、てっきり体育館消失事件の犯人が出てきたのかと思ったが、
「……いや、違う! あれは女神二号ちゃんだ! やっぱり来てくれたんだ♡」
「え、あれが? そう見えないこともないけど……」
オデックは断言し、イルヴィアは半信半疑だ。
だが当人が二人のすぐ側までやって来て、
「えと、お待たせしました。女神二号です」
ぺこり、とお辞儀して自己紹介をするに到って、イルヴィアも納得した。
着ている衣装は全然違うが、確かにあの時、イルヴィアの目の前で机ゴンを倒した少女の顔と声だ。自分の名前を「女神二号でいいです」と言い残して去った、あの少女に間違いない。
どう見てもア―サ―にそっくりなその顔は、間違えようがない。
「あ。そういえば、あ~くんは?」
ア―サ―、ぎくっ。
「あ、あの、あ~くんというのはもしかして、僕と少し似ている男の子ですか?」
「はい。少しじゃなくて、他人とは思えないぐらいもの凄く似ている男の子です」
ア―サ―、ぎくぎくっ。
「え、え~とですね。その子なら、さっき山の中で見かけましたよ。急いでたもので、声はかけなかったんですけど」
「あ~くん……いえ、ア―サ―君はあなたを探しに行ったんです。じゃあ、まだ山に?」
「そうですね。でも、」
ア―サ―は、体育館跡地の方へ歩いていく。
「さっきイルヴィアさんが言ってたように、ここでは何があるかわかりません。でも山の方なら安全でしょうから、あの子のことは心配しなくていいですよ」
「はあ。って、わたしの話なんてどこで聞いてたんです?」
ア―サ―、ぎくぎくぎくっ。
「えと、僕はほら、女神様ですから。だから何でもお見通しなんです。あははははっ」
「?」
不可解そうなイルヴィアの視線を浴びつつ、ア―サ―は跡地の中央まできた。まあ、とりあえずゴマかせただろう、ということにして。
そして、
《よし、そこらで良いぞ。後は、よく聴いて跳べばよい》
カユカの説明に従って、耳を澄ませた。
説明になってないような説明だが、ア―サ―にはそれで充分解った。
なぜなら今のア―サ―には、ジャゴックの大神官にしか使えない【真っ黒魔術】が、しっかりと染み付いているから。
「……ん、聴こえる」
ア―サ―の耳に、何百人もの声が聴こえてきた。
ざわめき、どよめき、不安、恐怖。
「みんな、今行くよっ!」
ア―サ―は、その場で跳んだ。
跳んで――イルヴィアの目の前から、姿を消した。まるで水に潜るように、暗幕の向こう側に隠れるように。
それだけなら、イルヴィアとしては「捕われたみんなを救出しに行ってくれたのね。女神二号さん、どうかご無事で……」と祈って終わったのだが、
「い、今のは」
イルヴィアは見た。女神二号が跳んで、消えるその瞬間のできごとを。
おそらく、いつぞやのア―サ―女装用衣装と同じく、懐に隠していたのを取り出したのであろう巨大なバラの花束を、オデックが抱えていた。そして女神二号が跳ぼうとした時、その先の展開を予測したのか、花束を抱いたまま猛然とダッシュ! してその手にすがりついて、
「一緒に行っちゃった……」
後に残されたのはイルヴィアただ一人。ひぅぅと寂しく風が吹きぬけていく。
仕方ないのでイルヴィアは、とりあえず二人が消えた空間に向かって祈った。
「女神二号さん、どうかご無事で。それと、オデっ君。くれぐれも邪魔しちゃダメよ」
そういえば、暗き情念の杖を出した時もそうだった。
やがてその光が消えると、
「ん……っと」
ア―サ―の姿は一変していた。
髪は全く変わっておらず、人相もあまり変化はない。が、今のア―サ―はもう少年ではなく少女。微妙な顔の輪郭の丸みが、あるいはしっとりとした頬の肌質が、そう告げている。
もっともそんな細かいところで分析せずとも、首から下を見れば一目瞭然。いささか起伏に乏しいとはいえ、やはりその丸みを帯びた体の線は、少女のものだ。
そして、そういう体の線がはっきりと判る服装をしているのが今のア―サ―。黒と赤とで色っぽく、体型こそ幼いながらも妖艶そのもの。夜な夜な男性を色香で惑わす小悪魔です、といった風情だ。
だが本当にそれをやるには、やはり身体の起伏の無さはネックになるだろうが。
そのことを感じたカユカは、
《……ヨとしては》
ア―サ―の魂の中で、溜息まじりに言った。
