頭上輪廻戦士アーサー

川口大介

文字の大きさ
上 下
25 / 41
第四章 【悪しき心】発動

しおりを挟む
 
 夜。ア―サ―の家の、ア―サ―の部屋。
 ランプの明かりに照らされた室内に、存在する人間は机に向かっているア―サ―一人だけ。
 だがそのア―サ―の頭の上には、白い戦装束と金色の髪の女性がいる。人間ではなくア―サ―の前世の意識体だ。
 その名は白の女神、エミアロ―ネという。
「……もう一回、言ってくれる?」
 我が耳を疑ったエミアロ―ネが、視線を上に向けて問いかけた。
 問われたのはエミアロ―ネの頭の上にいる、黒いロ―ブと銀色の髪の少女。人間ではなく、ア―サ―の前々世の意識体だ。
 その名はジャゴック大神官、カユカという。
「聞こえなかったか来世? 邪神崇拝ごっこ倶楽部、略してジャゴックと言うた」
「ごっこ、って……」
「誰もがひと時だけ邪教の信者となれる倶楽部じゃ。藁人形に釘を打ったり、みんなで憎い相手への呪詛を合唱したりしてのう。上司や姑などが主なタ―ゲットじゃったな」
 どうじゃスゴかろう、てな感じでカユカは誇らしげに説明する。
 エミアロ―ネが絶句していると、その下からア―サ―が聞いた。
「何でそんなことを?」
「解らぬのか、来々世よ。職場や学校、あるいは家庭で多大なストレスを抱えた老若男女が、ウサを晴らせる憩いの場ということじゃ」
 ストレス社会の貴重な鬱屈抜きであり、それにより犯罪を未然に防ぐことのできる集会。いわゆる反社会的の反対、非常に社会的な集い。
 それが邪神崇拝ごっこ倶楽部、ジャゴックなのじゃ。とカユカは言う。
「……う~ん……」
「もう一度聞くわ。貴女本当に十歳?」
「ふ。ヨのことを尊敬するのは良いが、」
 別にそういうわけじゃないんだけど、という言葉をエミアロ―ネは大人の態度で飲み込む。
「ヨが、ジャゴックの創始者というわけではない。ヨの家は、代々ジャゴックを主催してきた家柄なのじゃ。同時に、例の魔術もな」
 ジャゴックの大神官をやっていると、直接ホコ先を向けられてはいないものの膨大な悪しき心を浴びる、という非常に特殊な状況に置かれ続けることになる。
 その為であろう、カユカの家の者は代々、生来強力な黒魔術を使えるようになった。その名も、
「……何やら難しい名だったので、ヨは自分で解り易い名をつけた。黒魔術を越えた黒魔術ということで、」
「いうことで?」
「真っ黒魔術、じゃ」
 ……。
「気品があり、どこか儚げで、なかなか良い名であろう? どうじゃ来世、来々世。感動のあまり声も出ぬか」
 少し沈黙してから、エミアロ―ネが口を開いた。
「カユカちゃん。決して、貴女のことを子供扱いしてるわけじゃないんだけど、」
「?」
「私、ちょっと安心した」
「? 安心?」
 するり、とカユカがエミアロ―ネの頭上から滑り降りてきた。
 ア―サ―の頭の上で、エミアロ―ネと並ぶ。
「どういう意味なのじゃ、来世?」
「こういう意味よ」
 エミアロ―ネは右手を差し出した。
「ア―サ―君の夢のこともあったし、実は私、貴女のことを最初は怪しんでたんだけど……でも、安心したわ。貴女は、その真っ黒魔術で一緒に戦ってくれるんでしょう?」
 カユカも手を差し出す。
「無論、ヨはそのつもりで出てきた。来世や来々世が困っておるのを見過ごせぬからな」
 二人は、しっかりと握手した。
「来世よ。ヨは、本当はソナタの時代にも出たかったのじゃ。が、いかんせんソナタは白の力が強過ぎてのう。ヨは完全に封じられておったのじゃ。済まなんだの」
「ううん。考えてみれば、そのおかげで私は白武術の修行に専念できたんだし。そしてその白武術を極めた者として、こうやってア―サ―君と一緒に戦えるんだしね」
「うむ。ヨも、ジャゴックの理想である「ストレスを対人関係に持ち込まない、無用な争いのない世界」を築くため、力を貸そう」
「……さすが、具体的というか現実的な理想ねカユカちゃん。じゃ、そういうわけで」
 エミアロ―ネとカユカ。二人揃ってア―サ―の頭の上で、ぐいっとお辞儀をするように体ごと下を向いた。
「これからも頑張ろうね、ア―サ―君」
「宜しく頼むぞ、来々世」
 春の日差しを浴びた小川のような、滑らかに流れるエミアロ―ネの金色の髪。
 夏の嵐に荒れる大河のような、絡み合って流れるカユカの銀色の髪。
 金色と銀色の長い髪が、黒いぼさぼさ髪を左右から挟んだ。
「は、はぁ。頑張ります……」
 女神様と大神官様に期待をかけられた少年、ア―サ―。年上の美女と年下の美少女に挟まれたハ―レム状態(?)ともいえる。
 とはいえ当の本人は、とてもとても、うわついた気分にはなれてなかったりする。むしろ状況の深刻化によって、
『今朝の、夢の問題は片付いたけど……』
 重いプレッシャ―に悩まされていた。
 エミアロ―ネに続く二人目の、輪廻を越えた来訪者、カユカの出現。そして、今日の相手はエミアロ―ネと二人だけでは勝てなかったという事実。これからの戦いに、不安を覚えずにはいられない。
 だが。ふと顔を上げて窓の外を見ると、
「あ……」
 お姫様が、今日も今日とて勉学に励んでいる姿(の影)が目に入った。
 今日、危うく悪者の手にかかるところだったお姫様。それを、いろいろあったが結果的には、この手でしっかりと護りきったのだ。
 そうだ。英雄たる者、お姫様を護るためには、この程度の不安に負けてはいけない。
『そ、そうだった。僕が、しっかりしなきゃだめなんだ……うん! 僕はもう二度と、今日みたいな失態は晒さないぞっっ!』
 幼き日に抱き、そして忘れていた英雄への夢。お姫様だっこへの憧れ。
 それらを再確認し再燃させ、ア―サ―は闘志を燃やすのであった。
 ぐぐっ、と拳を握って。
「浮いて沈んで、また浮いたか。ほんに単純、且つ落ち着きがないものよの。男の子とは」
「そうねぇ。この子は、特にそうだと思うわ」
「聞こえてるよ二人ともっ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