《やはり、これでは不満が残るのう。装束はヨの理想のデザインなのじゃが……そう、例えば来世がこの衣装を着てくれれば完璧じゃの》
《え。私が?》
「エミアロ―ネさんが?」
ア―サ―は自分の出で立ちを見て(性転換も三度目なので慣れた)、それとエミアロ―ネを重ね合わせる。
いつもの凛々しい白い戦装束ではなく、この妖しい戦装束を頭の中でエミアロ―ネに着せてみる。
すると。
《……ア―サ―君? ア―サ―君っ⁉》
顔を火照らせてのけぞってるア―サ―に、エミアロ―ネの刺々しい声が刺さった。
「す、すみません。ちょっと刺激が」
《あのねえ》
「も、もう大丈夫です。さ、急がなきゃっ」
ア―サ―は、慌てて山を下っていった。
山から駆け下りてきてこちらに向かってくる少女の、ただごとでなく悪魔的な出で立ちに、
「あ、あ、あれは何?」
オデックとイルヴィアは、それはもう驚いた。二人とも、てっきり体育館消失事件の犯人が出てきたのかと思ったが、
「……いや、違う! あれは女神二号ちゃんだ! やっぱり来てくれたんだ♡」
「え、あれが? そう見えないこともないけど……」
オデックは断言し、イルヴィアは半信半疑だ。
だが当人が二人のすぐ側までやって来て、
「えと、お待たせしました。女神二号です」
ぺこり、とお辞儀して自己紹介をするに到って、イルヴィアも納得した。
着ている衣装は全然違うが、確かにあの時、イルヴィアの目の前で机ゴンを倒した少女の顔と声だ。自分の名前を「女神二号でいいです」と言い残して去った、あの少女に間違いない。
どう見てもア―サ―にそっくりなその顔は、間違えようがない。
「あ。そういえば、あ~くんは?」
ア―サ―、ぎくっ。
「あ、あの、あ~くんというのはもしかして、僕と少し似ている男の子ですか?」
「はい。少しじゃなくて、他人とは思えないぐらいもの凄く似ている男の子です」
ア―サ―、ぎくぎくっ。
「え、え~とですね。その子なら、さっき山の中で見かけましたよ。急いでたもので、声はかけなかったんですけど」
「あ~くん……いえ、ア―サ―君はあなたを探しに行ったんです。じゃあ、まだ山に?」
「そうですね。でも、」
ア―サ―は、体育館跡地の方へ歩いていく。
「さっきイルヴィアさんが言ってたように、ここでは何があるかわかりません。でも山の方なら安全でしょうから、あの子のことは心配しなくていいですよ」
「はあ。って、わたしの話なんてどこで聞いてたんです?」
ア―サ―、ぎくぎくぎくっ。
「えと、僕はほら、女神様ですから。だから何でもお見通しなんです。あははははっ」
「?」
不可解そうなイルヴィアの視線を浴びつつ、ア―サ―は跡地の中央まできた。まあ、とりあえずゴマかせただろう、ということにして。
そして、
《よし、そこらで良いぞ。後は、よく聴いて跳べばよい》
カユカの説明に従って、耳を澄ませた。
説明になってないような説明だが、ア―サ―にはそれで充分解った。
なぜなら今のア―サ―には、ジャゴックの大神官にしか使えない【真っ黒魔術】が、しっかりと染み付いているから。
「……ん、聴こえる」
ア―サ―の耳に、何百人もの声が聴こえてきた。
ざわめき、どよめき、不安、恐怖。
「みんな、今行くよっ!」
ア―サ―は、その場で跳んだ。
跳んで――イルヴィアの目の前から、姿を消した。まるで水に潜るように、暗幕の向こう側に隠れるように。
それだけなら、イルヴィアとしては「捕われたみんなを救出しに行ってくれたのね。女神二号さん、どうかご無事で……」と祈って終わったのだが、
「い、今のは」
イルヴィアは見た。女神二号が跳んで、消えるその瞬間のできごとを。
おそらく、いつぞやのア―サ―女装用衣装と同じく、懐に隠していたのを取り出したのであろう巨大なバラの花束を、オデックが抱えていた。そして女神二号が跳ぼうとした時、その先の展開を予測したのか、花束を抱いたまま猛然とダッシュ! してその手にすがりついて、
「一緒に行っちゃった……」
後に残されたのはイルヴィアただ一人。ひぅぅと寂しく風が吹きぬけていく。
仕方ないのでイルヴィアは、とりあえず二人が消えた空間に向かって祈った。
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