リアルフェイスマスク

廣瀬純一
ファンタジー
リアルなフェイスマスクで女性に変身する男の話

性転のへきれき

廣瀬純一
ファンタジー
高校生の男女の入れ替わり

奇妙な日常

廣瀬純一
大衆娯楽
新婚夫婦の体が入れ替わる話

貞操逆転世界の男教師

やまいし
ファンタジー
貞操逆転世界に転生した男が世界初の男性教師として働く話。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

男女比1:10。男子の立場が弱い学園で美少女たちをわからせるためにヒロインと手を組んで攻略を始めてみたんだけど…チョロいんなのはどうして?

ファンタジー
貞操逆転世界に転生してきた日浦大晴(ひうらたいせい)の通う学園には"独特の校風"がある。 それは——男子は女子より立場が弱い 学園で一番立場が上なのは女子5人のメンバーからなる生徒会。 拾ってくれた九空鹿波(くそらかなみ)と手を組み、まずは生徒会を攻略しようとするが……。 「既に攻略済みの女の子をさらに落とすなんて……面白いじゃない」 協力者の鹿波だけは知っている。 大晴が既に女の子を"攻略済み"だと。 勝利200%ラブコメ!? 既に攻略済みの美少女を本気で''分からせ"たら……さて、どうなるんでしょうねぇ?

ビキニに恋した男

廣瀬純一
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

処理中です...